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「……とりあえずどうすんだよそれ?」

「うーん…名前がないからどうすればいいのか…とりあえずせっかくくれたものだから持ち帰るよ。」

村上くんと僕は、そのまま成り行きで途中まで一緒に帰ることになった。

「それにしてもお前…菜摘さんの他に女子から本命チョコ貰うなんて羨ましいな。」

「僕もびっくりだよ……というか、村上くんこそ結構チョコ貰ってそうだよね。」

「はぁ?お前それ嫌味かよ。俺がもらえるわけねぇだろ。そもそも俺、同級生とか興味ねえし。」

「そっか。そういえばそんなこと言ってたね。」

「ああ。俺は菜摘さん一筋だから。」


僕たちの学校から菜摘さんと待ち合わせをしている公園まで、歩いて5分ほど。

僕と村上くんはその5分間、こんな話をしながら歩く。

一緒に遊んだり頻繁に連絡を取ったりするような、所謂「友達」までは行かないが、普通のクラスメイトのように話すことができている。

これも菜摘さんのおかげだと思うと、増々彼女への想いは募る。

「じゃあな。菜摘さんからどんなチョコ貰ったか明日教えろよ。」

「……うん。本当はあんまり教えたくないけどね。」

「ケチんなって。……それじゃ。」

「うん!また明日!」


公園についた僕らはそこで別れ、村上くんはそのまま塾へ向かった。

公園を見渡すと、まだ菜摘さんは来ていないようだった。

吐く息が白く、柔らかく目の前に漂う。
菜摘さんを待つ少しの時間ですら、今日はどことなく甘く香る。


「隼くん!おまたせ!」

ポン、と肩に手を置かれた瞬間、胸に広がるのはじんわりとした暖かさ。

振り返るとそこには、寒さも一瞬で吹き飛ぶような大好きな人。


「隼くんにバレンタインのプレゼントの用意をしてたら遅くなっちゃったの。ほら!どうぞ!」

菜摘さんがそう言って満面の笑みで僕に差し出したのは、可愛らしい装飾がなされた小さな箱。

「ありがとう菜摘さん!」

僕は菜摘さんからバレンタインにお菓子を貰えたという事実が嬉しくて嬉しくて、噛みしめるように礼を言った。
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