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「隼くん、集中してないな…?」

突然、菜摘さんが上目遣いで僕に尋ねてくる。

僕は自分の心の内まで全て見透かされたかのようにドキリとした。

「……っごめん……」

「…もしかして、あんまり気持良くない?」

「え?いや、そんなことは……」

「嘘よ。……ねえ隼くん。」

「…はい」

「私が隼くんのことをどれだけ好きか、教えてあげようか…?」

「……えっ…」

「私はね、ずっとこうして隼くんに触れたかった。付き合ったときから……いや、実を言うと出会ったときからそう思ってたのかもしれない。」

「出会ったときから…?」

「そうよ。隼くんの可愛い姿や頑張ってる姿を見る度にね、私は隼くんに触れて、触れられて、つながって…お互いの距離がゼロになったとき、隼くんはどうなるのかなってずっと考えてたの……」

「ずっと…?」

「うん。隼くん……」

菜摘さんの話を聞きながら、僕は少しずつ自分の息も荒くなっていることに気づいた。

菜摘さんは言葉を止め、僕の耳元に近づいた途端に…


「好きよ。」

ふわりと優しくて温かい吐息が、菜摘さんの甘い声と共に耳の奥に突き刺さった。

「……っっ!!」

耳に吹き込まれた言葉と吐息は、一瞬にして僕の脳を溶かし、全身の血管に這いずり回った。

ゾクゾクするようなその感覚に、僕は思わず体をビクリと反応させた。

「隼くん…耳が弱いのかな…?」

僕が次の言葉を言うよりも先に、菜摘さんはそう言って僕の耳元で囁き始めた。

「隼くん……」

「……あっ…」

「好きよ。大好き……」

「…っ!」

菜摘さんの止まらない攻撃に、僕は何もできずにただ体を反応させているだけ。

「……菜摘…さんっ…」

「んー?」

「あっ!……耳元で…話さないで…」

「話すだけじゃないよ?」

「え……あっ!」

「ふふふ。」


菜摘さんが僕の耳を優しく舐めた時、背筋がふわふわと浮くような感覚が増した。

菜摘さんは驚いて体を浮かせる僕を見て、楽しそうに笑っている…。

耳元でダイレクトに聞こえる唾液の音が、僕の不思議な感覚を余計に強めさせる。

時々かかる菜摘さんの息が、いつも以上にあったかかった。
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