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「僕、菜摘さんのことが誰よりも大好き。さっきはちゃんと言えなかったけど……いつも菜摘さんのことを考えているし、これからもずっと一緒にいたいと思ってる。…僕と付き合ってくれてありがとう。本当に好きだよ……。」


最後の方は、さすがに恥ずかしくなってきて声が小さくなってしまった。

だけど菜摘さんのリクエスト通り、ちゃんと敬語を使わないで本心を伝えることができた。

自分なりの達成感を覚えつつ、菜摘さんの反応が気になったので菜摘さんの顔を見てみると、菜摘さんは頬を真っ赤にして目をウルウルさせていた。

「隼くん………」

僕の名前を呼び切るのを待たずに、菜摘さんは僕に抱きついてきた。

突然の衝撃に一瞬よろめきかけたが、菜摘さんの全てを受け止めるように僕は力を入れて踏ん張った。

これから先も菜摘さんといたいのなら、これしきのことでフラついているようじゃだめだ……。

自ずとそんな思考で、自分へ発破をかけていた。


「……なんだよお前ら……本当に付き合ってんのかよ…」


僕らのやり取りを見ていた村上くんが、鼻をすすりながら涙声でそう言った。

僕は村上くんに対抗して思い切ったことをしたはずなのに、今になって全てを見られていたと思うと恥ずかしくなってきた。

「付き合ってるよ。ね、隼くん?」

「う、うん!」


抱きついていた菜摘さんが弾んだ声で僕に問いかけた。

僕は菜摘さんと目を合わせ、恥ずかしさを打ち消すように返事した。


「村上くん、ありがとう。僕は村上くんのおかげでちゃんと自分の気持ちを言えたよ。」

僕らを放心状態で見ていた村上くんは、僕がそう言うと虚ろな目をゆっくりと僕に向けてきた。

「村上くんが真っ直ぐに菜摘さんへ気持ちを伝えていたのを見て、僕も勇気を貰った。だから…ありがとう。」

「……別に……お礼言われたところでお前に負けたのは変わんねーし…」

「そんなことはないかもよ?隼くんがまたちゃんと私に気持ちを伝えてくれなくなったら、素直で真っ直ぐな方に行っちゃうかもね~~。」

「えっ!菜摘さんっ!?」

ふふ、と笑いながらまた悪戯な目を向けてくる菜摘さんに、僕はまた翻弄される。

自由で気まぐれな菜摘さんのことだから、僕がちゃんと捕まえておかないと本当に他の人のところへ行ってしまいそうだから……。


「よし。じゃあ俺は隼から菜摘さんを奪うために頑張るわ。覚悟しとけよ隼。」

「お!?」

「ぼ、僕だって誰にも奪われないように頑張るから!村上くん相手でも譲らないよ。」

「ほーん。でもま、菜摘さんも隼次第では誰かに心変わりするかもって言ってるし。俺はその候補になれるようにするから。」

「心変わりなんてさせないから…!候補とか作る余裕も無いくらいに僕で頭をいっぱいにさせるよ。」

「隼くんっ……!」

「ふん。まあせいぜい頑張りな。」



そう言って村上くんは塾へと急いだ。

その後ろ姿は、どこかスッキリした気持ちが溢れているようで、足取りも軽快に見えた。
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