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「村上くん……」

突然の告白に、菜摘さんは驚いていた。

だけどおそらくこれまでの村上くんの発言や態度から自分への気持ちに気づいていたのだろう。

どこか納得したように優しい笑顔で頷いている。

「ありがとう村上くん。」

菜摘さんが優しくそう言うと、村上くんは泣き出した。

「村上くん。気持ちはすごく嬉しいよ。私も、村上くんと遊ぶのはとても楽しかったし、面倒見のいい村上くんのことは頼ってたときもあったから。……だからこれからも、友達としてまた遊んでほしいな。」


村上くんの気持ちを受け入れて、菜摘さんは少し屈んで村上くんと目線を合わせた。

手で溢れる涙を拭っている村上くんは、菜摘さんの言葉に頷きながら声を出して泣いている。


僕は菜摘さんの優しさに改めて惹かれるのと同時に、村上くんの実直で強い気持ちと意志にもまた感嘆していた。

村上くんは純粋に真っ直ぐに、菜摘さんが好きなんだ。

そしてそれを隠すことなくきちんと伝えている。

例え、自分の想いが実らないと分かっていても…。


一方の僕はどうだろう。

菜摘さんと気持ちが通じ合っているのをいい事に、恋人同士という関係性に胡座をかいて、気持ちを素直に伝えることは減っていたのではないか。

恥ずかしさや照れくささを理由に、菜摘さんに対して真正面から気持ちを伝えられていなかったんじゃないか……。

僕たちが今の関係を結べているということは、村上くんのように菜摘さんに想いを寄せる何人もの人が失恋しているということになる。

そんな人たちが健気に直向きに想っている中、一番恵まれているはずの僕がこんな腑抜けでいいわけがない。

僕は今までの自分の態度を反省し、改めて菜摘さんに気持ちを伝えることにした。


「菜摘さん…。」


僕の呼びかけに菜摘さんは体の向きを村上くんから僕の方へと変えた。

いつもよりも強い声が出ていたことを自分でも自覚した。

だからだろうか、菜摘さんも真剣な顔をしている。
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