あんなに堅物だった俺を、解してくれたお前の腕が

いちごみるく

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不憫

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合宿の日、俺と隼は部屋に戻り次第すぐに行為を始めた。

入り口のドアを閉めた途端に隼が俺の方を振り向き、誘惑するような目を向けてきた。

俺は我慢ならずその唇を奪い、がむしゃらにキスをした。

ドアを挟んだ廊下では、チームメイトたちが歩き談笑する声が聞こえた。





このようなスリリングな隼との行為は、俺たちが3年生になるまで続いた。


合宿の最終日、大会の後、2人で遊んで俺の家に泊まりに来た時、そして時には部室や空き教室などですら、俺達は互いを求め合った。



不思議なことに、どちらか片方が行為を思い出してムラムラしたりすると、もう片方も何となくその雰囲気に気づき、互いに欲を抑えられなくなるのだ。

俺だけでなく、隼から…ということもあった。
俺はその事実に未だに慣れない。

隼は元から性欲が強いようにも見えなかったし、他の中学生のように猿でもなかった。


それなのに俺との行為に対しては貪欲に素直に曝け出してくる。


そして俺へのそういった誘惑は、時に他の男へと飛び火することもあった。


隼と俺のただならぬ雰囲気を分かっている人は周りにはいない。

俺たちにしかわからないごくごく微妙な雰囲気だからだ。


しかし、隼が醸し出す濃艶なオーラは、俺だけでなく近くにいる男共をも魅了した。

五郎や瑠千亜といった親友は俺との事情を知っているのでそういったことにはならなかったが、例えば2人で電車に乗っているとき、公共施設のエレベーターに乗っているときなどは、隼は見ず知らずの男に俗っぽい目線を投げかけられていた。

痴漢にあったり変な声掛けをされたり後を付けられたりということはよくあった。

女子受けの良いこいつは女子からのそういったアプローチは元々多かった(痴漢は流石にない)が、最近は男同士だからこそ感じ取る妙なフェロモンが出ているかのようだった。


そしてその元凶が俺であるということに、俺は只ならぬ興奮と優越感を得ていた。


外から見ると悩ましいが甘美な色気という風に見えるのだろうが、俺といるときの隼はもうそれこそ獣の様に情欲に対して素直だった。

それはもう、ただの思春期の男。

溢れんばかりの性欲をとにかく発散することしか考えられない中学生。

たまたまその発散の対象として、俺がいるだけ。


隼はそんなつもりないと思っているだろうが、所詮俺は隼にとってそういう存在でしかなかった。

隼は俺のことを親友以上には思っていないから。

特別な感情があるわけではないが、俺とのセックスに満足してくれているから全力で求め、溺れてくれている。ただそれだけ。


隼自身もきっと自分のそんな所に気づき始めていると思う。

優しい奴だから、俺をそんな扱いしているという自分を責める気持ちもあるだろうが、それ以上に俺との行為を辞めることができない。

そんな葛藤を経て、それでも何も言わない俺に甘え、この事実を放置しているのだろう。


俺はそれでも構わなかった。

隼がどんなつもりで俺と行為を重ねようが、俺は大好きな奴とセックスができるから。

それに性欲だけかもしれないとはいえ、俺のことを求め、選んでくれているのだから。


ただ、たまにふと不安になることがある。

それは隼が俺との行為を辞め、他の男とする日が来るのではないかという不安。

そしてその男が俺よりも上手かったら、性欲を満たす為だけに俺としている隼は、簡単にその男に乗り換えるのではないかということ。

もしくは俺とそいつを掛け持ちするのだろうか……


そしてそんな不安が自身を襲う度に、強烈に思ってしまうことがある……


何とかして、隼を本気にさせたい……


あいつも本気で俺を好きになればいいのに…



本来であれば親友かつ部活での不動のペアという立場以上にはなれなかった。

今の互いの欲を満たすだけの関係ですら、俺にとっては驚く程踏み込んでいる。

それなのに欲張りにも、それ以上の関係を望んでしまうことが多くなってきていた。

行為の時も、俺だけを見つめ求めるあの目が一時的なものであることを考えてしまうと、とてつもなく虚しくなる。

互いに心から相手を想うセックスは、どれほど気持ち良く幸せなのだろうか…

そんな高望みを、俺は必死に隠すしかなかった。

あいつは俺のこと男だから恋愛対象として見ていなかったと言った。

それなのであれば性転換でもしようかと本気で思ったこともある。

その前に隼の彼女である雨宮と別れさせる必要があるのでは?と、本気で悩んだ日もある。


しかし、それは隼が望まないことだ。

俺がそこまでしても、隼の気持ちを掴める保証はないのだ。


それが故に俺は毎日のように、自分の運命と境遇を………どうしようもない天の決定を、恨むしかなかったのだ。


隼を手に入れたい……

好きになってほしい…

振り向かせたい…

俺だけを見てほしい…


頭が狂うほどにこんな欲望に支配される自分の不憫さに思わず泣きそうになることもあった。


どうしてなのか………

どうして俺は雨宮になれないのか…

どうして俺と隼を引き合わせたのか…

苦しい苦しいこの想いは、俺が隼を好きじゃなくなるまで続くのだろう……

あの日、関係を持たなかったほうがよかったのだろうか。

密着して互いを求める瞬間があるからこそ、こんなに欲張りになるのだ。期待してしまうのだ。


それなのに隼との行為を辞められない俺は、頭と体が一致していないという点では隼と全く同じであるということに気づき、二人を憐れむしかなかったのだった。
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