上 下
25 / 79

捕らえ

しおりを挟む
ゆっくりとねっとりと、互いの息遣いを合わせるようにして唇を重ねる。


俺のそんな濃厚なキスに、隼もだんだんと溢れんばかりの欲を隠せなくなってきていた。

俺は唇を隼の唇から耳元、首元、鎖骨に移動させる。


そのたびに隼は小さく息を漏らす。



「……あの日以来…何度もお前とまたこうしたいと思っていたよ。」


うっとりとした表情の隼の目を覗き込んで言う。


「あの日のお前を思い出しては何度も抜いた。そして抜く度にお前への気持ちは募るばかりだった……他の人には見せないお前の一面を、俺は独り占めできているからな」


おかしな話だ。

隼と一度でも寝ることができたなら、俺はこいつへの気持ちを諦めるはずだった。

事の始まりに関しても、一度だけ、キスをさせてくれと俺が頼み込んだことだった。

それなのに………



「…俺は、欲張りだな…」

気がついたら独りでに呟いていた。


隼は大きくて綺麗な目を俺から逸らさなかった。


「…俺もだよ……俺も、あの日のことを思い出して一人でしてた。……また優に抱かれたいって……思っちゃう自分がいた…」


照れたような表情のまま、しかし隼はまだ俺から目を離さなかった。

その目はまるで俺を捕えるかのようで…

澄んだ漆黒の瞳の奥で、密かな炎が揺れているようにも見えた。



きっと隼は、無意識なのだろう。


しかし、こいつのこういう表情や目は、人を惑わす魅力がある。


そんな魅惑に取り憑かれた俺は、こいつの一番近くにいる親友という、最も拷問的な立場にいた。



そう、何人もを簡単に虜にしてしまう魔性。

純粋無垢な笑顔の影に隠れる微かな色気。

老若男女関係なく、こいつの魅力に踊らされる……


しかし当本人は、誰かを誘惑しているつもりなど毛頭ない。

優しく思いやりに溢れた人当たりの良い男……

それなのに、自分の魅力にもそれに取り憑かれた相手にも、どこか興味が無さそうな瞳。

近いようで遠い、届くようで届かない…
そんなもどかしさもこいつの魅力を増しているのだと思う。


ただ、今目の前で、こいつは俺に欲情している。


誰にも靡かない魔性の男が、性欲に駆られているだけかもしれないとはいえ、俺に対してその妖艶な瞳を向けている。


自ら狙いを定めて色の罠を仕掛けてきている……

そんな絶景を、俺は集中して眺めていた。


最高の優越感だ……


俺は再び隼の唇を塞ぐ。



「……んっ………」

こいつの甘美な声は俺の思考を途絶えさせる。

「……隼。俺とやりたくて、仕方なかったんだろ?」

俺は言葉を紡ぎながら、興奮で高鳴る鼓動と速まる脈を言葉に載せた。


「なあ、隼。答えろよ」

隼の体を指でなぞり、鎖骨を貪りながら言う。

今の俺は、まるで獣そのものだ……



「………あっいたっ……」


俺は勢いづいた自分の興奮を止めることもせず、隼の鎖骨を強く吸った。


「……んっ……優……」

隼は俺の体を軽く押しのける。


しかし、それはあくまでポーズで、本心では辞めてほしくないと思っているのが明らかだった。



「…隼。」

「…したかった…俺あの日からずっと、優としたかった………」


涙目になりながら隼は訴えてくる。


隼はその言葉と同時に、俺の首に手を回し、顔を近づける。


そしてそのまま、隼に唇を奪われた。




しばらく続く濃密なキス。

隼が舌を激しく動かし俺がそれを受け止める。

普段とは真逆なこの構造。


俺も隼も、互いのモノをこれでもかというほど盛り上げながら、この時間を無心で過ごしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

さがしもの

猫谷 一禾
BL
策士な風紀副委員長✕意地っ張り親衛隊員 (山岡 央歌)✕(森 里葉) 〖この気持ちに気づくまで〗のスピンオフ作品です 読んでいなくても大丈夫です。 家庭の事情でお金持ちに引き取られることになった少年時代。今までの環境と異なり困惑する日々…… そんな中で出会った彼…… 切なさを目指して書きたいです。 予定ではR18要素は少ないです。

[本編完結]彼氏がハーレムで困ってます

はな
BL
佐藤雪には恋人がいる。だが、その恋人はどうやら周りに女の子がたくさんいるハーレム状態らしい…どうにか、自分だけを見てくれるように頑張る雪。 果たして恋人とはどうなるのか? 主人公 佐藤雪…高校2年生  攻め1 西山慎二…高校2年生 攻め2 七瀬亮…高校2年生 攻め3 西山健斗…中学2年生 初めて書いた作品です!誤字脱字も沢山あるので教えてくれると助かります!

キミの次に愛してる

Motoki
BL
社会人×高校生。 たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。 裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。 姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。

処理中です...