あんなに堅物だった俺を、解してくれたお前の腕が

いちごみるく

文字の大きさ
上 下
6 / 79

懇願

しおりを挟む
「え………?」

俺の唐突な言葉に隼は涙を止めて驚いたような顔でこちらを見る。


「頼む。一度だけでいいんだ。」


俺は頭を下げて心から懇願する。


何年も願ってきて、何度も頭に思い描いてきたこと。

きっと、今を逃すと一生できる日など来るまい。

俺はこいつへの恋愛感情を打ち切る前に、最後の欲求も終わらせてしまいたかった。





「え…と…それで優が少しでも喜ぶなら……」


「いいのか!?」



まさかの答えに思わず顔を上げた。


隼が俺とのキスを許してくれるなんて…


「いいよ……これくらいしか俺にできることはないから……」


これくらいしか、などとんでもない。

自分で頼んでおいて何だが、そこまでしてくれるとは思ってなかった。


「ありがとう。本当にありがとう」


「うん!さすがに少し緊張するけど…」

「じゃあ目を閉じててくれるか?俺がするから」


隼は俺の指示通り目を閉じる。



今この瞬間を、一生脳内に焼き付けておこう。

最初で最後だ。

忘れぬよう、記憶の鍵をかけておこう。





顔と顔を近づける。

間近で見る隼の顔。

近くで感じる息遣い。

緊張からか、少しだけ息が乱れているのが分かる。

額と額が触れる。

フワ、っと柔らかい隼の髪が俺の額に当たる。少しくすぐったい感覚だ。

隼の目を瞑る力が強くなった。








唇と唇を合わせた。




隼の柔らかい唇が、俺の唇を吸い寄せる。
ふわりと着地した俺の唇から、脳に直接電流が流れた。

その電流は一瞬で全身を駆け巡り、全神経が唇に集中した。



「……っはっ……」


思ったよりも長くしていたのだろう。

ふと離した時に、隼は少し苦しそうに息を継いだ。



俺を見つめる真っ黒な瞳は少し潤んでいた。

白くて傷一つないきれいな頬が赤らんでいた。

互いの心臓の音が聞こえるくらいの静寂の中、静かに息を整えようとする隼の呼吸音が聞こえた。




「………っ!?!?」



気づいたら俺は、隼の腰に腕を回し、もう一度キスしていた。

隼は驚き目を開けたままだったが、体を離そうとはしなかった。




「…………すまん……」


唇を離し、俺は謝った。


しかし隼は突然のことに驚き何も言えないでいた。




「隼、悪いがやはりこれでは無理みたいだ。」

「無理…?何が…?」





言葉にできずつい一瞬うつむいた俺の視線を隼も追うように下を向いた。

二人の視線の先にはこれほどかと言うほど大きく反応した俺のものがあった。


「えっ優……」

「ほんとにごめん隼。キスだけじゃおさまらないみたいだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】隣に引っ越して来たのは最愛の推しでした

金浦桃多
BL
タイトルそのまま。 都倉七海(とくらななみ)は歌い手ユウの大ファン。 ある日、隣りに坂本友也(さかもとともや)が引っ越してきた。 イケメン歌い手×声フェチの平凡 ・この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

推し変なんて絶対しない!

toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。 それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。 太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。 ➤➤➤ 読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。 推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

処理中です...