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告白

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「俺の好きな人が誰だかわかるか?」








風呂上がりのほのかなシャンプーの香り。
窓を叩くまばらな雨の音。

匂いと音だけが二人のいる空間の中で存在感を発揮していた。

それほどまでに二人の間に妙な沈黙が長く続いていた。




「俺も気になってたんだけど、わかんない…」


長い睫毛を丁寧に折り畳むようにして目を伏せ、隼は答えた。




「そうか………」



不思議なことに、先程まではあれほど自分の気持ちを抑えることができそうになかったのに、たった数秒間の沈黙が二人の間に緊張感を生み出したようだった。


俺は後に引けないとはわかっていながらも、今更ながら急に言うのが恥ずかしくなっていた。


「優の好きな人って誰なの?」

隼が興味ありげに俺の顔を覗いてくる。

大きな澄んだ瞳には、俺の情けない姿が映っているのだろう。




「聞いて後悔するなよ」


この期に及んで保険をかけるような言い方をしている自分に苛立った。

だけどやはり俺は怖かったのだ。

長年築いてきた隼の一番信頼できる親友という立場を崩してしまうことが。


「後悔なんかしないよ。優のことならどんなことでも受け止めるつもりだよ」


まるで俺の気持ちを察しているかのように優しく包み込む言葉だった。


実際はこいつは俺の気持ちに気づいてなどいない。こいつはいつでも俺のことをこうして受け入れてくれていた。



「俺の好きな人は、隼、お前なんだ」





俺は隼を信じることにした。

隼は大きな目をさらに大きく見開き、
「えっ!」と素っ頓狂な声を発した。


「急にこんなことを言ってすまない。だが本当の事だ。俺は出会ったときからお前のことが好きなんだよ。」

「えっ!出会ったときから!?」


驚きを隠せないでいる隼の表情は見ることができなかった。

引かれていないだろうか……

信じるたいとは思ったものの、やはり嫌われたくない気持ちには勝てなかった。


「俺は男が特別好きな訳ではないと思う。ただ、好きになった相手がたまたま男だった。けどお前と出会った瞬間、男とか女とかそんなことはどうでも良いくらい不思議と惹かれていったんだ。」

引かれるのが怖いのなら、逆に全てを話してしまうことにした。

「お前は俺のことを受け入れてくれた。
お前と出会った頃の俺は、本当に捻くれていた。周りの大人も手を焼くくらい面倒な子供で、当然周りの同級生からも煙たがられていた。テニスのチーム内でも孤立していた。

しかしお前はそんな俺に、何度もテニスを教えてくれと言ってきた。

俺の厳しい言葉や嫌味などを何度受けても変わらず笑顔で接してくれた。
皆が気持ち悪がる俺の趣味も、お前はすごいと褒めてくれた。
性格がこんなものだからテニスの結果でしか自分の誇りを保てなかった俺に理解を示し、一緒に全国制覇を目指してくれた。

俺が始めてお前に心を開くのも、こんなことされていたら無理がないだろう…」



他にも隼の好きなところは沢山ある。
だが、言葉では表せない部分もある。

隼を恋愛感情で好きだという人は沢山いる。だから俺もこいつにとってはその中の一人かもしれない。

なのに何故か、俺とこいつの間には特殊な関係があると思っていた。



「優、ありがとう」



驚きながらも俺の話を聞いてくれていた隼が短く答えた。

「そんな風に思ってもらえていたなんて知らなかったから、俺も嬉しかったよ。
いつも一緒にいたのに、びっくりするくらい気づかなかったな」


いつもと変わらぬ穏やかな笑顔で言葉を紡ぐ。
こいつの表情や声色は、いつもと同じだ。

でも、今この空間において、その表情ほど俺にとって助かるものはなかった。

「引いて…ないのか?」

「引くわけないじゃん!少しびっくりはしたけど、すごい嬉しいよ。ただ…」

「言わなくていい。結果は分かってる」


とりあえず引かれてはいないことがわかって安心したが、こいつのことだから真面目に返事をしようとしてくれているのだろう。
何か言いかけたところで思わず制止してしまった。
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