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第一章 伯爵令嬢、職業婦人になる
5.だから実家を出たんです(2)
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国中から集まった貴族子女、それに準貴族の称号を持つ家、要するに納税額の高い裕福な平民の家の子。それらの通う高等科は、前世の記憶を思い出したアンバーにとって眩しいくらい華やかなキラキラした環境だった。
一学年百名足らず、全校でも三百弱。その生徒たちのために用意された敷地は、王宮からそう遠くない距離にあり、人工的な湖や小さな森まである贅沢なものだ。
「ここの生徒はみんな、将来の社交界メンバーだからね。年頃が同じだから一見気安そうだけど、油断しちゃだめだよ。適当な距離を守って、愛想よくしておくんだよ?」
二学年上の兄は、時々アンバーの様子を見にきてくれる。ここ高等科での過ごし方について、誰も教えてくれない本当のところをレクチャーしてくれるのだ。
「噂話をバカにしちゃだめだ。貴重な情報源だからね。けど鵜呑みにするのもダメ。真偽は半々と疑っておくことだ。本当に大事なことは、必ず自分で裏をとること」
うん。そのとおりだ。
前世、高校卒業と同時に就職したアンバーだ。兄の言うことは本当だと納得できる。
アンバーの就職した先は大手の企業だった。けれど勤務先は地方の支店だったので、常駐の社員数は十数人。小規模の閉鎖されたコミュニティだった。噂話、陰口は社員のストレス発散手段ですかと言いたくなるくらい、毎日耳にしたものだ。
前世のアンバーは給料をほぼ母に奪い取られていたので、他の女子社員のように身なりに気を遣うこともできず、化粧っ気のない地味な姿だった。それでついたあだ名が「おでん」。地味でださいという意味らしい。そこにいるのにいないように扱われ、目の前で「おでんは今日もいい味だしてるよね」などとバカにされていた。
今生の母もアンバーには優しくない。不器量なアンバーに美しいドレスやアクセサリーは向かないと、まるで既婚夫人が着るようなドレスを送ってよこす。もっとかわいらしいものがほしいなど、そんなことを言えばどれだけ「不器量」ワードを連発されるかわからない。
それならばと、自分で作ることにした。幸い高等科の授業には、家政科の中に縫物も含まれている。選択科目だからとらなくても卒業はできるのだけど、必要に迫られているアンバーは迷わず選択していた。年に何度かあるという、生徒会主催のパーティにはそれなりのドレスコードがあるのだ。母の選んだドレスを着て出れば、悪目立ち間違いない。
前世の経験から、人は自分と違うもの、弱いものを虐める生き物だとアンバーは知っていた。目立ちたくなければ、質素過ぎてもいけない。ここの生徒たちに仲間と認識されなければ、兄の言う噂話さえ入ってこないのだ。
「わかったわ。ありがとう、お兄さま」
今生はできるだけ、「他人と極端に違わない」でいようとアンバーは決めた。
そうして一学年を無事に終える頃、兄たち学年の卒業パーティでノルディン侯爵令嬢ヴァスキア様からお声がけをいただいた。
「ハロウズ伯爵令嬢ですわね。わたくしはノルディン家のヴァスキアよ。あなたのお兄さまからいろいろ伺っていたから、ぜひ一度お話ししてみたいと思っていたのよ」
まばゆいくらいの金の髪に蒼い瞳、完璧な美少女がアンバーに綺麗な微笑を向けている。
ノルディン侯爵家のヴァスキア様といえば、王太子殿下の婚約者。前世風に言えば、カースト上位の一軍女子、その頂点に立つ方だ。
アンバーも自立のために勉学こそ頑張って、そこそこ優秀と言われる成績をあげてはいる。けれどそれ以外は「他人と極端に違わない」を心掛けた目立たない地味な女子、せいぜい二軍のアンバーだ。この方がお声をかけてくださるなんて、想定外過ぎて慌ててしまう。
「ご……ごきげんよう、ノルディン侯爵令嬢。アンバー・ケイシー・ハロウズと申します」
「あら、そんなに仰々しくしないで。同級生なのだから、気軽にヴァスキアと呼んで? わたくしもアンバーと呼ばせていただければ嬉しいわ」
ヴァスキア様は一学年の生徒会役員だ。同じく生徒会役員をしている兄と、そこで知り合ったらしい。
亜麻色の髪に薄い緑の瞳をした兄については、二軍女子に過ぎないアンバーでもその人気ぶりを知っている。美しい外見とやわらかなもの言いや態度、婚約者がいないというのも人気の理由だ。
「あなたのお兄様は、本当にあなたがかわいいのね。あまりおうちのことをお話しにはならなかったのだけれど、あなたのことだけは愛おしそうにお話しだったわ」
「そ……それは……、わたくしがあまりにも情けないので……。心配してくれているのだと思います」
「あら、アンバーは優秀だわ。いつも学年で十位以内に入っているじゃない? それに物静かで美しい方だって、ずっと思っていたのよ?」
さすがカースト最上位の一軍女子ヴァスキア様だ。こんなに地味なアンバーにさえ、さらりとお褒めの言葉をくださった。これが一軍の社交術かと目をみはる思いだった。
ともあれ兄のご縁、兄のおかげで、ヴァスキア様はこれ以降、アンバーに親しくお声をかけてくださるようになる。
二学年が終わる頃にはアンバーの身の上を話せるくらいには仲良くなっていた。
不器量だと貶めながら、さっさと嫁に出したがっている母のこと。高等科への進学も、兄の助力がなければ難しかったこと。なんとかあの家から自由になりたいと思っていること。そしてそのためになんとしても職につきたいことなど。
ヴァスキア様はアンバーがとつとつと詰まりながら話すのを、黙ってじっと聴いていてくださった。
「つらかったわね、アンバー。よく我慢したわ」
話し終えたアンバーの手を握りしめて、泣いてくださった。
「わたくしもあなたも貴族の娘よ。自分の思いどおりには生きられないわ。でも譲れないものはある。アンバー、わたくしは応援していてよ」
「そうね、いちばん良いのは王宮の侍女かしらね」
最終学年の夏、木陰にキルトの敷物を広げて、アンバーはヴァスキア様とランチをしていた。
いちおう高位貴族令嬢のはしくれの、アンバーが自立するための職に何を選ぶかという話題になる。
ヴァスキア様お奨めは、王宮侍女だ。
王族に仕える高級使用人で、前世風に言えば大奥のお年寄りみたいな感じ。もちろん最初はお年寄りの見習いなのだが、それでも俸給はそこいらの男性より上で、なにより一生奉公ができる。大奥と違うのは、望めば結婚してもかまわないというところ。結婚や出産等で一度職を退いても、王宮の上司が認めれば復職することもできる。
「はい。それはそうなんですけど……。応募資格が厳しいので……」
アンバーだって王宮侍女の好待遇には惹かれている。けれどとても無理だと思うのは、応募資格だった。
男爵以上の爵位を持つ家の令嬢であれば、身分的には条件を満たす。「外国語ふたつ以上が堪能であること」、これも問題ない。問題はその後だ。「容姿端麗であること」、これだ。
「容姿端麗とありますから……。とても無理だと」
「え? アンバーは容姿端麗よ?」
「何を言っているのか」と驚いているヴァスキア様は真面目な表情だった。おそれおおいことながら、ヴァスキア様の審美眼は一般的ではないのではと思ってしまう。けどそのままを口にするのは不敬だからと、困り顔をしていると。
ほう……っと、ヴァスキア様がため息をこぼされた。
「いつも思っていることだけど……。アンバーは自己評価が低すぎるわ。肌理の細かい肌にすうっと涼し気な目元でしょう? 深い緑色の瞳もきれいだし、ほっそりすらりとした体つきとか。とにかくね。アンバーが容姿端麗じゃなかったら、高等科の生徒のほとんどが条件にあてはまらないってことになるわよ?」
ヴァスキア様にはきっとわからない。前世今生とおして、母から不器量な娘だと言われ続けてきたアンバーだ。自己評価を高くするなどできるわけない。
仮に容姿端麗の条件を見なかったことにして応募したとする。それでもし落ちたら、やはり不器量だからだと客観的に判定された結果にあらためて傷つくことになる。器量はアンバーの根深いトラウマなのだ。
「通信省の交換手の募集があって……。王宮侍女ほどではないんですけど、待遇もなかなか良くて。一生勤められるのも同じです。……容姿端麗の条件はありませんし」
容姿端麗の言葉でひるんだのは本当のことだ。だけど交換手を選ぶ理由の一番大きなものは、その言葉じゃない。通信の世界に、楽しい未来が見えるような気がしたからだ。
魔力は貴族だけが持っている。だからその有無はそのまま社会的な身分とか尊さとかに繋がっていて、魔力を持たない平民は貴族ほど快適な生活ができなくて当たり前。それがプレイリー王国の常識だった。
少し前に実用化された電気を使った通信は、魔力に頼らない。だから電話機さえ準備できれば誰でも等しく利用できるものだ。前世ではどんな人里離れた場所にでも、希望すれば電話は引けた。料金だって都市圏と違いはしない。でもここでは違う。この国の経済を支えながらも、平民の事業家はさまざまな制約を課せられている。ちょうど女だから職につけないと言われているのと同じように、平民だから通信は使えなくて当たり前なのだ。
(経済活動に身分って必要?)
アンバーはそう思っている。確かに、一生奉公できる王宮侍女も魅力的ではある。けれど王族にだけ仕える侍女よりも、交換手の方が国全体に仕えている実感が持てるのじゃないか。もっと魅力的だと思ったのだ。
「募集人員は若干名なので、狭き門ですけど。頑張ってみます」
ヴァスキア様は、容姿端麗じゃないからと後ろ向きな発言をした時には微妙な顔をしていらした。でも頑張ってみると言い切ると、ふわりと優しく微笑まれる。
「きっと合格するわ」
大丈夫よと、アンバーの手を握ってくださった。
その秋、通信省の試験があって、合格者は二名。
アンバーは見事合格した。
卒業と同時に通信省に就職、学生寮からそのまま官舎に移った。
それから二年、アンバーは毎日張り合いのある時を過ごしている。
生家へは一度も帰っていない。
一学年百名足らず、全校でも三百弱。その生徒たちのために用意された敷地は、王宮からそう遠くない距離にあり、人工的な湖や小さな森まである贅沢なものだ。
「ここの生徒はみんな、将来の社交界メンバーだからね。年頃が同じだから一見気安そうだけど、油断しちゃだめだよ。適当な距離を守って、愛想よくしておくんだよ?」
二学年上の兄は、時々アンバーの様子を見にきてくれる。ここ高等科での過ごし方について、誰も教えてくれない本当のところをレクチャーしてくれるのだ。
「噂話をバカにしちゃだめだ。貴重な情報源だからね。けど鵜呑みにするのもダメ。真偽は半々と疑っておくことだ。本当に大事なことは、必ず自分で裏をとること」
うん。そのとおりだ。
前世、高校卒業と同時に就職したアンバーだ。兄の言うことは本当だと納得できる。
アンバーの就職した先は大手の企業だった。けれど勤務先は地方の支店だったので、常駐の社員数は十数人。小規模の閉鎖されたコミュニティだった。噂話、陰口は社員のストレス発散手段ですかと言いたくなるくらい、毎日耳にしたものだ。
前世のアンバーは給料をほぼ母に奪い取られていたので、他の女子社員のように身なりに気を遣うこともできず、化粧っ気のない地味な姿だった。それでついたあだ名が「おでん」。地味でださいという意味らしい。そこにいるのにいないように扱われ、目の前で「おでんは今日もいい味だしてるよね」などとバカにされていた。
今生の母もアンバーには優しくない。不器量なアンバーに美しいドレスやアクセサリーは向かないと、まるで既婚夫人が着るようなドレスを送ってよこす。もっとかわいらしいものがほしいなど、そんなことを言えばどれだけ「不器量」ワードを連発されるかわからない。
それならばと、自分で作ることにした。幸い高等科の授業には、家政科の中に縫物も含まれている。選択科目だからとらなくても卒業はできるのだけど、必要に迫られているアンバーは迷わず選択していた。年に何度かあるという、生徒会主催のパーティにはそれなりのドレスコードがあるのだ。母の選んだドレスを着て出れば、悪目立ち間違いない。
前世の経験から、人は自分と違うもの、弱いものを虐める生き物だとアンバーは知っていた。目立ちたくなければ、質素過ぎてもいけない。ここの生徒たちに仲間と認識されなければ、兄の言う噂話さえ入ってこないのだ。
「わかったわ。ありがとう、お兄さま」
今生はできるだけ、「他人と極端に違わない」でいようとアンバーは決めた。
そうして一学年を無事に終える頃、兄たち学年の卒業パーティでノルディン侯爵令嬢ヴァスキア様からお声がけをいただいた。
「ハロウズ伯爵令嬢ですわね。わたくしはノルディン家のヴァスキアよ。あなたのお兄さまからいろいろ伺っていたから、ぜひ一度お話ししてみたいと思っていたのよ」
まばゆいくらいの金の髪に蒼い瞳、完璧な美少女がアンバーに綺麗な微笑を向けている。
ノルディン侯爵家のヴァスキア様といえば、王太子殿下の婚約者。前世風に言えば、カースト上位の一軍女子、その頂点に立つ方だ。
アンバーも自立のために勉学こそ頑張って、そこそこ優秀と言われる成績をあげてはいる。けれどそれ以外は「他人と極端に違わない」を心掛けた目立たない地味な女子、せいぜい二軍のアンバーだ。この方がお声をかけてくださるなんて、想定外過ぎて慌ててしまう。
「ご……ごきげんよう、ノルディン侯爵令嬢。アンバー・ケイシー・ハロウズと申します」
「あら、そんなに仰々しくしないで。同級生なのだから、気軽にヴァスキアと呼んで? わたくしもアンバーと呼ばせていただければ嬉しいわ」
ヴァスキア様は一学年の生徒会役員だ。同じく生徒会役員をしている兄と、そこで知り合ったらしい。
亜麻色の髪に薄い緑の瞳をした兄については、二軍女子に過ぎないアンバーでもその人気ぶりを知っている。美しい外見とやわらかなもの言いや態度、婚約者がいないというのも人気の理由だ。
「あなたのお兄様は、本当にあなたがかわいいのね。あまりおうちのことをお話しにはならなかったのだけれど、あなたのことだけは愛おしそうにお話しだったわ」
「そ……それは……、わたくしがあまりにも情けないので……。心配してくれているのだと思います」
「あら、アンバーは優秀だわ。いつも学年で十位以内に入っているじゃない? それに物静かで美しい方だって、ずっと思っていたのよ?」
さすがカースト最上位の一軍女子ヴァスキア様だ。こんなに地味なアンバーにさえ、さらりとお褒めの言葉をくださった。これが一軍の社交術かと目をみはる思いだった。
ともあれ兄のご縁、兄のおかげで、ヴァスキア様はこれ以降、アンバーに親しくお声をかけてくださるようになる。
二学年が終わる頃にはアンバーの身の上を話せるくらいには仲良くなっていた。
不器量だと貶めながら、さっさと嫁に出したがっている母のこと。高等科への進学も、兄の助力がなければ難しかったこと。なんとかあの家から自由になりたいと思っていること。そしてそのためになんとしても職につきたいことなど。
ヴァスキア様はアンバーがとつとつと詰まりながら話すのを、黙ってじっと聴いていてくださった。
「つらかったわね、アンバー。よく我慢したわ」
話し終えたアンバーの手を握りしめて、泣いてくださった。
「わたくしもあなたも貴族の娘よ。自分の思いどおりには生きられないわ。でも譲れないものはある。アンバー、わたくしは応援していてよ」
「そうね、いちばん良いのは王宮の侍女かしらね」
最終学年の夏、木陰にキルトの敷物を広げて、アンバーはヴァスキア様とランチをしていた。
いちおう高位貴族令嬢のはしくれの、アンバーが自立するための職に何を選ぶかという話題になる。
ヴァスキア様お奨めは、王宮侍女だ。
王族に仕える高級使用人で、前世風に言えば大奥のお年寄りみたいな感じ。もちろん最初はお年寄りの見習いなのだが、それでも俸給はそこいらの男性より上で、なにより一生奉公ができる。大奥と違うのは、望めば結婚してもかまわないというところ。結婚や出産等で一度職を退いても、王宮の上司が認めれば復職することもできる。
「はい。それはそうなんですけど……。応募資格が厳しいので……」
アンバーだって王宮侍女の好待遇には惹かれている。けれどとても無理だと思うのは、応募資格だった。
男爵以上の爵位を持つ家の令嬢であれば、身分的には条件を満たす。「外国語ふたつ以上が堪能であること」、これも問題ない。問題はその後だ。「容姿端麗であること」、これだ。
「容姿端麗とありますから……。とても無理だと」
「え? アンバーは容姿端麗よ?」
「何を言っているのか」と驚いているヴァスキア様は真面目な表情だった。おそれおおいことながら、ヴァスキア様の審美眼は一般的ではないのではと思ってしまう。けどそのままを口にするのは不敬だからと、困り顔をしていると。
ほう……っと、ヴァスキア様がため息をこぼされた。
「いつも思っていることだけど……。アンバーは自己評価が低すぎるわ。肌理の細かい肌にすうっと涼し気な目元でしょう? 深い緑色の瞳もきれいだし、ほっそりすらりとした体つきとか。とにかくね。アンバーが容姿端麗じゃなかったら、高等科の生徒のほとんどが条件にあてはまらないってことになるわよ?」
ヴァスキア様にはきっとわからない。前世今生とおして、母から不器量な娘だと言われ続けてきたアンバーだ。自己評価を高くするなどできるわけない。
仮に容姿端麗の条件を見なかったことにして応募したとする。それでもし落ちたら、やはり不器量だからだと客観的に判定された結果にあらためて傷つくことになる。器量はアンバーの根深いトラウマなのだ。
「通信省の交換手の募集があって……。王宮侍女ほどではないんですけど、待遇もなかなか良くて。一生勤められるのも同じです。……容姿端麗の条件はありませんし」
容姿端麗の言葉でひるんだのは本当のことだ。だけど交換手を選ぶ理由の一番大きなものは、その言葉じゃない。通信の世界に、楽しい未来が見えるような気がしたからだ。
魔力は貴族だけが持っている。だからその有無はそのまま社会的な身分とか尊さとかに繋がっていて、魔力を持たない平民は貴族ほど快適な生活ができなくて当たり前。それがプレイリー王国の常識だった。
少し前に実用化された電気を使った通信は、魔力に頼らない。だから電話機さえ準備できれば誰でも等しく利用できるものだ。前世ではどんな人里離れた場所にでも、希望すれば電話は引けた。料金だって都市圏と違いはしない。でもここでは違う。この国の経済を支えながらも、平民の事業家はさまざまな制約を課せられている。ちょうど女だから職につけないと言われているのと同じように、平民だから通信は使えなくて当たり前なのだ。
(経済活動に身分って必要?)
アンバーはそう思っている。確かに、一生奉公できる王宮侍女も魅力的ではある。けれど王族にだけ仕える侍女よりも、交換手の方が国全体に仕えている実感が持てるのじゃないか。もっと魅力的だと思ったのだ。
「募集人員は若干名なので、狭き門ですけど。頑張ってみます」
ヴァスキア様は、容姿端麗じゃないからと後ろ向きな発言をした時には微妙な顔をしていらした。でも頑張ってみると言い切ると、ふわりと優しく微笑まれる。
「きっと合格するわ」
大丈夫よと、アンバーの手を握ってくださった。
その秋、通信省の試験があって、合格者は二名。
アンバーは見事合格した。
卒業と同時に通信省に就職、学生寮からそのまま官舎に移った。
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生家へは一度も帰っていない。
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