【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)

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第四章 オリヴェルの章(オリヴェルEDルート)

51. 同じ種類の男?

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 まさかオリヴェルが同意してくれるとは、パウラも思わなかった。
 仮にも現役の聖使だ。
 黄金竜オーディの忠実なるしもべであるべき彼が。
 本気?
 すぐには信じられなかったけれど、嬉しそうに「いいね」と笑う顔を見ると、本気なのだとパウラにもわかる。

「で、どこに逃げようか?
 それが問題だね」

 一緒に逃げる前提ですかと突っ込みたくなるが、妙案があれば聞きたいので黙っていることにした。

「この世界、どこに行っても黄金竜オーディの息がかかっているからね。
 他の種族の国へ行けば、少しはマシかな。
 でも絶対じゃない」

 かなり真剣に考えているようで、時々考え込むような間があった。
 
「そんなことをしたら、その国に迷惑がかかりますわ。
 黄金竜オーディに叛いた大罪人をかくまうなんて。
 何をされるか」

 昔出会った白虎の王子を思い出す。
 助けてほしいと言えば、かくまってくれるかもしれない。
 でもその後は?
 パウラをかくまったら、白虎の一族すべて滅ぼされてしまうに違いない。
 今でさえ恵まれているとは到底言えない暮らしをしている彼らを、もっと苦しい目に合わせることになる。

「巻き込まれた方こそ良い迷惑ですわ」

 すぐには答えの出ない難題だと思う。
 人払いしたとは言え、競技場の観覧席でするにはヘビー過ぎる。

 
 
 目の前の競技場では、新しい試合が始まっていた。
 銀狼の毛で織られた特注のどーぎが目に入る。
 黒髪のすっきりとした美女は、間違いなくナナミだ。
 相手はむくつけき赤毛の大男で、どうやらゲルラの騎士らしい。

(1分で勝負がつくわ)

 ナナミの華麗なるイッポンゼオイが炸裂するまでの時間を、パウラは1分と読んだ。
 あの瞬発力と華麗さは、いまだパウラにはとどかぬ高み。
 わくわくしながらその瞬間を待って。

「あ……」

 思わず声が出た。

 今ならここにナナミがいる。
 黄金竜の泉地エル・アディにあるよりは、内密の話もしやすいだろう。
 ナナミにパウラのいっさいを打ち明けて、ヘルムダールの両親と話せる機会を作ってもらう。
 聖女オーディアナを拒むとなれば、それがただの辞退で穏便にすむはずもない。
 実家のヘルムダールにも、なんらかの影響はあるだろう。一言、断っておくのが筋というものだ。
 
 もし両親が「そんなことはやめてくれ」と言ったら?
 前世とは違い、パウラは両親に愛されてここまで育ったと知っている。
 反対されたら、心は揺らぐだろうなとは思う。
 けれどやはりそれでも、何も言わずに勝手なことはしたくない。
 ある日突然、パウラが逃げたと聞かされてひどい衝撃を与えるくらいなら、いっそヘルムダールから除籍してほしいと願った方がマシだ。
 
 わぁー------!

 ひときわ大きな歓声が上がる。
 ナナミのイッポンゼオイが決まった。
 赤毛の騎士はあっという間に背中から落ちて、天に腹を向けている。
 掴んで抱えた相手の右腕を、最後までナナミは支えて離さない。
 地面にあおむけに沈んだ騎士に、なにやら声をかけていた。
 おそらくは「けがはないか」のような言葉だと、パウラにはわかる。
 そんなナナミを、相変わらずかっこ良いと思う。
 
 ぽぅっと見惚れていると、間近でオリヴェルがふんと鼻を鳴らす。

「パウラはやっぱり騎士が好きみたいだね」

 相手はナナミだ。どうしてここで好きの嫌いのという言葉が出てくるのか。
 オリヴェルの騎士コンプレックスは、長年こじらせている分だけタチが悪いようだ。

「あのオリヴェル様?
 あれはナナミ、わたくしのお師匠様ですわ」

「そうだね。
 けどパウラの護衛騎士でもあるはずだよ?」

 あー-----。
 面倒くさい。
 こんなに面倒くさい性格だったのか、オリヴェルは。
 これまでの陽気で粋で、他人との距離を上手にとる彼は、なんだ。
 あれは表の顔で、実はこちらが本当の顔?
 これでは父テオドールと、たいして変わらないではないか。

「ナナミを見ていたのは、ちょっと思いついたことがあるからですわ。
 この先のことで、ちょっと」

 かっこ良いと思ったのは確かだが、それは言わない方が良いような気がした。
 今のオリヴェルなら、「この先のこと」、このワードに反応してくれるはず。
 騎士が好きとかそうじゃないとか、そんな話題からは逃れられる、きっと。

「この試合が終わったら、そのことをナナミに話そうと思っていましたの」

 本当のことだから、自然に口にできる。
 それでも真偽を伺うような様子のオリヴェルも、ついにはぁとため息をつく。

「わかったよ。
 でもおぼえておいて。
 わたしは伝えたんだからね、好きだよって。
 聞いたよね、パウラ」

 唇が触れるほどの距離にまでつめられて、オリヴェルの青に近い緑の瞳がパウラをじぃっとのぞき込む。

「パウラに、他の誰かを見てほしくないんだよ。
 パウラの興味を少しでも惹くようなヤツ、みーんな消してやっても良いね。
 ああそれともいっそ、パウラをわたしの部屋に閉じ込めようか。
 うん、それなら少しは安心できるかな」

 ますます父と同じ人種だとぞっとする。
 父もよく似たようなことを言っていたものだ。

「わたしのアデラ、君のその美しい目に映ったというだけで、あの男は万死に値するよ。
 いますぐ消してきますね」

 女性よりも繊細な美貌の父が、物憂げな微笑を浮かべてそんなことを言う。
 毎日のように似たようなことを聞かされていれば、その危うい感じもパウラには珍しくもないものだったが、それがオリヴェルから出るとなると全く違う。

 怖い……。

 たとえや冗談口ではないのだ。きっと本当にやるだろう。
 うっそりと重くて暗い微笑が、そう言っている。
 
「わ……わたくしは!
 インドア派ではありませんわ。
 と……閉じ込められるのは、困ります」

 ひきつれた声が裏返る。
 母は父のことを愛していると言っていた。
 よくもこんな危険な種類の男をと、この時初めてパウラはわが身のこととして、リアルに実感した。





 2日後、ナナミの中継でパウラは密かに両親との面会の機会を得た。
 祭りに浮かれるシェンタの街なら、貴人のお忍びも目立たない。むしろ珍しくもないといったところで、世界中のあちこちから尊い身分の人々が、彼らの思う平民らしい仮装をして、街の賑わいを楽しみに来ていた。
 イェーリクの店、ヴェサーケレ商会奥の応接間で、人の世で最も尊い女性、ヘルムダール大公アデラが夫テオドールと共にパウラと向き合っている。

「久しぶりだね、パウラ」

 相変わらず薔薇のように艶やかな母だった。
 艶やかでありながら、一点のシミもない汚れのない潔い美貌は、赤ではなく白い薔薇だと思う。

 久しぶりに会う懐かしい両親を前に、しゃんと背筋を伸ばす。
 ひとつ息をついた後、緊張気味にパウラは口を開いた。
 
「お母様、お父様には、ご無理をお願いいたしました。
 わたくしのわがままをお聞き届けくださって、ありがとうございます」
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