【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)

文字の大きさ
上 下
9 / 96
第一章 それは終わりから始まった

9. パウラ、水竜の聖使に会う

しおりを挟む
いったいどうして、公子のフリをしているのか。
しかも実の姿より、ずっと幼い少年の姿に化けて。
そしてその化けっぷりの、不完全なこと!
緑の瞳をそのままにしたのは、気づけと言っているようなものではないか。


「こちらへ来て、パウラ様にご挨拶をしなさい」

ヴァースキー大公に呼ばれて、3人の少年公子がパウラの前に並んだ。
緑の瞳をした少年が、胸に腕を引き寄せ左足を引いて、優雅に頭を下げる。

「シモンと申します、姫君」

わずかに上げた唇、からかうような表情は、見覚えのあるもので。
懐かしさに思わず、元気だったかと口にしそうになって、いやいやと内心で首を振る。
今のパウラは6歳で、シモンを知っているはずもない。
これは初対面のヴァースキー公子だと言い聞かせて、にっこり笑顔を作る。

「パウラでございます」

ヘルムダール直系女子らしいプラチナの髪に、母アデラ譲りの美貌、幼いながら十分魅力的な外見であるはず。
笑顔までおまけにつければ、そう悪くない第1印象を作れたはずだ。
前世、この笑顔は無敵であった。
悔しいことに、愛だの恋だのには効かなかったけれど。

(ほんとに全く、全然、これっぽっちも、役にたたなかったわ)

小さなため息をつく。
瞬間、目の前のシモンがくすりと笑った。

「ため息とはね」

しまった!
つい気を抜いてしまった。
かぁっと、頬に血が上る。

「こういうのが素なんだ?」

パウラの動揺を楽しむような口調。
ああ、なんて嫌なやつだ。
まるで変わっていない。

「でも悪くないね。
うん、こっちの方がずっとかわいい」

かわいい?
コイツに限って、そんな言葉を吐くはずはない。
聞き間違いか、空耳か。
ああそうか。
身分詐称の擬態に違いない。
本物のヴァースキー公子なら、ヘルムダールの姫であるパウラに、社交辞令の1つくらいは言うだろうから。
相変わらずやっかいなヤツ。
仕掛けてきたイタズラへの対応を間違えれば、秋の空のように変わるコイツのご機嫌は、たちまち雷雨になるだろう。
さて、なんと返したものか。

「悩んでる?
僕がどういうつもりかって?」

不意に耳元で囁かれ、身体が固まる。

「ひどいな、君は。
目の前に僕がいるのに、他のことを考えてるんだから」

くすりと柔らかく笑う顔は、ただのヴァースキー公子であるはずもない。
10歳ほどの少年に、こんな色気がでるものか。
化けるつもりなら、何事もソツのないシモンのこと。
もっと完璧に、10才そこそこの少年になりきるだろう。
試されている?
いったいなんのために。
パウラは小さな頭を忙しく回転させたが、彼の考えていることがまるでわからない。
全然、わからない。

(逃げるしかないわね)

前世のパウラなら、真正面から真面目に受け答えをしただろう。
生真面目に相手の思惑がわからないと伝えて、どういう意味なのかをおそらく聞いた。
けれどそれではダメなのだということだけは、わかっている。

「マジメだよね~、パウラって」

前世、シモンはバカにしたように笑って言ったものだ。
そんな顔をされる度、怯んでなんだか落ち着かない気分になった。
2度目の今生は、そうはさせない。
相手の思惑がわからないなら、スルーするだけだと思う。
取り合おうと思うから混乱する。
聞こえなかったフリをして、シモンの左隣りに控える緑の瞳の少年に柔らかい視線を向けた。

「はじめまして、パウラと申します」

おとなしく順番を待っていた少年は、頬を染めて綺麗なお辞儀を作る。

「リューカスと申します、姫君。
どうぞリューカスとお呼びください」

こちらこそ本物の、ヴァースキー公家の跡継ぎ公子。
透明度の高い薄い緑の瞳には、素直な歓迎と興奮がある。
パウラより少しばかり年上だろう彼は、パウラの手袋をした右手をとって、指の付け根にそっと唇を落とした。
駆け引きを必要としない素直な反応が、パウラの心に落ち着きを返してくれる。

「リューカス様、それではわたくしのこともパウラと。
どうぞそうお呼びくださいませ」

母の微笑を意識した。
唇の両端を上げて、小首を傾ける。
成功!
リューカスの頬の赤みが、さらに増した。
シモンの視線の色が変化したのは感じていたが、けしてそれには応えない。
辺りの温度が下がったような気がする。
勝手に氷点下の世界にいるが良いと、知らん顔を続けた。

「ふう…ん。
悪くないね」

リューカス公子の隣に立った弟公子の挨拶を受けながら、パウラの聴覚はどこか嬉しそうなその声をしっかり捉えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」  はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。 「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」  ──ああ。そんな風に思われていたのか。  エリカは胸中で、そっと呟いた。

処理中です...