【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)

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第一章 それは終わりから始まった

6.パウラ、戦略と戦術を教えられる

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「ヘルムダール大公は、聖紋オディラのある直系女子が継ぐ。
パウラもそれは知っているね?」

こくりと頷くと、母も頷き返してくれる。

「私やパウラは、他の公国の女子のように他家へ嫁には行けない。
4公家から夫を選んで、ヘルムダールへ入ってもらうことになる。
これは黄金竜オーディとの約束だからね、どうしてもそうしなければならないんだよ。
ヘルムダールに生まれた女子の、運命だね」

レモン水の入ったグラスを傾けながら、母は続けた。

「でもね、だからといって誰でも良いとは思えないだろう。
少なくとも、私は思えなかった。
限られた範囲ではあるけれど、その中で最も好ましい人を夫に迎えたいと思った」

限られた範囲にいる対象から、絞り込みをしたということか。
それならば母のとった方法は、現在パウラが抱えている問題にも応用できるかもしれない。
それに見事目標の「ヘルムダールの跡継ぎとして送る普通の生活」を手に入れたなら、当然結婚も視野に入れなければならないわけで。
そうしたら今のうちから、せめてリサーチくらいかけておいた方が良いには違いない。
これはかなり聴くべき意見だと思う。
パウラの小さな身体は、思わず前のめりになる。

「まずは対象になりそうな公子を調べることから、私は始めた。
容姿、人となり、趣味に特技、それから評判、そんなとこかな。
そしてできるだけ直に会う機会を作った。
幸いヘルムダールの娘なら、4公家の行事に招待される機会は多いからね。
それを何度か繰り返していれば、好ましいなと思う人がわかるはずだよ」

リサーチ後の現ブツ確認が必要ということか。
いや、それは難しいのではと、パウラは小さな唇を引き結んだ。
4公家の公子なら、それもかなうだろう。
けれど聖使となると、話は違う。
滅多には会えないはず…と、ここまで思ってはたと気づいた。
ある!
4公家主催の竜の祭典は、たしか2年に1度行われていたはずだった。
その時には、祭典の主役となる竜の代理人、聖使が必ず招かれる。
そしてそこには、ヘルムダール大公も招かれるはずである。

「わかりましたわ、おかあさま。
わたくし、こんやくしゃこうほの方々について、調べてみることにいたしますわ。
秋の祭典にまにあわせますから、どうか今年はわたくしもお連れください。」

ぱぁっと笑顔になったパウラに、つられるようにして母も笑う。

「今年は水竜、ヴァースキーの祭典だね。
ああ、そうだ。
それならテオドールと一緒に行ってくると良い。
先方には、早めに伝えておこうね。」

自分の教えを瞬時に吸収し反応するわが娘に、母は満足そうな顔をしている。
ウチの娘、天才かも…親バカ中のようだ。
今のパウラは6+数千年分の人生経験があるのだから、反応が速いのは当然といえば当然で、残念ながら天才ではない。


(ごめんなさい、お母さま。
お母さまのおっしゃる4公家の公子は、どちらかというと「ついで」ですわ)


本命は聖使の4人。
あの曲者揃いの面々であれば、準備期間は長いほどありがたいというもの。
17才で黄金竜の泉地エル・アディへ召喚されるまで後11年ある。
黄金竜の泉地エル・アディへ上がるまでに、適度に好かれるための下ごしらえをしておかなくては。
まず当面の攻略対象シモン・ヴァースキーに絞って考えてみる。
あの黒い微笑の美少年は、何を嫌っていただろうか。

「あーーー、女の子ってめんどくさい。
助けてもらって当たり前って顔、僕キライなんだよね」

前世、「試練の儀」課題の遠征時、不意に受けた襲撃に、がくがくと震えてすがるエリーヌにシモンが放った言葉。
心からうんざりした様子で、彼にとりすがるエリーヌの細い手を引きはがしていたような記憶がある。

武術を習おう!
なにかあっても自分の身は自分で守れる、その程度には。
そうすれば11年後には、きっと役に立つ。

「おかあさま、こんかつにも体力がひつようですわね。
わたくしもヘルムダールの女子のたしなみとして、ぶじゅつを習いたいですわ」

小さな拳を握りしめて強請るパウラに、母の機嫌はますます良くなった。

「良いね、それは本当に良い考えだと思うよ。
良い教師をつけようね。
ああ、近衛の騎士に一人心当たりがあるよ。
楽しみに待っておいで」

やはり母は頼りになる。
示された基本方針は実に現実的で、だからこそその次にくる問題解決方法を、より具体的に考えることができたのだと思う。
父がデレデレになるはずだ。

「おかあさま、とっても嬉しいですわ。
ありがとうございます」

お礼を言って、パウラはようやく空腹を自覚する。
ナプキンを膝にひろげると、食べやすそうだと思われるものをメイドがとりわけてくれる。
パウラの手にしたスプーンの上で、コンソメのジュレがブルンと揺れた。
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