【完結】マザコン夫と離婚したら、年下の護衛騎士(実は王子)が熱烈に求愛してきます

yukiwa (旧PN 雪花)

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第四章 ヴァスキアの再興

35.どれだけ待ったか知らないだろう *

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 もともと王太子の部屋だ。メイドの寝室くらいなら、楽にひとつ入るくらいには広い。
 長い間使われていなかったので壁に小さなひび割れが走っているが、掃除は行き届いているようで白い壁やタイルは清潔だった。
 その真ん中にどどんと大きな鋳物の浴槽が置かれていた。
 たっぷり湯が張られて、ゆらゆらと揺れている。

 エカルトの腕で運ばれたラウラは、その湯の中にそうっと下ろされた。
 ちゃぽんと小さな水音の後、じわりと肌が温かい。冷えていたのだと、初めて気づいた。
 ほう……と息を漏らす最中に、ぴきっと身体が硬直する。
 ためらうことなくエカルトが、さっと着衣を脱ぎ始めたから。
 くるぶしまで届く長い上着を、続いて下のシャツを脱いだ。
 幼い頃の火傷の痕は今も生々しく残っているが、それが気にならないほど均整のとれた見事な肢体に目を奪われる。ごつごつした印象のまるでないエカルトだが、がっしりとした肩から胸にかけて綺麗な筋肉がついていた。割れた腹部は引き締まって、男の身体をほとんど見たことのないラウラにはかなり刺激が強い。思わずぼうっと見惚れてしまう。
 だがパンツを脱ぎ、最後の下着を脱ぎ捨てた時、さすがにぎょっとして目を逸らした。
 
(あれが本物なのだわ)

 教本の図解でしか知らないアレ、人間のオスの象徴だ。
 ちらりと見えてしまったアレは、かなり衝撃的な見た目だった。綺麗に割れた腹部に貼りつくように上向きに、そそり立っている。まるでそこに全身の血が集まっているかのように赤く染まっていて、想定していたよりかなり大きい。
 
(どうしよう。アレをわたくしの中に入れるの……よね)

 そもそも入るのだろうか。途端に自信がなくなってきた。


 ざばんと大きな水音がして、はっと顔を上げた。
 ラウラの背後うしろにエカルトが座り込んでいる。そろりと腕が伸びてきて、ぐいと抱き寄せられる。
 
「醜いですか?」

 しゅんと落ち込んだ声に、それが右半身に今も残る火傷の痕のことだと気づいた。

「俺に触れられるのは気持ち悪い?」

 ラウラが目を逸らした理由を、どうやら勘違いしている。そうではないのに。

「目を逸らしたのは、その……。エカルトのが見えたからで……。わたくし、見るのは初めてで驚いて……」

 ほうっと長い息をついたエカルトが、「よかった」と小さくこぼした。

「ラウラに嫌われたら、俺は生きてはいけないから」

 小刻みに震える腕に首だけを振り向ければ、うるうると涙で滲んだ黄金色の瞳が目の前にある。黒く長いまつ毛がばさりと瞬くと、あふれ出た涙がつぅっと陽に焼けた頬を滑り落ちた。

「じゃあ触れても?」

 剣だこのできた大きな手がラウラの胸を包む。たぷんと揺れるふくらみを持ち上げるようにして、下から包み込んでいる。

「指に吸いつくようだ」

 ふくらみの下から脇にかけて、空いた左手が撫で滑る。
 ゆっくり優しく何度も行き来されて、触れられた箇所が熱を持つのがわかる。そこだけ湯の温度が上がったようだ。

「くすぐったい」

 恥ずかしくて頭を振るが、エカルトの指はさらにあちこち自由に動き出すばかり。
 腰のくぼみを撫でて、首筋に唇を落としてぺろりと舐める。
 
「ひゃっっ」

 思わず漏れた声にラウラは自分で驚いた。なんというはしたない声をあげるのか。

「ごめ……んな……」

 咄嗟に謝った言葉は途中で吸い取られてしまう。エカルトの唇が、音を紡ぐ舌ごと絡めとったから。温かく湿った舌がぬらぬらとラウラの口内を好きに動き回って、息継ぎさえも許さない。
 ラウラの舌はもはやラウラの制御を離れている。勝手に絡みつき返してエカルトに応えた。
 気持ちいい。
 理性はすっかり靄の中に沈んで、身体中のすべてでエカルトを求めている。
 あふれた唾液が唇の端に伝っても、ラウラにはもう恥ずかしいと感じる余裕さえない。

「ここ……」

 エカルトの指が湯に浸かったラウラの脚の付け根、そのあわいにつぷりと入る。

「気になっていたのでしょう? きれいにしてあげますよ」

 自分でもそんなに触れることはない箇所だ。そもそも身体はメイドが洗ってくれる。ラウラ自らが触れることなど滅多にない。
 けれどその箇所こそが閨では大切なのだと知っている。だから気にしていた。普段触れることがない箇所だから、余計に心配で。
 長い指がやわらかな襞をこすり上げると、知らない感覚がざわりと背筋を伝う。

「すごいな、もうとろとろだ」

 耳元で低く囁かれる声に、ぞくりと震えがくる。
 
「見たいです。いいですか?」

 燭台の灯りがほの暗く、黄金色の瞳を染めた。隠しようもない欲を映して、エカルトは薄く微笑する。
 ひょいとラウラを抱き上げた。
 ざばりと湯を蹴って立ち上がると、左手で棚のシーツをひっつかんでラウラの身体に巻き付けた。
 ぽたぽたと水滴垂らしたまま、眉を寄せたエカルトはひどく急いでいる。
 寝室の扉を足で乱暴に開けて、それでもラウラだけはそっと下ろしてくれた。
 大人五人が楽に横になれる幅の大きな寝台だ。そこへシーツでぐるぐる巻きにされたラウラは、ちょんと腰かけさせられている。
 何もまとっていないエカルトを直視できなくて目を伏せれば、頤をくいっとあげられる。

「俺がどれだけ待ったか、あなたは知らないでしょう」
 
 もう譲る気はないのだと、黄金色の瞳が教えてくれる。
 左手でラウラを守るシーツを取り去ると、残る右手でラウラを寝台に縫い付ける。
 
「ラウラ、俺の唯一。もうけして離さない」

 唇が降る。
 嵐のような熱量の唇が再び。
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