49 / 49
第五章 嵐のその後で
49.ミッションは完了した
しおりを挟む
ヴィシェフラド女王成婚。
その知らせは国中はもちろん、大陸中に歓呼をもって迎えられた。
戦に怯えて暮らした日々の終わりを、はっきり告げられたような気がしたからだろう。
戦の前にはスカスカだったヴィシェフラドの国庫も、ここ最近地方荘園からの収益が順調に送られてくることでずいぶんマシになってきていたから、今度の式と披露のパーティは豪勢なものになる予定だった。
となると、準備に忙しいのはどの時代、どの世界でも同じらしい。
関係各所への招待状の発送、式次第や席順の調整、晩餐のメニューにワインの選定、果てはスピーチ原稿のチェック等々。このほとんどは母である前王妃と伯父の前ラチェス公爵が仕切ってくれたので、リヴシェのすることといったら前世の花嫁さんよりずっと楽だ。衣装合わせとかヘアスタイルやメイクの打ち合わせ、それに身体の手入れとか。要するに自分の事だけ考えていれば良い。
それでも前世今生通して、身の回りをかまいつける方ではないリヴシェにとってはうんざりするような内容だ。
ドレスのデザインがマーメイドラインだろうとプリンセスラインだろうと、正直なところどちらでも良い。
「一生に一度のことなのよ。より綺麗に見える方が良いに決まっているでしょう」
断固譲らない母は、次々と既に仮縫い工程まで進んだドレスを持ち込ませる。
(いったい何着作ったのかしら)
式で着るドレスなら、一着だけのはず。後は使わないのに。
なんという無駄遣い。
デザイン画の段階で、確か適当に1着選んでいたはずなのに。
「お母さま、これはどういうことですの? わたくし確かひとつに絞ったはずですわ」
「こうして体に当ててみた方が、よりわかりやすいでしょう。ラチェスからも『惜しむな』と言われてますよ。
リーヴはね、綺麗に見えることだけを考えていれば良いの」
ラーシュによく似た美貌で微笑まれると、それ以上何も言えなくなる。
あきらめて次々と袖を通してゆくと、母はほうっとため息をついて「見惚れるようだわ」とこぼした。
「リーヴは幸せね。愛して愛されて結婚するなんて、珍しいことだわ。
少し羨ましいわね」
政略結婚。
本当にそれだけの関係だった両親を思えば、確かにそのとおりだ。王族に生まれて相愛の相手と結婚できるなど、本当に稀だと思う。
過ぎた日々の母の思いは想像することしかできないけど、愉快ではなかったはずだし、多分諦めの連続だったんだろう。
元凶たる前国王は、相変わらず幽閉中だ。今回の式やパーティにも招いていない。そのことについて特に母から何も言われないので、リヴシェも知らん顔をしている。
ジェリオ親子のその後についてどこからか聞いて、散々嘆いていたと耳にしたから、彼の性根は全然変わっていないらしい。
せめて母には、この先幸せになってほしいと心から願う。
そして成婚式の朝が来た。
文句のつけようのない快晴の、女神ヴィシェフラドの祝日でもあるこの日。
早朝から王宮は騒がしいけど、リヴシェはいつもどおり朝食を済ませてから仕度にとりかかれば良い。だから起きるのもいつもと同じ午前6時。入浴を済ませて簡単な部屋着に着替えたところに、今日のもう1人の主役ラーシュがやって来た。
「朝食を一緒にと思ってね」
あれ、なんだか緊張している?
口調が硬いし、なんとなくだけど暗い感じがする。
「どうかしたの?」
メイドを下げてからラーシュの腕に両手をかけると、いきなり抱きしめられる。
ぶるぶるとラーシュの身体が震えていた。
なんだろう。この期に及んで、また面倒ごとが起きたのだろうか。
「リーヴ、僕はまだ信じられないんだ。夢じゃないよね」
顔を上げた先に、リヴシェの方こそが信じられないものを見る。
海のように青い瞳からぼろぼろと涙がこぼれていて、白い頬は赤らんでいた。
こんなラーシュ、見たことがない。
「小さな頃からずっと願い続けて、今日のこの日を僕は何度も夢にみてたんだ。
だからこれも夢で、目が覚めたらただの婚約者に戻っているかも……。
リーヴ、僕は怖いんだよ」
ああ、もう。
結婚式の朝にギャップ萌えだ。
金髪碧眼、ザ・王子様の美貌をくしゃくしゃにして、信じられなくて怖いと泣くなんて。その表情のなんと尊い。
「夢じゃないわよ。後4時間もしたら、わたくしはラーシュの妻でラーシュはわたくしの夫よ」
今日は長丁場になるから朝食はしっかり食べておくようにと言われているけど、この尊みの前に空腹を我慢することくらいなんでもない。
式の仕度が許すギリギリまで、ラーシュと一緒にいたい。
目が腫れるから泣かないでとか、鼻をかんでとか、なんだか子供に言い聞かせるみたいにお世話するのも嬉しい。
ああ、この人と本当に結婚するんだなあと実感が湧いて、ふんわり幸せな気分に浸った。
午前10時、いよいよ結婚式に臨む。
ヴィシェフラド大聖殿の礼拝堂には、各国の王族貴族がずらりと並んでいる。前世テレビで観たロイヤルウェディングのようだ。
首元まで総レースで覆われたドレスは5メートルのロングトレーン付きで、歩くだけでも大変。ラチェスの伯父にエスコートされてゆっくりと進む。
祭壇前には既にラーシュが待っていた。
白の騎士礼装に揃いのマント、すっきり伸びた背筋の立ち姿は颯爽としていて、ホントに絵になる。むしろぜひ絵に残したい。
ファンタジー小説の世界よ、ありがとうだ。
誓いの言葉が終わって、オトメ的にはメインイベントたる誓いのキスが来る。
リヴシェのヴェールをラーシュが上げる。緊張した表情のラーシュが、そっと唇を重ねた。
さすがにこの瞬間は感動した。
幼い日から今日まで、どんな時も一緒にいてくれたラーシュとの時間が一気に思い出されて、胸が熱くなって。
涙がこぼれた。
ラーシュが優しく微笑んで、その涙を唇で拭う。いかめしい顔をした神官も思わず笑顔になっていた。
「良いね、リーヴ。絶対に僕の傍から離れちゃダメだよ」
さっきから煩いくらい同じことを繰り返すのは、晴れて夫になったばかりのラーシュだ。
披露のパーティには当然各国の王族貴族、国中の主だった貴族や忠臣、経済界の大物が招待されている。
彼らがリヴシェに何かするとは、とても思えない。それに夫になったラーシュは既に王配で、彼だって王族の一人。パーティの参加者が彼の意思を無視して、リヴシェに何かやらかすことなどとてもできないはずだ。
「リーヴを僕の妻にしたら、もう少し安心するのかと思ってたけど。
全然だね」
パーティ用の盛装に着替えたラーシュは、「情けないな」と小さく続ける。
「僕のものになったら、もっと怖くなった。失くすのがこれまでよりずっと怖いんだ」
弱みを見せてくれるようになったと思う。これまでリヴシェを護ると、いつも安定して頼りになる姿しか見せてくれなかったのに。
これが心を開くということなんだろうか。
そう思ったら、きゅんと来た。
「大丈夫、いなくならない」耳元でそう言って、パーティ会場へ入る。
参加者の視線が、一斉にこちらへ集まった。
滅多に使わない大広間は、いつも大切にしまわれている国宝級の燭台やタペストリー、絨毯で飾られていて、どこか別の国の王宮へ来たんじゃないかと錯覚するほどだ。
こんな贅沢なもの、うちにあったんだなあなどとのんきに辺りを見回していると、黒い盛装のラスムスが近づいてくるのが見えた。
ノルデンフェルト皇帝ラスムスは、遠目にもはっきりわかる長身の美青年だ。
だけどもう、ため息をついて見惚れることはな……、多分ない、ないと思う。
複雑だ。
オタク的な趣味で言えば、ラスムスの容姿や性格はけっこう好きなのだ。言ってみればファンみたいな感じ。
一方ラーシュは、現実を一緒に過ごす夫。
そもそも比較の対象にならないと思うんだけど、この理屈は多分ラーシュには通らない。
だからため息をついて見惚れるのはご法度だ。
目に力をいれて、さらに気合を入れ直す。
「ごきげんよう、ノルデンフェルトの皇帝陛下」
よし。満点の社交的微笑を作れた。
「お祝いを申し上げる。ヴィシェフラドの女王、それに王配の君」
薄い青の瞳は氷のようで、どんな表情も読み取ることができない。
ハータイネンやセムダール、ヴァラートの王族貴族が後ろに控えていたから、長々とご挨拶を続けることもできず、短く感謝を告げてその場を去ろうとした瞬間のこと。
「今は……と、付け加えておく。
俺の番は生涯おまえ一人だ。
それは誰にも変えられない。たとえおまえ自身であってもだ」
リヴシェの耳元に囁いた声。
低く艶やかにしっとりと甘く、そして切なげに。
聴覚の拾った言葉を消化するのに、反応が一瞬遅れた。
顔を上げた時、既にラスムスは背を向けて会場出口に向かっていた。
「ヤツは何を言ったの?」
反対の耳元に、氷点下の囁きが降る。
「ねぇリーヴ?」
あぁ、これはもう。パーティの後が恐ろしい。
普通に言ったら今夜は初夜だ。
幸せに蕩けるような甘い夜になるはずなのに、多分この時点でそれは無理だとあきらめる。
けどまあ、それもこれも含めてラーシュだから。
嫉妬深くて意外に泣き虫で、けっこう、いやかなり面倒くさいけど、そこさえ愛おしいと思う。
思い返せばこの世界に転生して、悪役王女リヴシェを幸せにしたいと計画をたてた。
婚約者のラーシュと結婚して穏やかな人生を送るのが目標。
政略結婚で十分だと思ってたのに、今や愛し愛されての結婚だ。
まだ番だなどと言ってくる方もおいでになるけど、まあとりあえずはハピエンでしょう。
「ミッションコンプリート」
唇の端を綺麗に上げて、リヴシェは満足げに呟いた。
その知らせは国中はもちろん、大陸中に歓呼をもって迎えられた。
戦に怯えて暮らした日々の終わりを、はっきり告げられたような気がしたからだろう。
戦の前にはスカスカだったヴィシェフラドの国庫も、ここ最近地方荘園からの収益が順調に送られてくることでずいぶんマシになってきていたから、今度の式と披露のパーティは豪勢なものになる予定だった。
となると、準備に忙しいのはどの時代、どの世界でも同じらしい。
関係各所への招待状の発送、式次第や席順の調整、晩餐のメニューにワインの選定、果てはスピーチ原稿のチェック等々。このほとんどは母である前王妃と伯父の前ラチェス公爵が仕切ってくれたので、リヴシェのすることといったら前世の花嫁さんよりずっと楽だ。衣装合わせとかヘアスタイルやメイクの打ち合わせ、それに身体の手入れとか。要するに自分の事だけ考えていれば良い。
それでも前世今生通して、身の回りをかまいつける方ではないリヴシェにとってはうんざりするような内容だ。
ドレスのデザインがマーメイドラインだろうとプリンセスラインだろうと、正直なところどちらでも良い。
「一生に一度のことなのよ。より綺麗に見える方が良いに決まっているでしょう」
断固譲らない母は、次々と既に仮縫い工程まで進んだドレスを持ち込ませる。
(いったい何着作ったのかしら)
式で着るドレスなら、一着だけのはず。後は使わないのに。
なんという無駄遣い。
デザイン画の段階で、確か適当に1着選んでいたはずなのに。
「お母さま、これはどういうことですの? わたくし確かひとつに絞ったはずですわ」
「こうして体に当ててみた方が、よりわかりやすいでしょう。ラチェスからも『惜しむな』と言われてますよ。
リーヴはね、綺麗に見えることだけを考えていれば良いの」
ラーシュによく似た美貌で微笑まれると、それ以上何も言えなくなる。
あきらめて次々と袖を通してゆくと、母はほうっとため息をついて「見惚れるようだわ」とこぼした。
「リーヴは幸せね。愛して愛されて結婚するなんて、珍しいことだわ。
少し羨ましいわね」
政略結婚。
本当にそれだけの関係だった両親を思えば、確かにそのとおりだ。王族に生まれて相愛の相手と結婚できるなど、本当に稀だと思う。
過ぎた日々の母の思いは想像することしかできないけど、愉快ではなかったはずだし、多分諦めの連続だったんだろう。
元凶たる前国王は、相変わらず幽閉中だ。今回の式やパーティにも招いていない。そのことについて特に母から何も言われないので、リヴシェも知らん顔をしている。
ジェリオ親子のその後についてどこからか聞いて、散々嘆いていたと耳にしたから、彼の性根は全然変わっていないらしい。
せめて母には、この先幸せになってほしいと心から願う。
そして成婚式の朝が来た。
文句のつけようのない快晴の、女神ヴィシェフラドの祝日でもあるこの日。
早朝から王宮は騒がしいけど、リヴシェはいつもどおり朝食を済ませてから仕度にとりかかれば良い。だから起きるのもいつもと同じ午前6時。入浴を済ませて簡単な部屋着に着替えたところに、今日のもう1人の主役ラーシュがやって来た。
「朝食を一緒にと思ってね」
あれ、なんだか緊張している?
口調が硬いし、なんとなくだけど暗い感じがする。
「どうかしたの?」
メイドを下げてからラーシュの腕に両手をかけると、いきなり抱きしめられる。
ぶるぶるとラーシュの身体が震えていた。
なんだろう。この期に及んで、また面倒ごとが起きたのだろうか。
「リーヴ、僕はまだ信じられないんだ。夢じゃないよね」
顔を上げた先に、リヴシェの方こそが信じられないものを見る。
海のように青い瞳からぼろぼろと涙がこぼれていて、白い頬は赤らんでいた。
こんなラーシュ、見たことがない。
「小さな頃からずっと願い続けて、今日のこの日を僕は何度も夢にみてたんだ。
だからこれも夢で、目が覚めたらただの婚約者に戻っているかも……。
リーヴ、僕は怖いんだよ」
ああ、もう。
結婚式の朝にギャップ萌えだ。
金髪碧眼、ザ・王子様の美貌をくしゃくしゃにして、信じられなくて怖いと泣くなんて。その表情のなんと尊い。
「夢じゃないわよ。後4時間もしたら、わたくしはラーシュの妻でラーシュはわたくしの夫よ」
今日は長丁場になるから朝食はしっかり食べておくようにと言われているけど、この尊みの前に空腹を我慢することくらいなんでもない。
式の仕度が許すギリギリまで、ラーシュと一緒にいたい。
目が腫れるから泣かないでとか、鼻をかんでとか、なんだか子供に言い聞かせるみたいにお世話するのも嬉しい。
ああ、この人と本当に結婚するんだなあと実感が湧いて、ふんわり幸せな気分に浸った。
午前10時、いよいよ結婚式に臨む。
ヴィシェフラド大聖殿の礼拝堂には、各国の王族貴族がずらりと並んでいる。前世テレビで観たロイヤルウェディングのようだ。
首元まで総レースで覆われたドレスは5メートルのロングトレーン付きで、歩くだけでも大変。ラチェスの伯父にエスコートされてゆっくりと進む。
祭壇前には既にラーシュが待っていた。
白の騎士礼装に揃いのマント、すっきり伸びた背筋の立ち姿は颯爽としていて、ホントに絵になる。むしろぜひ絵に残したい。
ファンタジー小説の世界よ、ありがとうだ。
誓いの言葉が終わって、オトメ的にはメインイベントたる誓いのキスが来る。
リヴシェのヴェールをラーシュが上げる。緊張した表情のラーシュが、そっと唇を重ねた。
さすがにこの瞬間は感動した。
幼い日から今日まで、どんな時も一緒にいてくれたラーシュとの時間が一気に思い出されて、胸が熱くなって。
涙がこぼれた。
ラーシュが優しく微笑んで、その涙を唇で拭う。いかめしい顔をした神官も思わず笑顔になっていた。
「良いね、リーヴ。絶対に僕の傍から離れちゃダメだよ」
さっきから煩いくらい同じことを繰り返すのは、晴れて夫になったばかりのラーシュだ。
披露のパーティには当然各国の王族貴族、国中の主だった貴族や忠臣、経済界の大物が招待されている。
彼らがリヴシェに何かするとは、とても思えない。それに夫になったラーシュは既に王配で、彼だって王族の一人。パーティの参加者が彼の意思を無視して、リヴシェに何かやらかすことなどとてもできないはずだ。
「リーヴを僕の妻にしたら、もう少し安心するのかと思ってたけど。
全然だね」
パーティ用の盛装に着替えたラーシュは、「情けないな」と小さく続ける。
「僕のものになったら、もっと怖くなった。失くすのがこれまでよりずっと怖いんだ」
弱みを見せてくれるようになったと思う。これまでリヴシェを護ると、いつも安定して頼りになる姿しか見せてくれなかったのに。
これが心を開くということなんだろうか。
そう思ったら、きゅんと来た。
「大丈夫、いなくならない」耳元でそう言って、パーティ会場へ入る。
参加者の視線が、一斉にこちらへ集まった。
滅多に使わない大広間は、いつも大切にしまわれている国宝級の燭台やタペストリー、絨毯で飾られていて、どこか別の国の王宮へ来たんじゃないかと錯覚するほどだ。
こんな贅沢なもの、うちにあったんだなあなどとのんきに辺りを見回していると、黒い盛装のラスムスが近づいてくるのが見えた。
ノルデンフェルト皇帝ラスムスは、遠目にもはっきりわかる長身の美青年だ。
だけどもう、ため息をついて見惚れることはな……、多分ない、ないと思う。
複雑だ。
オタク的な趣味で言えば、ラスムスの容姿や性格はけっこう好きなのだ。言ってみればファンみたいな感じ。
一方ラーシュは、現実を一緒に過ごす夫。
そもそも比較の対象にならないと思うんだけど、この理屈は多分ラーシュには通らない。
だからため息をついて見惚れるのはご法度だ。
目に力をいれて、さらに気合を入れ直す。
「ごきげんよう、ノルデンフェルトの皇帝陛下」
よし。満点の社交的微笑を作れた。
「お祝いを申し上げる。ヴィシェフラドの女王、それに王配の君」
薄い青の瞳は氷のようで、どんな表情も読み取ることができない。
ハータイネンやセムダール、ヴァラートの王族貴族が後ろに控えていたから、長々とご挨拶を続けることもできず、短く感謝を告げてその場を去ろうとした瞬間のこと。
「今は……と、付け加えておく。
俺の番は生涯おまえ一人だ。
それは誰にも変えられない。たとえおまえ自身であってもだ」
リヴシェの耳元に囁いた声。
低く艶やかにしっとりと甘く、そして切なげに。
聴覚の拾った言葉を消化するのに、反応が一瞬遅れた。
顔を上げた時、既にラスムスは背を向けて会場出口に向かっていた。
「ヤツは何を言ったの?」
反対の耳元に、氷点下の囁きが降る。
「ねぇリーヴ?」
あぁ、これはもう。パーティの後が恐ろしい。
普通に言ったら今夜は初夜だ。
幸せに蕩けるような甘い夜になるはずなのに、多分この時点でそれは無理だとあきらめる。
けどまあ、それもこれも含めてラーシュだから。
嫉妬深くて意外に泣き虫で、けっこう、いやかなり面倒くさいけど、そこさえ愛おしいと思う。
思い返せばこの世界に転生して、悪役王女リヴシェを幸せにしたいと計画をたてた。
婚約者のラーシュと結婚して穏やかな人生を送るのが目標。
政略結婚で十分だと思ってたのに、今や愛し愛されての結婚だ。
まだ番だなどと言ってくる方もおいでになるけど、まあとりあえずはハピエンでしょう。
「ミッションコンプリート」
唇の端を綺麗に上げて、リヴシェは満足げに呟いた。
19
お気に入りに追加
269
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
俺の番が見つからない
Heath
恋愛
先の皇帝時代に帝国領土は10倍にも膨れ上がった。その次代の皇帝となるべく皇太子には「第一皇太子」という余計な肩書きがついている。その理由は番がいないものは皇帝になれないからであった。
第一皇太子に番は現れるのか?見つけられるのか?
一方、長年継母である侯爵夫人と令嬢に虐げられている庶子ソフィは先皇帝の後宮に送られることになった。悲しむソフィの荷物の中に、こっそり黒い毛玉がついてきていた。
毛玉はソフィを幸せに導きたい!(仔猫に意志はほとんどありませんっ)
皇太子も王太子も冒険者もちょっとチャラい前皇帝も無口な魔王もご出演なさいます。
CPは固定ながらも複数・なんでもあり(異種・BL)も出てしまいます。ご注意ください。
ざまぁ&ハッピーエンドを目指して、このお話は終われるのか?
2021/01/15
次のエピソード執筆中です(^_^;)
20話を超えそうですが、1月中にはうpしたいです。
お付き合い頂けると幸いです💓
エブリスタ同時公開中٩(๑´0`๑)۶
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。
キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。
離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、
窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語

『番』という存在
彗
恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。
*基本的に1日1話ずつの投稿です。
(カイン視点だけ2話投稿となります。)
書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。
***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる