ゆうれいのぼく

早乙女純章

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 ぼくは、彼女の体の中でどんどん小さくなっていく。

 これまでのように外にぬけ出すこともなかった。

「わたし、この子をみたい。一度ゆうれいになってしまったけれど、無事ぶじに産まれてくるかしら」

 彼女がなみだながしながら、大きくなっているおなかをさすった。

「だいじょうぶ、ぶじに産まれてくるよ」

 ぼくは彼女の心にそっとかたりかける。

 ぼくがさいごにできることだ。

 ぼくは、消えそうになる前に、赤ちゃんの体の中へとうつった。

 とくんとくんと小さな心臓しんぞうが元気にうごく。


 そうか、やっと見つけた。


 ここがぼくの帰る場所だったんだ――



          ◎



「生まれてくれて、ありがとう」



おわり
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