ゆうれいのぼく

早乙女純章

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 ゆうれいのぼくは、犬を見つけた。

 だれも来ない林の中、やせてたおれている犬だった。

 よごれた体をふるわせて、起き上がろうとしても、起き上がれないらしかった。ワンというき声も出せないらしかった。だれからも忘れられていた。

 なんだかぼくは、この犬が、すこしなつかしく思えた。

 この犬がぼくの帰る場所だったりして。

 よし、この犬に宿ってみよう。

 ぼくが宿ると、犬はすっくと起き上がった。ワンと力強くほえると、走り出した。

 それまでたおれていたのがうそのように、夕ぐれ時の中を走った。走って走って、大きなまちまでたどりついた。

 えきの前で止まると、すわりこんで、ずっとだれかを待っているようだった。

 駅前でずっとだれかを待っている犬は、大きなわだいになった。

「よし、この犬はうちで飼おう!」と言った家族がいて、その家族に抱きしめられた犬は、クウ~ンと甘えるように鳴いた。

 そうか、この犬がぼくの帰る場所だったんだ。なりたい自分はこれだったんだ。

 そう思ったのもつかのま、ぼくは犬からぬけ出てしまった。

 もとのゆうれいにもどってしまった。

 もうその犬には宿れなかったけれど、犬はごはんをたくさんたべて、ゆっくりねむることもできた。みんな大切にしてくれている。

 そうか、ぼくの出番はもうないのか。ぼくのいる場所は見つけられなかった。

 何でもないぼくは、別の場所に飛んでいった。
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