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ほんの数分間の宇宙との通信。歩道橋での銀河通信は終わりを告げた。
星のお兄さんはぼくたちに「ありがとう」とお礼を言った。
お兄さんの体は光の塊に変わっていく。
お兄さんはさっと手を挙げて彗星のようにすごいスピードで空へと飛び立っていってしまった。
「ぼくたちもいこう!」
『みずあめ』たちもあとをついて飛び上がっていく。
『みずあめ』の体に取り込んでいた水は、光り輝く雫に生まれ変わって相守川へと戻っていく。
『みずあめ』たちが泡に戻って空に舞っていく光景は、やっぱりサイダーみたいだった。
「すごく爽快な空よね」
「うん……」
「『あめもん』ちゃんのお父さんは、もともと地球生まれなのかもしれないの。あのね、あめもんちゃんが教えてくれたの。地球はお母さんにとっても遠い遠い故郷なんだって。だから、ずっと遠い昔、一緒に宇宙に飛び立ったお星様なのかもしれない」
ぼくが日向に視線を戻すと、日向は微笑んでくれた。
ぼくはこの奇跡のサイダーの空と、小野寺日向のおかげで、割れない泡をつかむことができた。
それは、七海景太というこの世にたった一人の人間を確かなものにしてくれるもの。宇宙のどこまでだって可能性の塊を飛ばすことができる。
ぼくのお父さんもお母さんも、離れた場所にいても、きっとこの同じ空を見つめてくれていると思う。クラスメイトも、この街の人々も、みんなみんなこの空を見てくれていると思う。
それぞれ何を思ってくれるかは分からないけど。
「景太じゃないか」
「えっ」
名前を呼ばれて後ろを振り返った。
お父さんとお母さんが車道の端に停めた車から降りてきた。今日、お父さんはこっちの家に戻ってこないと思っていたから驚きだった。ぼくは慌てて日向と繋いでいた手を離した。
お父さんとお母さんの間に、いつものような険悪な雰囲気はなかった。
「お前も、このおかしな空を見にきてたのか」
「う、うん」
「なんかサイダーみたいだよな。飲みたくなってきたよ」
「悪くないわね、こういう空も」
「景太が生まれる前、お母さんと有馬温泉に旅行した時、一緒に飲んだよな」
「そうね。うん、そうだったわ。あたしも久しぶりにサイダー、飲んでみようかしら」
ぼくのお父さんやお母さん以外にも、人が集まってきて、各々感慨深そうに空を見上げていた。その中に、日向のお父さんやお母さんの姿もあった。
ぼくはまた日向に視線を戻した。
「帰ろう? お父さんやお母さん、日向のこと、真剣に捜してた様子だったし」
「…………」
日向は後ろで手を組んで少し考えた様子だったけど、恥ずかしそうに笑って、小さくうなずいた。
「空っぽな存在なんかじゃない。あんなに大きな思いの詰まった泡を天に飛ばすことができたんだものね」
どんなに強固な泡だって、いつかは割れてしまうものだけど、中に詰まっている思いは消えず、広い広い宇宙に拡がっていくんだ。どんなに時が経ってもきっと誰かの心を爽快にすることができる。
まだ見ぬ未来に向けて、無数の泡がぼくの心をたゆたった。
〈おわり〉
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