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日常
第790話 フライドチキン
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「さすが、早いねぇ春都」
プレジャスの本屋で雑誌を眺めていたら、聞き慣れた声が飛んできた。咲良だ。
「二人ももうすぐ来るって」
「分かった」
休日のショッピングモールらしからぬ人の数のプレジャスには、正月っぽい音楽が流れている。本屋も人がまばらだ。休みでこうなら、平日はどうなるんだろう。
「あ、これ今はやってんでしょ。よく分かんないけど」
「俺も分からん」
「見て見て、これ、付録の方がでかい」
あれこれ言いながら本を見ていたら、朝比奈と百瀬がやって来た。
「やっほ~お待たせ」
「今日は一段と寒いな……」
「おっ、やっと来たな! じゃー、二階行こうぜ!」
そうノリノリなのは咲良だ。
「ゲーセン行こ!」
フードコート横にある、小さい頃から大きくは変わらないゲームセンター。赤や青、黄色にあふれ、陽気で愉快な音楽が流れている。クレーンゲームにコインゲーム、プリクラやらなにやらが狭い空間に押し込められているのだ。
「おっ、人いないじゃん。ラッキー」
「今、景品って何があるんだ」
「ゲームセンターって音大きいな……」
「ねー俺お菓子の台やりたーい」
定番お菓子に今はやりのアニメキャラのフィギュア、あとはなんかよく分からんキーホルダー。何だこれ、虫か? こっちは極彩色のもふもふだ。あ、このちびキャラはよく見るやつだ。よく見るけど、よく知らないやつ。
こういうグミの詰め合わせとか、ワクワクするよな。小さい袋に入ったグミが缶に詰まってんの。まあ、取れた試しはないがな。
「よーしまずは手始めにこれやるかあ」
咲良が手を付けたのはチョコレート菓子の詰め合わせのやつだった。これ、百円で取れたらずいぶんお得だなあ。
「何回で取れるかなーっと」
咲良は手慣れた様子で百円玉を入れていく。そのためらいの無さに、少々驚く。
「どれ、お手並み拝見」
「フフン、俺の技に驚くがいいさ」
「自信満々だなあ」
しかしどうやらその態度は見栄を張っていたわけではなかったらしい。本当に数回で取ってしまった。
「うまいもんだな」
「へへ、まあね」
「ねー、こっち取れないんだけど~」
近くの台にいた百瀬が言う。朝比奈は台とにらみ合っていて、その視線の先には、山積みのお菓子があった。あー、簡単そうに見えて、実際全然取れないやつだ。
「全然崩れなくてさあ」
「ちょ、一回やらせて」
威勢良く朝比奈と場所を代わった咲良は、コントローラーに手を置く。学校にいる時よりも真剣な表情だ。
「ん~、これむずいな!」
「でしょー? どっか引っかかってんのかなー?」
「うまくいけば雪崩みたいに……」
百瀬と咲良がすっかり集中している。その様子を見ながら、朝比奈がぼそりとつぶやいた。
「……買った方が早い」
「それは言っちゃいけない約束だ、朝比奈」
間もなくして、叫び声に似た歓声が上がったのであった。
ゲーセンの袋一杯のお菓子、というのは、見たことはあったが自分が持ったことはなかった。あの後、調子がのって来たらしい咲良が、あれやこれやとお菓子を取りまくり、結果、こんなことになってしまった。
「山分けだな!」
フライドチキンの専門店に出来た列に並びながら、咲良は笑った。そろそろ昼時、人が多くなる前に食べておこう、ということでゲーセンからは引き揚げてきた。あれだけ長い時間ゲーセンにいたことなかったから不思議な感じだ。
「何にしよっかな~、ビスケットは二つ食べたいなあ」
「期間限定……気になる」
後ろに並ぶ朝比奈と百瀬がそう話をしているのを聞きながら、メニューを見る。期間限定もいいな、だが、オリジナルも捨てがたい。食べ比べもいいが、今日はオリジナルにしよう。トルティーヤセットがある。それがいい。ジュースはコーラかな。
咲良はカツサンドセットにしたようだ。ゆるぎない。
イートインスペースは空いていたので、席が選び放題だ。奥の方のボックス席に座る。
お菓子の分け方の話をしていたら、あっという間に品物が来た。
「いただきます」
オリジナルのチキン二つにトルティーヤ、コーラというなんともジャンキーな組み合わせだ。
おっ、チキンは揚げたてか。熱い。
それならまずはフライドチキンから。カリッとした衣は香辛料の風味、ジュワッと染み出す脂に、ほろほろ、もちっとした身。肉汁も熱々だ。
ここのチキン、衣がうめぇんだよなあ。
そうそう、皮も好きだ。衣がたっぷりついてカリッカリに上げられた皮。これだけで商品化してもいいんじゃないかってくらいうまい。すごくジューシーで、カリカリで、味が濃い。うま味が凝縮しているようだ。
トルティーヤの方にはまた違ったチキンが巻いてある。香辛料薄めでカリカリサクサクな衣のチキンだ。部位はささみだろうか。でもジューシーだ。
そんで野菜がたっぷりでうまいんだよなあ。生地はもちもちしているようでいて、歯切れよく、とうもろこしっぽい風味。ソースもうまいんだよな。みずみずしいトマトっぽい感じがありつつ、まろやかさもあるオーロラソース。
んー、うまい。久々に食ったけど、いいなあ。そんでもってこういう食事にはシュワシュワと甘いコーラがよく合う。まったりとした口の中を流れていく感じ、たまらない。
しかも今日は、大量に食後のおやつもあることだし。
ふふふ、なんか、楽しいなあ。
「ごちそうさまでした」
プレジャスの本屋で雑誌を眺めていたら、聞き慣れた声が飛んできた。咲良だ。
「二人ももうすぐ来るって」
「分かった」
休日のショッピングモールらしからぬ人の数のプレジャスには、正月っぽい音楽が流れている。本屋も人がまばらだ。休みでこうなら、平日はどうなるんだろう。
「あ、これ今はやってんでしょ。よく分かんないけど」
「俺も分からん」
「見て見て、これ、付録の方がでかい」
あれこれ言いながら本を見ていたら、朝比奈と百瀬がやって来た。
「やっほ~お待たせ」
「今日は一段と寒いな……」
「おっ、やっと来たな! じゃー、二階行こうぜ!」
そうノリノリなのは咲良だ。
「ゲーセン行こ!」
フードコート横にある、小さい頃から大きくは変わらないゲームセンター。赤や青、黄色にあふれ、陽気で愉快な音楽が流れている。クレーンゲームにコインゲーム、プリクラやらなにやらが狭い空間に押し込められているのだ。
「おっ、人いないじゃん。ラッキー」
「今、景品って何があるんだ」
「ゲームセンターって音大きいな……」
「ねー俺お菓子の台やりたーい」
定番お菓子に今はやりのアニメキャラのフィギュア、あとはなんかよく分からんキーホルダー。何だこれ、虫か? こっちは極彩色のもふもふだ。あ、このちびキャラはよく見るやつだ。よく見るけど、よく知らないやつ。
こういうグミの詰め合わせとか、ワクワクするよな。小さい袋に入ったグミが缶に詰まってんの。まあ、取れた試しはないがな。
「よーしまずは手始めにこれやるかあ」
咲良が手を付けたのはチョコレート菓子の詰め合わせのやつだった。これ、百円で取れたらずいぶんお得だなあ。
「何回で取れるかなーっと」
咲良は手慣れた様子で百円玉を入れていく。そのためらいの無さに、少々驚く。
「どれ、お手並み拝見」
「フフン、俺の技に驚くがいいさ」
「自信満々だなあ」
しかしどうやらその態度は見栄を張っていたわけではなかったらしい。本当に数回で取ってしまった。
「うまいもんだな」
「へへ、まあね」
「ねー、こっち取れないんだけど~」
近くの台にいた百瀬が言う。朝比奈は台とにらみ合っていて、その視線の先には、山積みのお菓子があった。あー、簡単そうに見えて、実際全然取れないやつだ。
「全然崩れなくてさあ」
「ちょ、一回やらせて」
威勢良く朝比奈と場所を代わった咲良は、コントローラーに手を置く。学校にいる時よりも真剣な表情だ。
「ん~、これむずいな!」
「でしょー? どっか引っかかってんのかなー?」
「うまくいけば雪崩みたいに……」
百瀬と咲良がすっかり集中している。その様子を見ながら、朝比奈がぼそりとつぶやいた。
「……買った方が早い」
「それは言っちゃいけない約束だ、朝比奈」
間もなくして、叫び声に似た歓声が上がったのであった。
ゲーセンの袋一杯のお菓子、というのは、見たことはあったが自分が持ったことはなかった。あの後、調子がのって来たらしい咲良が、あれやこれやとお菓子を取りまくり、結果、こんなことになってしまった。
「山分けだな!」
フライドチキンの専門店に出来た列に並びながら、咲良は笑った。そろそろ昼時、人が多くなる前に食べておこう、ということでゲーセンからは引き揚げてきた。あれだけ長い時間ゲーセンにいたことなかったから不思議な感じだ。
「何にしよっかな~、ビスケットは二つ食べたいなあ」
「期間限定……気になる」
後ろに並ぶ朝比奈と百瀬がそう話をしているのを聞きながら、メニューを見る。期間限定もいいな、だが、オリジナルも捨てがたい。食べ比べもいいが、今日はオリジナルにしよう。トルティーヤセットがある。それがいい。ジュースはコーラかな。
咲良はカツサンドセットにしたようだ。ゆるぎない。
イートインスペースは空いていたので、席が選び放題だ。奥の方のボックス席に座る。
お菓子の分け方の話をしていたら、あっという間に品物が来た。
「いただきます」
オリジナルのチキン二つにトルティーヤ、コーラというなんともジャンキーな組み合わせだ。
おっ、チキンは揚げたてか。熱い。
それならまずはフライドチキンから。カリッとした衣は香辛料の風味、ジュワッと染み出す脂に、ほろほろ、もちっとした身。肉汁も熱々だ。
ここのチキン、衣がうめぇんだよなあ。
そうそう、皮も好きだ。衣がたっぷりついてカリッカリに上げられた皮。これだけで商品化してもいいんじゃないかってくらいうまい。すごくジューシーで、カリカリで、味が濃い。うま味が凝縮しているようだ。
トルティーヤの方にはまた違ったチキンが巻いてある。香辛料薄めでカリカリサクサクな衣のチキンだ。部位はささみだろうか。でもジューシーだ。
そんで野菜がたっぷりでうまいんだよなあ。生地はもちもちしているようでいて、歯切れよく、とうもろこしっぽい風味。ソースもうまいんだよな。みずみずしいトマトっぽい感じがありつつ、まろやかさもあるオーロラソース。
んー、うまい。久々に食ったけど、いいなあ。そんでもってこういう食事にはシュワシュワと甘いコーラがよく合う。まったりとした口の中を流れていく感じ、たまらない。
しかも今日は、大量に食後のおやつもあることだし。
ふふふ、なんか、楽しいなあ。
「ごちそうさまでした」
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