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日常
第779話 お菓子の計り売り
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今日は学園祭準備が主の一日だった。下校時間は委員会ごとにまちまちで、図書委員会は案の定、あっという間に終わってしまい、すぐに帰れることになった。
一応、午後三時までは学校にいるようにとのことだったが、図書委員会は三時になるや否やそそくさと校門に向かった。
「あれー、早いねー?」
咲良と朝比奈と連れ立って校門を出たところで、後ろから声をかけられた。おや、百瀬ではないか。
「こんなに早く終わったの、うちだけだと思ってたんだけど。図書委員も早いね」
「することあんまないからな!」
咲良が元気よく答えると、百瀬は「うける」と笑った。
「じゃあさ、皆今から暇?」
百瀬はスマホを取り出しながら聞いてきた。
「ちょっと遠いとこにあるんだけど~、いい感じのお店見つけてさ。みんなで行きたいなーって思ってたんだ」
「何の店なんだ?」
朝比奈が聞くと、百瀬はにやりと笑ってみせた。
「それはついてからのお楽しみ。ま、堅苦しいとこでもないし、時間があればでいいんだけど」
そう言えば、今日は父さんも母さんも、仕事が入ったからって夜までいないんだっけ。うめずはじいちゃんとばあちゃんと一緒に畑に行ってるし……
「俺は行ける」
「俺も!」
「まあ、家帰ってもすることないもんな……」
意見が一致すると、百瀬は楽しそうに笑った。
「んじゃ、行こっか」
バスに乗ってたどり着いたのは、見覚えのある場所だった。ここ、春の遠足で来たところではないか。真野さんちの近くでもある。
「こないだ、こっちに来ることがあって~。その時にあちこち歩きまわってたらね、見つけたんだ」
百瀬について歩いて行った先は、割と有名な観光スポットの周辺だった。春は桜、秋は紅葉と、たくさんの観光客がやってくる。
しかし、一本道をそれるとそこは、静かな田舎の生活が広がっているのだ。
さらさらと流れる小川に、吹き抜ける風。葉のこすれる音と揺れる木漏れ日、ほんのわずかに聞こえる生活音。
観光地と変わらない古い町並みではあるが、そこには確かに、人の営みが感じられる場所だった。
この景色が好きで、小さい頃は、父さんや母さん、じいちゃんやばあちゃんと一緒に散歩したものだ。その頃はあまり、観光客向けの店とかはなかったような気もするけど……目に入ってなかっただけか?
「ここだよ」
百瀬が立ち止まったのは、古い民家の前だった。結構立派な造りの家だが、よく見ると、表はお店のようになっていた。
あ、看板がある。
『駄菓子屋 すぎの』
へえ、駄菓子屋なのか。すぎの……ああ、杉野、か。表札に書いてある。
「こんにちはー!」
百瀬に続いて、中に入る。
天井の高い店内は、少しひんやりとしていた。古そうな木箱が並んでいて、蓋の部分はガラスがはめられている。色とりどりのお菓子が詰められていて、きれいに磨かれた透明の瓶に、見たことがあるようなないようなお菓子が入れられているものが、壁際の棚にたくさん並んでいた。
奥の方は座敷みたいになっていて、そこに店主がいた。勝手におばあちゃんを想像していたが、そこにいたのは、思ったよりも若い、男の人だった。
「はい、いらっしゃい」
さらりと揺れる髪に作務衣のような服装で、この店にしっくりくるような雰囲気だった。
どうやらこの店は子どもにも人気なようで、店内を見て回る間にも、小学生くらいの子どもたちがひっきりなしに出たり入ったりしていた。
「ここさ、お菓子を計り売りしてくれるんだよ」
「へー、面白いな!」
咲良は百瀬の説明を聞き、小学生と変わらないテンションで、楽しそうにお菓子を眺めている。朝比奈も興味津々という様子である。
そういえば、父さんと母さんが言っていたな。昔、こういうお店がアーケードに来ていた、と。
金平糖やゼリービーンズ、あのカラフルなやつはかたい砂糖菓子だな。ウイスキーボンボンって、お酒じゃないのかな。あ、アルコールは入ってないって書いてある。こっちは……ロシアケーキというやつだな。ジャムののったクッキーのようなものだ。
せんべいとかもあるんだなあ。せっかくだから、お土産に買って帰ろう。
「えーっと……」
あれ、どうやって頼めばいいんだろう。
「どれにする?」
と、店主が気を利かせて聞いてくれた。
「これ、とこれを」
銀色のスコップのようなものでザクっとすくい、油紙の袋に入れる。何だろう、何でもない動作のはずなのに、なんか楽しい。
金額もそれほどでもなく、ついつい買い過ぎてしまいそうだ。
「また来てね」
「ありがとうございます」
おや、また店内が混んできたようだ。
「秋成兄ちゃん、こんにちはー!」
「はい、こんにちは」
どうやら、店主の名前は秋成というらしい。
「近くの公園で食べようよ」
百瀬の言葉に皆同意し、お菓子を抱え、公園へ向かったのだった。
日の当たるところは暖かい。ベンチに座り、さっそくお菓子を食べることにした。
「じゃ、いただきます」
まずは気になっていたウイスキーボンボンから。
しゃりっとした外側にじゅわっと出てくる甘い蜜。鼻に抜ける風味がほろ苦く、そこに砂糖の甘味が相まって、なんだか不思議な感じだ。食感が面白いし、次々食べてしまう。
ちょっと甘いなあ、って思ったら次はおかき。
いろんな味が入っているのが面白い。醤油、濃い醤油、塩、ざらめ。ざらめは甘いなあ。
ロシアケーキも気になっていたんだ。これは、いちごジャムだな。サクッとクッキーのような食感だが、どことなくしっとりしている。これは湿気なのか何なのか。でも、うまいな。ジャムはねっとりと歯につくような感じで、それも好きだな。
残りはとっておこう。家帰ってからの楽しみだ。
その前にこれだけひとつ。キャンディケイン。傘の持ち手部分の形をした、赤と白のネジネジキャンディだ。クリスマスの飾りでおなじみだが、なかなか売ってないやつ。
ハッカ? ミント? すうっと爽やかな味だ。結構好きだな、この味。甘いけど、すっきりするというか。
「楽しいなー、あのお店。また行きたいな!」
と、咲良がウイスキーボンボンをかじりながら言った。
「そうだな」
季節のお菓子もあるみたいだし、次は何が並んでるかな。
「ごちそうさまでした」
一応、午後三時までは学校にいるようにとのことだったが、図書委員会は三時になるや否やそそくさと校門に向かった。
「あれー、早いねー?」
咲良と朝比奈と連れ立って校門を出たところで、後ろから声をかけられた。おや、百瀬ではないか。
「こんなに早く終わったの、うちだけだと思ってたんだけど。図書委員も早いね」
「することあんまないからな!」
咲良が元気よく答えると、百瀬は「うける」と笑った。
「じゃあさ、皆今から暇?」
百瀬はスマホを取り出しながら聞いてきた。
「ちょっと遠いとこにあるんだけど~、いい感じのお店見つけてさ。みんなで行きたいなーって思ってたんだ」
「何の店なんだ?」
朝比奈が聞くと、百瀬はにやりと笑ってみせた。
「それはついてからのお楽しみ。ま、堅苦しいとこでもないし、時間があればでいいんだけど」
そう言えば、今日は父さんも母さんも、仕事が入ったからって夜までいないんだっけ。うめずはじいちゃんとばあちゃんと一緒に畑に行ってるし……
「俺は行ける」
「俺も!」
「まあ、家帰ってもすることないもんな……」
意見が一致すると、百瀬は楽しそうに笑った。
「んじゃ、行こっか」
バスに乗ってたどり着いたのは、見覚えのある場所だった。ここ、春の遠足で来たところではないか。真野さんちの近くでもある。
「こないだ、こっちに来ることがあって~。その時にあちこち歩きまわってたらね、見つけたんだ」
百瀬について歩いて行った先は、割と有名な観光スポットの周辺だった。春は桜、秋は紅葉と、たくさんの観光客がやってくる。
しかし、一本道をそれるとそこは、静かな田舎の生活が広がっているのだ。
さらさらと流れる小川に、吹き抜ける風。葉のこすれる音と揺れる木漏れ日、ほんのわずかに聞こえる生活音。
観光地と変わらない古い町並みではあるが、そこには確かに、人の営みが感じられる場所だった。
この景色が好きで、小さい頃は、父さんや母さん、じいちゃんやばあちゃんと一緒に散歩したものだ。その頃はあまり、観光客向けの店とかはなかったような気もするけど……目に入ってなかっただけか?
「ここだよ」
百瀬が立ち止まったのは、古い民家の前だった。結構立派な造りの家だが、よく見ると、表はお店のようになっていた。
あ、看板がある。
『駄菓子屋 すぎの』
へえ、駄菓子屋なのか。すぎの……ああ、杉野、か。表札に書いてある。
「こんにちはー!」
百瀬に続いて、中に入る。
天井の高い店内は、少しひんやりとしていた。古そうな木箱が並んでいて、蓋の部分はガラスがはめられている。色とりどりのお菓子が詰められていて、きれいに磨かれた透明の瓶に、見たことがあるようなないようなお菓子が入れられているものが、壁際の棚にたくさん並んでいた。
奥の方は座敷みたいになっていて、そこに店主がいた。勝手におばあちゃんを想像していたが、そこにいたのは、思ったよりも若い、男の人だった。
「はい、いらっしゃい」
さらりと揺れる髪に作務衣のような服装で、この店にしっくりくるような雰囲気だった。
どうやらこの店は子どもにも人気なようで、店内を見て回る間にも、小学生くらいの子どもたちがひっきりなしに出たり入ったりしていた。
「ここさ、お菓子を計り売りしてくれるんだよ」
「へー、面白いな!」
咲良は百瀬の説明を聞き、小学生と変わらないテンションで、楽しそうにお菓子を眺めている。朝比奈も興味津々という様子である。
そういえば、父さんと母さんが言っていたな。昔、こういうお店がアーケードに来ていた、と。
金平糖やゼリービーンズ、あのカラフルなやつはかたい砂糖菓子だな。ウイスキーボンボンって、お酒じゃないのかな。あ、アルコールは入ってないって書いてある。こっちは……ロシアケーキというやつだな。ジャムののったクッキーのようなものだ。
せんべいとかもあるんだなあ。せっかくだから、お土産に買って帰ろう。
「えーっと……」
あれ、どうやって頼めばいいんだろう。
「どれにする?」
と、店主が気を利かせて聞いてくれた。
「これ、とこれを」
銀色のスコップのようなものでザクっとすくい、油紙の袋に入れる。何だろう、何でもない動作のはずなのに、なんか楽しい。
金額もそれほどでもなく、ついつい買い過ぎてしまいそうだ。
「また来てね」
「ありがとうございます」
おや、また店内が混んできたようだ。
「秋成兄ちゃん、こんにちはー!」
「はい、こんにちは」
どうやら、店主の名前は秋成というらしい。
「近くの公園で食べようよ」
百瀬の言葉に皆同意し、お菓子を抱え、公園へ向かったのだった。
日の当たるところは暖かい。ベンチに座り、さっそくお菓子を食べることにした。
「じゃ、いただきます」
まずは気になっていたウイスキーボンボンから。
しゃりっとした外側にじゅわっと出てくる甘い蜜。鼻に抜ける風味がほろ苦く、そこに砂糖の甘味が相まって、なんだか不思議な感じだ。食感が面白いし、次々食べてしまう。
ちょっと甘いなあ、って思ったら次はおかき。
いろんな味が入っているのが面白い。醤油、濃い醤油、塩、ざらめ。ざらめは甘いなあ。
ロシアケーキも気になっていたんだ。これは、いちごジャムだな。サクッとクッキーのような食感だが、どことなくしっとりしている。これは湿気なのか何なのか。でも、うまいな。ジャムはねっとりと歯につくような感じで、それも好きだな。
残りはとっておこう。家帰ってからの楽しみだ。
その前にこれだけひとつ。キャンディケイン。傘の持ち手部分の形をした、赤と白のネジネジキャンディだ。クリスマスの飾りでおなじみだが、なかなか売ってないやつ。
ハッカ? ミント? すうっと爽やかな味だ。結構好きだな、この味。甘いけど、すっきりするというか。
「楽しいなー、あのお店。また行きたいな!」
と、咲良がウイスキーボンボンをかじりながら言った。
「そうだな」
季節のお菓子もあるみたいだし、次は何が並んでるかな。
「ごちそうさまでした」
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