一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第778話 夜食

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 もう何度目かの寝返りを打つ。眠りに落ちる気配は、未だ、ない。
「んん~……」
 今日はずいぶん疲れているはずなのだがなあ……
 移動教室も多かったし、授業も駆け足だったり難しかったり、学園祭の準備もあったし、体育もしんどかったし。
 帰ってくる頃にはもうへとへとで、すぐにでも寝たい気分だったのだが。
 だから早めにご飯食べて、その後、本読んだりゲームしたりしてのんびり過ごして……それからベッドにもぐりこんで。
 眠れないんだよな、ずっと。
 ぼんやりとはしつつも、まったく眠くない頭で晩飯のことを考える。
 今日はシチューだったんだよな。寒かったし、めっちゃうまかった。ホワイトシチューで、鶏肉が入ってた。にんじんにじゃがいも、野菜もたっぷり入ってて、玉ねぎはとろとろで、うま味がたっぷりで。
 おかげで体がポカポカして心地よかったなあ。やっぱ、寒い日は体の中から温まるものがいい。
「眠れねぇ」
 なんでだ。なんで眠れない。
 うーん……
「腹減った」
 ふいに出た自分の言葉に、ようやく納得する。ああ、俺、腹減ってんだ。そりゃ眠れないはずだ。
 今何時だ?
「十一時……」
 遅い、といいたいところだが、咲良とかは起きてる時間なんだろうなあ、きっと。
 どうしようかな、なんか食べないとこのままじゃ眠れないぞ。明日も学校があるというのに……
 よし、起きよう。
「何があったかなー……」
 と、扉に手をかけた時、居間が明るいことに気が付いた。
「ん?」
 電気消し忘れたのかな? でも、テレビの音も聞こえるし……
「お、春都。起きてきたのか?」
「父さん、母さんも」
「懐かしいアニメがやってたから、つい、ね」
 そう言う母さんの手にはグラスがある。なるほど、晩酌タイムというやつだな。
「あとね、人形劇とか。春都はどうしたの?」
「お腹空いて眠れなくて……」
「なるほど」
 台所に向かい、棚やら何やらを探す。といっても、まあ、何食うかはなんとなく決まってるんだけどな。
 夜食といえば、やっぱりラーメンだろ。勝手なイメージだけど。
 袋麺あるし、それにしよう。何味にしようかなあ。
「ラーメン食べるのか?」
 と、父さんが聞いてくる。
「うん」
「いいねえ」
 すると、母さんは言った。
「春都が作ってくれるの?」
「うん……ん?」
 作ってくれる、とは。その言い方に首を傾げた時、母さんが上機嫌に言った。
「私も食べたいな!」
「父さんも」
「二人も食べるんだ……」
「ちょうど小腹が減ってたのよ」
 いいときに起きてきてくれたね~、と二人とも笑っている。そして、当然のように俺が作る流れになっている。まあ、別にいいんだけどさ。
 一人分のラーメンを作るのにちょうどいい小鍋もある、が……三人分か。
「なんか食べたい味あるー?」
「春都が食べたいやつでいいよー」
 じゃあ、醤油にしよう。それなら大きめの鍋にお湯を沸かして、いっぺんに茹でてしまえ。そしたら一緒に食べられるだろう。
 袋麺って、物によってちょっとずつ作り方が違う。スープを入れるタイミングとか。これは粉末スープを先に溶かしておくらしい。じゃあ、お湯も沸かそう。ちょっと時間かかるかな。
「あれ、もう沸いてる」
 そっか、二人ともお酒飲んでるから。お湯割りだったのか。
 三人分のラーメンを作っていると、なんだか不思議な感じがする。夜食のつもりなんだけど、これ、もはや夜ご飯だなあ。
 薄黄色い、少し波打った麺。ゆであがったそれを透き通った琥珀色のスープに入れる。なんてことの無い、普通のインスタントラーメンであるが、すごくおいしそうだ。
 最後にねぎを散らす。
「できたよー」
「ありがとう」
 なんだかゆるい雰囲気のテレビ番組を見ながら、座り込む。
「いただきます」
 ほわほわと真っ白な湯気があがる。ああ、いい匂いだ。
 つるっとした麺は口当たりがよく、スープがよく絡む。香ばしくていい風味だ。醤油ラーメンって、インスタント以外であんま食べないな、そういえば。学食にあったっけ……? 体験入学したとこにはあったけど。
 でも、なんかインスタントラーメンと言えば、醤油ラーメンのイメージなんだよなあ。ものによって味わいが違うのも楽しい。
 一度、いろんなインスタントラーメン作って、食べ比べとかしてみたいな。
 透き通ったスープはうま味が凝縮していて、ジュワアッと口いっぱいに広がってたまらないな。その中で、新鮮なねぎが爽やかだ。
 やっぱりラーメンには、ねぎだなあ。
「うん、おいしい」
「うまいな」
 なんでもないラーメンだけど、妙においしい。
 これは夜だからなのか、それとも一人じゃないからなのか。どっちもかな。
 結局、二回目の晩ご飯みたいになっちゃったなあ。ま、楽しいからいっか。

「ごちそうさまでした」
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