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日常
第773話 アメリカンドッグ
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朝、目が覚めた時からなんだか体が重たい。なんて、栄養剤のCMみたいなことを思ってしまった。
「んん~?」
季節の変わり目、もしや風邪のひきはじめか? この時期はいつも何かと体調崩すからなあ。気を付けないと。
「いてて」
あー、なんか体がこわばってる。なんかしたかなあ?
「今日はちょっと涼しいな~」
咲良が窓枠にもたれかかりながら言う。今日は冷房もついておらず、窓が開け放たれていた。時折そよぐ風が心地よい。
「おかげで授業中、寝ちゃうんだよねえ」
と、山崎が大きなあくびをして言った。
「分かるわ、それ」
そう相槌を打つのは勇樹だ。
「ん~……」
「なんだ、春都。調子悪いのか?」
机に突っ伏して会話を聞いていたら、咲良がそう聞いてきた。
「なーんか、最近、体が重くて……」
「風邪?」
「いや……熱もないし、ただ体が重いだけっていうか……寝不足?」
よく夢見るしなあ、なんて思っていたら、少しの間を置いて勇樹と山崎がそろって口を開いた。
「それ、運動不足じゃん?」
「へ」
寝不足じゃなくて? と言おうとしたら、勇樹が先に話し始めた。
「だってさー、春都。食ってる割に動いてないじゃん?」
「体育」
「それ以外で」
「……うめずの散歩」
「毎日?」
「いや」
普段は基本ばあちゃんが面倒見てくれてるから、休みの日にたまに……って感じだなあ。あれ、俺あんま動いてない?
「じゃあ~、なんか習い事してるとか?」
そう言うのは山崎だ。
「部活は放送部だし~、委員会は図書じゃん?」
「いや……習い事は、まったく」
「じゃーもう、運動不足でしょ。よく食べてよく寝てるって感じ?」
あれ、そうなのかな。思えば確かに体育以外で運動してるかと言われれば……
「でも、その理屈なら咲良も」
「いやこいつはめっちゃ動いてるだろ」
そう言って勇樹が笑った。
「無駄な動き多そう」
「無駄とは何だ、無駄とは」
咲良はそう突っ込みながら笑う。
「でも実際さ、井上は家遠いじゃん、学校まで。一条、近いでしょ?」
「ぐぅ……」
確かに、山崎の言う通りだ。山崎はにこにこと笑いながら言った。
「テニスやってみる?」
「いやいや、バレーもいいもんだぞ?」
と、勇樹も誘ってくる。
「どっちも初心者には厳しいぞ……」
えー……何すればいいんだろう……分かんねぇ。
「なんとなくそうかなーとは思ってたけど」
帰り道、隣を歩く咲良が言った。何のことだと視線を上げると、咲良はニッと笑った。
「運動不足」
「何で言わなかった」
「だって、言ったら春都へこみそうだったからさ~。意外とそういうとこ繊細じゃん?」
俺なりの気遣いだよ、と咲良は言った。
まあ……確かに、はっきり言いきられると、そっかあ……ってちょっと落ち込むには落ち込むなあ。運動不足……
「とりあえず走ってみるとか?」
と、咲良は言った。
「気候も良くなってきたし、いいんじゃない?」
「確かになあ……どんだけ走れるかは分からんが」
「なんなら、一緒に走ってもいいぞ」
咲良は腕を振り、にこにこ笑って言った。その様子に、思わず笑ってしまう。
「置いて行かれそうだな」
「ちゃんと一緒に走るって」
夕暮れが早くなった帰り道。さあっと吹いた風に、金木犀の甘い香りが淡くも確かに乗っていた。
「ま、とりあえず今日はなんか買い食いして帰ろう」
「お前な、今運動しようと話してたのに……」
「いーのいーの、しっかり食ってしっかり動く! そうしないと春都はもたないと思うぞ」
ほらほら、と連れていかれたのはコンビニだ。
……まあ、確かに。今までが全然動いてないから、動く量を増やせばいいか。うん、そうだな。
「じゃ、アメリカンドッグ食う」
「おっ、いいねえ。俺も!」
あ、ホットスナックの横におでんが。もうそんな季節かあ。品数がまだ少ない。これから増えるのだろうか。それも楽しみだなあ。
コンビニを出て、隣の公園のベンチに座る。
「いただきます」
ケチャップとマスタードが入った容器をパキッと割って、アメリカンドッグに絞る。ケチャップの方が先に出てきて、マスタードはゆっくり出てくるんだよな。バランスを取るのが難しい。
まずは一口。アメリカンドッグの一口目って、いつも生地だけだ。でもこれもうまいんだよなあ。サクッと香ばしくてほのかに甘くて、ケチャップとマスタードの酸味がよく合う。
食べ進めていくと、ソーセージにたどり着く。魚肉ソーセージにも似た食感だ。
でも香りは確かに肉だ。わずかに香る香草のような風味と脂身、ソーセージのうま味を吸った生地。ケチャップの濃い味わいとマスタードのピリッとした刺激が際立つ。久々に食ったが、アメリカンドッグってうまいよなあ。
小さくなっていくアメリカンドッグは少々さみしいが、おいしいから食べ進めてしまう。カリカリのところが待ち遠しい気もするし、惜しい気もするし。
まあ、食べてしまうんだけど。
さて……運動、頑張ってみるかあ。どこ走るかな~。
「ごちそうさまでした」
「んん~?」
季節の変わり目、もしや風邪のひきはじめか? この時期はいつも何かと体調崩すからなあ。気を付けないと。
「いてて」
あー、なんか体がこわばってる。なんかしたかなあ?
「今日はちょっと涼しいな~」
咲良が窓枠にもたれかかりながら言う。今日は冷房もついておらず、窓が開け放たれていた。時折そよぐ風が心地よい。
「おかげで授業中、寝ちゃうんだよねえ」
と、山崎が大きなあくびをして言った。
「分かるわ、それ」
そう相槌を打つのは勇樹だ。
「ん~……」
「なんだ、春都。調子悪いのか?」
机に突っ伏して会話を聞いていたら、咲良がそう聞いてきた。
「なーんか、最近、体が重くて……」
「風邪?」
「いや……熱もないし、ただ体が重いだけっていうか……寝不足?」
よく夢見るしなあ、なんて思っていたら、少しの間を置いて勇樹と山崎がそろって口を開いた。
「それ、運動不足じゃん?」
「へ」
寝不足じゃなくて? と言おうとしたら、勇樹が先に話し始めた。
「だってさー、春都。食ってる割に動いてないじゃん?」
「体育」
「それ以外で」
「……うめずの散歩」
「毎日?」
「いや」
普段は基本ばあちゃんが面倒見てくれてるから、休みの日にたまに……って感じだなあ。あれ、俺あんま動いてない?
「じゃあ~、なんか習い事してるとか?」
そう言うのは山崎だ。
「部活は放送部だし~、委員会は図書じゃん?」
「いや……習い事は、まったく」
「じゃーもう、運動不足でしょ。よく食べてよく寝てるって感じ?」
あれ、そうなのかな。思えば確かに体育以外で運動してるかと言われれば……
「でも、その理屈なら咲良も」
「いやこいつはめっちゃ動いてるだろ」
そう言って勇樹が笑った。
「無駄な動き多そう」
「無駄とは何だ、無駄とは」
咲良はそう突っ込みながら笑う。
「でも実際さ、井上は家遠いじゃん、学校まで。一条、近いでしょ?」
「ぐぅ……」
確かに、山崎の言う通りだ。山崎はにこにこと笑いながら言った。
「テニスやってみる?」
「いやいや、バレーもいいもんだぞ?」
と、勇樹も誘ってくる。
「どっちも初心者には厳しいぞ……」
えー……何すればいいんだろう……分かんねぇ。
「なんとなくそうかなーとは思ってたけど」
帰り道、隣を歩く咲良が言った。何のことだと視線を上げると、咲良はニッと笑った。
「運動不足」
「何で言わなかった」
「だって、言ったら春都へこみそうだったからさ~。意外とそういうとこ繊細じゃん?」
俺なりの気遣いだよ、と咲良は言った。
まあ……確かに、はっきり言いきられると、そっかあ……ってちょっと落ち込むには落ち込むなあ。運動不足……
「とりあえず走ってみるとか?」
と、咲良は言った。
「気候も良くなってきたし、いいんじゃない?」
「確かになあ……どんだけ走れるかは分からんが」
「なんなら、一緒に走ってもいいぞ」
咲良は腕を振り、にこにこ笑って言った。その様子に、思わず笑ってしまう。
「置いて行かれそうだな」
「ちゃんと一緒に走るって」
夕暮れが早くなった帰り道。さあっと吹いた風に、金木犀の甘い香りが淡くも確かに乗っていた。
「ま、とりあえず今日はなんか買い食いして帰ろう」
「お前な、今運動しようと話してたのに……」
「いーのいーの、しっかり食ってしっかり動く! そうしないと春都はもたないと思うぞ」
ほらほら、と連れていかれたのはコンビニだ。
……まあ、確かに。今までが全然動いてないから、動く量を増やせばいいか。うん、そうだな。
「じゃ、アメリカンドッグ食う」
「おっ、いいねえ。俺も!」
あ、ホットスナックの横におでんが。もうそんな季節かあ。品数がまだ少ない。これから増えるのだろうか。それも楽しみだなあ。
コンビニを出て、隣の公園のベンチに座る。
「いただきます」
ケチャップとマスタードが入った容器をパキッと割って、アメリカンドッグに絞る。ケチャップの方が先に出てきて、マスタードはゆっくり出てくるんだよな。バランスを取るのが難しい。
まずは一口。アメリカンドッグの一口目って、いつも生地だけだ。でもこれもうまいんだよなあ。サクッと香ばしくてほのかに甘くて、ケチャップとマスタードの酸味がよく合う。
食べ進めていくと、ソーセージにたどり着く。魚肉ソーセージにも似た食感だ。
でも香りは確かに肉だ。わずかに香る香草のような風味と脂身、ソーセージのうま味を吸った生地。ケチャップの濃い味わいとマスタードのピリッとした刺激が際立つ。久々に食ったが、アメリカンドッグってうまいよなあ。
小さくなっていくアメリカンドッグは少々さみしいが、おいしいから食べ進めてしまう。カリカリのところが待ち遠しい気もするし、惜しい気もするし。
まあ、食べてしまうんだけど。
さて……運動、頑張ってみるかあ。どこ走るかな~。
「ごちそうさまでした」
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