一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第771話 ロールサンド

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 つい先日まで朝起きると寝汗がすごかったというのに、今や寒さを覚えるようになってしまった。季節が巡るのは急だなあ。
「さて……」
 身支度を整え、今日の時間割りを確認する。
 今日から学園祭の準備が始まる。文化祭は学年別、部活別での活動が主だったが、今回の学園祭は、どうやら委員会別での活動が主となるらしい。それと、有志発表。文化祭より発表枠が広がるらしいから、賑やかになるだろうなあ。
 というわけで今日は少し忙しい。昼休みには委員会の集まりがある。
 そうなると昼飯は、さっと食えるものがいいな。よし、パンにしよう。クルクル巻いたサンドイッチならうってつけだろう。
 銀紙にのせたサンドイッチ用の薄いパンにハムとマヨネーズ、それを巻きずしのようにくるりと巻く。この作業にも慣れたものだ。単純な作業だから、つい夢中になってしまう。おっと、今日はハムだけじゃないんだった。
 これこれ、ピーナツバター。ふふ、今日はパンにするって決めてから、準備してたんだ。なんか外国の昼ご飯っぽいっていうかさ。
 あとはちょっと野菜と、果物を。いつか動画で見た海外のランチボックスがこんな感じのラインナップだったような。
 一回あれ、再現してみたいな。

 時間割りの中に、教科の授業ではなく総合の時間が紛れ込み始めると、学校行事が近づいてきたんだなあ、と思う。
「各委員会の集合場所は前の黒板に貼っているので、各自遅れないように移動してくださーい」
 担任がそう言って黒板にプリントを掲示すると、ぞろぞろと人が集まっていく。おお、見えねぇ。でもまあ、図書委員会は、図書館一択だろ。
 ……とは思いつつ、一応確認。うん、やっぱり図書館だ。
 廊下に出ると、人があっちこっちに行きかっている。でも不思議と、文化祭や体育祭のときみたいな息苦しさは感じない。もうちょっと自由な感じだ。こういう行事は、気が楽だな。準備期間から殺気立ってると、気が重いもんなあ。
「よーっす、行こうぜー」
 と、咲良がやってくる。
「なんだ、思ったより早いな」
「とっとと出てきたからな」
「……ちゃんと集合場所は確認したのか?」
「いや?」
 けろっとした顔で笑い、咲良は言った。
「でも、図書館だろ? 他にないっしょ」
「またお前は……」
「違ったとしても、春都が知ってるだろうからいいかなーって」
 どこまでも他力本願な咲良である。まあ、咲良の言う通りだから何も言えないし。
 咲良は頭の後ろで手を組み、話題を変えた。
「今日ってさー、昼休みも集まりあるんだろ? 何すんの?」
「準備とか、色々じゃないか」
 準備期間はしっかり設けられているものの、文化祭や体育祭とは違って、授業として準備する時間があまり組み込まれていないのだ。つまり、昼休みや放課後が貴重な準備時間なのである。
 放送部は今回、そこまで人手がいらないらしく、手伝い要請が来た時だけ顔を出すことになっている。
 咲良は大きなあくびをした。
「学園祭ねえ……図書委員って、何やるんだろうな」
「何だろうなあ」
 うたたねにはもってこいの温かな日差しが差し込むお昼前、穏やかな小鳥の鳴き声が聞こえ、一瞬、今が春だと勘違いしそうになった。

 昼休み、他の委員会もやることは山積みなようで、何やらせわしない様子である。図書委員ももちろん、やることがあるにはあるのだが、他の委員会よりは少しばかり余裕があるのかもしれないなあ。
 例のごとく、ポップコンテストをすることになったからな。何度もやっていることだし、準備の内容もよく分かっている。
「図書委員でよかったって、心底思ったよ」
 そう言いながら、咲良が弁当を持って教室にやってくる。朝比奈も一緒だ。
「この後委員会だし、一緒に食おうぜ」
「おー」
「……なんか、雰囲気違うな」
 と、朝比奈は教室を見回して言った。そうそう、造りは一緒だけど、教室ってクラスごとになんか雰囲気違うよなあ。
 すでに委員会に行ってしまったやつらも多いので、席は空いている。
「いただきます」
 やっぱ最初はハムかな。
 フワフワと、きゅっと詰まったような、その中間の食感のパン。そうそう、これが好きなんだよなあ。ハムはプチッとはじけるようで、マヨネーズのまろやかさと酸味がパンのほのかな甘みによく合う。
「何だ春都、めっちゃ大量じゃん」
 と、咲良がコンビニのおにぎりをほおばりながら言う。
「おう、食っていいぞ」
「中身は?」
「ハムマヨと、ピーナツバター。朝比奈も食うか?」
「……いただきます」
 お、二人ともピーナツバターのやつ取ったな。
 野菜はトマトとピーマンと玉ねぎをドレッシングで和えたやつ。シンプルだけど、これ、好きなんだ。トマトはジュワッと甘くて、ピーマンのほろ苦さがお店っぽい。玉ねぎは少しヒリッとして爽やかだ。
 さて、それじゃあピーナツバターを。
 柔らかなパンから、ピーナツバターがむにゅっと出てくる。ふふ、この食感が好きだ。こってり甘くて、鼻から抜けるピーナツの風味が好きだ。なめらかな舌触りで、いくらでも食べられそうだ。
「ピーナツバターって、うめぇな」
「久しぶりに食べた……おいしい」
 二人も嬉しそうに食べている。
 果物はばあちゃんが買ってきてくれていたみかん。んー、酸っぱい。ピーナツバター食った後だし、この時期のみかんは特に酸っぱいし。でも、みかんらしい風味とさわやかさがいいな。
 学園祭って、なんとなく身構えてたけど、思ったよりも平和に過ごせそうだ。
 とはいえ、やることは結構ある。さ、頑張るとしますかね。

「ごちそうさまでした」
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