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日常
番外編 井上咲良のつまみ食い 12
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「……さむ」
まだ暗い、早朝と夜の間くらいの時間。ブランケットは、いつからベッドの下に落ちていたのだろう。肌がすっかり冷たくなってしまっている。
「んん~」
ブランケットを拾い上げ、頭からかぶる。まだ寝てていい時間だ。
まったく、こんなに急に寒くならなくたっていいじゃないか。おかげで目が覚めてしまった。あー、そろそろパジャマも替えないとなあ。でもそうやって秋支度というか、冬支度をすると、また暑くなるんだよ。
よく分かんねえ天気だ。ま、どうこう言っても何も変わんないんだけどさ。
しかし、安眠を阻害されるのは腹立たしい。せっかく気分よく寝てたってのに、だんだん頭が冴えてきてしまった。二度寝って、割と難しい。
「は~あ」
眠れない真夜中の布団の中は、居心地が悪い。
こうなったら一回起きてしまう方がいい。すっかり充電が終わったスマホから充電ケーブルを抜いて、パジャマのままってのもなんだから、ジャージに着替えてそっと扉を開ける。
うるさくすると、鈴香が厄介だ。
「この時間って、何やってんだろ……」
音量を限りなく小さくしてテレビをつけてみる。暗闇の中のテレビって、かなり明るく感じる。
放送休止、テレビショッピング、天気予報に定点カメラ……
「つまんね」
もうちょっと前だったら、なんか深夜番組なり、アニメなりやってたんだろうけど。
消そう。
テーブルに突っ伏して、スマホをいじる。SNSには今も次々と情報が流れてきて、割と人とは夜に寝ていないものなのだなあ、とぼんやり思う。
眠れない夜は、ブルーライトが異様に落ち着くときがある。
目を突き刺すまぶしい光が、荒れた気分を鎮めるような、麻痺させるような、慰めてくれるような気がするのだ。
流れてくる情報を一つ一つ見ながらも、頭には残さずスクロールしていく。
でも、それもずっとやっていると退屈になるものだ。尽きぬ刺激と高揚がその中にあるようでいて、実際のところ、糸がぷつりと切れたように途端に興味がなくなってしまう。
どうしよう。まだ朝の準備するには早いんだけど。
「……コンビニ行こ」
サンダル引っかけて、外に出る。
おー、結構寒い。風通しがいい分、余計に。長袖長ズボンにしといてよかった。
外は真っ暗で、心もとない街灯が点在するばかり。人もいなければ、車もめったに走らない。でも、ところどころの家には明かりがついている。起きてる人、いるのかな。いるんだろうなあ。
ふと月明かりが気になって、空を見上げてみる。あ、星めっちゃ出てる。冬になると空気が澄んで、よく見えるんだっけ。夏の空をあんま覚えてないからよく分かんないや。
あ、コンビニ見えてきた。妙にほっとするんだよなあ、暗闇のコンビニって。セーブポイント感ある。
もう今のうちに昼飯買っとくか。何にしようかな……
田舎のコンビニってのはラインナップが自由なもので、地元のパン屋の商品まで置いてあるのだ。ラップでくるまれたシンプルなパンは、ホットドッグとカツサンド、それにナポリタン。全部背割りコッペパンに挟まっていて、きゅうりとゆで卵のスライスがチョンと乗っている。
「そんでさー、あんま早起きしすぎたからコンビニ行って~」
屋上に向かう階段を上りながら言うと、後ろからついてくる春都が笑ったのが聞こえた。
「よっぽど眠れなかったんだな」
「そ、たまにあるんだよねーこういうの」
「まあ、分からんでもない」
春都も、ああやって眠れない夜があるんだろうか、とふと思う。そういうとき、春都はどうやって過ごしているのだろう。どうやって、ごまかしているのだろう。
やっぱご飯のこと考えてんのかな。
「春都はさー、眠れない時って何してんの?」
「えー……まず起きる」
「うんうん」
「後は本読むとか、スマホ見たり、ゲームしたり……DVD見たり?」
「やっぱそうなるよなー」
外は涼しくて、少し寒いと思うくらいだった。でも日の当たるところは気持ちよくて、すぐにでも寝てしまいそうだった。
でも、食うもん食わないと。腹減ってるし。
「いただきます」
最初はカツかな~。ソース染み染みでうまそう。春都はもちろん、手作り……
「え、待って、春都。ゆで卵そのまま持ってきたの?」
春都が当然のように手にしているのは、殻も剥いていないゆで卵だった。春都はいつも通りの表情のまま言った。
「ほんとはむいて来ようと思ったんだがな、時間がなかった」
「マジ? ワイルドだな。え、味なし?」
「いや……」
春都が保冷バッグから取り出したのは、見覚えのある塩の容器だった。瓶だ、春都、瓶ごと持って来てる。しかもどこか得意げな表情だ。
「瓶ごと⁉ マジ?」
「マジだ」
「あっはは! やるなあ、春都。最高!」
「時間なかったからな」
いや、時間ないからって、それにしても……はー、やっぱ春都、いいやつだ。今もきれいに卵の殻がむけて嬉しそうだし。
さて、俺も食うか。
ここのカツは、チキンカツなんだよなー。あっさりしてるけど、ちゃんと食べ応えもあっていい。わりときゅうりがいい感じにみずみずしくて好きなんだよな。ゆで卵……ふっ、春都の持ってきたのには色々と負けるが、ソースのついたゆで卵もうまい。
パンもほのかに甘くていいんだよな。
ホットドッグのソーセージは、パリッとはじけて脂っこくない。さっぱりしているから、ケチャップ多めがいいのだ。
ナポリタンは甘い。甘いトマトケチャップのソースがたまらなくパンと合うのだ。来れにはレタスがちょっと添えられていて、それもまたいい。紛れ込んだコーンも甘いし、薄っぺらいウインナーもうま味がある。
なんか、寝起きいまいちだったし、眠いし、あんま気分上がんなかったけど、笑ったら元気出たな。
たぶん今日は、ぐっすり眠れる気がする。
寝る前にしばらく、思い出し笑いしそうだけど。
……今度俺も、ゆで卵持って来てみようかな。
「ごちそうさまでした」
まだ暗い、早朝と夜の間くらいの時間。ブランケットは、いつからベッドの下に落ちていたのだろう。肌がすっかり冷たくなってしまっている。
「んん~」
ブランケットを拾い上げ、頭からかぶる。まだ寝てていい時間だ。
まったく、こんなに急に寒くならなくたっていいじゃないか。おかげで目が覚めてしまった。あー、そろそろパジャマも替えないとなあ。でもそうやって秋支度というか、冬支度をすると、また暑くなるんだよ。
よく分かんねえ天気だ。ま、どうこう言っても何も変わんないんだけどさ。
しかし、安眠を阻害されるのは腹立たしい。せっかく気分よく寝てたってのに、だんだん頭が冴えてきてしまった。二度寝って、割と難しい。
「は~あ」
眠れない真夜中の布団の中は、居心地が悪い。
こうなったら一回起きてしまう方がいい。すっかり充電が終わったスマホから充電ケーブルを抜いて、パジャマのままってのもなんだから、ジャージに着替えてそっと扉を開ける。
うるさくすると、鈴香が厄介だ。
「この時間って、何やってんだろ……」
音量を限りなく小さくしてテレビをつけてみる。暗闇の中のテレビって、かなり明るく感じる。
放送休止、テレビショッピング、天気予報に定点カメラ……
「つまんね」
もうちょっと前だったら、なんか深夜番組なり、アニメなりやってたんだろうけど。
消そう。
テーブルに突っ伏して、スマホをいじる。SNSには今も次々と情報が流れてきて、割と人とは夜に寝ていないものなのだなあ、とぼんやり思う。
眠れない夜は、ブルーライトが異様に落ち着くときがある。
目を突き刺すまぶしい光が、荒れた気分を鎮めるような、麻痺させるような、慰めてくれるような気がするのだ。
流れてくる情報を一つ一つ見ながらも、頭には残さずスクロールしていく。
でも、それもずっとやっていると退屈になるものだ。尽きぬ刺激と高揚がその中にあるようでいて、実際のところ、糸がぷつりと切れたように途端に興味がなくなってしまう。
どうしよう。まだ朝の準備するには早いんだけど。
「……コンビニ行こ」
サンダル引っかけて、外に出る。
おー、結構寒い。風通しがいい分、余計に。長袖長ズボンにしといてよかった。
外は真っ暗で、心もとない街灯が点在するばかり。人もいなければ、車もめったに走らない。でも、ところどころの家には明かりがついている。起きてる人、いるのかな。いるんだろうなあ。
ふと月明かりが気になって、空を見上げてみる。あ、星めっちゃ出てる。冬になると空気が澄んで、よく見えるんだっけ。夏の空をあんま覚えてないからよく分かんないや。
あ、コンビニ見えてきた。妙にほっとするんだよなあ、暗闇のコンビニって。セーブポイント感ある。
もう今のうちに昼飯買っとくか。何にしようかな……
田舎のコンビニってのはラインナップが自由なもので、地元のパン屋の商品まで置いてあるのだ。ラップでくるまれたシンプルなパンは、ホットドッグとカツサンド、それにナポリタン。全部背割りコッペパンに挟まっていて、きゅうりとゆで卵のスライスがチョンと乗っている。
「そんでさー、あんま早起きしすぎたからコンビニ行って~」
屋上に向かう階段を上りながら言うと、後ろからついてくる春都が笑ったのが聞こえた。
「よっぽど眠れなかったんだな」
「そ、たまにあるんだよねーこういうの」
「まあ、分からんでもない」
春都も、ああやって眠れない夜があるんだろうか、とふと思う。そういうとき、春都はどうやって過ごしているのだろう。どうやって、ごまかしているのだろう。
やっぱご飯のこと考えてんのかな。
「春都はさー、眠れない時って何してんの?」
「えー……まず起きる」
「うんうん」
「後は本読むとか、スマホ見たり、ゲームしたり……DVD見たり?」
「やっぱそうなるよなー」
外は涼しくて、少し寒いと思うくらいだった。でも日の当たるところは気持ちよくて、すぐにでも寝てしまいそうだった。
でも、食うもん食わないと。腹減ってるし。
「いただきます」
最初はカツかな~。ソース染み染みでうまそう。春都はもちろん、手作り……
「え、待って、春都。ゆで卵そのまま持ってきたの?」
春都が当然のように手にしているのは、殻も剥いていないゆで卵だった。春都はいつも通りの表情のまま言った。
「ほんとはむいて来ようと思ったんだがな、時間がなかった」
「マジ? ワイルドだな。え、味なし?」
「いや……」
春都が保冷バッグから取り出したのは、見覚えのある塩の容器だった。瓶だ、春都、瓶ごと持って来てる。しかもどこか得意げな表情だ。
「瓶ごと⁉ マジ?」
「マジだ」
「あっはは! やるなあ、春都。最高!」
「時間なかったからな」
いや、時間ないからって、それにしても……はー、やっぱ春都、いいやつだ。今もきれいに卵の殻がむけて嬉しそうだし。
さて、俺も食うか。
ここのカツは、チキンカツなんだよなー。あっさりしてるけど、ちゃんと食べ応えもあっていい。わりときゅうりがいい感じにみずみずしくて好きなんだよな。ゆで卵……ふっ、春都の持ってきたのには色々と負けるが、ソースのついたゆで卵もうまい。
パンもほのかに甘くていいんだよな。
ホットドッグのソーセージは、パリッとはじけて脂っこくない。さっぱりしているから、ケチャップ多めがいいのだ。
ナポリタンは甘い。甘いトマトケチャップのソースがたまらなくパンと合うのだ。来れにはレタスがちょっと添えられていて、それもまたいい。紛れ込んだコーンも甘いし、薄っぺらいウインナーもうま味がある。
なんか、寝起きいまいちだったし、眠いし、あんま気分上がんなかったけど、笑ったら元気出たな。
たぶん今日は、ぐっすり眠れる気がする。
寝る前にしばらく、思い出し笑いしそうだけど。
……今度俺も、ゆで卵持って来てみようかな。
「ごちそうさまでした」
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