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日常
第765話 コンビニ飯
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秋晴れとはいいがたい、どちらかといえば真夏の青空というべき空の下、体育祭の予行練習が始まった。
「今日、予報じゃ雨だって言ってたけど、全然降る気配なくね?」
こまごまとした荷物を運びながら、咲良が言った。競技の最中は特にこれといってすることがない。片付けとか、伝達役とか、そういうことがちらほらあるだけだ。
「空真っ青」
咲良は見上げ、目を細めた。
「まぶしい」
「あんまり晴れてると、目ぇ痛くなるよな」
「光が目に染みる~」
生徒は皆外にいるから、校舎内は静かだ。遠くから聞こえてくる音楽と歓声、応援の声は、まるで本番のようである。
「雨、降らないといいな」
倉庫に荷物を片付けながら言えば、咲良は笑った。
「こういう日に限って、天気予報って当たるんだよなあ」
みるみる暗い雲が広がり始めたのは、昼休みになってのことだった。昼休み前はまだ晴れていたというのになあ。
昼飯もそこそこに、先生から呼び出されたので視聴覚室を出て、急いで校庭に向かう。
「あ、やべ、降ってきた」
スピーカーにビニールシートをかぶせ、朝比奈がそうつぶやいた時、轟音が迫って来たかと思えば、みるみる校庭がびしょ濡れになり始めた。
「やばい、迫って来た!」
なんかちょっと楽しそうに咲良が言うや否や、自分たちもずぶ濡れになる。
「うわー!」
やっべえ、前見えねえ。何とか足元を見ながらスピーカーを抱えて屋根のある所まで急ぐ。
「機材濡らすなー!」
先生のそんな叫び声が、雨音にまぎれて聞こえる。
「俺らのことはどうでもいいんか」
と、咲良が呆れたように笑ってつぶやいた。朝比奈はじっとりと濡れて垂れ下がった前髪をかきあげ、半ばやけくそ気味に機材を運んでいた。
何とか倉庫に機材を運び込む。うへぇ、体操服がびっしょり張り付いて気持ち悪い。
「濡れてないか?」
「ビニールシートは、雨が降る前にかぶせてました」
「そうか、じゃあ大丈夫かな」
ぽたぽたと水滴が髪の毛から滴り落ちて、足跡だらけのコンクリートの地面に落ちる。
タオル……は、視聴覚室にある。持ってきておけばよかったか。まあ、この雨だと、持ってきたところでぬれてしょうがないだろう。あー、顔拭きたい。
とりあえず、濡れた体操服の襟元で拭いておく。うーん、あんまり意味がない。
「お疲れさん。はい、戻っていいぞ」
先生は機材の無事を確認して、あっけなく言うと、自分の傘を広げてそそくさと校舎へと戻って行ってしまった。
雨はまだ、収まる気配がなさそうだった。
昼飯は一応食ったけど、なんかバタついてたし、食った気がしないな。放課後にもなるとすっかり腹が減ってしまって、しょうがない。
まだまだ部活もあることだし、腹ごしらえは必須だ。と、いうわけでコンビニへ。
雨降りで薄暗い夕闇の中の、こうこうと白い光を放つコンビニは、なんだか異質な感じがする。古代遺跡とかの中のセーブポイント的な。
「ねー、スイーツ買っていいかなー?」
と、咲良がスイーツコーナーの前で言う。
「いいんじゃないか」
「それとー、弁当……は、ちょっと多いな。おにぎりも買っちゃえ」
「パンもいろいろあって悩むな」
朝比奈が、サンドイッチとかが置いてあるコーナーで考えこんでいる。
さて、俺もなんか買おう。ホットスナック、食いたいなあ。お、チーズハットグ? なにそれ。アメリカンドッグとはまた違う風貌をしている。気になるな、買っちゃえ。あとはー……
「あれ、春都何買ってんの」
スイーツ二品を大事に持った咲良がやってくる。
「え、浅漬け」
「浅漬け?」
「あそこの、チーズハットグ? とかいうの買おうと思ってて。だったら、漬物いるかなーって」
「へえー……で、なんで浅漬け?」
「向こうが濃そうだから、あっさりしたの食いたくて」
なるほど……なるほど? と咲良は首をひねる。絶対いると思うんだよなー、漬物。あと、シンプルに食いたいだけってのもある。
朝比奈はブリトーを買っていた。ああ、ハムチーズのやつね。それもうまいんだ。
小雨の内にさっさと帰り、教室に入る。視聴覚室は今、大会の練習の真っ最中である。さすがにそこで食う勇気はない。
先生に言うと、「しっかり食べて、しっかり働いてくれ」とありがたい言葉を頂戴した。
「いただきます」
さて、熱々のうちにこのチーズのやつをいただこうかな。
パン粉みたいなのついてんな。形はアメリカンドッグと似ているようで少し違う。ぽっちゃりしているようでスリムなような、不思議な感覚を覚える。
ザクッとした食感に少ししっとりとした生地、生地は思いのほかあっさりしているようだ。お、チーズに行き当たったようだ。もっちりとやわらかい歯触りと、にじみ出てくるのは塩気。モッツァレラチーズっぽいな。
「んんん?」
おや、伸びる伸びる、何だこれは。
おにぎりをほおばっていた咲良が盛大に笑った。
「あっはは! どうした春都!」
「んー!」
「すげー!」
「そんなに伸びるんだな」
と、朝比奈も薄く笑った。
何とか伸びたチーズを口に含み、咀嚼する。しっかりチーズの味がするが、くどくはない。生地があっさりしているからだろうか。
ザクザクの衣にしっとり生地、柔らかなチーズ。うん、これは食べ応えがあってうまい。
その合間に浅漬けを。なじみのあるうま味と塩気、みずみずしさがちょうどいい。きゅうりが一番好きだが、大根もいい。お、この大根、ほんのり柚子風味だ。
浅漬けって、あるとなんかテンション上がる。
食べ進めていくと、串にまとわりついたカリカリに行きあたった。なるほど、これはアメリカンドッグと同じ楽しみがあるというわけだ。
ん、やっぱ、この部分はうまい。ここだけってなると寂しいが、しっかりメインを食った後だと、嬉しいもんだ。
これ、うまかったな。家でも作ってみたい。
一口サイズにしても、食べやすくていいかもなあ。タッパーに詰めたら、学校にも持ってこれそうだし……
今度、作ってみよう。
「ごちそうさまでした」
「今日、予報じゃ雨だって言ってたけど、全然降る気配なくね?」
こまごまとした荷物を運びながら、咲良が言った。競技の最中は特にこれといってすることがない。片付けとか、伝達役とか、そういうことがちらほらあるだけだ。
「空真っ青」
咲良は見上げ、目を細めた。
「まぶしい」
「あんまり晴れてると、目ぇ痛くなるよな」
「光が目に染みる~」
生徒は皆外にいるから、校舎内は静かだ。遠くから聞こえてくる音楽と歓声、応援の声は、まるで本番のようである。
「雨、降らないといいな」
倉庫に荷物を片付けながら言えば、咲良は笑った。
「こういう日に限って、天気予報って当たるんだよなあ」
みるみる暗い雲が広がり始めたのは、昼休みになってのことだった。昼休み前はまだ晴れていたというのになあ。
昼飯もそこそこに、先生から呼び出されたので視聴覚室を出て、急いで校庭に向かう。
「あ、やべ、降ってきた」
スピーカーにビニールシートをかぶせ、朝比奈がそうつぶやいた時、轟音が迫って来たかと思えば、みるみる校庭がびしょ濡れになり始めた。
「やばい、迫って来た!」
なんかちょっと楽しそうに咲良が言うや否や、自分たちもずぶ濡れになる。
「うわー!」
やっべえ、前見えねえ。何とか足元を見ながらスピーカーを抱えて屋根のある所まで急ぐ。
「機材濡らすなー!」
先生のそんな叫び声が、雨音にまぎれて聞こえる。
「俺らのことはどうでもいいんか」
と、咲良が呆れたように笑ってつぶやいた。朝比奈はじっとりと濡れて垂れ下がった前髪をかきあげ、半ばやけくそ気味に機材を運んでいた。
何とか倉庫に機材を運び込む。うへぇ、体操服がびっしょり張り付いて気持ち悪い。
「濡れてないか?」
「ビニールシートは、雨が降る前にかぶせてました」
「そうか、じゃあ大丈夫かな」
ぽたぽたと水滴が髪の毛から滴り落ちて、足跡だらけのコンクリートの地面に落ちる。
タオル……は、視聴覚室にある。持ってきておけばよかったか。まあ、この雨だと、持ってきたところでぬれてしょうがないだろう。あー、顔拭きたい。
とりあえず、濡れた体操服の襟元で拭いておく。うーん、あんまり意味がない。
「お疲れさん。はい、戻っていいぞ」
先生は機材の無事を確認して、あっけなく言うと、自分の傘を広げてそそくさと校舎へと戻って行ってしまった。
雨はまだ、収まる気配がなさそうだった。
昼飯は一応食ったけど、なんかバタついてたし、食った気がしないな。放課後にもなるとすっかり腹が減ってしまって、しょうがない。
まだまだ部活もあることだし、腹ごしらえは必須だ。と、いうわけでコンビニへ。
雨降りで薄暗い夕闇の中の、こうこうと白い光を放つコンビニは、なんだか異質な感じがする。古代遺跡とかの中のセーブポイント的な。
「ねー、スイーツ買っていいかなー?」
と、咲良がスイーツコーナーの前で言う。
「いいんじゃないか」
「それとー、弁当……は、ちょっと多いな。おにぎりも買っちゃえ」
「パンもいろいろあって悩むな」
朝比奈が、サンドイッチとかが置いてあるコーナーで考えこんでいる。
さて、俺もなんか買おう。ホットスナック、食いたいなあ。お、チーズハットグ? なにそれ。アメリカンドッグとはまた違う風貌をしている。気になるな、買っちゃえ。あとはー……
「あれ、春都何買ってんの」
スイーツ二品を大事に持った咲良がやってくる。
「え、浅漬け」
「浅漬け?」
「あそこの、チーズハットグ? とかいうの買おうと思ってて。だったら、漬物いるかなーって」
「へえー……で、なんで浅漬け?」
「向こうが濃そうだから、あっさりしたの食いたくて」
なるほど……なるほど? と咲良は首をひねる。絶対いると思うんだよなー、漬物。あと、シンプルに食いたいだけってのもある。
朝比奈はブリトーを買っていた。ああ、ハムチーズのやつね。それもうまいんだ。
小雨の内にさっさと帰り、教室に入る。視聴覚室は今、大会の練習の真っ最中である。さすがにそこで食う勇気はない。
先生に言うと、「しっかり食べて、しっかり働いてくれ」とありがたい言葉を頂戴した。
「いただきます」
さて、熱々のうちにこのチーズのやつをいただこうかな。
パン粉みたいなのついてんな。形はアメリカンドッグと似ているようで少し違う。ぽっちゃりしているようでスリムなような、不思議な感覚を覚える。
ザクッとした食感に少ししっとりとした生地、生地は思いのほかあっさりしているようだ。お、チーズに行き当たったようだ。もっちりとやわらかい歯触りと、にじみ出てくるのは塩気。モッツァレラチーズっぽいな。
「んんん?」
おや、伸びる伸びる、何だこれは。
おにぎりをほおばっていた咲良が盛大に笑った。
「あっはは! どうした春都!」
「んー!」
「すげー!」
「そんなに伸びるんだな」
と、朝比奈も薄く笑った。
何とか伸びたチーズを口に含み、咀嚼する。しっかりチーズの味がするが、くどくはない。生地があっさりしているからだろうか。
ザクザクの衣にしっとり生地、柔らかなチーズ。うん、これは食べ応えがあってうまい。
その合間に浅漬けを。なじみのあるうま味と塩気、みずみずしさがちょうどいい。きゅうりが一番好きだが、大根もいい。お、この大根、ほんのり柚子風味だ。
浅漬けって、あるとなんかテンション上がる。
食べ進めていくと、串にまとわりついたカリカリに行きあたった。なるほど、これはアメリカンドッグと同じ楽しみがあるというわけだ。
ん、やっぱ、この部分はうまい。ここだけってなると寂しいが、しっかりメインを食った後だと、嬉しいもんだ。
これ、うまかったな。家でも作ってみたい。
一口サイズにしても、食べやすくていいかもなあ。タッパーに詰めたら、学校にも持ってこれそうだし……
今度、作ってみよう。
「ごちそうさまでした」
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