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日常
第763話 豚の天ぷら
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体育祭の練習が本格的に始まると、授業時間が減り、教室にいるよりも視聴覚室にいる時間の方が増え、さらには外に行く回数も増える。
「ちょっと、まだCD提出されてないブロックあるんだけどー?」
「あーそれもう何回も催促してる。矢口先生が、直接、自分に提出するように言ったって」
「最終通告じゃん、それ」
「今日間に合わなかったら、音なしで」
「りょ~」
部長たちが忙しそうに立ち回る中、俺らも細々と雑用をこなしていく。
他の生徒たちが体育館や何やらで練習する声を遠くに聞きながら、まだ誰もいない運動場にテントを立てる。
練習がないからと言って、暇なことはまったくもってない。つつがなく練習が進むよう、準備をするのは、体力も気力もそがれるものだ。
真っ青な空に、真っ白で分厚い雲が鎮座する。日差しは暑いが、風は秋っぽい。
「なんか、体育祭の練習って感じだなあ!」
顔に流れる汗を放ったまま、咲良は重い機材を抱えて、半ば投げやりといった様子で言った。
「はー……で、これどこ持ってくんだっけ」
一度叫んだら落ち着いたのか、咲良はため息をついて言った。
「本部テント。マイクテストまで終わらせないと」
「オッケー」
「おーい、早くー」
先にグラウンドにいた朝比奈が手招きをする。
「朝礼台、動かすの手伝って」
「あー、それも動かすのかー」
機材はいったん置いといて、朝礼台を動かしに行く。その下に、色々設営しないといけないんだったか。
「いくぞー……あっつ!」
何だ何だ、朝礼台、めっちゃ熱いんだが?
「日に照らされて、熱くなっちゃったのか……」
「どーやって運ぶんだよ~」
「タオル挟むか」
どうにかこうにか運んだら、マイクのセッティングだ。
「マイク設置おわったら、次こっち~」
容赦なく、先生からの指示が飛ぶ。
「はーい!」
揃って返事をし、設営の手を速めた。
はー……これが何日も続くのか……これ、ばてないようにしないとなあ。
はは、なんかもう、面白くなってきた。
へとへとになって家に帰ると、居間に明かりがついていた。あれ、消し忘れ……違う、今日は。
「ただいま」
「おかえり、春都」
ばあちゃんが来ているのだった。うめずも心なしか嬉しそうで、尻尾をパタパタと振っている。
「疲れたでしょ。ほら、お風呂入っちゃいなさい」
「はーい」
汗だくのシャツと、体操服を洗濯機に入れる。あとはタオルと……暑いと洗濯物が増えるなあ。冬場とは違って、一つ一つはかさばらないけど、とにかく量が。
放っておくわけにもいかないしな。
あー、シャワー気持ちいい~。汗まみれだったから、シャンプーをするだけでもすっきりするようだ。
湯船につかる。あーっつい。
ちょっと水を出す。この水も気持ちいいな~、顔洗っちゃお。学校の水道はぬるいんだよなあ。それでも、ないよりはいいのだが、やはりあの暑さの下では、冷たいものが恋しくなるのだ。
それにしたって、今日も相変わらず揉めてたなあ。まあ、部内で揉め事が起きないだけいいのか。たいてい、相手は外部の生徒だ。
実行委員に生徒会、それと各ブロックのリーダーとか。
「は~……」
グイッと前髪をかき上げると、ぽたぽたと冷たい水滴が頬に落ちてきた。
「ま、競技に出ないだけ良しとするかあ……」
放送部として活動する分に、不満はないからな。大変だけど、まあ、それなりに楽しめていることだし。
風呂から上がると、何やらいい匂いがした。さっさと着替えて、居間に行く。
「やっぱり、そろそろかなと思った」
揚げ物の音に、香ばしい香り。テーブルの上には、山盛りの豚の天ぷらがあった。それを認識した途端、腹が盛大に鳴る。
「ふふ、お腹空いてるでしょ」
「めっちゃ腹減ってる」
「揚げたての内にどうぞ」
そうばあちゃんが言うが早いか否か、席に着く。
「いただきます」
豚の天ぷらは大きくて、食べ応えがありそうだ。天ぷらとは言っているが、からあげっぽさもある。
ザグッと衣に、にんにく醤油の風味。香ばしくて、うま味がたっぷりだ。肉はもちもちで、口になじむ感じがたまらない。脂身はあっつあつで、ほのかに甘い。にんにく醤油ではあるが、にんにくは少し控えめかな。いつもより少し甘めだ。
醤油の香ばしさと豚肉って、合う。衣もうまいんだよなあ。いろんなうま味が染みている感じがして、かりかり、ザクザクの食感もいい。
そこに白米。合わない訳がない。にんにく醤油のうま味と豚肉の味わい、香ばしさと、米の甘味、やわらかさ。
「うまい……」
さて、次は……お、切り干し大根がある。ばあちゃんの作った切り干し大根って、うまいんだよなあ。
しゃきしゃき、じゃくじゃく? 切り干し大根の食感って、独特だ。臭みはなく、噛みしめるとほのかに大根の香りがする。
甘めの味付けは優しくて、一緒に炊いてある揚げもジュワジュワしてうまい。
丁寧な料理は、心を穏やかにすると思う。
そしてまた豚肉を。少し冷めると、よりスナックっぽさが増す。せんべいみたいでおいしい。バリバリしたこの食感が……
あ、少し肉の柔らかな食感。ふふ、なんかうれしい。
なんかすごく疲れていた気がするけど、すっかり元気になったようだ。これでしっかり寝れば、明日はきっとまた頑張れる。
「ありがとう、ばあちゃん」
そう言えば、片付けをしていたばあちゃんは、「ふふ、食べてくれてよかった」と笑った。
さ、明日も頑張ろう。
「ごちそうさまでした」
「ちょっと、まだCD提出されてないブロックあるんだけどー?」
「あーそれもう何回も催促してる。矢口先生が、直接、自分に提出するように言ったって」
「最終通告じゃん、それ」
「今日間に合わなかったら、音なしで」
「りょ~」
部長たちが忙しそうに立ち回る中、俺らも細々と雑用をこなしていく。
他の生徒たちが体育館や何やらで練習する声を遠くに聞きながら、まだ誰もいない運動場にテントを立てる。
練習がないからと言って、暇なことはまったくもってない。つつがなく練習が進むよう、準備をするのは、体力も気力もそがれるものだ。
真っ青な空に、真っ白で分厚い雲が鎮座する。日差しは暑いが、風は秋っぽい。
「なんか、体育祭の練習って感じだなあ!」
顔に流れる汗を放ったまま、咲良は重い機材を抱えて、半ば投げやりといった様子で言った。
「はー……で、これどこ持ってくんだっけ」
一度叫んだら落ち着いたのか、咲良はため息をついて言った。
「本部テント。マイクテストまで終わらせないと」
「オッケー」
「おーい、早くー」
先にグラウンドにいた朝比奈が手招きをする。
「朝礼台、動かすの手伝って」
「あー、それも動かすのかー」
機材はいったん置いといて、朝礼台を動かしに行く。その下に、色々設営しないといけないんだったか。
「いくぞー……あっつ!」
何だ何だ、朝礼台、めっちゃ熱いんだが?
「日に照らされて、熱くなっちゃったのか……」
「どーやって運ぶんだよ~」
「タオル挟むか」
どうにかこうにか運んだら、マイクのセッティングだ。
「マイク設置おわったら、次こっち~」
容赦なく、先生からの指示が飛ぶ。
「はーい!」
揃って返事をし、設営の手を速めた。
はー……これが何日も続くのか……これ、ばてないようにしないとなあ。
はは、なんかもう、面白くなってきた。
へとへとになって家に帰ると、居間に明かりがついていた。あれ、消し忘れ……違う、今日は。
「ただいま」
「おかえり、春都」
ばあちゃんが来ているのだった。うめずも心なしか嬉しそうで、尻尾をパタパタと振っている。
「疲れたでしょ。ほら、お風呂入っちゃいなさい」
「はーい」
汗だくのシャツと、体操服を洗濯機に入れる。あとはタオルと……暑いと洗濯物が増えるなあ。冬場とは違って、一つ一つはかさばらないけど、とにかく量が。
放っておくわけにもいかないしな。
あー、シャワー気持ちいい~。汗まみれだったから、シャンプーをするだけでもすっきりするようだ。
湯船につかる。あーっつい。
ちょっと水を出す。この水も気持ちいいな~、顔洗っちゃお。学校の水道はぬるいんだよなあ。それでも、ないよりはいいのだが、やはりあの暑さの下では、冷たいものが恋しくなるのだ。
それにしたって、今日も相変わらず揉めてたなあ。まあ、部内で揉め事が起きないだけいいのか。たいてい、相手は外部の生徒だ。
実行委員に生徒会、それと各ブロックのリーダーとか。
「は~……」
グイッと前髪をかき上げると、ぽたぽたと冷たい水滴が頬に落ちてきた。
「ま、競技に出ないだけ良しとするかあ……」
放送部として活動する分に、不満はないからな。大変だけど、まあ、それなりに楽しめていることだし。
風呂から上がると、何やらいい匂いがした。さっさと着替えて、居間に行く。
「やっぱり、そろそろかなと思った」
揚げ物の音に、香ばしい香り。テーブルの上には、山盛りの豚の天ぷらがあった。それを認識した途端、腹が盛大に鳴る。
「ふふ、お腹空いてるでしょ」
「めっちゃ腹減ってる」
「揚げたての内にどうぞ」
そうばあちゃんが言うが早いか否か、席に着く。
「いただきます」
豚の天ぷらは大きくて、食べ応えがありそうだ。天ぷらとは言っているが、からあげっぽさもある。
ザグッと衣に、にんにく醤油の風味。香ばしくて、うま味がたっぷりだ。肉はもちもちで、口になじむ感じがたまらない。脂身はあっつあつで、ほのかに甘い。にんにく醤油ではあるが、にんにくは少し控えめかな。いつもより少し甘めだ。
醤油の香ばしさと豚肉って、合う。衣もうまいんだよなあ。いろんなうま味が染みている感じがして、かりかり、ザクザクの食感もいい。
そこに白米。合わない訳がない。にんにく醤油のうま味と豚肉の味わい、香ばしさと、米の甘味、やわらかさ。
「うまい……」
さて、次は……お、切り干し大根がある。ばあちゃんの作った切り干し大根って、うまいんだよなあ。
しゃきしゃき、じゃくじゃく? 切り干し大根の食感って、独特だ。臭みはなく、噛みしめるとほのかに大根の香りがする。
甘めの味付けは優しくて、一緒に炊いてある揚げもジュワジュワしてうまい。
丁寧な料理は、心を穏やかにすると思う。
そしてまた豚肉を。少し冷めると、よりスナックっぽさが増す。せんべいみたいでおいしい。バリバリしたこの食感が……
あ、少し肉の柔らかな食感。ふふ、なんかうれしい。
なんかすごく疲れていた気がするけど、すっかり元気になったようだ。これでしっかり寝れば、明日はきっとまた頑張れる。
「ありがとう、ばあちゃん」
そう言えば、片付けをしていたばあちゃんは、「ふふ、食べてくれてよかった」と笑った。
さ、明日も頑張ろう。
「ごちそうさまでした」
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