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日常
第762話 琥珀糖
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放課後の図書館で見つけたのは、一度見たことのある本だった。
夏休みの自由研究用にディスプレイされていた、お菓子作りの本である。へえ、今人気なのかな。
「それ、新刊だぞ」
と、漆原先生がやってくる。
「他の図書館でも見ました」
「何でも最近、流行っているものがあるらしくてなあ」
「へえ」
どれだったかな、と先生が本を手にページをめくる。あ、色が変わるジュース。これはなんか、よく見るなあ。レモン汁入れると赤になるとか……やったことはないけど。
「ああ、これだ、これ」
先生が開いたページには、『食べられる宝石 琥珀糖』と書かれていた。
なんか見たなあ、これ。確かに見た目が宝石のようである。青や紫、赤に黄色……なんか食べ物じゃないみたいだ。
「流行ってるんですか、これ」
「そうらしいぞ」
ふーん……確かに見た目きれいだもんな。
「動画とかで、よく見るらしい」
「へぇー」
「一条君は作ったことないか?」
「いやあ、お菓子はなかなか」
あ、百瀬とかなら知ってそうだ。なんなら、流行る前から食ってそう。
帰って調べてみるかあ、琥珀糖。
「お、これか」
風呂上がり、扇風機の前に座りスマホをいじっていたら、琥珀糖の動画が出てきた。作り方に食べる音、切る音……いろいろあるんだなあ。
ほとんど砂糖だ。結構な量入れるんだなあ。それと寒天か。煮詰めて、固めて、乾かして……なるほど、乾燥させる時間によって食感も変わるし、形によっても違うみたいだ。実験みたいで面白い。
あ、そうか、だから自由研究におすすめ、なのか。
表面はザクザク、中は……どんなだ。想像がつくような、つかないような。一度食べてみたいな。いろんな味もあるみたいだし、食感も気になるし。
作ってみるか? でも、食べきれないよなあ……
「琥珀糖? 食べたことあるよー」
昼休み、廊下で偶然会った百瀬に聞けば、思った通りの答えが返ってきた。
「そんな気はしてた」
「作ったこともあるけどねー、お店で買ったのも食べたし」
「うまいのか?」
「んー、人によるよねえ」
百瀬は顎に手を当て、楽しそうに話した。
「俺は甘いもの好きだし、おいしいと思うけど。弟は苦手だって言ってたな~。甘いからねえ。食感も独特だし」
「へー……食ってみたいな」
「あれ? 一条は食べたことない?」
と、少しびっくりしたように百瀬が言う。
「一条なら、この世の食べられるものは、全部食べてると思ってた」
「俺を何だと思ってる」
そんなこと、やってみたいけど。
百瀬はからかうように笑う。
「はは、そりゃそっか。へえ、でも、そっかあ」
そして少し考えこむと、妙案をひらめいたというように表情を輝かせた。
「じゃあ、今度作ってきてあげる!」
「え? いやそんな」
「いーの、俺が作りたいだけだから!」
と、百瀬はにこにこ、うきうきして言った。本当にお菓子が好きなんだなあ、と思いながら見ていたら、百瀬は言った。
「いっぱいできるから、井上も呼びなよ!」
「あ、おう。そうだな」
「何色にしよっかなー。マーブル模様とかもいいよねー」
これは思わず、早いとこ、食べられそうだな。琥珀糖。
美術室の窓を開けると、さあっと気持ちのいい風が入って来た。暑いけど、確かに秋の足音が聞こえてきている。
「ほーっ、これが琥珀糖かあ」
実物は初めてだ、と言う咲良の声に振り返る。机の上には百瀬が作って来た琥珀糖が、タッパーいっぱいに入っていた。朝比奈も興味津々である。
「色とりどりだな……」
「形もいろいろだよー。三角とか丸とか、四角とか。ほんとはいろいろ作ってみようと思ったんだけど、今日はこれだけ」
まるで積み木のようだ。カラフルで、規則正しい形。そう言えば、そう言うディスプレイで写真を撮っている人もいたような。
「ま、とりあえず食べて。味は全部一緒だけど」
「おう、いただきます」
じゃあ、三角のやつを一つ。
一口サイズだが、噛み切ってみる。サク、ザクっとしたような食感に、ほろっとした中身。おお、なんだこれ、面白い。ただの寒天とはまた違って、ほどけるようというか、何というか。ザクザクのところも、さらっと広がるというか……
そして、シンプルな砂糖味。ガツンとくるなあ。確かに、甘いもの苦手だと厳しいのかな。俺は割と、嫌いじゃないかも。
「面白いでしょ?」
と、百瀬が言った。
「うん、面白い。結構うまい」
「でしょー?」
「なんか、癖になるな」
と、咲良が楽しそうに言った。
あ、薄っぺらいやつは、もっとサクサクしている。よく乾燥しているやつもうまいな。たくさん食べるものではないかもしれないけど、ちょっと甘いもの、ってときにはよさそうだ。
「熱いお茶が欲しいな」
朝比奈は言いながら、四角い琥珀糖を口にした。あ、確かに、お茶請けって感じだよな。
「今度、お店のやつも食べてみてほしいなー。色々あるんだー」
百瀬はサクサクと琥珀糖を食べながら言った。お店のか……それも気になるし、自分でも作ってみたい。
あの本、借りてみようかな。
「ごちそうさまでした」
夏休みの自由研究用にディスプレイされていた、お菓子作りの本である。へえ、今人気なのかな。
「それ、新刊だぞ」
と、漆原先生がやってくる。
「他の図書館でも見ました」
「何でも最近、流行っているものがあるらしくてなあ」
「へえ」
どれだったかな、と先生が本を手にページをめくる。あ、色が変わるジュース。これはなんか、よく見るなあ。レモン汁入れると赤になるとか……やったことはないけど。
「ああ、これだ、これ」
先生が開いたページには、『食べられる宝石 琥珀糖』と書かれていた。
なんか見たなあ、これ。確かに見た目が宝石のようである。青や紫、赤に黄色……なんか食べ物じゃないみたいだ。
「流行ってるんですか、これ」
「そうらしいぞ」
ふーん……確かに見た目きれいだもんな。
「動画とかで、よく見るらしい」
「へぇー」
「一条君は作ったことないか?」
「いやあ、お菓子はなかなか」
あ、百瀬とかなら知ってそうだ。なんなら、流行る前から食ってそう。
帰って調べてみるかあ、琥珀糖。
「お、これか」
風呂上がり、扇風機の前に座りスマホをいじっていたら、琥珀糖の動画が出てきた。作り方に食べる音、切る音……いろいろあるんだなあ。
ほとんど砂糖だ。結構な量入れるんだなあ。それと寒天か。煮詰めて、固めて、乾かして……なるほど、乾燥させる時間によって食感も変わるし、形によっても違うみたいだ。実験みたいで面白い。
あ、そうか、だから自由研究におすすめ、なのか。
表面はザクザク、中は……どんなだ。想像がつくような、つかないような。一度食べてみたいな。いろんな味もあるみたいだし、食感も気になるし。
作ってみるか? でも、食べきれないよなあ……
「琥珀糖? 食べたことあるよー」
昼休み、廊下で偶然会った百瀬に聞けば、思った通りの答えが返ってきた。
「そんな気はしてた」
「作ったこともあるけどねー、お店で買ったのも食べたし」
「うまいのか?」
「んー、人によるよねえ」
百瀬は顎に手を当て、楽しそうに話した。
「俺は甘いもの好きだし、おいしいと思うけど。弟は苦手だって言ってたな~。甘いからねえ。食感も独特だし」
「へー……食ってみたいな」
「あれ? 一条は食べたことない?」
と、少しびっくりしたように百瀬が言う。
「一条なら、この世の食べられるものは、全部食べてると思ってた」
「俺を何だと思ってる」
そんなこと、やってみたいけど。
百瀬はからかうように笑う。
「はは、そりゃそっか。へえ、でも、そっかあ」
そして少し考えこむと、妙案をひらめいたというように表情を輝かせた。
「じゃあ、今度作ってきてあげる!」
「え? いやそんな」
「いーの、俺が作りたいだけだから!」
と、百瀬はにこにこ、うきうきして言った。本当にお菓子が好きなんだなあ、と思いながら見ていたら、百瀬は言った。
「いっぱいできるから、井上も呼びなよ!」
「あ、おう。そうだな」
「何色にしよっかなー。マーブル模様とかもいいよねー」
これは思わず、早いとこ、食べられそうだな。琥珀糖。
美術室の窓を開けると、さあっと気持ちのいい風が入って来た。暑いけど、確かに秋の足音が聞こえてきている。
「ほーっ、これが琥珀糖かあ」
実物は初めてだ、と言う咲良の声に振り返る。机の上には百瀬が作って来た琥珀糖が、タッパーいっぱいに入っていた。朝比奈も興味津々である。
「色とりどりだな……」
「形もいろいろだよー。三角とか丸とか、四角とか。ほんとはいろいろ作ってみようと思ったんだけど、今日はこれだけ」
まるで積み木のようだ。カラフルで、規則正しい形。そう言えば、そう言うディスプレイで写真を撮っている人もいたような。
「ま、とりあえず食べて。味は全部一緒だけど」
「おう、いただきます」
じゃあ、三角のやつを一つ。
一口サイズだが、噛み切ってみる。サク、ザクっとしたような食感に、ほろっとした中身。おお、なんだこれ、面白い。ただの寒天とはまた違って、ほどけるようというか、何というか。ザクザクのところも、さらっと広がるというか……
そして、シンプルな砂糖味。ガツンとくるなあ。確かに、甘いもの苦手だと厳しいのかな。俺は割と、嫌いじゃないかも。
「面白いでしょ?」
と、百瀬が言った。
「うん、面白い。結構うまい」
「でしょー?」
「なんか、癖になるな」
と、咲良が楽しそうに言った。
あ、薄っぺらいやつは、もっとサクサクしている。よく乾燥しているやつもうまいな。たくさん食べるものではないかもしれないけど、ちょっと甘いもの、ってときにはよさそうだ。
「熱いお茶が欲しいな」
朝比奈は言いながら、四角い琥珀糖を口にした。あ、確かに、お茶請けって感じだよな。
「今度、お店のやつも食べてみてほしいなー。色々あるんだー」
百瀬はサクサクと琥珀糖を食べながら言った。お店のか……それも気になるし、自分でも作ってみたい。
あの本、借りてみようかな。
「ごちそうさまでした」
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