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日常
第758話 海鮮丼
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「おーっ、怒涛のラインナップ」
お菓子を買って帰ると、皆、それを囲んで群がった。おお、なんか、なんか……
「動物園でさ、こういう風景ない?」
こそっと咲良が耳打ちしてくる。そう、それだ。なんか、動物っぽさがあるよな。各々で興味を示すお菓子も違うし、さっそく開ける人もいれば、ただ眺める人もいるし、コップの準備を始める人もいる。
わらわらと人が行きかい、さて、準備が整ったという頃になって先生が来た。
「おお、買ってきたか。どれ、何を買ってきたんだ」
「先生、見計らってきたでしょ。準備終わるの」
部員の一人が、お菓子をのぞき込む先生に言うと、先生は白々しく、「そんなことはないぞ」と言って笑った。
「渋いものを買ってきたんだなあ、誰が買ってきたんだ?」
先生の問いに、部員の視線が俺たち四人に向く。
「これは、誰のチョイスだ?」
「えー? みんなにリクエストもらったんで、誰のリクエストだろう?」
と、早瀬はうまくはぐらかす。
「じゃあ席ついて。始めるよー」
各々、うまく円になるように座る。
「えー、まず、後期課外が始まったわけだけど……」
汗かいてたからか、スポドリが妙にうまい。
「スポドリに合うお菓子って、何」
と、隣に座る咲良が小声で言う。
「さあ……好きなの食えばいいと思うけど」
「えー、チョコとかどうかなあ?」
「食ってみろよ」
確かに、スポーツドリンクと一緒に食うものって、何だろう。お菓子と一緒に飲むようなものでもないのか? うーん、まあいいや。ポテチ食おう。
ジャガイモの味に甘い塩気、そこに、スポドリの風味。うーん、いかにも夏っぽい。
ここにゲームがあればなあ。
「チョコは微妙かも、俺は」
「そうか」
先生は夏季課外について少し話をした後、部活動の話に入った。
「まず体育祭の準備が本格的に始まるわけだが、同時進行で、大会に向けての練習もしないといけない。日程については……」
大会かあ、俺らもついて行くのかな。雑用とかあるんなら、行くんだろうなあ。今年の体育祭は、どうなるんだろう。つつがなく終わってほしいけど、そうはいかないような気がする。
体育祭って、学校行事の中でも、いざこざが起きやすいもののひとつのように思う。文化祭と一、二を争うかな。勝手なイメージだけど。
あ、このチョコレート、一回溶けたな。変な形になってる。甘いのは変わらないか。味が落ちるとかいうけど、まあ、気持ち、いつもと風味が違うかな。うーん、うまいからいいか。
「それと今年から、知っての通り、二学期に新しい行事が加わることになった」
あー、そういや、予定表になんか書いてあったな~。今年は創立記念かなんかで、いろいろ新しいこと始めてんだよな。
周年イベとか、新規機能追加とか、ソシャゲみてぇ。
「創立記念日に式典が行われるが、今年からは、学園祭もある」
「それってほぼ文化祭じゃないですか」
一人の部員が言うと、他の部員も、「確かにー」とか、「何が違うん?」と気だるげに相槌を打った。
イベントとなると授業がつぶれて喜ぶ生徒が多いものだが、放送部からしてみれば、仕事が増えるのだから素直には喜べないのかもしれない。まあ、俺も一応放送部だし、分からんでもないな。
「クラスごとの発表とかあるから、司会進行の仕事が結構あるぞ」
「ひえ~」
「体育祭が終わるくらいには準備を始めないとな」
「やべー、その間にテストとかあるわけじゃん?」
「放送部に対する負担のでかさよ」
部員たちはもはや笑うしかないのである。
各クラスの出し物に参加しなくていいのは、ちょっとラッキーかもしれない。しかし、無茶振りもありそうだなあ、という気もしなくもない。ま、考えてもしょうがないか。
「とにかく、山場はそこだな。そして後は細々と……」
大雑把な流れの説明の後、細かい日程の話が始まった。
さて、どんな二学期になることやら。まあ、忙しかったら、あっという間に過ぎて冬休みか。
それはそれで、いいのかもしれないなあ。
今日は普段の授業が行われているときと同じ時間に家に帰りついた。
「それでねー、今日はちょっと遠出してみたんだけど」
と、台所に立つ母さんが言う。その隣ではワクワクした様子の父さんが何か準備をしていた。うきうきしている、ともいえるな。
「お客の多い鮮魚屋さんがあってね、寄ってみたらまあ、お刺身が安くって」
「へー」
「今日は海鮮丼にしようと思って」
おお、それはラッキーだ。ああ、なるほど。父さんはその盛り付け担当なわけだ。だから楽しそうにしているんだな。
「ほら見ろ、春都。父さん、うまいだろう」
と、父さんがどんぶりを持ってきた。
マグロにサーモン、イカ、エビ、それに細かく切ったホタテが散りばめてあって、何とも豪華だ。
「すごい、お店みたい」
「だろう?」
それと、わかめと豆腐のみそ汁か。いいねえ、豪華な定食じゃないか。
「いただきます」
小皿に醤油を出して、わさびを溶かす。それを回しかけて……じゃあ、最初は、マグロかな。
ひんやりとした舌触り、この感じはマグロにしかないよな。赤身の風味が鼻に抜け、醤油の香ばしさとわさびの刺激がよく合う。ご飯が程よく冷めているからいい。少し酸味を感じる、酢飯だな。
ごまが混ぜてあるから、それも相まってうまい。
イカは……おお、コリコリしてる。柔らかいだけじゃなくて、ちゃんと歯ごたえがあるの、好きだな。噛みしめるほどに淡白な味わいからじわじわと甘みが滲み出してきて、浅く入った切れ目に醤油が染みて、いい。
ホタテ、甘いなあ。細かく切ってあるのがなんかうれしい。程よくプリプリで、甘く、生臭くない。
えびがでかいなあ。こんなえび、食べたことないかもしれない。
おお、弾力。そしてとろりととろける感じ。口に広がる甘さが上品で、尻尾の中までしっかり食べねばもったいないという気持ちになる。
サーモンには少しレモンを。そうそう、この甘さと脂、そこに醤油とわさび、ふんわり香るレモン。こってりしつつも、さっぱりと味わえる。このサーモンは、うまいなあ。炙ってもよさそうだ。
温かい味噌汁は、海鮮丼によく合うのだ。
つるんとしたわかめの歯ごたえと、豆腐の柔らかな口当たりがたまらないな。
まさかこんな贅沢ができるだなんて、思いもしなかった。正直部活が長引いてちょっと面倒かな、なんて思ってたけど、頑張ってみるのも悪くない。
人ってやっぱり、ご褒美、必要だよなあ。
さて、次頑張るために、何を用意しよう。それを考えるのもまた、楽しいな。
酢飯もごまも最後まで、サーモンで拭って食べきった。
「ごちそうさまでした」
お菓子を買って帰ると、皆、それを囲んで群がった。おお、なんか、なんか……
「動物園でさ、こういう風景ない?」
こそっと咲良が耳打ちしてくる。そう、それだ。なんか、動物っぽさがあるよな。各々で興味を示すお菓子も違うし、さっそく開ける人もいれば、ただ眺める人もいるし、コップの準備を始める人もいる。
わらわらと人が行きかい、さて、準備が整ったという頃になって先生が来た。
「おお、買ってきたか。どれ、何を買ってきたんだ」
「先生、見計らってきたでしょ。準備終わるの」
部員の一人が、お菓子をのぞき込む先生に言うと、先生は白々しく、「そんなことはないぞ」と言って笑った。
「渋いものを買ってきたんだなあ、誰が買ってきたんだ?」
先生の問いに、部員の視線が俺たち四人に向く。
「これは、誰のチョイスだ?」
「えー? みんなにリクエストもらったんで、誰のリクエストだろう?」
と、早瀬はうまくはぐらかす。
「じゃあ席ついて。始めるよー」
各々、うまく円になるように座る。
「えー、まず、後期課外が始まったわけだけど……」
汗かいてたからか、スポドリが妙にうまい。
「スポドリに合うお菓子って、何」
と、隣に座る咲良が小声で言う。
「さあ……好きなの食えばいいと思うけど」
「えー、チョコとかどうかなあ?」
「食ってみろよ」
確かに、スポーツドリンクと一緒に食うものって、何だろう。お菓子と一緒に飲むようなものでもないのか? うーん、まあいいや。ポテチ食おう。
ジャガイモの味に甘い塩気、そこに、スポドリの風味。うーん、いかにも夏っぽい。
ここにゲームがあればなあ。
「チョコは微妙かも、俺は」
「そうか」
先生は夏季課外について少し話をした後、部活動の話に入った。
「まず体育祭の準備が本格的に始まるわけだが、同時進行で、大会に向けての練習もしないといけない。日程については……」
大会かあ、俺らもついて行くのかな。雑用とかあるんなら、行くんだろうなあ。今年の体育祭は、どうなるんだろう。つつがなく終わってほしいけど、そうはいかないような気がする。
体育祭って、学校行事の中でも、いざこざが起きやすいもののひとつのように思う。文化祭と一、二を争うかな。勝手なイメージだけど。
あ、このチョコレート、一回溶けたな。変な形になってる。甘いのは変わらないか。味が落ちるとかいうけど、まあ、気持ち、いつもと風味が違うかな。うーん、うまいからいいか。
「それと今年から、知っての通り、二学期に新しい行事が加わることになった」
あー、そういや、予定表になんか書いてあったな~。今年は創立記念かなんかで、いろいろ新しいこと始めてんだよな。
周年イベとか、新規機能追加とか、ソシャゲみてぇ。
「創立記念日に式典が行われるが、今年からは、学園祭もある」
「それってほぼ文化祭じゃないですか」
一人の部員が言うと、他の部員も、「確かにー」とか、「何が違うん?」と気だるげに相槌を打った。
イベントとなると授業がつぶれて喜ぶ生徒が多いものだが、放送部からしてみれば、仕事が増えるのだから素直には喜べないのかもしれない。まあ、俺も一応放送部だし、分からんでもないな。
「クラスごとの発表とかあるから、司会進行の仕事が結構あるぞ」
「ひえ~」
「体育祭が終わるくらいには準備を始めないとな」
「やべー、その間にテストとかあるわけじゃん?」
「放送部に対する負担のでかさよ」
部員たちはもはや笑うしかないのである。
各クラスの出し物に参加しなくていいのは、ちょっとラッキーかもしれない。しかし、無茶振りもありそうだなあ、という気もしなくもない。ま、考えてもしょうがないか。
「とにかく、山場はそこだな。そして後は細々と……」
大雑把な流れの説明の後、細かい日程の話が始まった。
さて、どんな二学期になることやら。まあ、忙しかったら、あっという間に過ぎて冬休みか。
それはそれで、いいのかもしれないなあ。
今日は普段の授業が行われているときと同じ時間に家に帰りついた。
「それでねー、今日はちょっと遠出してみたんだけど」
と、台所に立つ母さんが言う。その隣ではワクワクした様子の父さんが何か準備をしていた。うきうきしている、ともいえるな。
「お客の多い鮮魚屋さんがあってね、寄ってみたらまあ、お刺身が安くって」
「へー」
「今日は海鮮丼にしようと思って」
おお、それはラッキーだ。ああ、なるほど。父さんはその盛り付け担当なわけだ。だから楽しそうにしているんだな。
「ほら見ろ、春都。父さん、うまいだろう」
と、父さんがどんぶりを持ってきた。
マグロにサーモン、イカ、エビ、それに細かく切ったホタテが散りばめてあって、何とも豪華だ。
「すごい、お店みたい」
「だろう?」
それと、わかめと豆腐のみそ汁か。いいねえ、豪華な定食じゃないか。
「いただきます」
小皿に醤油を出して、わさびを溶かす。それを回しかけて……じゃあ、最初は、マグロかな。
ひんやりとした舌触り、この感じはマグロにしかないよな。赤身の風味が鼻に抜け、醤油の香ばしさとわさびの刺激がよく合う。ご飯が程よく冷めているからいい。少し酸味を感じる、酢飯だな。
ごまが混ぜてあるから、それも相まってうまい。
イカは……おお、コリコリしてる。柔らかいだけじゃなくて、ちゃんと歯ごたえがあるの、好きだな。噛みしめるほどに淡白な味わいからじわじわと甘みが滲み出してきて、浅く入った切れ目に醤油が染みて、いい。
ホタテ、甘いなあ。細かく切ってあるのがなんかうれしい。程よくプリプリで、甘く、生臭くない。
えびがでかいなあ。こんなえび、食べたことないかもしれない。
おお、弾力。そしてとろりととろける感じ。口に広がる甘さが上品で、尻尾の中までしっかり食べねばもったいないという気持ちになる。
サーモンには少しレモンを。そうそう、この甘さと脂、そこに醤油とわさび、ふんわり香るレモン。こってりしつつも、さっぱりと味わえる。このサーモンは、うまいなあ。炙ってもよさそうだ。
温かい味噌汁は、海鮮丼によく合うのだ。
つるんとしたわかめの歯ごたえと、豆腐の柔らかな口当たりがたまらないな。
まさかこんな贅沢ができるだなんて、思いもしなかった。正直部活が長引いてちょっと面倒かな、なんて思ってたけど、頑張ってみるのも悪くない。
人ってやっぱり、ご褒美、必要だよなあ。
さて、次頑張るために、何を用意しよう。それを考えるのもまた、楽しいな。
酢飯もごまも最後まで、サーモンで拭って食べきった。
「ごちそうさまでした」
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