一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第754話 ばあちゃん飯

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 父さんの実家から帰って来て、今度は母さんの実家……じいちゃんとばあちゃんの家に行く。
「はぁ~」
「わう」
 裏の部屋でうめずにもたれかかり、思いっきり脱力する。
 父さんの実家もよかったと思う。普段見ない景色も見られたし、楽しかった。でもやっぱ、落ち着くんだよなあ。
 向こうで買ったお土産を持ってきたのだが、つい、くつろいでしまっている。
 カステラと角煮饅頭。もちろん、自宅用にも買ってきた。カステラは一瞬でなくなりそうだ。おいしいところの買えてよかった。
「春都~、お土産ありがとうね」
 と、ばあちゃんがやって来た。
「角煮饅頭は店でも食ったけど、うまかったよ」
「あら、それは楽しみ」
「カステラもおいしいとこのだし」
「いいねえ」
 ばあちゃんはにこにこ笑って聞いてきた。
「楽しかった?」
「んー、うん。きれいだったよ、色々」
 あの町の景色とか、空気とか。他にも行ってみたいところはたくさんあったから、今度行くことがあれば、見て回りたいものだ。
「ばあちゃんたちと一緒に行きたいなあ」
 何気なく言えば、ばあちゃんは、「そう」と少し高い声で言って笑った。
「そうだ、春都。アイス食べない?」
「食べるー」
「こっちおいで。いろいろ買ってきてるから」
 アイスアイス~。
 立ち上がって居間の方へ向かうと、うめずもついてきた。父さんと母さんは、じいちゃんに色々写真を見せているようだった。
「みて、この春都。一生懸命本読んでて撮られてることに気付いてないの」
「え」
 ちょっと待て、なんか聞き捨てならないことが。
「春都~? アイスどれにする~?」
「あ、はーい」
 まあいいや、後で見よう。
 おお、本当だ。冷凍庫の中には、所狭しといろいろなアイスがぎゅうぎゅうに詰まっている。より取り見取りだ。
 え~、どれにしよっかなー、迷うなあー。
 バニラも捨てがたいし、チョコも食べたい。ああ、久しぶりに抹茶もいいなあ。お、こっちはかき氷ときたか。うーむ、チョコチップなんぞもあるぞ。ほう、キャラメルか……あれ、これ、高いやつじゃね?
「これもいいの?」
 ちょっとお高い、クッキーサンドのアイスクリームを手に取れば、ばあちゃんは深く頷いた。
「いいよ~、全部春都の物」
「お腹壊しちゃうなあ」
 でも、嬉しい。じゃ、これ食べよう。
 ソファに座って、慎重にパッケージを開く。む、箱の大きさに比べて、サイズがお上品だな。まあ、それがいいところなんだろう。
「いただきます」
 薄くパリッとしたクッキー生地は、ほんの少し最中っぽさもある。軽くて香ばしく、ほんのり甘い。
 中のアイスはキャラメルフレーバーのホワイトチョコでコーティングされていて、なんだか不思議な風味だ。アイスそのものはキャラメルが濃い。コクが深く、上品なバニラの風味とキャラメルの香ばしさ。
 久しぶりに食ったなあ、これ。まず自分じゃ買わないもん。せいぜい百円にも満たないカップのやつだもんなあ。
「ね、春都。これ覚えてる?」
 と、母さんが振り返ってスマホを見せてくる。そこには、床に座り込んで本を読む俺の姿が写っていた。
「そう、聞こうと思ってた。いつ撮ったの」
「いつって、ねえ」
「やっぱり気付いてなかったかあ」
 父さんまで楽しそうに笑った。
「昔っから、本読みだすと静かだし一生懸命になってね~」
「ああ、そうだったな」
 と、じいちゃんとばあちゃんまで参加する始末である。
 いやいや、こういう思い出話は風景写真とかを見せるのではないのだろうか。なぜ、俺。いやまあいいんだけど。
 なんか、帰って来たって感じ、するなあ。

 晩飯の時間までだらだらと昼寝やらなにやら、実に夏休みらしい時間を過ごさせてもらった。
 テーブルには、俺の好物ばかりが並んでいる。
「いただきます」
 まずは、からあげだ。豚と鶏、両方揃っている。
 鶏肉の方から食べよう。この濃い色合い、たまらないなあ。カリッと、というよりガリッとした衣、ジュワッとあふれ出す肉汁。染み出す味付けはにんにく醤油か。うまいなあ、ご飯で追いかけるの、幸せだなあ。
 豚肉の方も似た味付けだが、また味わいが違う。ちょっと甘味があるというべきか。脂身の熱々、ジュワッとした感じ、噛み応えのある肉は、せんべいみたいにパリパリとした部分もある。
 さて、次は手元に見える茶碗蒸しを。
 ぷるぷる、つやつやの茶碗蒸し。ジュワッと口に広がる出汁の風味、トロッと、さらっと、その中間を行くようなくちどけ。一緒に入っている具材のうま味もあって、最高だ。しいたけって、うま味の塊だよなあ。あ、鶏肉もいい。
 山盛りになっているこの緑色は、枝豆だ。ほのかに温かい枝豆は薄い塩味。シンプルで主張の少ない味だが、次々と食べてしまう。噛みしめるとにじみ出る豆の風味。夏の香りだ。
 からあげにマヨネーズ。うん、この食いごたえ、恋しかった。そうそう、柚子胡椒も混ぜてみよう。
 ピリッと辛さにマヨネーズのまろやかさ、柚子のさわやかな風味、たまんないな。
 あ、皮。パリパリのサクサクで、ジュワジュワだ。この味をかみしめるたびに、皮だけのからあげが売られているのも、納得だなあ、と思うのだ。
 しかしやはり、身があってこそのからあげだという思いもある。やっぱどうしてもうまいんだよ、からあげって。
 残った分は、明日の朝ごはん。一晩経ったからあげも最高にうまいのだ。レンジでチンして温め直すときの、あの匂いもいい。揚げてる最中の匂いもいいんだけど、それぞれで良さというものがあるのだ。
 はあ、うまかった。腹いっぱいだ。
 そうだ、デザートにアイスを食べよう。今度は……何にしようかなあ。

「ごちそうさまでした」
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