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日常
第749話 からあげ
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前期課外は終わったが、一日だけ登校日がある。
「よーし、皆来てるな~」
夏休みの課外中にはなかった朝のホームルーム。先生は教室を見回すと、手に持っていたプリントに視線を落とした。
「えー、今日は事前に話していた通り、グラウンドとかの清掃があります。後期課外から、体育祭の練習が入るから」
そう、体育祭の準備だ。グラウンドの石拾い、雑草取り、その他いろいろ。部活ごとに場所の仕事が割り振られているので、その辺はちょっと気楽だ。
「解散後はそれぞれの持ち場に着くように。無所属の人は先生のところに集合。何か連絡のある者は?」
「ないでーす」
「ありませーん」
「よし、じゃあ、解散」
一斉に立ち上がるので、ガタガタと椅子の音がうるさい。時間差で、よそのクラスからも同じ音が聞こえてくる。
「あ、そうだ。今日も暑いからなー。水筒とか帽子とか、ちゃんと持って行くんだぞ」
「はぁーい」
教室内は一気に騒がしくなる。
「やべ、水筒忘れた。お茶買うか」
「せんせー、スポドリもありっすか?」
「構わんぞ。帽子忘れんなよー」
「髪結びなおしてこよ」
放送部は確か、グラウンドだっけ。暑いのやだなあ、廊下と外だったら、どっちが暑いかなあ。
ほんの少し風があるから気分的に涼しい……かと思ったら、そういうわけでもないらしい。むしろ熱風という感じで、暑さが倍増している。
「暑い……溶ける……」
そう言うのは朝比奈だ。本部テントが設置されるところの掃除を任されたのだが、結構石が落ちている。はだしになることはないが、石があると何かと不都合があるらしい。確かに、機材出すときとかは、障害物が少ない方がいいな。
「氷食べたい……」
「氷食うと体冷えるもんな」
「なんかさー、今日の暑さってさあ」
咲良がプチプチと雑草をむしりながら……もとい、ちぎりながら言う。
「暑いっていうより、熱いって感じだよな」
少しばかり沈黙が広がり、周囲の話声が聞こえてくる。あれをこっちに持って来い、ここを片付けないと道具がしまえない、テントはいつ出す、立ててみるかどうか、壊れていないかチェックはしたか……
「あ、分かる? あついってさ、普通、暑中お見舞いの暑って書くじゃん。でもさ、今日は、熱中症の熱って字っぽいなって話」
咲良が雑草を片手に持ったまま、身振り手振りを交えて言う。
「分かる分かる」
「……あ、ああ。そういうこと」
朝比奈が拾った石を力なくグラウンドの外にやりながらつぶやく。
「急に何を言い出したのかと。暑さでとうとう変になったかと思った」
「まー、この暑さだと変にもなるよな~」
グイッと汗をぬぐい、咲良は雑草をゴミ袋に入れた。
「そういうのって根っこから取らねーと、また生えてくんじゃねーの」
「えー、だって取れないもん。地面かたすぎ」
「てか雑草多くね?」
周りを見回してみても、結構青々としている。この暑さのせいで草木も元気がなくなったかと思ったが、雑草は元気だ。いつも以上の勢いで成長している気がする。
「うわ、この雑草、背ぇ高~」
咲良が笑って、でかい雑草に手をかける。身長ほどまではないが、結構なデカさだ。
「しかも抜けないというね」
「どれ、貸してみろ」
雑草を貸せというのどうなんだ、と自分でも思いながら、青臭い雑草を握りしめる。
……途中でちぎれるかとも思ったが、そんな気配もない。実に強い雑草だ。根が深いのか何なのか。たまにあるよなあ、こういう雑草。
咲良が手を出してくると言った。
「よし、じゃあもうみんなでやろう。朝比奈も手ぇ貸せ」
「え~……」
咲良の言葉に朝比奈は不満そうにしながらも、雑草を握る。三人で引っ張っていると、ちょっとずつ抜ける気配がしてきたぞ……
「うわっ」
一気に抜けた。全体重かけてたから、三人そろって地面に座り込む。
すると、どうやらその様子を見ていたらしい早瀬が通りかかり、こう言った。
「おおきなかぶの収穫?」
すっかり疲れて家に帰ると、昼飯が用意されていた。キャベツの千切り……だけがのった皿だ。
「メインは今から準備するから、着替えてらっしゃい」
母さんに言われた通り着替えて、洗濯物を洗濯機に放り込んで戻ってくると、とても香ばしい香りが漂っていた。これは、からあげだ。
「揚げたてを食べさせたくてね」
「ありがとう、いただきます」
揚げたてのからあげって久しぶりだ。
やっぱり最初はそのままだよなあ。こんがりとした茶色が嬉しい。カリッと香ばしく、サクッと歯切れ良い衣。クリスピーな感じもあるのがうまい。そして、ジュワッとあふれ出す脂と肉汁。たまんねぇなあ。
ニンニク控えめの醤油味は、香ばしく、ご飯に合う。もちもち、プリプリの身にもよく染みている。
そして次はマヨネーズを。
からあげにマヨネーズって、どうしてこうも合うんだろう。まろやかなマヨネーズのこっくりとした口当たりと味わい、わずかばかりの塩気が、からあげの味わいと相まって少し濃く感じられる。
脂に油、って感じなのが、面白くてうまい。
柚子胡椒も一緒につけると、爽やかでいいなあ。ピリッと辛いのも、いい刺激になっている。
キャベツにはドレッシング。からあげでこってりした口に、青い香りが爽やかだ。
少し冷めたからあげは一口で食べてみる。んー、中はまだ熱々だ。いっぺんに肉が味わえていいなあ、一口で食うの。
「本当はにんにくいっぱい入れようかなーって思ったんだけど」
母さんが向かいに座って、麦茶を飲みながら言う。いくつか入っているらしい氷が、カランと音を立てた。
「人と会うことがあるかもと思って、控えめにしたよ」
「あー……確かに」
夏休みは、急に何があるか分からないからなあ。
急に家にやってくる奴もいることだしな。
「ごちそうさまでした」
「よーし、皆来てるな~」
夏休みの課外中にはなかった朝のホームルーム。先生は教室を見回すと、手に持っていたプリントに視線を落とした。
「えー、今日は事前に話していた通り、グラウンドとかの清掃があります。後期課外から、体育祭の練習が入るから」
そう、体育祭の準備だ。グラウンドの石拾い、雑草取り、その他いろいろ。部活ごとに場所の仕事が割り振られているので、その辺はちょっと気楽だ。
「解散後はそれぞれの持ち場に着くように。無所属の人は先生のところに集合。何か連絡のある者は?」
「ないでーす」
「ありませーん」
「よし、じゃあ、解散」
一斉に立ち上がるので、ガタガタと椅子の音がうるさい。時間差で、よそのクラスからも同じ音が聞こえてくる。
「あ、そうだ。今日も暑いからなー。水筒とか帽子とか、ちゃんと持って行くんだぞ」
「はぁーい」
教室内は一気に騒がしくなる。
「やべ、水筒忘れた。お茶買うか」
「せんせー、スポドリもありっすか?」
「構わんぞ。帽子忘れんなよー」
「髪結びなおしてこよ」
放送部は確か、グラウンドだっけ。暑いのやだなあ、廊下と外だったら、どっちが暑いかなあ。
ほんの少し風があるから気分的に涼しい……かと思ったら、そういうわけでもないらしい。むしろ熱風という感じで、暑さが倍増している。
「暑い……溶ける……」
そう言うのは朝比奈だ。本部テントが設置されるところの掃除を任されたのだが、結構石が落ちている。はだしになることはないが、石があると何かと不都合があるらしい。確かに、機材出すときとかは、障害物が少ない方がいいな。
「氷食べたい……」
「氷食うと体冷えるもんな」
「なんかさー、今日の暑さってさあ」
咲良がプチプチと雑草をむしりながら……もとい、ちぎりながら言う。
「暑いっていうより、熱いって感じだよな」
少しばかり沈黙が広がり、周囲の話声が聞こえてくる。あれをこっちに持って来い、ここを片付けないと道具がしまえない、テントはいつ出す、立ててみるかどうか、壊れていないかチェックはしたか……
「あ、分かる? あついってさ、普通、暑中お見舞いの暑って書くじゃん。でもさ、今日は、熱中症の熱って字っぽいなって話」
咲良が雑草を片手に持ったまま、身振り手振りを交えて言う。
「分かる分かる」
「……あ、ああ。そういうこと」
朝比奈が拾った石を力なくグラウンドの外にやりながらつぶやく。
「急に何を言い出したのかと。暑さでとうとう変になったかと思った」
「まー、この暑さだと変にもなるよな~」
グイッと汗をぬぐい、咲良は雑草をゴミ袋に入れた。
「そういうのって根っこから取らねーと、また生えてくんじゃねーの」
「えー、だって取れないもん。地面かたすぎ」
「てか雑草多くね?」
周りを見回してみても、結構青々としている。この暑さのせいで草木も元気がなくなったかと思ったが、雑草は元気だ。いつも以上の勢いで成長している気がする。
「うわ、この雑草、背ぇ高~」
咲良が笑って、でかい雑草に手をかける。身長ほどまではないが、結構なデカさだ。
「しかも抜けないというね」
「どれ、貸してみろ」
雑草を貸せというのどうなんだ、と自分でも思いながら、青臭い雑草を握りしめる。
……途中でちぎれるかとも思ったが、そんな気配もない。実に強い雑草だ。根が深いのか何なのか。たまにあるよなあ、こういう雑草。
咲良が手を出してくると言った。
「よし、じゃあもうみんなでやろう。朝比奈も手ぇ貸せ」
「え~……」
咲良の言葉に朝比奈は不満そうにしながらも、雑草を握る。三人で引っ張っていると、ちょっとずつ抜ける気配がしてきたぞ……
「うわっ」
一気に抜けた。全体重かけてたから、三人そろって地面に座り込む。
すると、どうやらその様子を見ていたらしい早瀬が通りかかり、こう言った。
「おおきなかぶの収穫?」
すっかり疲れて家に帰ると、昼飯が用意されていた。キャベツの千切り……だけがのった皿だ。
「メインは今から準備するから、着替えてらっしゃい」
母さんに言われた通り着替えて、洗濯物を洗濯機に放り込んで戻ってくると、とても香ばしい香りが漂っていた。これは、からあげだ。
「揚げたてを食べさせたくてね」
「ありがとう、いただきます」
揚げたてのからあげって久しぶりだ。
やっぱり最初はそのままだよなあ。こんがりとした茶色が嬉しい。カリッと香ばしく、サクッと歯切れ良い衣。クリスピーな感じもあるのがうまい。そして、ジュワッとあふれ出す脂と肉汁。たまんねぇなあ。
ニンニク控えめの醤油味は、香ばしく、ご飯に合う。もちもち、プリプリの身にもよく染みている。
そして次はマヨネーズを。
からあげにマヨネーズって、どうしてこうも合うんだろう。まろやかなマヨネーズのこっくりとした口当たりと味わい、わずかばかりの塩気が、からあげの味わいと相まって少し濃く感じられる。
脂に油、って感じなのが、面白くてうまい。
柚子胡椒も一緒につけると、爽やかでいいなあ。ピリッと辛いのも、いい刺激になっている。
キャベツにはドレッシング。からあげでこってりした口に、青い香りが爽やかだ。
少し冷めたからあげは一口で食べてみる。んー、中はまだ熱々だ。いっぺんに肉が味わえていいなあ、一口で食うの。
「本当はにんにくいっぱい入れようかなーって思ったんだけど」
母さんが向かいに座って、麦茶を飲みながら言う。いくつか入っているらしい氷が、カランと音を立てた。
「人と会うことがあるかもと思って、控えめにしたよ」
「あー……確かに」
夏休みは、急に何があるか分からないからなあ。
急に家にやってくる奴もいることだしな。
「ごちそうさまでした」
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