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日常
第745話 ピーマンの肉詰め
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「あ~、涼し~……」
ベッドに大の字になって寝ころび、クーラーから出てくる冷風を享受する昼下がり。これ以上の夏の贅沢があるのだろうか。
特に何もしなくていい、というのはじつに幸福だ。
しかしずっとそうしていると、少し不安になってくる。ちょっとくらい動いた方がいいかなあ……って。難儀なものだ。
しかし、散歩するにも外は暑すぎる。
窓から見える空はペンキで塗りつぶしたように青く、雲一つない。太陽は絶好調に輝いているし、セミの鳴き声は聞こえない。暑すぎると、セミは鳴かないのだ。
うん、やっぱり外に出るのはやめておこう。考えてみれば、昨日、たっぷり泳いでいるのだ。
再び布団に横になろうとしたところで、インターホンが鳴った。だれだろう。
「はーい」
母さんが確認しにいったみたいだ。
「あら、こんにちは~。今開けるね~」
「誰だったんだ?」
「春都のお友達。春都~」
え、俺の友達? ってことは、あいつぐらいしかいないだろう。
部屋を出て、聞いてみる。
「……咲良?」
「そうみたい」
まあ、だろうなあ。何の連絡もなしに突撃してくる俺の知ってるやつといえば、咲良くらいしか思いつかない。
「はあ……」
蒸し暑い廊下に出て、そろそろか、という頃に玄関の扉を開ける。
「おっす春都!」
「昨日の今日で元気だな、お前……まあ、入れ」
「お邪魔します!」
咲良は何やら大きな荷物を抱えていた。何だろ、ビニール袋がいびつな形で膨らんでいる。
「こんにちは~」
「はい、こんにちは」
咲良は愛想よく父さんと母さんに挨拶すると、その荷物を差し出した。
「これ、よかったらどうぞ」
「あら、なにかな?」
「うちで取れたピーマンです」
「えーっ、いいの?」
母さんが嬉々としてそれを受け取る。ビニール袋の中にはたくさんのピーマンが詰め込まれていた。咲良は笑って言った。
「もー、消費しきれないくらいなんで!」
「ありがとうね~、じゃあ、ありがたくいただきます」
とりあえず俺の部屋に入る。
「なんでまたあんな大量な」
遠慮なく座布団を二枚使って座る咲良に聞けば、「それがさあ!」といつもの調子で言った。
「昨日プールに行っただろ? それで、帰ってから家族に、遊び過ぎだって言われてな」
「おお」
「たくさん遊んだんだから、ちっとは家のこと手伝え、って言われて、収穫手伝わされた」
「はは、そういうことだったのか」
咲良は少しくたびれた様子でため息をつき、笑う。
「家にいるといっつもこうなんだよなー」
「大変だな」
「そーなんだよ。だから遊びに行くんだけど、その後は必ず手伝わされる」
それを繰り返しているんだなあ、こいつ。
懲りた様子もないようで、咲良はへらっと笑った。
「だから今日は、友達におすそ分けしてくるって言って出てきた」
「また手伝わされるんじゃないのか、そんなことしたら」
「大丈夫大丈夫」
その自信はどこから来るのやら。思わず笑ってしまう。
「まあ、ありがとうな」
「おう」
結局、咲良はお菓子とジュースを楽しみ、ゲームをし、満足したのか夕方になってやっと帰った。なんか、小学生の頃を思い出す昼だったなあ。
さて、咲良が帰った後は晩飯の準備である。さっそく、ピーマンを使うらしい。
夏の光を浴びて育った野菜は、鮮やかな色をしている。
半分に切って、種を取って、そこに詰めるのはミンチ肉。今日の晩飯はピーマンの肉詰めだ。
「きれいねー、このピーマン。買おうと思ったら高いよ」
「そっかあ」
「じゃんじゃん詰めてっちゃって」
たっぷり詰めてもうまいが、やはり、バランスというものがある。うまい具合にピーマンも肉も楽しめる塩梅というものが。
焼くのは、母さんがやってくれるので、テーブルの準備をして待つ。
「はい、焼きたてどうぞ」
おお、うまそう。いい匂い。
「いただきます」
ピーマンの肉詰めは久しぶりだなあ。まずは醤油で。
おお、ピーマンがみずみずしくて、ジュワッと甘い。苦みは控えめだが、ピーマンらしい香りはちゃんとあるし、肉のうま味が染みて最高だ。ピーマンって、うまいよなあ。苦手なやつ多いけど、俺は小さいころから好きだ。
肉の表面はカリッとして香ばしく、中はふわふわだ。シンプルな塩こしょうと、醤油の味付けがいい。
生ピーマンに肉団子、っていうのもいいけど、一緒に焼いたのもうまいなあ。
これこそ慣れ親しんだピーマンの肉詰めというか、ご飯が進む。醤油の風味にみずみずしいピーマン、ジュワジュワの肉、これとご飯がうまくなじんでたまらない。
一つ一つのボリュームがすごいのに、次々食べてしまう。
そうだ、オーロラソースもかけてみよう。絶対合うと思う。
……うん、やっぱり。まろやかなマヨネーズにトマトの酸味が爽やかなケチャップ、まるでハンバーグのような味わいだ。ピーマンがあるから、少しさっぱりって感じかな。
肉単体でも、ピーマン単体でも食えるが、ここまで箸は進まない気がする。合わせて焼いたら、どうしてこんなに食べちゃうんだろう。
突然咲良が来たのにはびっくりしたが、まあ、うまい飯にありつけたから良しとしよう。
「何かお礼しなきゃねぇ」
と、母さんが言う。確かに、と思いながらピーマンの肉詰めをもう一つほおばった。ん~、うまい。
まだまだピーマンはたくさんある。今度は、何が食べられるかな。
「ごちそうさまでした」
ベッドに大の字になって寝ころび、クーラーから出てくる冷風を享受する昼下がり。これ以上の夏の贅沢があるのだろうか。
特に何もしなくていい、というのはじつに幸福だ。
しかしずっとそうしていると、少し不安になってくる。ちょっとくらい動いた方がいいかなあ……って。難儀なものだ。
しかし、散歩するにも外は暑すぎる。
窓から見える空はペンキで塗りつぶしたように青く、雲一つない。太陽は絶好調に輝いているし、セミの鳴き声は聞こえない。暑すぎると、セミは鳴かないのだ。
うん、やっぱり外に出るのはやめておこう。考えてみれば、昨日、たっぷり泳いでいるのだ。
再び布団に横になろうとしたところで、インターホンが鳴った。だれだろう。
「はーい」
母さんが確認しにいったみたいだ。
「あら、こんにちは~。今開けるね~」
「誰だったんだ?」
「春都のお友達。春都~」
え、俺の友達? ってことは、あいつぐらいしかいないだろう。
部屋を出て、聞いてみる。
「……咲良?」
「そうみたい」
まあ、だろうなあ。何の連絡もなしに突撃してくる俺の知ってるやつといえば、咲良くらいしか思いつかない。
「はあ……」
蒸し暑い廊下に出て、そろそろか、という頃に玄関の扉を開ける。
「おっす春都!」
「昨日の今日で元気だな、お前……まあ、入れ」
「お邪魔します!」
咲良は何やら大きな荷物を抱えていた。何だろ、ビニール袋がいびつな形で膨らんでいる。
「こんにちは~」
「はい、こんにちは」
咲良は愛想よく父さんと母さんに挨拶すると、その荷物を差し出した。
「これ、よかったらどうぞ」
「あら、なにかな?」
「うちで取れたピーマンです」
「えーっ、いいの?」
母さんが嬉々としてそれを受け取る。ビニール袋の中にはたくさんのピーマンが詰め込まれていた。咲良は笑って言った。
「もー、消費しきれないくらいなんで!」
「ありがとうね~、じゃあ、ありがたくいただきます」
とりあえず俺の部屋に入る。
「なんでまたあんな大量な」
遠慮なく座布団を二枚使って座る咲良に聞けば、「それがさあ!」といつもの調子で言った。
「昨日プールに行っただろ? それで、帰ってから家族に、遊び過ぎだって言われてな」
「おお」
「たくさん遊んだんだから、ちっとは家のこと手伝え、って言われて、収穫手伝わされた」
「はは、そういうことだったのか」
咲良は少しくたびれた様子でため息をつき、笑う。
「家にいるといっつもこうなんだよなー」
「大変だな」
「そーなんだよ。だから遊びに行くんだけど、その後は必ず手伝わされる」
それを繰り返しているんだなあ、こいつ。
懲りた様子もないようで、咲良はへらっと笑った。
「だから今日は、友達におすそ分けしてくるって言って出てきた」
「また手伝わされるんじゃないのか、そんなことしたら」
「大丈夫大丈夫」
その自信はどこから来るのやら。思わず笑ってしまう。
「まあ、ありがとうな」
「おう」
結局、咲良はお菓子とジュースを楽しみ、ゲームをし、満足したのか夕方になってやっと帰った。なんか、小学生の頃を思い出す昼だったなあ。
さて、咲良が帰った後は晩飯の準備である。さっそく、ピーマンを使うらしい。
夏の光を浴びて育った野菜は、鮮やかな色をしている。
半分に切って、種を取って、そこに詰めるのはミンチ肉。今日の晩飯はピーマンの肉詰めだ。
「きれいねー、このピーマン。買おうと思ったら高いよ」
「そっかあ」
「じゃんじゃん詰めてっちゃって」
たっぷり詰めてもうまいが、やはり、バランスというものがある。うまい具合にピーマンも肉も楽しめる塩梅というものが。
焼くのは、母さんがやってくれるので、テーブルの準備をして待つ。
「はい、焼きたてどうぞ」
おお、うまそう。いい匂い。
「いただきます」
ピーマンの肉詰めは久しぶりだなあ。まずは醤油で。
おお、ピーマンがみずみずしくて、ジュワッと甘い。苦みは控えめだが、ピーマンらしい香りはちゃんとあるし、肉のうま味が染みて最高だ。ピーマンって、うまいよなあ。苦手なやつ多いけど、俺は小さいころから好きだ。
肉の表面はカリッとして香ばしく、中はふわふわだ。シンプルな塩こしょうと、醤油の味付けがいい。
生ピーマンに肉団子、っていうのもいいけど、一緒に焼いたのもうまいなあ。
これこそ慣れ親しんだピーマンの肉詰めというか、ご飯が進む。醤油の風味にみずみずしいピーマン、ジュワジュワの肉、これとご飯がうまくなじんでたまらない。
一つ一つのボリュームがすごいのに、次々食べてしまう。
そうだ、オーロラソースもかけてみよう。絶対合うと思う。
……うん、やっぱり。まろやかなマヨネーズにトマトの酸味が爽やかなケチャップ、まるでハンバーグのような味わいだ。ピーマンがあるから、少しさっぱりって感じかな。
肉単体でも、ピーマン単体でも食えるが、ここまで箸は進まない気がする。合わせて焼いたら、どうしてこんなに食べちゃうんだろう。
突然咲良が来たのにはびっくりしたが、まあ、うまい飯にありつけたから良しとしよう。
「何かお礼しなきゃねぇ」
と、母さんが言う。確かに、と思いながらピーマンの肉詰めをもう一つほおばった。ん~、うまい。
まだまだピーマンはたくさんある。今度は、何が食べられるかな。
「ごちそうさまでした」
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