一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第741話 コンビニ飯

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 今日も相変わらず、いい天気だ。こんな日は家に引きこもるのがもったいない……なんてことはない。いい天気を涼しい部屋から眺められる贅沢を味わうべきだ。
「あー、夏休みだなあ……」
 涼しい部屋で寝転がり、ゲーム機の向こうに青空を見る。
 まぶしいなあ。
 傍らにはサイダーと、夏限定のポテトチップス。ちょっと辛くて、でもうま味がある不思議な味だ。それにシュワシュワの甘いサイダーがよく合うのである。
 あ、そうだ。そろそろ新イベント始まる頃だな、あのスマホゲーム。カードのレベル上げとかないと。ガチャもあるし、石貯めなきゃ。
「はー、さてと……」
 ゲームに充電器を差し込み、スマホを手に取る。
「おっと」
 握ったところでちょうど通知が。だいぶビビるな、これ。
「なんだあ」
 まさか、咲良じゃないだろうな。遊びに来たいとか、もうすでに家の前にいるよー、とか。あいつならやりかねん。特に今は、妹がいるとかいって、家にいたくないらしいし。
「……違ったか」
 日に二回送ってくるニュースアカウントだ。天気とか、話題のものとかを特集してるけど、正直まともに見たことはない。
 せっかくだし、見てみるか。
「テレビでやってることとほぼ一緒だなあ」
 猛暑、酷暑、熱中症、適切な水分補給の方法、エアコンの上手な使い方……暑さに関する情報が多い。そうだよなあ、暑いもんなあ。
 お、こっちはコンビニの最新情報か。
 コンビニの商品は日々目まぐるしく変わっている。スイーツなんて、一週間ごとに変わってるんじゃないかってくらい早い。一度お目にかかっても、次はない、みたいな。気になったものは早いとこ買わないと買い逃してしまうのだ。
 まあ、それが作戦なのかもしれないが。
「ひんやりスイーツ特集……」
 夏が本格的に始まると、冷たいものと辛い物の特集が増える気がする。腹壊しそうだ。
 ゼリーにアイス、かき氷……おう、冷たい激辛料理、ハイブリットだ。確かこないだの動画でもやってたな。氷みたいなスープの冷麺。あれってうまいのかなあ。
 それにしても、コンビニスイーツって、妙にうまそうに見えるんだよなあ……
「こっちのコンビニにあるかな」
 ネットで話題になっていても、それは都会の方にあるだけで、田舎の方にはない、みたいなことは多々あるのだ。
 それで何度痛い目に遭ったことか。
「ま、行ってみるか」
 ちょっとくらい、体を動かそう。

 外に出て数秒で、後悔するような日差しと暑さ。しかし行かねばなるまい。昼飯を託されたのである。
「コンビニ行くなら、冷やし中華買って来てほしい」
 と、母さんに頼まれたのである。
「暑いというか、痛いな、これは……」
 まるで日差しが細かい針のようだ。一斉に降り注いできて、肌に突き刺さる。そんで室内や日陰に入ったとて、すぐに抜けることはない。しばらく痛い。
 これは、日傘をさす理由が分かる。ありゃ盾だ。日差しという攻撃から身を護る盾。
「いらっしゃいませー」
 あー、コンビニ、涼しー……セーブポイントだ。
 さて、とりあえず冷やし中華を人数分。おお、売り場が拡大している。とろろそばや冷やしうどんもあるが、やはり、冷やし中華の幅が広い。売り切れの心配がないくらいだ。
 三つわしづかみにするわけにもいかないし、かごに入れよう。
「さてと」
 スイーツコーナーへ。
 おお、結構あるじゃないか。新商品の赤いシールがたくさんだ。ふむ、南国フェアか。ココナッツ、バナナ、マンゴーにドラゴンフルーツまで。南国系のフルーツは色が鮮やかだな。
 他にもいろいろあるな。これはゼリーだろうか。
 きれいな緑色をしている。こっちは水色か。なるほど、クリームソーダをイメージしたスイーツというわけだな。こういう見た目、好きなんだよな。
 うーん、悩むなあ。
 あ、これうまそう。シンプルだけど。サイダーゼリー。透明できれいで涼しげだ。
 そういえばうちにフルーツの缶詰があったな……そうだ。いいこと思いついた。

 往復だけで、マラソン走った後みたいに汗だくだ。この中で走っている人はいったいどれだけなんだろう。俺ならそもそも走ろうとも思わない。
 新しい洋服に着替えたらすっきりした。
「お、おいしそうなのを買って来てるじゃないか」
 と、父さんがゼリーに気付く。
「うん、後で食べようと思って」
「いいなあ」
 ふふ、ここから少し一工夫するけどな。とにかく、まずは昼飯から。
「いただきます」
 コンビニの冷やし中華、久しぶりだ。
 まずはスープをかけて、麺をほぐす。その上に具材をのせていく。細切りのきゅうりにハム、トマトと錦糸卵と紅しょうが。これは中華クラゲか。うん、うまそうだ。
 スープは程よく酸味があって、麺によく絡む。この味が、夏の暑い時には嬉しいものである。ほのかに感じるごま油のコク、うまみ。酸っぱいだけじゃないのもいいな。そしてこのスープは、野菜にも合う。
 青々とした香りのきゅうりはみずみずしく、トマトも甘い。錦糸卵はこれといって味付けされていないのか、卵の味が濃い。
 中華クラゲは食感もいいなあ。コリコリしていて、少しピリ辛の味付け。紅しょうがで口をさっぱりさせて、ハム。肉の風味がいい。
 冷やし中華って結構ボリュームあるけど、食べ始めるとあっという間になくなっちゃうんだよなあ。
 具材と麺を絡めて一気にすするとうまい。いろんな食感と味が口いっぱいに広がって、スープも余すことなくいただける。
 あ、からし入れてみよう。んー、結構辛いが、いいな、合う。
 ……さて、食い終わったらデザートの準備だ。
 透明の器に、ゼリーをスプーンですくい、入れる。ちょっと一口。シュワっとした舌触りにシンプルな甘さ、清涼感。いい、うまい。
 そこにフルーツの缶詰を少しのシロップと一緒に入れて、サイダーを注ぎ入れる。あはは、ゼリーが見えなくなった。
「お、フルーツポンチだね。一口ちょうだい」
「いいよ」
「父さんも一口」
 うん、言うと思った。
「ん、おいしいじゃない」
「ああ、うまいな」
 ジュワジュワに包まれたフルーツは、なんだか不思議な口当たりだ。炭酸の刺激が来たかと思えば、果汁の甘味とさわやかさがあふれてくる。みかん、うまいなあ。合うなあ。そんでもって、サイダーゼリーもうまい。炭酸同士、いい刺激になっている。
 パインは夏らしく爽やかで、桃はとろりと甘い。
 うん、これ、うまいな。ゼリー探すの、ちょっと大変だけど。
 また作ってみよう。あのゼリー、今年の夏いっぱい、販売されるといいなあ。

「ごちそうさまでした」
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