一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第七百三十六話 茹でえび

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 日曜の朝は、やっぱり気が抜ける。
 朝飯を食って部屋に戻り、ベッドに横になる。クーラーの効いた部屋でブランケットを羽織り、のんびりできる幸せよ。
「さて、何しよっかなー」
 昼飯まで時間がある。急いでやるべき課題も特にないし、好きに時間を使っていい。
 ゲーム、漫画……とりあえずスマホを見る。ニュースは朝からあまり変わっていないな。アプリゲームも、追いかけているアニメも、漫画も、新情報などは出ていない。
「んー……」
 次々と更新されていくSNS。適当に画面をスクロールしていたら、見慣れたアニメの絵が出てきた。公式じゃないか。
 へー、放送開始からもうそんなに経つのか。小学校低学年の時に初めて見たから……まあ、そんなもんか。書下ろしイラストかあ……うん、ちゃんといる。推しというか、好きなキャラというか、ちゃんといると嬉しい。
「保存っと」
 えーっと、なになに……えっ、再放送? 夏休みに合わせたスケジュールのようだ。これは録画しないと。チャンネルはどこだっけ。
「……あ、なーんだ」
 この辺じゃ放送されないのか。ちぇ、残念。
 まあ、円盤持ってるからいつだってみられるんだけどさあ。やっぱ、地上波で放送されてるのも見たいじゃん。コマーシャル挟むのは確かに面倒だが、それはそれでいいじゃん。
 放送日を待つあの気分、今日見られるぞという嬉しさ、次が待ち遠しい感覚、間をつなぐために繰り返し見るとかしちゃってさあ……しかも、夏休みだぞ? もうあれじゃん、小学生の頃の夏休みを完璧に再現できるじゃん。
 あと何回、このアニメを見たら夏休み終わるな、とか。あの切なさを含めての良さというものが……
 まあ、何言ってもどうしようもないんだけどな。
 ああー、思い出したらアニメ見たくなってきた。そういや、動画配信サイトで公式チャンネルが何話か配信してたっけ。
「これだ、これ」
 スマホを横に向け、スタンドに置いて、クッションを手の下に。
「よし」
 再生っ。
 長い広告の後、これでもかと聞いたオープニングが流れ出す。もちろん、アニメを見るときもそうだが、CDも持っているからな。しょっちゅう聞いている。
 目をつむって聞いても、アニメの映像をありありと思い浮かべることができる。
「んっふふ」
 いやあ、至福。
 そうそう、最初は皆こんなでなあ……主人公の底抜けの明るさにほっとする。あー、来た来た、推し。クールなキャラで、憧れたもんだ。
 一時期、洋服真似してたっけ。というか、俺の根っこを作ってるようなアニメだから、今でも無意識にそっちに寄っているかもしれないな。

 数話見た後、他にも何か動画がないか調べてみる。
「ん……これ、なんか見たことあるな」
 なんかひたすら飯食うやつ。これ……えびか? そういや今日の昼飯は、なんか、えびをどうにかするって母さんが言っていたような。
 食えるときに、その手の動画は見るべきだ。
「おー……えびだ……」
 頭のついたえびか。うちにあるのは、頭は落とされていたなあ。塩か? これ。鍋に敷き詰めて、えびを……おお、勢いがいい。そんで蓋して蒸すんだな。それで塩味つくのかなあ。ていうか、背ワタ取ったか?
 蒸し上がったら頭をちょん切って、それはバターで炒める……あっ、頭も食うのか。へえー……新鮮だと食えるとは聞いたが、なるほど、こういう調理方法が。
 えび、うまそうだなあ。バリッと殻を外して、ソースをつけて食べる。頭はどうやって食うんだろう……まずはかたいところを取ってそれから……一口か! すげーバリバリいってる、うまそうな音だなあ。なかなか衝撃的だが。うまいのかな? えびのせんべいみたいなもんか。食べられないところとかないのだろうか。
 へー、他にもいろいろ上がってんだなあ。
 え、なんだこれ。キムチ? 多すぎないか? キムチって、そんな大量に食うものなのか? うわ、なんだこのとうがらしの量。辛そう……真っ赤だ。
 こっちは肉で、こっちはホルモンか。カリッカリでうまそ……わ、油すげぇ。いくつか食べたら、腹いっぱいになりそうだ。
 カニとか、ロブスターとか、牡蠣とか……めっちゃ高そう。
 カニは蒸したのも生もうまそう。刺し身は一回食ってみたいな。ロブスターって、なんか、でっかいザリガニみてぇ。牡蠣はうまいだろうが、やはり量。量がすごいんだよ、すべて。
「はー……いろいろあるんだなあ」
 思わず癖になってしまいそうだ。
「あ、もうこんな時間」
 動画見てたらあっという間だなあ。そろそろ昼飯か。

「色々考えたんだけどね、やっぱこれがいいかなと思ったんだけど……どうしよっか」
 テーブルには、殻つきのまま塩ゆでされたえびがある。おお、さっきまで画面の向こうにあったものが目の前に。
「パンは一応焼いたよ」
 母さんの言葉にふと思い出す。確か、冷蔵庫にアボカドがあったはずだ。
「あのさ、こういうのはどうかな」
 思いついたものを言えば、母さんは即座に「いいね」と言って、あっという間にアボカドの準備も済ませてしまった。この素早さ、見習いたい。
「いただきます」
 さて、まずはエビだけで食べてみる。
 殻をむくこの工程が、落花生の殻をむいているようで楽しい。足をちぎって、パリッと剥がして……このままかぶりついてみる。
 おお、プリプリだ。ドロッとしてない。えびの臭みがなくって、噛みしめるといい風味とうま味が滲み出してくる。ほんのり感じる塩気がまたいい。ああ、シンプルな味付けって、いいなあ。尻尾の中まですっぽりきれいに食えたら気持ちがいい。
 ちょっと、オーロラソースをつけてみる。うん、合うじゃないか。ケチャップのトマト味にマヨネーズのまろやかさ。えびに合う。
 なんだかお正月みたいなにおいだなあ、と思いながらいくつか殻をむき、さて、パンを手に取る。
 アボカドのせて、ソース塗って、えびをのせて、またソース。そして、パン。
 えびアボカドのサンドイッチだ。ふふ、お店みたい。
 パリッと焼けたパンは香ばしく、中はもっちりしている。とろりととろけるようなアボカドのコク、森のバターといわれるのも納得だ。オーロラソースは、たいていのものに合うのだなあ。
 そしてえびのプリプリ。淡白な味わいが、程よく香る。
 んー、やっぱり正解だ。うまい。さすが、専門店でも人気であることが多い組み合わせである。
 にしても、あの動画の食いっぷり、気持ちがよかったな。またあとで見よう。
 今度は何を見よう。新しいものを知るのは、楽しいな。

「ごちそうさまでした」
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