一条春都の料理帖

藤里 侑

文字の大きさ
上 下
788 / 854
日常

第七百三十六話 茹でえび

しおりを挟む
 日曜の朝は、やっぱり気が抜ける。
 朝飯を食って部屋に戻り、ベッドに横になる。クーラーの効いた部屋でブランケットを羽織り、のんびりできる幸せよ。
「さて、何しよっかなー」
 昼飯まで時間がある。急いでやるべき課題も特にないし、好きに時間を使っていい。
 ゲーム、漫画……とりあえずスマホを見る。ニュースは朝からあまり変わっていないな。アプリゲームも、追いかけているアニメも、漫画も、新情報などは出ていない。
「んー……」
 次々と更新されていくSNS。適当に画面をスクロールしていたら、見慣れたアニメの絵が出てきた。公式じゃないか。
 へー、放送開始からもうそんなに経つのか。小学校低学年の時に初めて見たから……まあ、そんなもんか。書下ろしイラストかあ……うん、ちゃんといる。推しというか、好きなキャラというか、ちゃんといると嬉しい。
「保存っと」
 えーっと、なになに……えっ、再放送? 夏休みに合わせたスケジュールのようだ。これは録画しないと。チャンネルはどこだっけ。
「……あ、なーんだ」
 この辺じゃ放送されないのか。ちぇ、残念。
 まあ、円盤持ってるからいつだってみられるんだけどさあ。やっぱ、地上波で放送されてるのも見たいじゃん。コマーシャル挟むのは確かに面倒だが、それはそれでいいじゃん。
 放送日を待つあの気分、今日見られるぞという嬉しさ、次が待ち遠しい感覚、間をつなぐために繰り返し見るとかしちゃってさあ……しかも、夏休みだぞ? もうあれじゃん、小学生の頃の夏休みを完璧に再現できるじゃん。
 あと何回、このアニメを見たら夏休み終わるな、とか。あの切なさを含めての良さというものが……
 まあ、何言ってもどうしようもないんだけどな。
 ああー、思い出したらアニメ見たくなってきた。そういや、動画配信サイトで公式チャンネルが何話か配信してたっけ。
「これだ、これ」
 スマホを横に向け、スタンドに置いて、クッションを手の下に。
「よし」
 再生っ。
 長い広告の後、これでもかと聞いたオープニングが流れ出す。もちろん、アニメを見るときもそうだが、CDも持っているからな。しょっちゅう聞いている。
 目をつむって聞いても、アニメの映像をありありと思い浮かべることができる。
「んっふふ」
 いやあ、至福。
 そうそう、最初は皆こんなでなあ……主人公の底抜けの明るさにほっとする。あー、来た来た、推し。クールなキャラで、憧れたもんだ。
 一時期、洋服真似してたっけ。というか、俺の根っこを作ってるようなアニメだから、今でも無意識にそっちに寄っているかもしれないな。

 数話見た後、他にも何か動画がないか調べてみる。
「ん……これ、なんか見たことあるな」
 なんかひたすら飯食うやつ。これ……えびか? そういや今日の昼飯は、なんか、えびをどうにかするって母さんが言っていたような。
 食えるときに、その手の動画は見るべきだ。
「おー……えびだ……」
 頭のついたえびか。うちにあるのは、頭は落とされていたなあ。塩か? これ。鍋に敷き詰めて、えびを……おお、勢いがいい。そんで蓋して蒸すんだな。それで塩味つくのかなあ。ていうか、背ワタ取ったか?
 蒸し上がったら頭をちょん切って、それはバターで炒める……あっ、頭も食うのか。へえー……新鮮だと食えるとは聞いたが、なるほど、こういう調理方法が。
 えび、うまそうだなあ。バリッと殻を外して、ソースをつけて食べる。頭はどうやって食うんだろう……まずはかたいところを取ってそれから……一口か! すげーバリバリいってる、うまそうな音だなあ。なかなか衝撃的だが。うまいのかな? えびのせんべいみたいなもんか。食べられないところとかないのだろうか。
 へー、他にもいろいろ上がってんだなあ。
 え、なんだこれ。キムチ? 多すぎないか? キムチって、そんな大量に食うものなのか? うわ、なんだこのとうがらしの量。辛そう……真っ赤だ。
 こっちは肉で、こっちはホルモンか。カリッカリでうまそ……わ、油すげぇ。いくつか食べたら、腹いっぱいになりそうだ。
 カニとか、ロブスターとか、牡蠣とか……めっちゃ高そう。
 カニは蒸したのも生もうまそう。刺し身は一回食ってみたいな。ロブスターって、なんか、でっかいザリガニみてぇ。牡蠣はうまいだろうが、やはり量。量がすごいんだよ、すべて。
「はー……いろいろあるんだなあ」
 思わず癖になってしまいそうだ。
「あ、もうこんな時間」
 動画見てたらあっという間だなあ。そろそろ昼飯か。

「色々考えたんだけどね、やっぱこれがいいかなと思ったんだけど……どうしよっか」
 テーブルには、殻つきのまま塩ゆでされたえびがある。おお、さっきまで画面の向こうにあったものが目の前に。
「パンは一応焼いたよ」
 母さんの言葉にふと思い出す。確か、冷蔵庫にアボカドがあったはずだ。
「あのさ、こういうのはどうかな」
 思いついたものを言えば、母さんは即座に「いいね」と言って、あっという間にアボカドの準備も済ませてしまった。この素早さ、見習いたい。
「いただきます」
 さて、まずはエビだけで食べてみる。
 殻をむくこの工程が、落花生の殻をむいているようで楽しい。足をちぎって、パリッと剥がして……このままかぶりついてみる。
 おお、プリプリだ。ドロッとしてない。えびの臭みがなくって、噛みしめるといい風味とうま味が滲み出してくる。ほんのり感じる塩気がまたいい。ああ、シンプルな味付けって、いいなあ。尻尾の中まですっぽりきれいに食えたら気持ちがいい。
 ちょっと、オーロラソースをつけてみる。うん、合うじゃないか。ケチャップのトマト味にマヨネーズのまろやかさ。えびに合う。
 なんだかお正月みたいなにおいだなあ、と思いながらいくつか殻をむき、さて、パンを手に取る。
 アボカドのせて、ソース塗って、えびをのせて、またソース。そして、パン。
 えびアボカドのサンドイッチだ。ふふ、お店みたい。
 パリッと焼けたパンは香ばしく、中はもっちりしている。とろりととろけるようなアボカドのコク、森のバターといわれるのも納得だ。オーロラソースは、たいていのものに合うのだなあ。
 そしてえびのプリプリ。淡白な味わいが、程よく香る。
 んー、やっぱり正解だ。うまい。さすが、専門店でも人気であることが多い組み合わせである。
 にしても、あの動画の食いっぷり、気持ちがよかったな。またあとで見よう。
 今度は何を見よう。新しいものを知るのは、楽しいな。

「ごちそうさまでした」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから

キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。 「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。 何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。 一話完結の読み切りです。 ご都合主義というか中身はありません。 軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。 誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

処理中です...