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日常
第七百二十九話 ドーナツ
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熱中症予防であろう冷たいミストをくぐった先には、常設の屋台があった。たこ焼き、フランクフルト、フライドポテトやハンバーガー、世界各国の料理を売っている店もある。もちろん、デザートもよりどりみどりだ。
「何にしようかな……」
「どれもおいしそうだねー!」
百瀬は一目散に『デザートストリート』と名のつく通りに向かう。
「おい、優太。走るな、危ない」
それを追う朝比奈。下がウッドデッキになっているから、足音がポコポコしていて面白い。
「元気だな、あいつ」
と、咲良が隣で笑った。
「春都、ケバブだって。あれ、ほら」
「ケバブ……」
でかい肉の塊が、ゆっくりと回っている屋台を指さす咲良。ケバブって、聞いたことあるぞ。食ったことはないけど。咲良はその屋台の前を通りながら楽しそうに言った。
「ああいうかたまり肉って、どこで売ってんだろうな~。かぶりついてみたい~」
「……夢を壊すようで悪いが、確かあれは、かたまり肉じゃない」
「えっ⁉ マジで?」
「味付けした薄切り肉を長い棒に刺してんだよ、確か」
咲良は一瞬ショックを受けたような表情をしていたが、すぐに「へぇ~、なるほどねぇ」と言った。
「いっぱい肉が刺さってる、ってのもロマンがあるな!」
「まあ、ケバブもいろいろ種類があるとか聞いたことあるから、分からんが」
「春都は物知りだな」
デザートストリートはその名に違わず、甘い香りで満ちていた。
「あ、クレープある!」
「いいな、アイスもあるぞ」
「かき氷も捨てがたいなあ」
「パフェ、ドーナツ、タピオカにパンケーキ……」
百瀬たちはどこにいるんだろう。あ、いたいた。
これまたごっちゃりとしたエリアにいる。ポップコーン、綿あめ……うわあ、どれもこれもカラフルだなあ。
「食べ物の色じゃないみたいだ……」
朝比奈が周りを見回しながら言った。確かに、おもちゃだと言われた方が納得がいくようなお菓子もたくさんあるな。
「確かここにあると思うんだけど」
と、百瀬は何かを探しているようだった。
「なんかあるのか?」
「うん、今だけ期間限定で売ってるって……あ、あった!」
百瀬が向かっていった店は、ありとあらゆる外国のお菓子を取り揃えている店だった。うーん、これはまたカオスな見た目。
「なに買うんだろうな」
咲良が背伸びをして見ようとするが、何も見えなかったらしい。
うきうきした様子で戻ってきた百瀬が持っていたのは、紙コップに入った丸っこいドーナツのようなものだった。それにしてはつやつやしているし、なんだかとてつもなく甘い匂いがする。
「なんだ、これ」
朝比奈が少し後ずさりながら聞くと、百瀬は嬉々として答えた。
「世界一甘いお菓子だよ! グラブジャムン? だっけ」
「グラブジャムン……」
「まあ、簡単に言うと、ドーナツのシロップ漬け! だね」
うわあ、想像しただけで歯が溶けそう。怖いもの見たさに食べてみたい反面、怖すぎて食べられない気もする。
「え……百瀬食ってみてよ」
咲良が言うのが早いか否か、百瀬はドーナツをかじった。
しばらくの間の後、百瀬は笑って頷いた。
「うん! おいしい!」
「え、ああ、そう……」
「みんなも食べる?」
そんな百瀬の誘いは丁重にお断りして、別のものを買うことにした。
「俺、冷たいもの食べたいなー」
咲良は、アイス屋かき氷の店がたくさんある場所に向かった。朝比奈もそう思ったらしく、その後をついていく。
さて、俺は何を食べたい。
冷たいものもいいのだが、家にアイスあるから、帰って食うとして……せっかくなら、遊園地っぽいものというか、カラフルなものを食べてみたい。
おっ、もちもちドーナツ。いいねえ、なんだか安心する言葉だ。しかも、アイシングが施されていて、カラフルでかわいい。
うーん、何色にしよう。よし、緑だ。
「おー、春都はドーナツか。いいねえ、俺ねー、かき氷!」
咲良が持っていたのは、ブルーハワイのかき氷だった。でもどこか紫がかってもいて、ラムネも散りばめられていて、賑やかだ。
朝比奈は、アイスにしたらしい。
近くに、パラソル付きのテーブルがあったので、そこに座る。
「いただきます」
結構大きめのドーナツだ。食べ応えありそう。
ん、アイシングがサクッとしてておいしい。程よく甘く、口の中でさらりとほどける。緑色だが、味はシンプルな砂糖味。フレーバー付きもいいのだが、こういうあっさり甘いの、好きだなあ。
もちもちドーナツの名に違わない、しっかりもっちりした食感。正面は少しパリっとしていて、中身は餅にも近い食感である。
もちぃっと口になじむドーナツ。んんー、この甘さ、たまらないなあ。
アイシングと相まったこの甘さは、普段、地元のドーナツ屋ではなかなか買えないものである。シンプルなドーナツなら売ってるんだけどな。
こういう、テーマパークらしい、甘くて食感が面白いドーナツは、遊園地という空間で食べるからこそ、楽しさやおいしさが際立つ。
しかし、遊園地の余韻を感じながら家でのんびりアニメを見ながら、涼しい空間で食うのもまたいいもので。そういや、持ち帰りがあったな。買って帰ろうかな。
でも、他のものも気になるし……
まだまだ時間はある。ゆっくり選ぶとしよう。
「ごちそうさまでした」
「何にしようかな……」
「どれもおいしそうだねー!」
百瀬は一目散に『デザートストリート』と名のつく通りに向かう。
「おい、優太。走るな、危ない」
それを追う朝比奈。下がウッドデッキになっているから、足音がポコポコしていて面白い。
「元気だな、あいつ」
と、咲良が隣で笑った。
「春都、ケバブだって。あれ、ほら」
「ケバブ……」
でかい肉の塊が、ゆっくりと回っている屋台を指さす咲良。ケバブって、聞いたことあるぞ。食ったことはないけど。咲良はその屋台の前を通りながら楽しそうに言った。
「ああいうかたまり肉って、どこで売ってんだろうな~。かぶりついてみたい~」
「……夢を壊すようで悪いが、確かあれは、かたまり肉じゃない」
「えっ⁉ マジで?」
「味付けした薄切り肉を長い棒に刺してんだよ、確か」
咲良は一瞬ショックを受けたような表情をしていたが、すぐに「へぇ~、なるほどねぇ」と言った。
「いっぱい肉が刺さってる、ってのもロマンがあるな!」
「まあ、ケバブもいろいろ種類があるとか聞いたことあるから、分からんが」
「春都は物知りだな」
デザートストリートはその名に違わず、甘い香りで満ちていた。
「あ、クレープある!」
「いいな、アイスもあるぞ」
「かき氷も捨てがたいなあ」
「パフェ、ドーナツ、タピオカにパンケーキ……」
百瀬たちはどこにいるんだろう。あ、いたいた。
これまたごっちゃりとしたエリアにいる。ポップコーン、綿あめ……うわあ、どれもこれもカラフルだなあ。
「食べ物の色じゃないみたいだ……」
朝比奈が周りを見回しながら言った。確かに、おもちゃだと言われた方が納得がいくようなお菓子もたくさんあるな。
「確かここにあると思うんだけど」
と、百瀬は何かを探しているようだった。
「なんかあるのか?」
「うん、今だけ期間限定で売ってるって……あ、あった!」
百瀬が向かっていった店は、ありとあらゆる外国のお菓子を取り揃えている店だった。うーん、これはまたカオスな見た目。
「なに買うんだろうな」
咲良が背伸びをして見ようとするが、何も見えなかったらしい。
うきうきした様子で戻ってきた百瀬が持っていたのは、紙コップに入った丸っこいドーナツのようなものだった。それにしてはつやつやしているし、なんだかとてつもなく甘い匂いがする。
「なんだ、これ」
朝比奈が少し後ずさりながら聞くと、百瀬は嬉々として答えた。
「世界一甘いお菓子だよ! グラブジャムン? だっけ」
「グラブジャムン……」
「まあ、簡単に言うと、ドーナツのシロップ漬け! だね」
うわあ、想像しただけで歯が溶けそう。怖いもの見たさに食べてみたい反面、怖すぎて食べられない気もする。
「え……百瀬食ってみてよ」
咲良が言うのが早いか否か、百瀬はドーナツをかじった。
しばらくの間の後、百瀬は笑って頷いた。
「うん! おいしい!」
「え、ああ、そう……」
「みんなも食べる?」
そんな百瀬の誘いは丁重にお断りして、別のものを買うことにした。
「俺、冷たいもの食べたいなー」
咲良は、アイス屋かき氷の店がたくさんある場所に向かった。朝比奈もそう思ったらしく、その後をついていく。
さて、俺は何を食べたい。
冷たいものもいいのだが、家にアイスあるから、帰って食うとして……せっかくなら、遊園地っぽいものというか、カラフルなものを食べてみたい。
おっ、もちもちドーナツ。いいねえ、なんだか安心する言葉だ。しかも、アイシングが施されていて、カラフルでかわいい。
うーん、何色にしよう。よし、緑だ。
「おー、春都はドーナツか。いいねえ、俺ねー、かき氷!」
咲良が持っていたのは、ブルーハワイのかき氷だった。でもどこか紫がかってもいて、ラムネも散りばめられていて、賑やかだ。
朝比奈は、アイスにしたらしい。
近くに、パラソル付きのテーブルがあったので、そこに座る。
「いただきます」
結構大きめのドーナツだ。食べ応えありそう。
ん、アイシングがサクッとしてておいしい。程よく甘く、口の中でさらりとほどける。緑色だが、味はシンプルな砂糖味。フレーバー付きもいいのだが、こういうあっさり甘いの、好きだなあ。
もちもちドーナツの名に違わない、しっかりもっちりした食感。正面は少しパリっとしていて、中身は餅にも近い食感である。
もちぃっと口になじむドーナツ。んんー、この甘さ、たまらないなあ。
アイシングと相まったこの甘さは、普段、地元のドーナツ屋ではなかなか買えないものである。シンプルなドーナツなら売ってるんだけどな。
こういう、テーマパークらしい、甘くて食感が面白いドーナツは、遊園地という空間で食べるからこそ、楽しさやおいしさが際立つ。
しかし、遊園地の余韻を感じながら家でのんびりアニメを見ながら、涼しい空間で食うのもまたいいもので。そういや、持ち帰りがあったな。買って帰ろうかな。
でも、他のものも気になるし……
まだまだ時間はある。ゆっくり選ぶとしよう。
「ごちそうさまでした」
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