一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第七百二十八話 豚骨ラーメン

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 幸いにも、今日の天気は快晴。真野さんの運転する、朝比奈んちの車から見える空は、どこまでも澄み渡っていた。
「もうすぐ着きますよ」
 運転席の真野さんが言うと、咲良が後部座席の窓を開けた。
「遊園地ってさー、車から見えてるときもワクワクするよな~」
「分かる」
 見え隠れしていた大きな観覧車が徐々に近くなっていき、だだっ広い駐車場が見えてきた。この広い駐車場も、ワクワクするよなあ。
「到着です」
 楽し気な音楽と笑い声、アトラクションの音、悲鳴が聞こえるのはジェットコースターのある方から。天満宮の遊園地も楽しかったが、こっちはなんというか、いかにもなテーマパークだ。
「おぉー! 着いたー!」
 そう言ってやる気十分なのは、咲良と百瀬だ。
「真野さん、ありがとうございました」
 言えば二人も振り返って、「ありがとうございます!」と叫んだ。真野さんはにこにこ笑った。
「いえ、それでは楽しんできてください」
 真野さんは、俺らが遊園地にいる間は、近くを回っているらしい。
「真野さん、どこに行くんだ?」
 入園の列に並びながら朝比奈に聞くと、朝比奈は「えーっと……」と顎に手を当てて言った。
「なんか、カフェにいるって言ってたような……」
「カフェ」
「コーヒー、好きなんだって」
「おしゃれだなー」
 言えば朝比奈はこくりと頷いた。
「お待たせいたしましたー! 入園券を確認させていただきますねー!」
 受付の人に招待券を見せると、奥の棚から四枚、何かを取り出した。
「招待券でのご入園ですね。こちら、一日パスポートになっておりますので、アトラクションの入り口で、係員にお見せ下さいませ」
「おおー、一日パスポートだってよ、春都!」
「咲良、落ち着け」
「では、行ってらっしゃいませー!」
 明るい声に送り出されて入った園内は、解放感にあふれる場所で、アトラクションが日の光に照らされてキラキラ輝き、そこかしこから楽し気な音楽や笑い声が聞こえてくる。
「遊園地だ……」
 久しぶりのこの空気感に圧倒されていると、咲良が言った。
「まずはどこ行く? ジェットコースター? 観覧車? コーヒーカップとか、バイキングとかあるぞ」
「マップとかないのか」
「あ、あるよ。取って来るね」
 軽やかな足取りで百瀬が人数分のマップを取ってきた。
 こういうマップ見るだけでも楽しいんだよなあ。そんで、その中に自分がいる、っていうのもまた楽しい。
「お化け屋敷とか行きたくない?」
「あー、ここか? ん? いや、違うな。ここは、占いの館って書いてある」
「朝比奈はどこ行きたいんだ?」
「……うーん、観覧車? いや、でも、観覧車は最後に乗るものなんだろうし」
 どこ情報だろう、それ。
 とりあえず歩くことにして、実際に見ながら決めることにした。それにしても、どのアトラクションも人が多いなあ。空いてるの、ないんじゃないか?
「あ」
 見つけた、ちょうど人がはけたアトラクション。
「メリーゴーラウンド」
 男子高校生四人が乗るにはいささかファンシーすぎるだろうか。しかし、遊園地マジックというか、テンションがおかしくなっているというか、いける気がする。三人も同じようで、誰からともなく近づいていく。
 それを皮切りに、あれこれアトラクションに乗った。コーヒーカップは咲良と一緒になって、とんでもない目に遭ったが。まあ、楽しいからいい。観覧車は、何でも全国の遊園地の中でも大きめらしくて、てっぺんからの景色はすごいもんだった。
 自分ち見えるかも、なんて思っていたら、咲良が「あれ、俺んちじゃね?」と言ったものだから笑ってしまった。
「はー、楽しいなー」
 一休みがてら、ベンチに座ると、咲良が言った。
「腹減った」
「そうだなー、何食う?」
 レストランは……軒並み人がいっぱいだ。そうだよなあ、いい時間だもんなあ。どこか入れそうな場所といえば……
「ラーメン屋があるぞ」
 朝比奈の言葉に振り返ると、確かに、ラーメン屋があった。遊園地に合わせてポップな色合いだが、確かに、ラーメン屋だった。
「お、いいじゃん」
「俺何食おっかな~、餃子定食とかないかな?」
「あるんじゃないか」
「きくらげ、トッピングしよう……」
 店内は程よく空いていて、程よく賑やかだった。食券制だったので各々食べたいものを頼み席で待っていると、あっという間に料理がやって来た。
「いただきます」
 窓から見えるのは夢のような空間で、目の前にあるのは豚骨ラーメンと白飯。なんだかミスマッチのようだが、遊園地はきっと自由な空間だから、いいと思う。
 麺は細麺で、スープはさらっとしている。
 まずはスープを一口。おお、すっきりしていて、臭みがあまりない。熱々だからうまいなあ。ジュワッとうま味が広がって、特有の風味が鼻に抜ける。脂も控えめなのが好みでうれしい。
 麺はするするっとすすれる。少しかための茹で具合で、この食感、風味がいい。スープを一緒にすするとまたいい。
 小麦の風味に豚骨の風味、温かな口当たり、それによって広がるうま味。くぅ、うまい。ねぎがシャキッと爽やかなのもうれしいな。チャーシューは脂身が少ないが、スープをよく吸っていて、ジューシーだ。
 こういう、脂っ気のないチャーシューをスープに浸して食うの、好きだ。
 ゴマも入れよう。それと紅しょうがも。ごまを入れると風味がよくてなあ、コクが増すような気がするのだ。あっさり系のスープであればあるほど、入れたくなる。紅しょうがは爽やかで、豚骨のうま味を際立たせる。
 そこに白米。なんか、ラーメンの時の白米って、またなんか味わいが違うんだよなあ。甘いたくあんをのせるのもうまい。
 餃子は皆で取った。パリッと香ばしく焼けて、中はジューシーだ。ラー油を少し垂らした特製たれのうま味がよく合う。
 替え玉の時には、辛子高菜を。ん、ピリッとうまい。シャキシャキと、ねぎとはまた違う青い風味とみずみずしさ。麺と絡めてすする。うん、スープも濃くなってうまい。
「次どこ行く?」
 と、咲良がマップを見ながら言った。
「えー、甘いもの巡り?」
「腹ごなしに散歩がしたい……」
「いきなりアトラクションには乗れそうにないなあ」
「それもそうだな」
 散策するだけでも楽しいのが、遊園地である。
 甘いものか……なんか、楽しそうなお菓子あったら買おうかな。あ、お土産も見たいなあ。

「ごちそうさまでした」
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