一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第七百二十五話 いなり寿司

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 テスト最終日、最後の科目が終わった。
「う~……疲れた……」
 グーッと伸びをして立ち上がる。今日は部活に行くやつらも多い。午後からずっと部活だとぼやいているやつもいた。
「さて、帰ろう」
 テストが終わった日は、とっとと帰るに限る。
 学校に置いておく参考書をロッカーに、提出物を教卓に置けば、荷物はあっという間に軽くなる。人でごった返す廊下をすり抜け、靴箱にたどり着く。
 薄暗い天気は少し寂しげだが、風が涼しいのはいいな。
 おっと、忘れちゃいけない。帰りにスーパーに寄らなければ。昼飯はもう決めてあるのだ。
「今日はあるかな~」
 あったあった、いなり寿司とサラダ巻のセット! ないときはないんだよなあ。それに今日は、三角形のいなり寿司だ。四角形のやつもいいんだけど、こっちの形の方が好きだ。
 それに合わせるのは、肉うどん。カップ麺だけど、それがいい。
 外に出て空を見上げる。雨が降り出しそうだ。傘持ってないし、早く帰ろう。
「ただいまー」
「わうっ」
 今日もうめずが、ぶんぶんとしっぽを振りながら迎えてくれる。
「留守番、ご苦労様」
「わふっ」
「はは、元気そうでよかったよ」
 まずは、昼飯から。電気ケトルに水を入れて、スイッチを入れる。沸くまでの間、DVDをセットしておく。
「今日は何を見ようかな~」
 最近見てないこれにするか、あるいはこっちか。あ、こっちも見てないなあ。うーん……いっそゲーム機繋いで、動画を見ようか。いや、しかし……
「……よし」
 最初はこれにしよう。何せ、今日は時間がたっぷりあるのだから、後でまた別のを見ればいい。
 水が冷たかったからか、まだまだ沸く気配はない。
 じゃあ、食べる席を整えよう。小さな座椅子にクッションを。このかためのやつは濃しに入れて、ふわふわは横に。座布団も置いて、高さを調整。
 そろそろカップ麺の準備をし始めようかな。
「えーっと」
 後入れのかやくはない。全部麺の上にのせてしまえばいい。
 カチッと音が鳴る。お、お湯が沸いたな。跳ねないようにゆっくりと注ぎ入れる。
「線はどの辺だ?」
 シュワワ……という音が聞こえ、麺と麺の隙間にお湯が入り込んでいくのが分かる。粉が溶け、いい匂いが立ち上る。
 よし、ぴったり。
「あち、あちっ」
 うどんのカップ麺はできあがるまでに時間がかかる。その時間すら待ち遠しい。
 いなり寿司の蓋を開けておく。よし、先に食べちゃえ。
「いただきます」
 まずはいなり寿司から。
 きれいに割れた割りばしで、いなり寿司を持ち上げる。この重さ、良いね。
 ジュワッと染み出す甘い汁、酸味が程よい酢飯。あげの風味はほのかに香ばしく、歯切れがいい。んんー、うまい。疲れた時にはやっぱりいなり寿司だなあ。なんか、妙に元気が出るんだよなあ。
 サラダ巻は一本分、切り分けられてある。
 しっとりとしたのりは磯の香りが控えめで、米が詰まっているが程よくほどける。中身は、レタスと、かにかまと、きゅうりに卵焼き。みずみずしくていいなあ。
 マヨネーズとの相性もばっちりだ。こっちも酢飯だけど、やっぱり、味わい方が少し違う。
 野菜のシャキシャキ、卵のほのかな甘さ、かにかまのほぐれる感じ。この寿司に関しては、かにかまってのがいいんだ。そりゃまあ、刺し身みたいなのが入っててもいいんだけど、かにかまがうまいんだよなあ。
 おっと、タイマーが鳴った。よかったよかった、タイマー設定しといて。
「おおー」
 いい感じ。麺をほぐして……わ、結構肉がいっぱい。
 カップ麺の肉うどんって、出汁から飲みたくなるんだよなあ。この金色の感じに、うっすらとキラキラしている油。
「……っはー」
 ほっとするなあ。ジュワアッと広がるうま味、肉の味。のどを通っていく温度と、胃の温まる感じがたまらない。
「さて、麺を……」
 ふわっ、じゅわっとした食感。生麺を茹でたのとはまた違う、この食感。好きだなあ。つるっとしててすすりやすいし、出汁も一緒に飲むともっといい。うっすら紛れたねぎも意外と風味がいいんだよなあ。
 そんで、肉。んー、甘辛くて、肉臭さがなく、出汁をめいっぱい吸っている。この肉、何気に好きだ。別売りで売らないかなあ。それとも、これぐらいがいいのかなあ。
 麺と絡ませて、すする。そして出汁を口に含む。
「うまあ」
 そこにすかさず、いなり寿司。出汁といなり寿司はよく合う。うどん屋にも大抵あるしな、いなり寿司。
 サラダ巻もうまい。うどんとの相性抜群だ。
 ひんやりした感じと温かな出汁、この両方が口の中にある幸福感がすごい。
 いやはや、あっという間に食べ終わってしまったな。しつこく肉の破片をさらって食べ、もう無理だろってくらい食べ切る。
 しかし、まだまだ楽しみは続く。
 DVDを入れ替えて、冷蔵庫へ。
「ふっふふ」
 じゃーん、ホールケーキ!
 といっても、小さいサイズなんだけどな。量的にはカットケーキ二つ分ってところか。チョコレートのホールケーキ。
 ふわふわのココア生地にチョコレートのクリーム、チョコチップ、ココアパウダー。シンプルだけど、これがうまそうで買ってしまった。
 フォークを入れるこの感覚、たまらない。
 シュワッと溶けるクリームは、甘くほろ苦い。チョコレートの甘さとココアパウダーの苦みだろう。牛乳っぽさは控えめで、コクがあってうまい。うわあ、ホールケーキを丸ごとフォークで食ってるんだ、俺。
 んー、チョコチップの食感がいい。ふわふわのクリームとスポンジの食感に、いいアクセントが加わる。
 すっきりとした甘さだから、すいすい食べてしまった。
 ふう……いつもより贅沢に昼飯の時間を過ごしたが、まだまだ日は高く、時間もある。腹ごなしに散歩するか、ひと眠りするか。
 ま、のんびり考えるとしよう。
 なにせ、テスト終わりだからな!

「ごちそうさまでした」
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