775 / 854
日常
第七百二十三話 持ち寄りご飯
しおりを挟む
オーブンで少し焼いたクロワッサンと、わずかばかりのコーヒーと豆乳のカフェラテを好きなアニメを見ながら食べる。休日、朝食後の小腹が空いた時のこの時間、至福だなあ。
サクッと香ばしいクロワッサン。バターは控えめで小ぶり、中は少しもっちりしていてうまい。そこにカフェオレを飲むと、ジュワーッと染みて、ほのかなコーヒーの風味と豆乳の素朴な甘さが広がる。うまいなあ。
さて、今日は昼ご飯、何食うかなあ……
「んん?」
スマホの通知音……グループチャットに何やらメッセージが。お、朝比奈か。
『ちょっと、話したいことがある』
え、なに。なんか深刻な話? あ、返信来た。このアイコンは咲良か。
『じゃ、春都んち集合!』
「はあ?」
『定期あるし、ちょうどいいっしょ』
何がちょうどいいんだ、この野郎。
「悪いな、急に押しかけて」
結局了承せざるを得なかったので、三人がやって来た。朝比奈が申し訳なさそうに、しょぼしょぼした表情で言う。当の咲良は楽しそうに笑っていた。
「別に何もやることなかったし、いいよ。つーか、決めたのは咲良だし」
「だって最近来てなかったもん」
「もん、じゃない」
「あ~、うめず久しぶり~」
百瀬はうめずに吸い寄せられるようにしゃがみこんだ。うめずはふすふすと鼻を鳴らし、行儀よくお座りしている。
「これ、よかったら。友達の家に行くって言ったら、真野さんが作ってくれた」
朝比奈が差し出してきたのは、アニメとか映画とかで見るようなバスケットである。おしゃれな布が見えていて、外国の小説とかに出てきそうな見た目だ。
「サンドイッチだ。真野さんが作ったの、うまいんだ」
「おー、わざわざありがとな」
「え、何、朝比奈。これ持ってバス乗ったの」
咲良が聞くと朝比奈は首を横に振った。
「家の人に、送ってもらった」
「送迎付きかよ」
「あの車、乗り心地いいよね~。俺も乗せてもらえばよかった~」
と、百瀬は言うと、軽い足取りでこっちに来た。
「じゃ、俺もお土産。ゼリーだよ。この時期は作ってんだ~、冷蔵庫に入れといてもいい?」
「ああ、ありがとう」
「俺も俺も! ちゃんと持って来てるよ!」
咲良は言い、ずいっと何かを突き付けてきた。なんかすごく、香ばしいというか、食欲をそそる香りがする。
「お、ポテトか?」
「そう! バスセンターの中のな」
確かこれは、学生証を見せたら安くなるやつだな。揚げたてのポテトが入ったボックス。買いたいけど、なかなかの量なので買いづらいんだ。こういう時じゃないと食べられない。
「ありがとな」
「食いながら話そうぜ」
テーブルにポテトとサンドイッチ。サンドイッチはベーコンとレタスとトマトが、惜しげもなく挟まっている。まるでピクニックだな。
「いただきます」
とりあえず、揚げたてポテトをひとつまみ。サクッとしていて、少ししっとり。太めだからほくほくで、香ばしい。そうそう、この塩気。ポテトの塩味はお店によって全然違うし、真似できない。
じゃ、サンドイッチも一ついただこう。
少し焼いてあるパンは薄すぎず分厚すぎない。サクッと香ばしくて、小麦の風味が豊かだ。みずみずしいトマトは爽やかに甘く、ベーコンはカリカリに焼いてあって、脂が程よく落ちているが、ジューシーだ。レタスもしっかり水気が切ってあって、水っぽくない。それぞれの具材のバランスが最高だ。
特別な調味料の気配はないが、塩気がちょうどいいんだよなあ。パンにも薄くマーガリンが塗ってあるのだろうか。はー、うまいなあ。
「で、話って何?」
サンドイッチをしっかり二つ平らげたところで、咲良が言った。朝比奈は麦茶を一気に飲むと、意を決したように言った。
「……いいニュースと悪いニュースがある。どっちから」
「え、悪い方だろ」
朝比奈以外の三人の声が重なる。朝比奈は表情を変えず、言った。
「野球、行けなくなった」
「お、おー? そういや、そんな話だったな」
今思い出した、というように咲良が言う。朝比奈は渋い顔で続けた。
「なんか、親が、知り合いにやるって。すまん」
「んー別に大丈夫だよ。ま、お出かけがなくなるのは寂しいけど」
百瀬は言い、咲良も「そんな深刻にならなくても」とのんきに笑う。
「そうだな、気に病むことはない」
「そう言ってもらえると助かる」
「それよりもさ、いいニュースが気になるんだけど」
咲良が話を急かすと、百瀬が言った。
「ねー、ゼリー出していい?」
「お、いいな。食べながら続きだな」
百瀬が持ってきたゼリーは、薄い緑色の透き通ったゼリーだった。きれいだなあ。
「青リンゴだよー」
ん、ほんとだ。少し歯ごたえのある感じのゼリーだな。プルプルひんやりしていてうまい。つるんとのどを通っていく感覚が気持ちいい。ふわっと香る、青リンゴの風味。この作られた風味、結構好きだ。
これ食うと、幼稚園の誕生会を思い出す。誕生月の人だけ、クリーム絞ってさくらんぼのせてもらえるんだったかなあ。
夏にゼリー、いいなあ。俺もなんか作るか。
少し食べてから、朝比奈は鞄から何かを取り出した。この間見た招待券にも似た、でもちょっと違う色合いのやつだ。
「野球の代わりに、って、これをもらったんだ」
見ればそれは、遊園地の招待券のようだった。
「おおー! 遊園地じゃん! え、しかもでけぇとこの!」
咲良は一気にテンションが上がったようであった。百瀬も目を輝かせる。
「うわ~、最近行ってないなあ」
「小学校の頃、イベントやってるときに行ったきりだな」
「……行くか?」
朝比奈の問いに、咲良と百瀬は「行く!」と即答し、俺は頷いて賛成の意を示す。なんか、二人の勢いに押されてしまうが、もちろん、賛成だ。
「よかった、じゃあ、テスト終わったら、これで」
「楽しみだなあ~!」
遊園地か……久しぶりだな。
結構、ワクワクしちゃってるぞ。
「ごちそうさまでした」
サクッと香ばしいクロワッサン。バターは控えめで小ぶり、中は少しもっちりしていてうまい。そこにカフェオレを飲むと、ジュワーッと染みて、ほのかなコーヒーの風味と豆乳の素朴な甘さが広がる。うまいなあ。
さて、今日は昼ご飯、何食うかなあ……
「んん?」
スマホの通知音……グループチャットに何やらメッセージが。お、朝比奈か。
『ちょっと、話したいことがある』
え、なに。なんか深刻な話? あ、返信来た。このアイコンは咲良か。
『じゃ、春都んち集合!』
「はあ?」
『定期あるし、ちょうどいいっしょ』
何がちょうどいいんだ、この野郎。
「悪いな、急に押しかけて」
結局了承せざるを得なかったので、三人がやって来た。朝比奈が申し訳なさそうに、しょぼしょぼした表情で言う。当の咲良は楽しそうに笑っていた。
「別に何もやることなかったし、いいよ。つーか、決めたのは咲良だし」
「だって最近来てなかったもん」
「もん、じゃない」
「あ~、うめず久しぶり~」
百瀬はうめずに吸い寄せられるようにしゃがみこんだ。うめずはふすふすと鼻を鳴らし、行儀よくお座りしている。
「これ、よかったら。友達の家に行くって言ったら、真野さんが作ってくれた」
朝比奈が差し出してきたのは、アニメとか映画とかで見るようなバスケットである。おしゃれな布が見えていて、外国の小説とかに出てきそうな見た目だ。
「サンドイッチだ。真野さんが作ったの、うまいんだ」
「おー、わざわざありがとな」
「え、何、朝比奈。これ持ってバス乗ったの」
咲良が聞くと朝比奈は首を横に振った。
「家の人に、送ってもらった」
「送迎付きかよ」
「あの車、乗り心地いいよね~。俺も乗せてもらえばよかった~」
と、百瀬は言うと、軽い足取りでこっちに来た。
「じゃ、俺もお土産。ゼリーだよ。この時期は作ってんだ~、冷蔵庫に入れといてもいい?」
「ああ、ありがとう」
「俺も俺も! ちゃんと持って来てるよ!」
咲良は言い、ずいっと何かを突き付けてきた。なんかすごく、香ばしいというか、食欲をそそる香りがする。
「お、ポテトか?」
「そう! バスセンターの中のな」
確かこれは、学生証を見せたら安くなるやつだな。揚げたてのポテトが入ったボックス。買いたいけど、なかなかの量なので買いづらいんだ。こういう時じゃないと食べられない。
「ありがとな」
「食いながら話そうぜ」
テーブルにポテトとサンドイッチ。サンドイッチはベーコンとレタスとトマトが、惜しげもなく挟まっている。まるでピクニックだな。
「いただきます」
とりあえず、揚げたてポテトをひとつまみ。サクッとしていて、少ししっとり。太めだからほくほくで、香ばしい。そうそう、この塩気。ポテトの塩味はお店によって全然違うし、真似できない。
じゃ、サンドイッチも一ついただこう。
少し焼いてあるパンは薄すぎず分厚すぎない。サクッと香ばしくて、小麦の風味が豊かだ。みずみずしいトマトは爽やかに甘く、ベーコンはカリカリに焼いてあって、脂が程よく落ちているが、ジューシーだ。レタスもしっかり水気が切ってあって、水っぽくない。それぞれの具材のバランスが最高だ。
特別な調味料の気配はないが、塩気がちょうどいいんだよなあ。パンにも薄くマーガリンが塗ってあるのだろうか。はー、うまいなあ。
「で、話って何?」
サンドイッチをしっかり二つ平らげたところで、咲良が言った。朝比奈は麦茶を一気に飲むと、意を決したように言った。
「……いいニュースと悪いニュースがある。どっちから」
「え、悪い方だろ」
朝比奈以外の三人の声が重なる。朝比奈は表情を変えず、言った。
「野球、行けなくなった」
「お、おー? そういや、そんな話だったな」
今思い出した、というように咲良が言う。朝比奈は渋い顔で続けた。
「なんか、親が、知り合いにやるって。すまん」
「んー別に大丈夫だよ。ま、お出かけがなくなるのは寂しいけど」
百瀬は言い、咲良も「そんな深刻にならなくても」とのんきに笑う。
「そうだな、気に病むことはない」
「そう言ってもらえると助かる」
「それよりもさ、いいニュースが気になるんだけど」
咲良が話を急かすと、百瀬が言った。
「ねー、ゼリー出していい?」
「お、いいな。食べながら続きだな」
百瀬が持ってきたゼリーは、薄い緑色の透き通ったゼリーだった。きれいだなあ。
「青リンゴだよー」
ん、ほんとだ。少し歯ごたえのある感じのゼリーだな。プルプルひんやりしていてうまい。つるんとのどを通っていく感覚が気持ちいい。ふわっと香る、青リンゴの風味。この作られた風味、結構好きだ。
これ食うと、幼稚園の誕生会を思い出す。誕生月の人だけ、クリーム絞ってさくらんぼのせてもらえるんだったかなあ。
夏にゼリー、いいなあ。俺もなんか作るか。
少し食べてから、朝比奈は鞄から何かを取り出した。この間見た招待券にも似た、でもちょっと違う色合いのやつだ。
「野球の代わりに、って、これをもらったんだ」
見ればそれは、遊園地の招待券のようだった。
「おおー! 遊園地じゃん! え、しかもでけぇとこの!」
咲良は一気にテンションが上がったようであった。百瀬も目を輝かせる。
「うわ~、最近行ってないなあ」
「小学校の頃、イベントやってるときに行ったきりだな」
「……行くか?」
朝比奈の問いに、咲良と百瀬は「行く!」と即答し、俺は頷いて賛成の意を示す。なんか、二人の勢いに押されてしまうが、もちろん、賛成だ。
「よかった、じゃあ、テスト終わったら、これで」
「楽しみだなあ~!」
遊園地か……久しぶりだな。
結構、ワクワクしちゃってるぞ。
「ごちそうさまでした」
24
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる