775 / 843
日常
第七百二十三話 持ち寄りご飯
しおりを挟む
オーブンで少し焼いたクロワッサンと、わずかばかりのコーヒーと豆乳のカフェラテを好きなアニメを見ながら食べる。休日、朝食後の小腹が空いた時のこの時間、至福だなあ。
サクッと香ばしいクロワッサン。バターは控えめで小ぶり、中は少しもっちりしていてうまい。そこにカフェオレを飲むと、ジュワーッと染みて、ほのかなコーヒーの風味と豆乳の素朴な甘さが広がる。うまいなあ。
さて、今日は昼ご飯、何食うかなあ……
「んん?」
スマホの通知音……グループチャットに何やらメッセージが。お、朝比奈か。
『ちょっと、話したいことがある』
え、なに。なんか深刻な話? あ、返信来た。このアイコンは咲良か。
『じゃ、春都んち集合!』
「はあ?」
『定期あるし、ちょうどいいっしょ』
何がちょうどいいんだ、この野郎。
「悪いな、急に押しかけて」
結局了承せざるを得なかったので、三人がやって来た。朝比奈が申し訳なさそうに、しょぼしょぼした表情で言う。当の咲良は楽しそうに笑っていた。
「別に何もやることなかったし、いいよ。つーか、決めたのは咲良だし」
「だって最近来てなかったもん」
「もん、じゃない」
「あ~、うめず久しぶり~」
百瀬はうめずに吸い寄せられるようにしゃがみこんだ。うめずはふすふすと鼻を鳴らし、行儀よくお座りしている。
「これ、よかったら。友達の家に行くって言ったら、真野さんが作ってくれた」
朝比奈が差し出してきたのは、アニメとか映画とかで見るようなバスケットである。おしゃれな布が見えていて、外国の小説とかに出てきそうな見た目だ。
「サンドイッチだ。真野さんが作ったの、うまいんだ」
「おー、わざわざありがとな」
「え、何、朝比奈。これ持ってバス乗ったの」
咲良が聞くと朝比奈は首を横に振った。
「家の人に、送ってもらった」
「送迎付きかよ」
「あの車、乗り心地いいよね~。俺も乗せてもらえばよかった~」
と、百瀬は言うと、軽い足取りでこっちに来た。
「じゃ、俺もお土産。ゼリーだよ。この時期は作ってんだ~、冷蔵庫に入れといてもいい?」
「ああ、ありがとう」
「俺も俺も! ちゃんと持って来てるよ!」
咲良は言い、ずいっと何かを突き付けてきた。なんかすごく、香ばしいというか、食欲をそそる香りがする。
「お、ポテトか?」
「そう! バスセンターの中のな」
確かこれは、学生証を見せたら安くなるやつだな。揚げたてのポテトが入ったボックス。買いたいけど、なかなかの量なので買いづらいんだ。こういう時じゃないと食べられない。
「ありがとな」
「食いながら話そうぜ」
テーブルにポテトとサンドイッチ。サンドイッチはベーコンとレタスとトマトが、惜しげもなく挟まっている。まるでピクニックだな。
「いただきます」
とりあえず、揚げたてポテトをひとつまみ。サクッとしていて、少ししっとり。太めだからほくほくで、香ばしい。そうそう、この塩気。ポテトの塩味はお店によって全然違うし、真似できない。
じゃ、サンドイッチも一ついただこう。
少し焼いてあるパンは薄すぎず分厚すぎない。サクッと香ばしくて、小麦の風味が豊かだ。みずみずしいトマトは爽やかに甘く、ベーコンはカリカリに焼いてあって、脂が程よく落ちているが、ジューシーだ。レタスもしっかり水気が切ってあって、水っぽくない。それぞれの具材のバランスが最高だ。
特別な調味料の気配はないが、塩気がちょうどいいんだよなあ。パンにも薄くマーガリンが塗ってあるのだろうか。はー、うまいなあ。
「で、話って何?」
サンドイッチをしっかり二つ平らげたところで、咲良が言った。朝比奈は麦茶を一気に飲むと、意を決したように言った。
「……いいニュースと悪いニュースがある。どっちから」
「え、悪い方だろ」
朝比奈以外の三人の声が重なる。朝比奈は表情を変えず、言った。
「野球、行けなくなった」
「お、おー? そういや、そんな話だったな」
今思い出した、というように咲良が言う。朝比奈は渋い顔で続けた。
「なんか、親が、知り合いにやるって。すまん」
「んー別に大丈夫だよ。ま、お出かけがなくなるのは寂しいけど」
百瀬は言い、咲良も「そんな深刻にならなくても」とのんきに笑う。
「そうだな、気に病むことはない」
「そう言ってもらえると助かる」
「それよりもさ、いいニュースが気になるんだけど」
咲良が話を急かすと、百瀬が言った。
「ねー、ゼリー出していい?」
「お、いいな。食べながら続きだな」
百瀬が持ってきたゼリーは、薄い緑色の透き通ったゼリーだった。きれいだなあ。
「青リンゴだよー」
ん、ほんとだ。少し歯ごたえのある感じのゼリーだな。プルプルひんやりしていてうまい。つるんとのどを通っていく感覚が気持ちいい。ふわっと香る、青リンゴの風味。この作られた風味、結構好きだ。
これ食うと、幼稚園の誕生会を思い出す。誕生月の人だけ、クリーム絞ってさくらんぼのせてもらえるんだったかなあ。
夏にゼリー、いいなあ。俺もなんか作るか。
少し食べてから、朝比奈は鞄から何かを取り出した。この間見た招待券にも似た、でもちょっと違う色合いのやつだ。
「野球の代わりに、って、これをもらったんだ」
見ればそれは、遊園地の招待券のようだった。
「おおー! 遊園地じゃん! え、しかもでけぇとこの!」
咲良は一気にテンションが上がったようであった。百瀬も目を輝かせる。
「うわ~、最近行ってないなあ」
「小学校の頃、イベントやってるときに行ったきりだな」
「……行くか?」
朝比奈の問いに、咲良と百瀬は「行く!」と即答し、俺は頷いて賛成の意を示す。なんか、二人の勢いに押されてしまうが、もちろん、賛成だ。
「よかった、じゃあ、テスト終わったら、これで」
「楽しみだなあ~!」
遊園地か……久しぶりだな。
結構、ワクワクしちゃってるぞ。
「ごちそうさまでした」
サクッと香ばしいクロワッサン。バターは控えめで小ぶり、中は少しもっちりしていてうまい。そこにカフェオレを飲むと、ジュワーッと染みて、ほのかなコーヒーの風味と豆乳の素朴な甘さが広がる。うまいなあ。
さて、今日は昼ご飯、何食うかなあ……
「んん?」
スマホの通知音……グループチャットに何やらメッセージが。お、朝比奈か。
『ちょっと、話したいことがある』
え、なに。なんか深刻な話? あ、返信来た。このアイコンは咲良か。
『じゃ、春都んち集合!』
「はあ?」
『定期あるし、ちょうどいいっしょ』
何がちょうどいいんだ、この野郎。
「悪いな、急に押しかけて」
結局了承せざるを得なかったので、三人がやって来た。朝比奈が申し訳なさそうに、しょぼしょぼした表情で言う。当の咲良は楽しそうに笑っていた。
「別に何もやることなかったし、いいよ。つーか、決めたのは咲良だし」
「だって最近来てなかったもん」
「もん、じゃない」
「あ~、うめず久しぶり~」
百瀬はうめずに吸い寄せられるようにしゃがみこんだ。うめずはふすふすと鼻を鳴らし、行儀よくお座りしている。
「これ、よかったら。友達の家に行くって言ったら、真野さんが作ってくれた」
朝比奈が差し出してきたのは、アニメとか映画とかで見るようなバスケットである。おしゃれな布が見えていて、外国の小説とかに出てきそうな見た目だ。
「サンドイッチだ。真野さんが作ったの、うまいんだ」
「おー、わざわざありがとな」
「え、何、朝比奈。これ持ってバス乗ったの」
咲良が聞くと朝比奈は首を横に振った。
「家の人に、送ってもらった」
「送迎付きかよ」
「あの車、乗り心地いいよね~。俺も乗せてもらえばよかった~」
と、百瀬は言うと、軽い足取りでこっちに来た。
「じゃ、俺もお土産。ゼリーだよ。この時期は作ってんだ~、冷蔵庫に入れといてもいい?」
「ああ、ありがとう」
「俺も俺も! ちゃんと持って来てるよ!」
咲良は言い、ずいっと何かを突き付けてきた。なんかすごく、香ばしいというか、食欲をそそる香りがする。
「お、ポテトか?」
「そう! バスセンターの中のな」
確かこれは、学生証を見せたら安くなるやつだな。揚げたてのポテトが入ったボックス。買いたいけど、なかなかの量なので買いづらいんだ。こういう時じゃないと食べられない。
「ありがとな」
「食いながら話そうぜ」
テーブルにポテトとサンドイッチ。サンドイッチはベーコンとレタスとトマトが、惜しげもなく挟まっている。まるでピクニックだな。
「いただきます」
とりあえず、揚げたてポテトをひとつまみ。サクッとしていて、少ししっとり。太めだからほくほくで、香ばしい。そうそう、この塩気。ポテトの塩味はお店によって全然違うし、真似できない。
じゃ、サンドイッチも一ついただこう。
少し焼いてあるパンは薄すぎず分厚すぎない。サクッと香ばしくて、小麦の風味が豊かだ。みずみずしいトマトは爽やかに甘く、ベーコンはカリカリに焼いてあって、脂が程よく落ちているが、ジューシーだ。レタスもしっかり水気が切ってあって、水っぽくない。それぞれの具材のバランスが最高だ。
特別な調味料の気配はないが、塩気がちょうどいいんだよなあ。パンにも薄くマーガリンが塗ってあるのだろうか。はー、うまいなあ。
「で、話って何?」
サンドイッチをしっかり二つ平らげたところで、咲良が言った。朝比奈は麦茶を一気に飲むと、意を決したように言った。
「……いいニュースと悪いニュースがある。どっちから」
「え、悪い方だろ」
朝比奈以外の三人の声が重なる。朝比奈は表情を変えず、言った。
「野球、行けなくなった」
「お、おー? そういや、そんな話だったな」
今思い出した、というように咲良が言う。朝比奈は渋い顔で続けた。
「なんか、親が、知り合いにやるって。すまん」
「んー別に大丈夫だよ。ま、お出かけがなくなるのは寂しいけど」
百瀬は言い、咲良も「そんな深刻にならなくても」とのんきに笑う。
「そうだな、気に病むことはない」
「そう言ってもらえると助かる」
「それよりもさ、いいニュースが気になるんだけど」
咲良が話を急かすと、百瀬が言った。
「ねー、ゼリー出していい?」
「お、いいな。食べながら続きだな」
百瀬が持ってきたゼリーは、薄い緑色の透き通ったゼリーだった。きれいだなあ。
「青リンゴだよー」
ん、ほんとだ。少し歯ごたえのある感じのゼリーだな。プルプルひんやりしていてうまい。つるんとのどを通っていく感覚が気持ちいい。ふわっと香る、青リンゴの風味。この作られた風味、結構好きだ。
これ食うと、幼稚園の誕生会を思い出す。誕生月の人だけ、クリーム絞ってさくらんぼのせてもらえるんだったかなあ。
夏にゼリー、いいなあ。俺もなんか作るか。
少し食べてから、朝比奈は鞄から何かを取り出した。この間見た招待券にも似た、でもちょっと違う色合いのやつだ。
「野球の代わりに、って、これをもらったんだ」
見ればそれは、遊園地の招待券のようだった。
「おおー! 遊園地じゃん! え、しかもでけぇとこの!」
咲良は一気にテンションが上がったようであった。百瀬も目を輝かせる。
「うわ~、最近行ってないなあ」
「小学校の頃、イベントやってるときに行ったきりだな」
「……行くか?」
朝比奈の問いに、咲良と百瀬は「行く!」と即答し、俺は頷いて賛成の意を示す。なんか、二人の勢いに押されてしまうが、もちろん、賛成だ。
「よかった、じゃあ、テスト終わったら、これで」
「楽しみだなあ~!」
遊園地か……久しぶりだな。
結構、ワクワクしちゃってるぞ。
「ごちそうさまでした」
24
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる