一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第七百二十三話 持ち寄りご飯

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 オーブンで少し焼いたクロワッサンと、わずかばかりのコーヒーと豆乳のカフェラテを好きなアニメを見ながら食べる。休日、朝食後の小腹が空いた時のこの時間、至福だなあ。
 サクッと香ばしいクロワッサン。バターは控えめで小ぶり、中は少しもっちりしていてうまい。そこにカフェオレを飲むと、ジュワーッと染みて、ほのかなコーヒーの風味と豆乳の素朴な甘さが広がる。うまいなあ。
 さて、今日は昼ご飯、何食うかなあ……
「んん?」
 スマホの通知音……グループチャットに何やらメッセージが。お、朝比奈か。
『ちょっと、話したいことがある』
 え、なに。なんか深刻な話? あ、返信来た。このアイコンは咲良か。
『じゃ、春都んち集合!』
「はあ?」
『定期あるし、ちょうどいいっしょ』
 何がちょうどいいんだ、この野郎。

「悪いな、急に押しかけて」
 結局了承せざるを得なかったので、三人がやって来た。朝比奈が申し訳なさそうに、しょぼしょぼした表情で言う。当の咲良は楽しそうに笑っていた。
「別に何もやることなかったし、いいよ。つーか、決めたのは咲良だし」
「だって最近来てなかったもん」
「もん、じゃない」
「あ~、うめず久しぶり~」
 百瀬はうめずに吸い寄せられるようにしゃがみこんだ。うめずはふすふすと鼻を鳴らし、行儀よくお座りしている。
「これ、よかったら。友達の家に行くって言ったら、真野さんが作ってくれた」
 朝比奈が差し出してきたのは、アニメとか映画とかで見るようなバスケットである。おしゃれな布が見えていて、外国の小説とかに出てきそうな見た目だ。
「サンドイッチだ。真野さんが作ったの、うまいんだ」
「おー、わざわざありがとな」
「え、何、朝比奈。これ持ってバス乗ったの」
 咲良が聞くと朝比奈は首を横に振った。
「家の人に、送ってもらった」
「送迎付きかよ」
「あの車、乗り心地いいよね~。俺も乗せてもらえばよかった~」
 と、百瀬は言うと、軽い足取りでこっちに来た。
「じゃ、俺もお土産。ゼリーだよ。この時期は作ってんだ~、冷蔵庫に入れといてもいい?」
「ああ、ありがとう」
「俺も俺も! ちゃんと持って来てるよ!」
 咲良は言い、ずいっと何かを突き付けてきた。なんかすごく、香ばしいというか、食欲をそそる香りがする。
「お、ポテトか?」
「そう! バスセンターの中のな」
 確かこれは、学生証を見せたら安くなるやつだな。揚げたてのポテトが入ったボックス。買いたいけど、なかなかの量なので買いづらいんだ。こういう時じゃないと食べられない。
「ありがとな」
「食いながら話そうぜ」
 テーブルにポテトとサンドイッチ。サンドイッチはベーコンとレタスとトマトが、惜しげもなく挟まっている。まるでピクニックだな。
「いただきます」
 とりあえず、揚げたてポテトをひとつまみ。サクッとしていて、少ししっとり。太めだからほくほくで、香ばしい。そうそう、この塩気。ポテトの塩味はお店によって全然違うし、真似できない。
 じゃ、サンドイッチも一ついただこう。
 少し焼いてあるパンは薄すぎず分厚すぎない。サクッと香ばしくて、小麦の風味が豊かだ。みずみずしいトマトは爽やかに甘く、ベーコンはカリカリに焼いてあって、脂が程よく落ちているが、ジューシーだ。レタスもしっかり水気が切ってあって、水っぽくない。それぞれの具材のバランスが最高だ。
 特別な調味料の気配はないが、塩気がちょうどいいんだよなあ。パンにも薄くマーガリンが塗ってあるのだろうか。はー、うまいなあ。
「で、話って何?」
 サンドイッチをしっかり二つ平らげたところで、咲良が言った。朝比奈は麦茶を一気に飲むと、意を決したように言った。
「……いいニュースと悪いニュースがある。どっちから」
「え、悪い方だろ」
 朝比奈以外の三人の声が重なる。朝比奈は表情を変えず、言った。
「野球、行けなくなった」
「お、おー? そういや、そんな話だったな」
 今思い出した、というように咲良が言う。朝比奈は渋い顔で続けた。
「なんか、親が、知り合いにやるって。すまん」
「んー別に大丈夫だよ。ま、お出かけがなくなるのは寂しいけど」
 百瀬は言い、咲良も「そんな深刻にならなくても」とのんきに笑う。
「そうだな、気に病むことはない」
「そう言ってもらえると助かる」
「それよりもさ、いいニュースが気になるんだけど」
 咲良が話を急かすと、百瀬が言った。
「ねー、ゼリー出していい?」
「お、いいな。食べながら続きだな」
 百瀬が持ってきたゼリーは、薄い緑色の透き通ったゼリーだった。きれいだなあ。
「青リンゴだよー」
 ん、ほんとだ。少し歯ごたえのある感じのゼリーだな。プルプルひんやりしていてうまい。つるんとのどを通っていく感覚が気持ちいい。ふわっと香る、青リンゴの風味。この作られた風味、結構好きだ。
 これ食うと、幼稚園の誕生会を思い出す。誕生月の人だけ、クリーム絞ってさくらんぼのせてもらえるんだったかなあ。
 夏にゼリー、いいなあ。俺もなんか作るか。
 少し食べてから、朝比奈は鞄から何かを取り出した。この間見た招待券にも似た、でもちょっと違う色合いのやつだ。
「野球の代わりに、って、これをもらったんだ」
 見ればそれは、遊園地の招待券のようだった。
「おおー! 遊園地じゃん! え、しかもでけぇとこの!」
 咲良は一気にテンションが上がったようであった。百瀬も目を輝かせる。
「うわ~、最近行ってないなあ」
「小学校の頃、イベントやってるときに行ったきりだな」
「……行くか?」
 朝比奈の問いに、咲良と百瀬は「行く!」と即答し、俺は頷いて賛成の意を示す。なんか、二人の勢いに押されてしまうが、もちろん、賛成だ。
「よかった、じゃあ、テスト終わったら、これで」
「楽しみだなあ~!」
 遊園地か……久しぶりだな。
 結構、ワクワクしちゃってるぞ。

「ごちそうさまでした」
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