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日常
第七百八話 ちゃんぽん
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なんとなくぐずついていた天気の平日だったが、週末は嘘のように晴れた。
「今日は洗濯日和で助かったー!」
朝食を取りながら、母さんは言った。
今日は珍しくシリアルである。ココア味の、ポン菓子みたいなやつ。それに豆乳をかけて食う。
久々に食ったら、結構うまい。冷たい豆乳にザクザクのシリアル。スプーンですくって口にほおばるのがいい。少し柔らかくなったのもいいな。豆乳にココア味が染み出してきておいしいので、最後は全部飲み干す。
「冬物、ぜーんぶ洗っちゃおうね」
「また寒くなるって聞いたけど」
「その時は着ればいいよ。いったん片付けておいたら、楽でしょ」
「確かに」
皿が少ないと、片付けが楽だな。
「あ、そうだ、お父さん」
母さんはてきぱきと朝食の片付けをしながら父さんを呼ぶ。つくづく、この皿洗いのスピードには感服する、マネできやしねぇ。今日は特に皿が少ないから、あっという間に片付いてしまった。
「なに?」
「ベランダ、掃除しといてくれる? それとアルコールで物干し竿拭いてて。洗えそうな布団も洗っちゃうから」
「分かった。春都、手伝ってくれ」
「はーい」
ベランダは、結構広い。プランターで野菜を育てようと思えば育てられるのだが、あいにく、俺にはセンスがない。植物はすぐ枯らす。
「さあ、ほうきを持てー!」
「お、おー」
「はい、春都は向こうから掃除してってね」
と、父さんはテンションが高いんだか普通面積なんだかよく分からないまま、ほうきを渡してきた。なんなんだ。
「よし、じゃあ、競争!」
「競争?」
「より多くの面積を、きれいに掃除できた方の勝ち。勝ったら、そうだなあ……ひとつ言うことを聞いてもらおう!」
「よし来た」
よーい、どん、の合図で掃除を始める。
こういうゲームじみたことをするとき、父さんは決して接待しない。母さんもだ。それは小さいとき……物心ついた時からそうだった。容赦ねえんだ。手を抜かない、とか、そういうことじゃない。勝ちにくるんだ。
だから、油断できない。
「はーい、父さんの勝ち~」
「えっ、俺の方がきれいにやったし!」
「父さんの方もきれいだし、範囲広いです~」
ぐぬぬ……
結局俺が父さんの言うことを聞くことになって、物干し竿の準備は俺がやることになった。
「もう、何やってんの。はい、春都次が待ってるよ」
「えー……」
母さんが大量の洗濯物を抱えてやってきた。次は干すのか。
「はい、ちゃっちゃと干すよ~」
「はーい……」
「まずはこれね、次はこれ、それから……」
干すのは大変だが、気分はいい。風がそよぐと洗剤の香りがふわりと漂って、爽やかな気分になる。
『今日は梅雨入り前の最後の晴天になるかも? 洗濯物は、今日のうちに干すとよいでしょう』
居間のテレビが、そう伝える。
「最後の晴天かぁ……」
次の洗濯物を待つ間、ベランダと今の境目に腰掛けて空を見上げる。
確かに、すっきりとした空である。本当にこれから梅雨入りするんだろうか、もう開けたんじゃないか、夏を通り越して秋が来たんじゃないか、というような気候である。
「わうっ」
「うめず」
隣にうめずがやってきて、座る。
「もうちょいしたら、お前の季節だなあ」
「わふ」
梅酢は、梅干しを付けた時にできるものだ。うめずの本当の誕生日は知らないが、うめずの名を持つ以上、これからはこいつの季節だ。俺がそう決めた。
「はーい、第二陣、来たよ~」
「っしゃ」
さて、頑張るぞ。
動くとすっかり腹が減る。その分、飯も楽しみになるというものだ。
今日の昼飯は豪華だ。なんと、ちゃんぽん。たっぷり野菜にえびまで入っている。いやあ、山盛りだ。
「いただきます」
熱々のスープを一口。
そうそう、これだよ、これ。豚骨なんだけどあっさりしていて、ラーメンとは全く違う味わいのスープ。野菜のうま味が溶けだして、甘味もある。
キャベツにもやし、にんじん、コーン。うず高く積まれた野菜は彩りよく、見た目から食欲を刺激してくる。
ごっそりつかんで、ほおばる。
ザクザクするのはもやしか、キャベツか。もやしはみずみずしく、キャベツは甘く、ほんの少しだけ柔らかい。この味で、野菜をたっぷりほおばると、ちゃんぽん食ってるーって感じがする。
ニンジンは短冊切りなんだよな。ホロッとしていてうまい。
コーンはプチッとはじけて楽しい。この爽やかな甘さが、ちゃんぽんによく合うんだなあ。
お、えびが入ってるからないかなと思ったけど、豚肉もある。好きなんだよなあ、スープに浸った豚肉。脂身は控えめで、ぎゅうっと縮こまっているのが愛おしい。
麺もうまい。ちゃんぽん麺は、つるっと口当たりよく、食べ応えも十分だ。スープも一緒に口に含むともうたまらない。
えび、噛み応えがある。ジュウッと染み出す、普段のちゃんぽんではなかなか味わえないうま味、風味。いいねえ、海鮮って、ちゃんぽんに合うんだ。
そして最後の勝負。コーンを余すことなく、食べきること。箸ですくうの大変だけど、きれいに食べきれると最高に気持ちがいい。
うん、今日もきれいに食べきれた。動いていたから、余計にうまかった。
「さ、後は片づけないとね~」
母さんの言葉にふっと笑う。
「頑張るよ」
うまい飯食ったし。たぶん、頑張れる、と思う。
うん、頑張る。
「ごちそうさまでした」
「今日は洗濯日和で助かったー!」
朝食を取りながら、母さんは言った。
今日は珍しくシリアルである。ココア味の、ポン菓子みたいなやつ。それに豆乳をかけて食う。
久々に食ったら、結構うまい。冷たい豆乳にザクザクのシリアル。スプーンですくって口にほおばるのがいい。少し柔らかくなったのもいいな。豆乳にココア味が染み出してきておいしいので、最後は全部飲み干す。
「冬物、ぜーんぶ洗っちゃおうね」
「また寒くなるって聞いたけど」
「その時は着ればいいよ。いったん片付けておいたら、楽でしょ」
「確かに」
皿が少ないと、片付けが楽だな。
「あ、そうだ、お父さん」
母さんはてきぱきと朝食の片付けをしながら父さんを呼ぶ。つくづく、この皿洗いのスピードには感服する、マネできやしねぇ。今日は特に皿が少ないから、あっという間に片付いてしまった。
「なに?」
「ベランダ、掃除しといてくれる? それとアルコールで物干し竿拭いてて。洗えそうな布団も洗っちゃうから」
「分かった。春都、手伝ってくれ」
「はーい」
ベランダは、結構広い。プランターで野菜を育てようと思えば育てられるのだが、あいにく、俺にはセンスがない。植物はすぐ枯らす。
「さあ、ほうきを持てー!」
「お、おー」
「はい、春都は向こうから掃除してってね」
と、父さんはテンションが高いんだか普通面積なんだかよく分からないまま、ほうきを渡してきた。なんなんだ。
「よし、じゃあ、競争!」
「競争?」
「より多くの面積を、きれいに掃除できた方の勝ち。勝ったら、そうだなあ……ひとつ言うことを聞いてもらおう!」
「よし来た」
よーい、どん、の合図で掃除を始める。
こういうゲームじみたことをするとき、父さんは決して接待しない。母さんもだ。それは小さいとき……物心ついた時からそうだった。容赦ねえんだ。手を抜かない、とか、そういうことじゃない。勝ちにくるんだ。
だから、油断できない。
「はーい、父さんの勝ち~」
「えっ、俺の方がきれいにやったし!」
「父さんの方もきれいだし、範囲広いです~」
ぐぬぬ……
結局俺が父さんの言うことを聞くことになって、物干し竿の準備は俺がやることになった。
「もう、何やってんの。はい、春都次が待ってるよ」
「えー……」
母さんが大量の洗濯物を抱えてやってきた。次は干すのか。
「はい、ちゃっちゃと干すよ~」
「はーい……」
「まずはこれね、次はこれ、それから……」
干すのは大変だが、気分はいい。風がそよぐと洗剤の香りがふわりと漂って、爽やかな気分になる。
『今日は梅雨入り前の最後の晴天になるかも? 洗濯物は、今日のうちに干すとよいでしょう』
居間のテレビが、そう伝える。
「最後の晴天かぁ……」
次の洗濯物を待つ間、ベランダと今の境目に腰掛けて空を見上げる。
確かに、すっきりとした空である。本当にこれから梅雨入りするんだろうか、もう開けたんじゃないか、夏を通り越して秋が来たんじゃないか、というような気候である。
「わうっ」
「うめず」
隣にうめずがやってきて、座る。
「もうちょいしたら、お前の季節だなあ」
「わふ」
梅酢は、梅干しを付けた時にできるものだ。うめずの本当の誕生日は知らないが、うめずの名を持つ以上、これからはこいつの季節だ。俺がそう決めた。
「はーい、第二陣、来たよ~」
「っしゃ」
さて、頑張るぞ。
動くとすっかり腹が減る。その分、飯も楽しみになるというものだ。
今日の昼飯は豪華だ。なんと、ちゃんぽん。たっぷり野菜にえびまで入っている。いやあ、山盛りだ。
「いただきます」
熱々のスープを一口。
そうそう、これだよ、これ。豚骨なんだけどあっさりしていて、ラーメンとは全く違う味わいのスープ。野菜のうま味が溶けだして、甘味もある。
キャベツにもやし、にんじん、コーン。うず高く積まれた野菜は彩りよく、見た目から食欲を刺激してくる。
ごっそりつかんで、ほおばる。
ザクザクするのはもやしか、キャベツか。もやしはみずみずしく、キャベツは甘く、ほんの少しだけ柔らかい。この味で、野菜をたっぷりほおばると、ちゃんぽん食ってるーって感じがする。
ニンジンは短冊切りなんだよな。ホロッとしていてうまい。
コーンはプチッとはじけて楽しい。この爽やかな甘さが、ちゃんぽんによく合うんだなあ。
お、えびが入ってるからないかなと思ったけど、豚肉もある。好きなんだよなあ、スープに浸った豚肉。脂身は控えめで、ぎゅうっと縮こまっているのが愛おしい。
麺もうまい。ちゃんぽん麺は、つるっと口当たりよく、食べ応えも十分だ。スープも一緒に口に含むともうたまらない。
えび、噛み応えがある。ジュウッと染み出す、普段のちゃんぽんではなかなか味わえないうま味、風味。いいねえ、海鮮って、ちゃんぽんに合うんだ。
そして最後の勝負。コーンを余すことなく、食べきること。箸ですくうの大変だけど、きれいに食べきれると最高に気持ちがいい。
うん、今日もきれいに食べきれた。動いていたから、余計にうまかった。
「さ、後は片づけないとね~」
母さんの言葉にふっと笑う。
「頑張るよ」
うまい飯食ったし。たぶん、頑張れる、と思う。
うん、頑張る。
「ごちそうさまでした」
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