一条春都の料理帖

藤里 侑

文字の大きさ
上 下
755 / 854
日常

第七百五話 カレーライス

しおりを挟む
 今日は朝、ご飯を食べて少し時間がゆっくりあったので、ソファに座って朝の情報番組なんぞを見てみることにする。ちょうど地元のテレビ局が放送しているようだ。
『注目の若手選手たち、これからの活躍に期待したいですね~』
 ちょうど、スポーツコーナーが終わったところで、画面が切り替わる。
『さて、続いてはこちらです』
 メインキャスターが笑顔で言えば、再び画面が切り替わる。ギラギラと眩しい太陽、真っ青な空、これから来る夏への期待というより億劫さを象徴するような音楽が流れ、ナレーションもそれを煽るようである。
『朝晩は冷え込む日が続いていますが、日中は暑くなってきた今日この頃。暑くなってくるとさっぱりしたものが食べたくなりますよね~』
『ですが一方で、がっつりと英気を養いたい! という気持ちもある。ということで、今日は……』
『カレー特集です!』
 何でカレー? まあ、確かに、がっつり元気が出そうなものではあるが。てっきり、肉か何かかと。
『はい、というわけで今日はカレー特集です』
『元気が出る食べ物って色々ありますよね? お肉とか鰻とか……どうして今日はカレーなんですか?』
『今日は、らっきょうの日、らしいんですよ。らっきょうといえばカレー、カレーといえばらっきょうでしょう?』
 なるほど、そういうことか。
『カレーには福神漬けでは……?』
『いいじゃないですか、いろいろあっても。さて、それではさっそくVTRをどうぞ!』
 らっきょう派と福神漬け派で分かれるのは、たびたび見かける。そもそも食べ物って好みが分かれやすいから、ちょくちょく争いが起きてるよなあ。呼び方しかり、組み合わせしかり。
 うちじゃ、両方出るからなあ。福神漬けも、らっきょうも。
『一言でカレーといってもいろいろありますよね~……』
 陽気な音楽が流れ出し、様々なカレーが画面に出てくる。こういう特集って、何回もやってる気がするなあ、と思いながらも、これといって不満はない。おいしそうなものの特集は、いくらでもやってほしいくらいだ。
 カレー……カレーかあ。俺、どんなカレーが好きかなあ。

 朝からあんな番組を見てしまったものだから、なんだか頭からカレーが離れなくなってしまった。
 特にこれといってやることもない休み時間。ぼんやりとカレーに思いをはせる。
 やっぱり最初に思いつくのはうちのカレーだなあ。ひらひらの豚肉、大ぶりのじゃがいも、にんじんと玉ねぎ。カレーのお手本みたいだと思っているが、他の人にとっては違うのかもしれない。
 あ、鶏肉の時もあるなあ。牛肉は少ないか。シーフードは……滅多にない。というか、やったことあったっけ?
 そうそう、カレーといえば、焼きカレーもいいよなあ。
 耐熱皿にご飯をよそって、カレーをかけて、チーズをのせて焼くんだ。卵を落としてもいい。一日経ったカレーは、そうしたくなってしまうんだなあ。
 あ、それなら、カレーうどんもいいな。出汁で引き延ばしたカレーってうまいんだ。
 でもなあ、ドライカレーも好きなんだよなあ。野菜たっぷりで食べ応えあって。普段のカレーでもそりゃ野菜は食えるけど、なんか、違うんだよなあ。
 がっつりといえばカレーパンもいいな。揚げたてのカレーパン。めっちゃ辛いのもあるし、程よく甘いのもあるし、フルーティな感じのもある。スーパーのすみっこのパンコーナーに売ってるようなパンもうまい。
 想像がつかないカレーは、本格的なやつだな。専門店とか行ったことない。
 CMでもよく見かけるような、皆も行ったことがあるようなチェーン店ですら言ったことがないんだよなあ。ああいうとこのって、どんな何だろう。高くて本格的だからうまいとは限らないが、まずいとも限らない。
 一度、小さいころ、商業施設の中にあるカレー屋さんの前を通ったことがある。本場の人がやってるって店で、結構人気だったっけ。
 その時の匂いは今でも鮮明に覚えている。スパイスの香りが濃くて、子どもには刺激的だったなあ。
 それ以前に、お店の人が大きい外国の人だったから、それにビビってたんだけど。
 カレーかあ……こう考えてみると、カレーって結構バリエーション豊かだな。それに合わせる食材もいろいろだし……そもそも、同じルーを使ったって、人によって味は変わるわけで。
 世界中のカレーを食いきるには、毎日食い続けても追いつかなさそうだなあ。

 おや、今日は我が家もカレーの香りがする。
「朝、カレー見てから、いいなあと思ってね」
 母さんは鍋をかきまぜながら言った。レトルトじゃないカレーは、久しぶりかもしれないなあ。一人分作るのって、大変だから。
 今日は豚肉かあ。いいねえ……おや、何やらカレー以外の香りもするようだが。
「なんか揚げた?」
「鼻がいいね、春都。正解。今日はカツカレーだよ」
「やった」
 そうだそうだ、カツカレーというものもあったなあ。そうだよ、カレーはトッピングも無限大なのだ。
「いただきます」
 テーブルには福神漬けとらっきょうもある。さて、どうやって盛り付けようかなあ。
 カツは一人一枚……以上あるな。とりあえずきれいにのせてっと……うーん、福神漬けもらっきょうも好きだから、両方のせてしまえ。
 かなり不格好かもしれないが、良い皿になった。
 まずはカレーだけで。
 しっとりとしたご飯によく合うとろりとしたルー。野菜の甘味と豚肉のうま味が染み出していておいしい。豚肉は柔らかくとろけそうだ。
 カレーのじゃがいも、なんか好き。ほくほくしているうえに、表面はトロッと溶けている。このとろとろを削り取るように食べて、中にたどり着くのが面白い。まあ、家でしかできない食べ方かな。
 にんじんもやわらかく、甘い。生のにんじんはあまり得意ではないのだが、火を通したにんじんは大好きだ。玉ねぎはすっかりトロットロである。
 さて、さっそくカツを。
 ……んー、さくっ、じゅわあ、とろとろ。百点満点の食感と口当たりだなあ。熱々のとんかつは香ばしくジューシーで、カレーと相まってジュワジュワしてたまらないことになっている。ご飯も一緒に食べたら、口の中が幸せでいっぱいだ。
 醤油を少し垂らしてみよう。カレーに醤油、コクが増して和風になる。この味変、大好き。
 そうそう、らっきょうも。シャクッとみずみずしく酸味があって、少し辛い。どの野菜にもない独特の風味。玉ねぎっぽいけど、やっぱり違う。カレーに合うんだよなあ。らっきょう酢をカレーにかけてもさっぱりしていいんだ。
 福神漬けは言わずもがな、カレーのためにあるような感じだな。でもこれ、単体でも結構おかずになるんだよ。カレー以外との相性も抜群だが、やっぱり、カレーとの組み合わせが一番輝くよな。
 そしてカレーは、絶対おかわりしてしまうんだ。
 明日の朝もカレーだろう。一晩経つとまた味わいが変わっていいんだよなあ。
 ふふ、楽しみだなあ。

「ごちそうさまでした」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから

キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。 「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。 何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。 一話完結の読み切りです。 ご都合主義というか中身はありません。 軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。 誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

処理中です...