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日常
第七百一話 ホットドッグ
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土曜の朝、今日は課外もなく休みである。となれば、朝からゆっくり過ごそう。さっさと身支度を済ませ、ソファに座る。
「今日は、課外はないのか?」
「うん」
「じゃあ、ゆっくりできるなあ」
と、父さんはコーヒーを入れながら言った。母さんは椅子に座り、スマホを見ている。
「朝ごはんは何にしようねえ……」
「わうっ」
「うん? うめずが何か作ってくれるの?」
「わふぅ」
なんか今日、うめずが朝から元気である。吠えまくるわけではないが、ずっとうろうろ、そわそわしているというか。天気がいいからだろうか?
そんなうめずを見つつ、写真に収めていると、何かを急かすように鼻先で足をつついてきた。
「なんだ、どうした」
「わう~」
「散歩に行きたいんじゃない?」
母さんが笑って言うと、うめずは心底嬉しそうに「わうっ!」と返事をしたのだった。
「朝ごはんの準備するから、その間散歩に行っておいで」
と、母さんから命を受け、早朝のひとけのない町をうめずと歩く。
空気はひんやりと冷たく、少し寒いと思うくらいだ。上着を着てきておいてよかった。るんるんと足取りの軽いうめずはいつもより歩調が速く、ちょっと小走り気味だ。
「うめずー、お前何でそんな元気なんだよ~」
「わうっ」
「はいはい、ついていきますよ」
やがてたどり着いたのは河川敷だった。何だ何だ、走りたいのか? また逃げ出すなよ……
「おっ、早いなあ。一条君」
「あ、田中さん。おはようございます」
「ああ、おはよう」
なんとなくそんな気はしていたが、ジャージ姿の田中さんがいた。うめずは田中さんを見つけるなり、ハイテンションでじゃれついた。田中さんはびくともせずうめずを受け止める。すげえ、俺なら倒れ込むぞ。
「元気いっぱいだなあ、うめず。あんまりご主人を困らせるんじゃないぞ~」
「わうっ!」
「一緒に走るか?」
「わーふ!」
もしかしてうめず、これが狙いだったか? ……まあ、俺じゃあ走り回れないもんなあ。
「一条君、いいか?」
「もう、存分に」
田中さんにリードを渡す。うめずはそわそわしながらも行儀よくお座りをし、走り出す時を今か今かと待っている。
「……よし、ゴー!」
おお、さながら警察犬のごときうめずの疾走感。田中さんも、どことなく警察官っぽいから、映えるなあ。
さて、ご主人はゆっくりさせてもらいますよっと。
お、公園がきれいに整備されている。遊具はすっかり朽ち果てて撤去されていたが……またきれいなものが設置されている。
「よ……っと」
ブランコに腰掛け、ほっと息をつく。川の近くは、より冷える。
よく見ると、この時間に歩いている人は結構いる。夫婦らしき二人はゆっくりと、出勤前っぽい人はしゃきしゃきと、お年寄りが全体的に多いかなあ。ま、歩くにはちょうどいい空気だもんな。あ、犬の散歩してる人もいる。ちっちゃい犬がちょこちょこと一生懸命歩いている姿を見ると、子犬の頃のうめずを思い出す。
今やすっかり成長して、立派になったものである。飼い主より元気なのが少々大変だが、愛おしさは増すばかりだ。
というか、今と昔で比べようがないな。どうあがいても、愛おしい。
まあ、向こうはどう思ってるか分からんが。物足りないと思っているやもしれん。
「お、おお、うめず。帰り道はずいぶん飛ばすなあ!」
あ、帰って来た。
田中さんは少し息が上がっていて、うめずは満足げにこっちを見上げている。
「いやあ、やっぱり、うめずは一条君のことが大好きなんだなあ」
「へ?」
「行きと帰りじゃ、全然スピードが違ったよ。一緒にいられるってときに、少しでも離れるのが、惜しいんだろうなあ」
……そうなのか?
うめずは言葉で答える代わりになのか、笑みを浮かべたような顔でこちらを見上げて一声吠えた。
家に帰りつくと、何やら香ばしい匂いが漂っていた。これは、パンが焼ける匂いだ。
「ただいま」
「おかえり。ご飯、できてるよ」
おお、今日は珍しくパンの朝ごはんだ。いいな、なんか、新鮮だ。しかもホットドックか。いいじゃないか、すごくいい。
「うめずも朝ごはんだな」
「わうっ」
歩くと腹が減るなあ。
「いただきます」
背割りコッペパンに、ソーセージとケチャップ、そしてたっぷりのチーズ。チーズがいっぱいって、贅沢だよなあ。
少し焦げた、表面がパリっと香ばしいパン。ふかふかとしていて、噛めばふうっと小麦の香りが鼻に抜ける。朝味わうには、珍しい香りだ。ああ、炊き立てご飯の香りもいいが、パンの香りもいいなあ。ああ、比べられないな。
ウインナーはパリッとはじけ、肉の味と強すぎない香辛料が香る。なじみのある味わいだ。よく弁当でも食う。
ウインナーって、調理次第でいかようにも変化する。
ホットドッグに挟まると、一気にジャンクな感じになるというか。ケチャップの少し酸味のある味わいがよく合う。
そしてそこにチーズ。なめらかで、塩気のあるうま味。もっちりしつつ、パリパリしたところもあっておいしい。焦げたところはまるでせんべいみたいだ。
そういや、ホットドッグって……温かい犬? 確かに、今のうめずはほくほくしているな。ふふ、ぴったりの朝食じゃないか。
結構大振りだったが、三つも平らげてしまった。
ふう、腹パンパン。腹ごなしの散歩に行ってもいいと思えるくらいには、満ち足りていた。
「ごちそうさまでした」
「今日は、課外はないのか?」
「うん」
「じゃあ、ゆっくりできるなあ」
と、父さんはコーヒーを入れながら言った。母さんは椅子に座り、スマホを見ている。
「朝ごはんは何にしようねえ……」
「わうっ」
「うん? うめずが何か作ってくれるの?」
「わふぅ」
なんか今日、うめずが朝から元気である。吠えまくるわけではないが、ずっとうろうろ、そわそわしているというか。天気がいいからだろうか?
そんなうめずを見つつ、写真に収めていると、何かを急かすように鼻先で足をつついてきた。
「なんだ、どうした」
「わう~」
「散歩に行きたいんじゃない?」
母さんが笑って言うと、うめずは心底嬉しそうに「わうっ!」と返事をしたのだった。
「朝ごはんの準備するから、その間散歩に行っておいで」
と、母さんから命を受け、早朝のひとけのない町をうめずと歩く。
空気はひんやりと冷たく、少し寒いと思うくらいだ。上着を着てきておいてよかった。るんるんと足取りの軽いうめずはいつもより歩調が速く、ちょっと小走り気味だ。
「うめずー、お前何でそんな元気なんだよ~」
「わうっ」
「はいはい、ついていきますよ」
やがてたどり着いたのは河川敷だった。何だ何だ、走りたいのか? また逃げ出すなよ……
「おっ、早いなあ。一条君」
「あ、田中さん。おはようございます」
「ああ、おはよう」
なんとなくそんな気はしていたが、ジャージ姿の田中さんがいた。うめずは田中さんを見つけるなり、ハイテンションでじゃれついた。田中さんはびくともせずうめずを受け止める。すげえ、俺なら倒れ込むぞ。
「元気いっぱいだなあ、うめず。あんまりご主人を困らせるんじゃないぞ~」
「わうっ!」
「一緒に走るか?」
「わーふ!」
もしかしてうめず、これが狙いだったか? ……まあ、俺じゃあ走り回れないもんなあ。
「一条君、いいか?」
「もう、存分に」
田中さんにリードを渡す。うめずはそわそわしながらも行儀よくお座りをし、走り出す時を今か今かと待っている。
「……よし、ゴー!」
おお、さながら警察犬のごときうめずの疾走感。田中さんも、どことなく警察官っぽいから、映えるなあ。
さて、ご主人はゆっくりさせてもらいますよっと。
お、公園がきれいに整備されている。遊具はすっかり朽ち果てて撤去されていたが……またきれいなものが設置されている。
「よ……っと」
ブランコに腰掛け、ほっと息をつく。川の近くは、より冷える。
よく見ると、この時間に歩いている人は結構いる。夫婦らしき二人はゆっくりと、出勤前っぽい人はしゃきしゃきと、お年寄りが全体的に多いかなあ。ま、歩くにはちょうどいい空気だもんな。あ、犬の散歩してる人もいる。ちっちゃい犬がちょこちょこと一生懸命歩いている姿を見ると、子犬の頃のうめずを思い出す。
今やすっかり成長して、立派になったものである。飼い主より元気なのが少々大変だが、愛おしさは増すばかりだ。
というか、今と昔で比べようがないな。どうあがいても、愛おしい。
まあ、向こうはどう思ってるか分からんが。物足りないと思っているやもしれん。
「お、おお、うめず。帰り道はずいぶん飛ばすなあ!」
あ、帰って来た。
田中さんは少し息が上がっていて、うめずは満足げにこっちを見上げている。
「いやあ、やっぱり、うめずは一条君のことが大好きなんだなあ」
「へ?」
「行きと帰りじゃ、全然スピードが違ったよ。一緒にいられるってときに、少しでも離れるのが、惜しいんだろうなあ」
……そうなのか?
うめずは言葉で答える代わりになのか、笑みを浮かべたような顔でこちらを見上げて一声吠えた。
家に帰りつくと、何やら香ばしい匂いが漂っていた。これは、パンが焼ける匂いだ。
「ただいま」
「おかえり。ご飯、できてるよ」
おお、今日は珍しくパンの朝ごはんだ。いいな、なんか、新鮮だ。しかもホットドックか。いいじゃないか、すごくいい。
「うめずも朝ごはんだな」
「わうっ」
歩くと腹が減るなあ。
「いただきます」
背割りコッペパンに、ソーセージとケチャップ、そしてたっぷりのチーズ。チーズがいっぱいって、贅沢だよなあ。
少し焦げた、表面がパリっと香ばしいパン。ふかふかとしていて、噛めばふうっと小麦の香りが鼻に抜ける。朝味わうには、珍しい香りだ。ああ、炊き立てご飯の香りもいいが、パンの香りもいいなあ。ああ、比べられないな。
ウインナーはパリッとはじけ、肉の味と強すぎない香辛料が香る。なじみのある味わいだ。よく弁当でも食う。
ウインナーって、調理次第でいかようにも変化する。
ホットドッグに挟まると、一気にジャンクな感じになるというか。ケチャップの少し酸味のある味わいがよく合う。
そしてそこにチーズ。なめらかで、塩気のあるうま味。もっちりしつつ、パリパリしたところもあっておいしい。焦げたところはまるでせんべいみたいだ。
そういや、ホットドッグって……温かい犬? 確かに、今のうめずはほくほくしているな。ふふ、ぴったりの朝食じゃないか。
結構大振りだったが、三つも平らげてしまった。
ふう、腹パンパン。腹ごなしの散歩に行ってもいいと思えるくらいには、満ち足りていた。
「ごちそうさまでした」
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