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日常
第六百九十六話 冷やしうどん
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土曜課外、今日は授業ではなく清掃活動がある。
各クラスや部活ごとに割り当てられた場所を掃除するもので、毎年やっている。雨が降るかどうかという天気予報ではあったが、見事に大外れ。雲一つない青空が広がっている。
「めっちゃいい天気」
着替え終わり、廊下に出ると、宮野が嫌そうにつぶやいた。セリフと声音のミスマッチさに、思わず振り返る。
「絶対暑くなるじゃん、これ」
「だなあ」
「風ないし、じめじめしてるし。あー、べたべたして気持ち悪い~」
悪態をひとしきりついて、宮野は諦めたようにため息をつくと歩き始めた。それと入れ替わるように、咲良がやってくる。
こっちは宮野とは真逆に、とても楽しそうである。
「よう! 春都。いい天気だな!」
「お前は素直そうでいいな」
「へ? なんかよくわかんないけど、ありがとー」
連れ立って、人波にまぎれる。
「授業つぶれるし、超ラッキー」
「それで喜んでるんだな」
「だってさあ、その方がよくない?」
「俺はどっちでも」
えー、と咲良は言って笑う。
真夏ほどではないが、外は暑かった。蒸し暑いという感じだろうか。ああ、梅雨が来るんだなあ、と分かる暑さだ。水筒持参で掃除しろ、と言われた理由が分かる。
いったんグラウンドに集合して、いくつか連絡があった後、解散する。
「春都って、どこ掃除?」
「えーっと……」
どこだったっけ。割り当て表を思い出す。校内の見取り図に、蛍光ペンでマーカーされていた。放送部は特別な割り当てがなかったから、クラスのところになるから……
「中庭だな」
「俺らも一緒だ。仲良くやろうぜ」
「遊ぶんじゃないんだぞ」
掃除開始間もなく、汗がだらだらと流れてきた。あっつい中、草むしりをするのはなかなか骨が折れる
「中庭担当ってさ、先生の目が届きにくいって噂らしい」
咲良は雑草を抜き、ゴミ袋に放り込みながら言った。
「さぼらねぇ?」
「お前なあ……」
「必要な休憩だよ。大丈夫、先生たち見てないって」
「そーやって油断してるときに限って、ろくなことないんだぞ」
とはいえ、疲れたのは確かだ。座ったまま、肩を回す。ばあちゃんって、こまめに草取りしてるよなあ。大変だなあ。今度手伝おう。
「じゃ、とりあえず日陰に行く?」
と、咲良は休憩をあきらめきれないらしい。
「草むしっとけ」
「え~? 休もうよ~」
「ちゃんと見てるからな」
うわ、何だ。
「二宮先生~、びっくりさせないでくださいよ~」
背後に立っていたのは、二宮先生だった。先生は笑うと言った。
「休憩するなとは言わんが、さぼりと勘違いされんようにな」
「は~い」
二宮先生は「よし!」と頷くと、見回りに戻った。
「各自、水分補給は十分にするんだぞ。気分が悪いやつはすぐに申し出るように!」
それにしても、本当に暑い。ちょこちょこお茶飲んでないとやっていられない。飲んだはなから水分が蒸発していくようだ。
パンパンになった袋を縛り、回収場所に持って行く。途中、プール掃除をする水泳部の笑い声が聞こえてきた。ああ、水使ってんのかなあ。涼しいだろうなあ。
「腹減った……」
昼飯、何かなあ。
半日学校を頑張って、家に帰ってきて昼飯を食う。
この時間って、何ともいえない幸福感に包まれる。しかも、その昼飯が用意されているって、自分で用意しなくていいって、最高だろう。
「暑かった~」
「日に当たると疲れるもんね」
クーラーはつけていないが、十分涼しい室内。昼飯の完成を待ちながら、椅子に座った。うめずのベッドも夏用に様変わりしている。気持ちよさそうにくつろいでいるなあ。
「春都、うどんにはもう温泉卵のせていい?」
「うん」
今日の昼飯は、冷やしうどんだ。テーブルにはつゆが準備されていて、トッピングにはかまぼこが準備されている。とろろと、温泉卵付きだ。
「はい、どーぞ」
「ありがとう」
真っ白なうどんにこれまた真っ白なとろろ、温泉卵の黄色がうっすらと見え、ねぎの青が際立つ。
「いただきます」
氷が浮いたつゆをかける。あー、うまそう。
まずはそうだなあ……とろろとねぎだけのところを食べよう。
さっぱりうまい。とろろのねばねばと淡白な味わいが甘めのつゆとよく合う。うどんによく絡んで口当たりもいい。ねぎも爽やかで、うまいなあ。こういう、冷たい麺類が一層うまい季節がやって来たんだなあ。
さて、では満を持して卵を割る。
濃い黄色が鮮やかで、まぶしい。この温泉卵はかためなんだな。いい、こういうの好きだ。しっかり混ぜて……ああ、いい感じだなあ。
さっきのさわやかさにまろやかな口当たりが加わって、食べ応えが増した。温泉卵って、どうしてこんなにうまいんだろう。うまいし、テンション上がる。というか、卵ってすごい。いかようにも変化し、うまくなり、楽しめる。
そうそう、かまぼこも食べたい。
ん、これこれ、この歯ざわり。好きだなあ。麺と絡めてもうまいし、醤油とわさびをつけてもうまい。わさびの辛さが際立つ謎は、いまだに解明できないままではある。
動いて日にあたって疲れていたせいもあるし、暑いからっていうのもあるが、あっという間に食べてしまう。箸が止まらない。
口当たりの良さと冷たさが、まさしく求めていたものである。
つゆに残ったとろろとねぎ。当然、飲み干す。
皿はすっからかん、腹と心は満タン。まさしく、理想の昼下がりである。
「ごちそうさまでした」
各クラスや部活ごとに割り当てられた場所を掃除するもので、毎年やっている。雨が降るかどうかという天気予報ではあったが、見事に大外れ。雲一つない青空が広がっている。
「めっちゃいい天気」
着替え終わり、廊下に出ると、宮野が嫌そうにつぶやいた。セリフと声音のミスマッチさに、思わず振り返る。
「絶対暑くなるじゃん、これ」
「だなあ」
「風ないし、じめじめしてるし。あー、べたべたして気持ち悪い~」
悪態をひとしきりついて、宮野は諦めたようにため息をつくと歩き始めた。それと入れ替わるように、咲良がやってくる。
こっちは宮野とは真逆に、とても楽しそうである。
「よう! 春都。いい天気だな!」
「お前は素直そうでいいな」
「へ? なんかよくわかんないけど、ありがとー」
連れ立って、人波にまぎれる。
「授業つぶれるし、超ラッキー」
「それで喜んでるんだな」
「だってさあ、その方がよくない?」
「俺はどっちでも」
えー、と咲良は言って笑う。
真夏ほどではないが、外は暑かった。蒸し暑いという感じだろうか。ああ、梅雨が来るんだなあ、と分かる暑さだ。水筒持参で掃除しろ、と言われた理由が分かる。
いったんグラウンドに集合して、いくつか連絡があった後、解散する。
「春都って、どこ掃除?」
「えーっと……」
どこだったっけ。割り当て表を思い出す。校内の見取り図に、蛍光ペンでマーカーされていた。放送部は特別な割り当てがなかったから、クラスのところになるから……
「中庭だな」
「俺らも一緒だ。仲良くやろうぜ」
「遊ぶんじゃないんだぞ」
掃除開始間もなく、汗がだらだらと流れてきた。あっつい中、草むしりをするのはなかなか骨が折れる
「中庭担当ってさ、先生の目が届きにくいって噂らしい」
咲良は雑草を抜き、ゴミ袋に放り込みながら言った。
「さぼらねぇ?」
「お前なあ……」
「必要な休憩だよ。大丈夫、先生たち見てないって」
「そーやって油断してるときに限って、ろくなことないんだぞ」
とはいえ、疲れたのは確かだ。座ったまま、肩を回す。ばあちゃんって、こまめに草取りしてるよなあ。大変だなあ。今度手伝おう。
「じゃ、とりあえず日陰に行く?」
と、咲良は休憩をあきらめきれないらしい。
「草むしっとけ」
「え~? 休もうよ~」
「ちゃんと見てるからな」
うわ、何だ。
「二宮先生~、びっくりさせないでくださいよ~」
背後に立っていたのは、二宮先生だった。先生は笑うと言った。
「休憩するなとは言わんが、さぼりと勘違いされんようにな」
「は~い」
二宮先生は「よし!」と頷くと、見回りに戻った。
「各自、水分補給は十分にするんだぞ。気分が悪いやつはすぐに申し出るように!」
それにしても、本当に暑い。ちょこちょこお茶飲んでないとやっていられない。飲んだはなから水分が蒸発していくようだ。
パンパンになった袋を縛り、回収場所に持って行く。途中、プール掃除をする水泳部の笑い声が聞こえてきた。ああ、水使ってんのかなあ。涼しいだろうなあ。
「腹減った……」
昼飯、何かなあ。
半日学校を頑張って、家に帰ってきて昼飯を食う。
この時間って、何ともいえない幸福感に包まれる。しかも、その昼飯が用意されているって、自分で用意しなくていいって、最高だろう。
「暑かった~」
「日に当たると疲れるもんね」
クーラーはつけていないが、十分涼しい室内。昼飯の完成を待ちながら、椅子に座った。うめずのベッドも夏用に様変わりしている。気持ちよさそうにくつろいでいるなあ。
「春都、うどんにはもう温泉卵のせていい?」
「うん」
今日の昼飯は、冷やしうどんだ。テーブルにはつゆが準備されていて、トッピングにはかまぼこが準備されている。とろろと、温泉卵付きだ。
「はい、どーぞ」
「ありがとう」
真っ白なうどんにこれまた真っ白なとろろ、温泉卵の黄色がうっすらと見え、ねぎの青が際立つ。
「いただきます」
氷が浮いたつゆをかける。あー、うまそう。
まずはそうだなあ……とろろとねぎだけのところを食べよう。
さっぱりうまい。とろろのねばねばと淡白な味わいが甘めのつゆとよく合う。うどんによく絡んで口当たりもいい。ねぎも爽やかで、うまいなあ。こういう、冷たい麺類が一層うまい季節がやって来たんだなあ。
さて、では満を持して卵を割る。
濃い黄色が鮮やかで、まぶしい。この温泉卵はかためなんだな。いい、こういうの好きだ。しっかり混ぜて……ああ、いい感じだなあ。
さっきのさわやかさにまろやかな口当たりが加わって、食べ応えが増した。温泉卵って、どうしてこんなにうまいんだろう。うまいし、テンション上がる。というか、卵ってすごい。いかようにも変化し、うまくなり、楽しめる。
そうそう、かまぼこも食べたい。
ん、これこれ、この歯ざわり。好きだなあ。麺と絡めてもうまいし、醤油とわさびをつけてもうまい。わさびの辛さが際立つ謎は、いまだに解明できないままではある。
動いて日にあたって疲れていたせいもあるし、暑いからっていうのもあるが、あっという間に食べてしまう。箸が止まらない。
口当たりの良さと冷たさが、まさしく求めていたものである。
つゆに残ったとろろとねぎ。当然、飲み干す。
皿はすっからかん、腹と心は満タン。まさしく、理想の昼下がりである。
「ごちそうさまでした」
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