一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第六百八十七話 ドリアとハンバーグ

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 さあ、今日は家に引きこもるぞ。
 昨日あの後、うめずとの散歩がてら、レンタルショップに寄った。会員カードをスマホアプリと連携させたら半額クーポンをもらったから、使用期限が来る前に使っておこうと思って。
 ちょうど、見たいものがあったんだ。あのアニメに、あの映画。いくつ借りても全品半額だから、すごいもんだ。
 そして、テレビを見ながら食うものは、ばあちゃんからもらった。
「カルシウムもちゃんと取りなさい」
 そういって渡されたのは、煮干し。月に一度、近くのスーパーに売りに来る店があって、ばあちゃんは欠かさず買いに行っている。
 煮干しやシラスは、その店のが一番おいしいんだって。シラスももらったけど、それは当分の朝ごはんだ。
 煮干しだけでは足りないし、いっぺんに全部食うわけにもいかないので、別のお菓子も用意している。お決まりのポテチにポップコーン、その他スナック菓子の数々。いやいや、壮観だね。
 ジュースは悩んだけど、結局、麦茶にした。なんだかんだいって、麦茶ってちょうどいい。
 そんで昼ご飯もぬかりはない。というか、こないだ母さんが色々入れてくれてたんだよな、冷凍庫に。普段は買わない、ちょっとお高い冷凍食品。これをチンして食べよう。
「よっしゃ」
 では、さっそく。どれから見ようかなあ~。
「わうっ」
 DVDを吟味していたら、隣にうめずがやって来た。うめずはじっとこちらを見つめてくる。
「んー、うめずも一緒に見るか?」
「わふっ」
「どれがいい? これはアニメ映画、こっちは邦画。どっちも楽しいと思うんだ」
 うーん……、悩む。
 ……よし、決めた。アニメ映画はあとにとっておこう。先にこっちを見よう。毎週見てたドラマの劇場版で、リーガルドラマだ。
 重々しすぎず、笑えるんだよな。勢いもいい。
「さて……」
 座椅子を持ってきて、クッションとブランケットで環境を整える。ふわふわに囲まれるって、安心だ。
 うめずはソファにやって来て、うつぶせになる。頭をこちらに向けているからちょっと温かい。首元に感じるふわふわをなでてやると、頭をこっちにすり寄せてきた。ふふ、この温度と重み、幸せだ。
 再生するまでの間、少しの時間がある。地元のワイドショーでは中継をやっていて、都会の景色が映っている。
 やっぱ街は、平日でも人が多いんだなあ。いや、これでも少ない方なのだろうか? この辺からしてみれば、何事だというような人の多さだ。有名店には行列が伸び、話題の場所には人だかりができている。
 たまに、街には行きたくなる。あの匂いとか、雰囲気は、どうやっても現地に行かないと味わえないからな。
 あ、始まった。パッと画面が切り替わる。
 今日は家で過ごす時間を楽しむとしよう。

 煮干しって、うまいんだなあ。と再確認しながら、もしゃもしゃと食べる。噛みしめるほどに滲み出すうま味、そして、風味。塩気も程よく、夏場は塩分補給にもなりそうだ。
 お菓子も食べよう。ポテチ。
 期間限定のギザギザカット。切り方って重要で、やっぱ、味わいが変わってくる。塩気が濃いというか、じゃがいもの味がよく分かる。ギザギザしたところが香ばしいんだよなあ。コンソメもいいが、うすしお、うまい。
 お、きたきた。このシーンな。予告で見て面白そうだと思ったところだ。
 劇場に見に行ってもよかったんだがなあ。どうにも予定が合わなくて、気づいたら終わってたんだよな。
 でも、家で見る映画ってのもいい。
 好きなように、好きな時間に、周りを気にせずみられるからな。
「早くあれの円盤も出ないかなあ」
 こないだ見に行ったアニメ映画。あれはレンタルといわず、絶対に買いたい。たぶん、特装版とが出るんだろうから、情報には常に敏感にならないと。
 そうそう、今年の末には映画があるんだったな。俺にしては珍しいことで、今、ドはまりしているアニメが映画になるんだ。いやあ、こういう気持ちなんだなあ、好きな作品が映画になるって。
 漫画も新刊がそろそろ出るし……ああ、あのアニメは、四期がいつになるのだろう。きっと今年の夏ごろ……とかいう話で……
「あ、もうこんな時間」
 そろそろお昼だ。一旦停止して……っと。
 えーっと、どうやって調理するんだっけ。外袋から出して、ラップはそのままに、八分くらいか。
 待っている間に、食器や飲み物の準備。お菓子は片づけて、煮干しは冷蔵庫に。
 八分って、あっという間だと思っていたけど、楽しみにしているものはこうも待ち遠しいのだろう。
「よし、できた。あち、あちち」
 あー、いいにおいがする。トマトソースのハンバーグと、ドリア。ちょっとしたお子様ランチにも見える。
「いただきます」
 うんうん、芯まで温まっているな。
 まずは、ハンバーグから。お、なんだかプリプリとした感じ。普段食べてるハンバーグと、ウインナーの間みたいな感じだ。
 ジュワッとジューシーで、甘いトマトソースが合う。肉の風味はほどほどであるが、うま味は十分だ。ほんのりとにんにくが効いているのだろう、風味がいい。添えられたブロッコリーとジャガイモもうまい。
 ドリアは……デミグラスかな? ボロネーゼにも似ている。それとホワイトソース。サフランライスで、お店のやつみたいだ。少しかかったパセリがおしゃれだ。
 サフランって、ほのかに香る。めっちゃ濃いってわけじゃないだけど、この風味があることで、ちょっとレストランっぽくなる。
 デミグラスソースはコクがあり、ホワイトソースは滑らかだ。口になじむ柔らかな感じと、飲み物みたいなすべりの良さ。いかんいかん、すいすい食べてしまう。チーズは風味が強すぎないけど、うま味がある。
 そうそう、ドリアにハンバーグのせて食ってみよう。
「あっ、うまい」
 つい声が。
 ドリアの滑らかさと、二つのソースのコクと風味、そしてハンバーグのプリプリとしたジューシーさにトマトソースのさわやかさが際立つ。なるほど、すべてが合わさると、こうもうまいのか。チーズの風味もちょうどいい。
 いや、これ、うまいなあ。
 他にもいろいろ種類があるみたいだし、楽しみだ。和風とか、どんな感じなんだろう。スパゲティとの組み合わせもあったな……
 これはなかなか、素晴らしい。充実した上に大満足な二連休となった。休みが終わって惜しいと思う暇もない。
 頑張っといて、よかったな。

「ごちそうさまでした」
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