720 / 854
日常
第六百七十三話 バナナジュース
しおりを挟む
放課後も相変わらず、図書館の利用者が多い。
「みんな張り切ってんねぇ」
と、咲良がテーブルにうなだれ、だらけた様子で行った。
「春都のクラスの出し物、何になった? 文系は舞台で発表だろ?」
「劇、シンデレラ」
「マジか」
へっへっへ、と咲良は変な笑い方をする。
「咲良のとこは?」
理系は確か、舞台での発表ではなく展示系だったはずだ。
「お化け屋敷~。朝比奈んとこは何だっけ?」
少し遠くの書架にいた朝比奈に咲良が聞く。朝比奈は雑誌から視線を上げる。
「……占いの館」
「占いの館」
これはまた、予想外な。いったいどういうつもりなんだろうと思っていたら、朝比奈は説明を続けた。
「水晶みたいなの光らせたり、タロットカードに細工したり……占い重視っていうより、科学が主かな。科学を紹介する手段として、占い、みたいな」
「へー、それは面白そう」
「おつー、お待たせ~。話し合い長引いちゃって」
来た来た、百瀬。
今日はこの後、バスセンター内にあるジュース専門店に行く予定だ。ちょっとしたスペースもあるから、しゃべるのにちょうどいい。
ただ喋るのではなく、橘の友達と会うのだ。
「んじゃ、行くかあ」
咲良が言い、図書館の外に出る。
「あ、百瀬のクラスは出し物何すんの?」
「ミュージカルだよ。なんか、めっちゃはまってる子がいてね。勢いがすごくて押された」
みんないろいろやるんだなあ。これは、ずいぶんにぎやかな文化祭になりそうだ。
バスセンター内は、賑やかというほどではないが、それなりに人がいる。総菜屋や飲食店からは、良い匂いが漂っていた。楽しそうな笑い声が聞こえるのは、居酒屋だろうか。
ジュース専門店は、バスセンターに入ってすぐのところにある。外が見えるので、バスを待つ人も使いやすい。そもそも本数の少ないバス停である。一本逃せば、十分のんびりできる時間はある。
「おっ」
店の奥の席に座る橘を見つけ、咲良が手を振る。橘は元気に手を振り返し、隣に座る友人らしき少年は会釈をした。真っ黒でさらさらの髪に眼鏡といった風貌は、真面目そうに見える。二人とも注文を終えているらしい。
さて、俺たちも。
さすが専門店というべきか、メニューがたくさんある。ずらりと並んだミキサー、明るい電光掲示板、スイーツも売られているが、今日はジュースだけにする。
いつもであればオレンジジュースを頼むところだが……今は無性にバナナジュースが飲みたい。
注文を終えたら、橘たちのところへ行く。咲良は席に座りながら声をかけた。
「悪いな、待たせたか?」
「いえ! 大丈夫です!」
さっそく、橘は話し始めた。
「あ、彼も手伝ってくれるそうです。えっと」
「青井太一といいます。よろしくお願いします」
メガネの少年、青井は生真面目そうに頭を下げる。
「よろしくなー」
各々簡単に自己紹介をし、俺の番になると、青井は少し様子が変わった。なんか、もう知ってますっていうか、ああ、これがあの……って感じだ。ていうか、ちょいちょい、そういう声が漏れてる。
「なんだー、春都有名人じゃん」
咲良がからかうように言ってくると、青井はちらっと橘を見た後、また、こっちを向いた。
「お噂はかねがね」
「出どころはあえて聞かないでおくよ」
「察しがよくて助かります」
「えー、なになに、何で二人そんな分かり合ってる感じなんですか?」
と、噂の出どころ……もとい、橘が聞いてくる。
「それより、二人とも。ありがとうな」
朝比奈が話を元に戻す。百瀬は何がツボにはまったのか、ずっと笑っている。それを気にしないように、俺も言う。
「ああ、助かった。色々と大変かもしれないが、よろしくな」
「はいっ!」
「よろしくお願いします」
と、ちょうどそこでジュースが来た。
「朝比奈さー、この時期にシャインマスカットって、贅沢かよ」
「……? 井上もオレンジ丸ごとジュースで、贅沢じゃないか」
「格が違うんだよ」
「一条のバナナジュース、豆乳だっけ? いいねえ」
「百瀬はミックスジュースか。それもうまそうだ」
今度、いろいろ試してみたい。
「いただきます」
さて、バナナジュースは久しぶりだなあ。バナナの匂いは、物によっては苦手だが、果たしてこれはいかに。
あ、これうまい。すげぇうまい。
泡立ったところはふわふわのもこもこで、シュワッとしてて……何ともいえない口当たりだ。そして何より、バナナがうまい。
程よく甘く、青臭さがない。少し残った果肉が、もっちり、とろりとしていて面白い。どっちかっていうと、さらさらとした飲み口で、重すぎない。
豆乳はさっぱりと、主張が少ない。氷は少なめだろうか。冷たすぎないのでぐびぐび飲んでしまう。
へえ、バナナジュースって、こんなにうまかったんだ。
「お前らは何飲んだの?」
と、咲良が一年生二人に聞く。喜んで答えたのは橘だ。
「はい! 僕、野菜ジュースです!」
見れば、橘の前に置いてあるコップは、緑色で満たされている。これは、野菜ジュースというより……
「青汁?」
「おいしいですよ。甘くて」
「甘いのか、それ」
青井は一口飲んでから、「俺のは桃です」と言った。ああ、桃もうまそうだなあ。なんかぜいたくな感じがする。
結構贅沢なメニューが勢ぞろいだが、学生でも買いやすい値段なのがうれしい。サイズも選べるし、今度は、何を飲んでみようか。
でも、バナナジュース、うまいなあ。ちょっとハマる予感。
またこれ、頼んでしまうかもしれないなあ。
「ごちそうさまでした」
「みんな張り切ってんねぇ」
と、咲良がテーブルにうなだれ、だらけた様子で行った。
「春都のクラスの出し物、何になった? 文系は舞台で発表だろ?」
「劇、シンデレラ」
「マジか」
へっへっへ、と咲良は変な笑い方をする。
「咲良のとこは?」
理系は確か、舞台での発表ではなく展示系だったはずだ。
「お化け屋敷~。朝比奈んとこは何だっけ?」
少し遠くの書架にいた朝比奈に咲良が聞く。朝比奈は雑誌から視線を上げる。
「……占いの館」
「占いの館」
これはまた、予想外な。いったいどういうつもりなんだろうと思っていたら、朝比奈は説明を続けた。
「水晶みたいなの光らせたり、タロットカードに細工したり……占い重視っていうより、科学が主かな。科学を紹介する手段として、占い、みたいな」
「へー、それは面白そう」
「おつー、お待たせ~。話し合い長引いちゃって」
来た来た、百瀬。
今日はこの後、バスセンター内にあるジュース専門店に行く予定だ。ちょっとしたスペースもあるから、しゃべるのにちょうどいい。
ただ喋るのではなく、橘の友達と会うのだ。
「んじゃ、行くかあ」
咲良が言い、図書館の外に出る。
「あ、百瀬のクラスは出し物何すんの?」
「ミュージカルだよ。なんか、めっちゃはまってる子がいてね。勢いがすごくて押された」
みんないろいろやるんだなあ。これは、ずいぶんにぎやかな文化祭になりそうだ。
バスセンター内は、賑やかというほどではないが、それなりに人がいる。総菜屋や飲食店からは、良い匂いが漂っていた。楽しそうな笑い声が聞こえるのは、居酒屋だろうか。
ジュース専門店は、バスセンターに入ってすぐのところにある。外が見えるので、バスを待つ人も使いやすい。そもそも本数の少ないバス停である。一本逃せば、十分のんびりできる時間はある。
「おっ」
店の奥の席に座る橘を見つけ、咲良が手を振る。橘は元気に手を振り返し、隣に座る友人らしき少年は会釈をした。真っ黒でさらさらの髪に眼鏡といった風貌は、真面目そうに見える。二人とも注文を終えているらしい。
さて、俺たちも。
さすが専門店というべきか、メニューがたくさんある。ずらりと並んだミキサー、明るい電光掲示板、スイーツも売られているが、今日はジュースだけにする。
いつもであればオレンジジュースを頼むところだが……今は無性にバナナジュースが飲みたい。
注文を終えたら、橘たちのところへ行く。咲良は席に座りながら声をかけた。
「悪いな、待たせたか?」
「いえ! 大丈夫です!」
さっそく、橘は話し始めた。
「あ、彼も手伝ってくれるそうです。えっと」
「青井太一といいます。よろしくお願いします」
メガネの少年、青井は生真面目そうに頭を下げる。
「よろしくなー」
各々簡単に自己紹介をし、俺の番になると、青井は少し様子が変わった。なんか、もう知ってますっていうか、ああ、これがあの……って感じだ。ていうか、ちょいちょい、そういう声が漏れてる。
「なんだー、春都有名人じゃん」
咲良がからかうように言ってくると、青井はちらっと橘を見た後、また、こっちを向いた。
「お噂はかねがね」
「出どころはあえて聞かないでおくよ」
「察しがよくて助かります」
「えー、なになに、何で二人そんな分かり合ってる感じなんですか?」
と、噂の出どころ……もとい、橘が聞いてくる。
「それより、二人とも。ありがとうな」
朝比奈が話を元に戻す。百瀬は何がツボにはまったのか、ずっと笑っている。それを気にしないように、俺も言う。
「ああ、助かった。色々と大変かもしれないが、よろしくな」
「はいっ!」
「よろしくお願いします」
と、ちょうどそこでジュースが来た。
「朝比奈さー、この時期にシャインマスカットって、贅沢かよ」
「……? 井上もオレンジ丸ごとジュースで、贅沢じゃないか」
「格が違うんだよ」
「一条のバナナジュース、豆乳だっけ? いいねえ」
「百瀬はミックスジュースか。それもうまそうだ」
今度、いろいろ試してみたい。
「いただきます」
さて、バナナジュースは久しぶりだなあ。バナナの匂いは、物によっては苦手だが、果たしてこれはいかに。
あ、これうまい。すげぇうまい。
泡立ったところはふわふわのもこもこで、シュワッとしてて……何ともいえない口当たりだ。そして何より、バナナがうまい。
程よく甘く、青臭さがない。少し残った果肉が、もっちり、とろりとしていて面白い。どっちかっていうと、さらさらとした飲み口で、重すぎない。
豆乳はさっぱりと、主張が少ない。氷は少なめだろうか。冷たすぎないのでぐびぐび飲んでしまう。
へえ、バナナジュースって、こんなにうまかったんだ。
「お前らは何飲んだの?」
と、咲良が一年生二人に聞く。喜んで答えたのは橘だ。
「はい! 僕、野菜ジュースです!」
見れば、橘の前に置いてあるコップは、緑色で満たされている。これは、野菜ジュースというより……
「青汁?」
「おいしいですよ。甘くて」
「甘いのか、それ」
青井は一口飲んでから、「俺のは桃です」と言った。ああ、桃もうまそうだなあ。なんかぜいたくな感じがする。
結構贅沢なメニューが勢ぞろいだが、学生でも買いやすい値段なのがうれしい。サイズも選べるし、今度は、何を飲んでみようか。
でも、バナナジュース、うまいなあ。ちょっとハマる予感。
またこれ、頼んでしまうかもしれないなあ。
「ごちそうさまでした」
24
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる