一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第六百六十六話 チョコレートケーキ

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 朝、少し時間があったので、ソファに座ってスマホを見る。とりあえず、ニュースサイトを開く。
「お、これは……」
 今週新発売の商品特集か。コンビニスイーツ編。
 コンビニのスイーツって、どうしてあんなに心惹かれるんだろうなあ。スイーツコーナ―を見ているとすごくワクワクしてくる。定番のラインナップから、季節を感じるスイーツまで、結構バリエーション豊かである。
 バレンタインの時期は、チョコレート系のスイーツが多くてなあ……
 さて、今回はいったいどんなものがあるだろう。
 コラボスイーツが多いみたいだ。最近はやりのアニメに漫画、それに、ゲーム。キャラクターを模したスイーツとか、パッケージが華やかなのとか、おまけ付きとか。
 あっ、これ。不動の人気を誇るゲームのキャラクター。へえ、回転焼きみたいなものか。顔が焼き印されてあるが……かわいいな。このゲーム、好きなんだよな。小さい頃は暇さえあればずっとやってたし。久々にやりたくなってきたな。今週末、やろうかな。
 もちもちの甘い生地に、コクのあるカスタードクリーム、か。
「うまそうだな」
 帰りに寄ってみようか。帰り道からはちょっと離れるが、探しに行ってみよう。
 あ、やべ、もうこんな時間。
「じゃ、行ってくるな、うめず」
「わうっ」
 楽しみがあると、足取りも軽くなるものである。

「なるほどねー、それで、帰り道がいつもと違ったわけだ」
 ぼちぼち歩いて、学校から少し離れたところにあるコンビニに向かう道すがら、隣を歩く咲良が楽しげに言った。
「なんでお前もついてくる」
「だって気になるじゃん。春都が行くとこ」
「コンビニって言っただろ」
 まったく、こいつはどうしてこう……まあ、今更か。
 咲良は「コンビニっつってもさー」と、頭の後ろで手を組んで、視線だけこちらに向け、にやっと笑って続けた。
「そもそも寄り道が少ないお前が、わざわざコンビニに行くなんて、気になるじゃん」
「そうか?」
「そうだよ」
「まあ、いつも帰りに寄るとこといえば、スーパーだもんなあ……」
「だろー?」
 それにしても、ずいぶん日が長くなったものだ。つい最近まで、この時間になると薄暗かったものだが、今はそれほどでもない。
 日は短いより、長い方がいい。その分、さみしい時間が少なくなるから。
「そんでさー、聞いてよ。今日さあ……」
 ま、どんな時でも、こいつがいりゃあ、寂しいと思う暇はないのだろうが。
 ていうか咲良、俺の行き先が気になるとか言っといて、本当は自分の話がしたかっただけじゃないか? 別にいいけどさ。
 おかげでコンビニまでの道のりがあっという間だった。
 さて、人気だからなあ、あれ。残ってるといいけど。
「で、春都のお目当ては何なわけ?」
「これだ、これ」
 今朝撮ったスクショを見せると、咲良は「ああ、それね」と頷いた。
「そのスイーツ、いろんなのとコラボしてるもんな~。プレーンなのはいつも売ってるぞ」
「そうなのか。あんまこっち来ないから」
「ここのコンビニ、スイーツめっちゃ充実してるからなあ」
 やっぱコンビニによって、充実しているジャンルとか、得意なジャンルがあるのかな。なにかとコラボしてることが多いコンビニもあるし。色々あるんだなあ。
「あれ、ないなー」
 一足先に商品棚を眺めていた咲良が言う。
 えっ、ない? まさか。人気商品だぞ? あっ、だからないのか。
 しかし咲良は、俺の予想とは違うことを言った。
「そもそも売ってない?」
「うそだろ。お前が見つけきれないだけじゃないのか、咲良」
「俺、こういうのは見つけるの得意なんだって」
「えー、まじかあ……」
 田舎だからか? 需要がないからと勝手に入荷しなかったのか? そんなまさか。ここは西高の生徒のたまり場。需要がないわけなかろうよ。
「ちょ、調べてみてよ、それ」
「あ、ああ」
 公式サイトに繋ぎ、商品一覧を見る。ちゃんとあるんだけどなあ……
「あっ、やっぱり」
 と、一緒に画面をのぞき込んでいた咲良が声を上げる。
「何がやっぱりなんだ?」
「ほら、これ。販売地域見てみなよ」
「販売地域?」
 ……あ、ほんとだ。田舎だからというわけではなく、そもそもこっちの方は圏外だったのか。販売されてる地域の方が少ないじゃないか。
 なんだ、ちょっと残念。いつか発売されるといいけどなあ。

 結局、通常販売の分もなかったので、チョコレートケーキが二つ入ってるやつを買うことにした。スーパーとかでも売ってる、見慣れたものである。
 晩飯の後、さっそく食う。
「いただきます」
 何気に、このチョコレートケーキ好きなんだよなあ。
 薄いスポンジに、思ったよりもクリームがたっぷりと。ケーキ屋さんで買うケーキよりも少し小さめだが、ちょうどいいんだ、これが。二つ食べるし。
 うっすらとかかったココアパウダーがワクワクする。
 すっきりとした甘さのクリームは、チョコレートのコクと風味がよく感じられる。口いっぱいにクリームをほおばる幸せたるや、計り知れない。
 スポンジはほろ苦いココア味。
 プレーンな生地もいいんだけど、ココア味の生地にチョコレートのクリームって、合うんだよなあ。リッチな味わいになるというか。
 あ、チョコチップがまぎれている。間に挟まってんのかな。少し溶けるような口当たりだが、しっかりと食感もある。チョコチップが入ったケーキって、なんか好きだ。スポンジの食感との違いが面白い。
 そりゃあ、専門店のケーキはおいしいと思う。でも、このケーキが食いたい時があるんだ。
 目当てのものが売ってなかったのは残念だったが、回りまわってうまいチョコレートケーキが食えたから、良しとしよう。
 ……でもやっぱ、一回は食べてみたいなあ。販売されることを切に願うとしよう。

「ごちそうさまでした」
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