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日常
第六百四十三話 餃子と揚げ納豆
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最近の暇つぶしといえば、もっぱら、ネットで漫画を読むことだ。とはいっても買うわけではなく、無料の試し読みばかりをはしごしているわけだが、これがなかなか面白い。
気になってはいるけど、買うにはまだ覚悟が決まってない漫画とか、読めるのがいいよな。
そんでまた、そこで新たな出会いもあるわけで。そこから、単行本を買うこともある。長く読むなら、俺は、断然紙派だ。なんとなく、手になじむ。
そしてはまったとある漫画。少しずつそろえようと思ったのもつかの間、気づいたら本棚には全巻並んでいる。
「そろったねー」
と、父さんが本棚を眺めながら言う。
「最近、アニメも見てなかった?」
「おもしろいよ。見る?」
「いいねえ」
「それじゃあ……」
そう言いながら、何やらボウルを抱えてやってきたのは母さんだ。
「見ながらこれ、仕込もうか」
今日の晩ご飯、餃子だ。と、他にも何かあるらしい。
ほのかに漂ってくるこの香りは……納豆か?
「納豆のにおいする」
「当たり~。揚げに詰めるの、手伝ってね」
「はーい」
えっと、とりあえずDVDの準備からだな。一通りは見たが、何度見ても飽きないし面白いものである。
シーズン1の一話から、順当にいこう。三話入ってるから、しばらく変えなくていいだろう。
「はい、春都の分ね」
餃子の皮は、小さいころ、なぜか無性に欲しがった記憶がある。あと、春巻きの皮。なんであんなに欲しかったんだろうか。
「五十枚か……」
一人五十個がノルマらしい。とはいえ、この餡の量……
「皮、足りる?」
「いやーそれがねえ。キャベツ切り過ぎちゃって」
「言われてみれば、確かに、キャベツが多いな」
父さんがボウルをのぞき込みながら言うと、母さんはあっけらかんと笑って頷いた。
「塩もみして水を切った時点で多いなあとは思ったんだけどね。少し減らしてもよかったんだけど、ほら、取っておいてもしょうがないじゃない」
だから、ドーンと入れてしまったらしい。なるほど、母さんらしいというかなんというか。
「野菜たっぷりできっとおいしいよ。ほらほら、テレビも始まったことだし、包もう」
なんか強引に丸め込まれた気もするが、まあいい。これならたっぷり包んでもよさそうだな。ひだは作れないが……それはそれでよしとしよう。
「あ、はみ出した」
「余ればそのまま焼くし、無理して詰めないくていいからね」
「餃子味のハンバーグ、ってところか」
父さんは言うと、楽しそうに笑った。
「酢醤油につけて食べるとうまそうだなあ。ビールにも合いそうだ」
柚子胡椒も合うだろうな。ほぐしてご飯にかけてもうまそうだ。餃子もいいが、中身だけもいい。
皮も、ピザ風にしたらうまいが、今日は余らないだろう。
餡の量の微調整に苦労しながら適量を見つけた頃、アニメの音だけが聞こえているのに気が付いた。二人とも静かだな……って、テレビにくぎ付けじゃないか。
「あ、いかんいかん。つい夢中になった」
「面白いねー」
「でしょ」
自分の好きなものを面白いと言ってもらえるのは嬉しい。
「まだ漫画は続いてるんでしょ?」
「うん。来月も新刊が出るよ」
「アニメはどこまでやってるんだ?」
「えっとね……」
一人で自由気ままに見るのも楽しいけど、誰かと……というか、家族と見るのも楽しいなあ。誰でもいいってわけじゃないんだよな、こういうのは。何ともいいがたいけど、そういうもんなんだ。
餃子を包み終えたら、揚げを。納豆はタレと辛子と刻んだネギが混ぜてあって、スプーンですくい、半分に切られて袋状になった揚げに詰めていく。
詰めすぎず、少なすぎず。この塩梅が難しい。
「納豆はどうしようか、別に焼く?」
「あ、俺焼くよ」
言えば母さんは遠慮するでもなく「ありがとー!」と言った。
「じゃあ、今日は食べながらこのアニメの続きを見ようか」
「楽しみだなー」
気に入ってくれたようで、何よりだ。
フライパン一杯に敷き詰めた納豆入りの揚げ。まだまだ焦げ目がつかないと油断していたら、あっという間に黒焦げになってしまうから恐ろしい。
「よし」
うまく焼けた。
「餃子も焼けたよー」
居間に出されたホットプレートに整列した餃子は、実に餡がたっぷりで、豪華だ。
「いただきます」
まずはやっぱり、焼きたての餃子から。カリッと焼けた表面がワクワクする。
熱々、そして何となくほくほくだ。キャベツが多いのもいいもんだ。ジュワッと甘みが染み出してきて、ふわりと香るのはごま油。ポン酢のさっぱりとしたうま味に豚と鶏のミンチがよく合う。
ラー油を垂らしてみる。少しピリ辛で食欲が増す。ご飯に広がるたれと油のシミ。それをすくってほおばるのが楽しみなんだ。
傍らで焼ける、餡。本当にハンバーグのようだ。
ポン酢に柚子胡椒を混ぜたものをかけ、ご飯にのせる。柚子胡椒の塩気と辛さは、またラー油とは違う刺激でうまい。
揚げ納豆には醤油をたらりと。
さくさくの揚げが香ばしく、納豆はほんの少しだけ柔らかくなっている。ホットプレートで温め直すのもまたいい。
やっぱり、手作りの餃子はうまいなあ。カリカリで、もちっとしていて、野菜たっぷり。肉はあっさり。
そして何より、熱々で、家族そろって食べること。
好きなアニメ見ながら、あれこれ言い合って、熱々の餃子をほおばって冷たい麦茶を飲む。
近づき始めた春の陽気が、何気ない幸せを倍増させる、今日この頃である。
「ごちそうさまでした」
気になってはいるけど、買うにはまだ覚悟が決まってない漫画とか、読めるのがいいよな。
そんでまた、そこで新たな出会いもあるわけで。そこから、単行本を買うこともある。長く読むなら、俺は、断然紙派だ。なんとなく、手になじむ。
そしてはまったとある漫画。少しずつそろえようと思ったのもつかの間、気づいたら本棚には全巻並んでいる。
「そろったねー」
と、父さんが本棚を眺めながら言う。
「最近、アニメも見てなかった?」
「おもしろいよ。見る?」
「いいねえ」
「それじゃあ……」
そう言いながら、何やらボウルを抱えてやってきたのは母さんだ。
「見ながらこれ、仕込もうか」
今日の晩ご飯、餃子だ。と、他にも何かあるらしい。
ほのかに漂ってくるこの香りは……納豆か?
「納豆のにおいする」
「当たり~。揚げに詰めるの、手伝ってね」
「はーい」
えっと、とりあえずDVDの準備からだな。一通りは見たが、何度見ても飽きないし面白いものである。
シーズン1の一話から、順当にいこう。三話入ってるから、しばらく変えなくていいだろう。
「はい、春都の分ね」
餃子の皮は、小さいころ、なぜか無性に欲しがった記憶がある。あと、春巻きの皮。なんであんなに欲しかったんだろうか。
「五十枚か……」
一人五十個がノルマらしい。とはいえ、この餡の量……
「皮、足りる?」
「いやーそれがねえ。キャベツ切り過ぎちゃって」
「言われてみれば、確かに、キャベツが多いな」
父さんがボウルをのぞき込みながら言うと、母さんはあっけらかんと笑って頷いた。
「塩もみして水を切った時点で多いなあとは思ったんだけどね。少し減らしてもよかったんだけど、ほら、取っておいてもしょうがないじゃない」
だから、ドーンと入れてしまったらしい。なるほど、母さんらしいというかなんというか。
「野菜たっぷりできっとおいしいよ。ほらほら、テレビも始まったことだし、包もう」
なんか強引に丸め込まれた気もするが、まあいい。これならたっぷり包んでもよさそうだな。ひだは作れないが……それはそれでよしとしよう。
「あ、はみ出した」
「余ればそのまま焼くし、無理して詰めないくていいからね」
「餃子味のハンバーグ、ってところか」
父さんは言うと、楽しそうに笑った。
「酢醤油につけて食べるとうまそうだなあ。ビールにも合いそうだ」
柚子胡椒も合うだろうな。ほぐしてご飯にかけてもうまそうだ。餃子もいいが、中身だけもいい。
皮も、ピザ風にしたらうまいが、今日は余らないだろう。
餡の量の微調整に苦労しながら適量を見つけた頃、アニメの音だけが聞こえているのに気が付いた。二人とも静かだな……って、テレビにくぎ付けじゃないか。
「あ、いかんいかん。つい夢中になった」
「面白いねー」
「でしょ」
自分の好きなものを面白いと言ってもらえるのは嬉しい。
「まだ漫画は続いてるんでしょ?」
「うん。来月も新刊が出るよ」
「アニメはどこまでやってるんだ?」
「えっとね……」
一人で自由気ままに見るのも楽しいけど、誰かと……というか、家族と見るのも楽しいなあ。誰でもいいってわけじゃないんだよな、こういうのは。何ともいいがたいけど、そういうもんなんだ。
餃子を包み終えたら、揚げを。納豆はタレと辛子と刻んだネギが混ぜてあって、スプーンですくい、半分に切られて袋状になった揚げに詰めていく。
詰めすぎず、少なすぎず。この塩梅が難しい。
「納豆はどうしようか、別に焼く?」
「あ、俺焼くよ」
言えば母さんは遠慮するでもなく「ありがとー!」と言った。
「じゃあ、今日は食べながらこのアニメの続きを見ようか」
「楽しみだなー」
気に入ってくれたようで、何よりだ。
フライパン一杯に敷き詰めた納豆入りの揚げ。まだまだ焦げ目がつかないと油断していたら、あっという間に黒焦げになってしまうから恐ろしい。
「よし」
うまく焼けた。
「餃子も焼けたよー」
居間に出されたホットプレートに整列した餃子は、実に餡がたっぷりで、豪華だ。
「いただきます」
まずはやっぱり、焼きたての餃子から。カリッと焼けた表面がワクワクする。
熱々、そして何となくほくほくだ。キャベツが多いのもいいもんだ。ジュワッと甘みが染み出してきて、ふわりと香るのはごま油。ポン酢のさっぱりとしたうま味に豚と鶏のミンチがよく合う。
ラー油を垂らしてみる。少しピリ辛で食欲が増す。ご飯に広がるたれと油のシミ。それをすくってほおばるのが楽しみなんだ。
傍らで焼ける、餡。本当にハンバーグのようだ。
ポン酢に柚子胡椒を混ぜたものをかけ、ご飯にのせる。柚子胡椒の塩気と辛さは、またラー油とは違う刺激でうまい。
揚げ納豆には醤油をたらりと。
さくさくの揚げが香ばしく、納豆はほんの少しだけ柔らかくなっている。ホットプレートで温め直すのもまたいい。
やっぱり、手作りの餃子はうまいなあ。カリカリで、もちっとしていて、野菜たっぷり。肉はあっさり。
そして何より、熱々で、家族そろって食べること。
好きなアニメ見ながら、あれこれ言い合って、熱々の餃子をほおばって冷たい麦茶を飲む。
近づき始めた春の陽気が、何気ない幸せを倍増させる、今日この頃である。
「ごちそうさまでした」
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