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日常
第六百三十八話 とんかつ弁当
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三学期って、早く帰れる日が多いんだよな。高校入試の準備か何かは知らないが、日の高い時間に帰ることができるのは嬉しい。
掃除が終われば帰れると思えば、掃除も楽しいものだ。
今月の掃除場所は図書館前の廊下。寒いんだよなー、あの場所。いろんな学年とかクラスの入り乱れる場所だから騒がしいし。
「春都はさー、今日帰ったら何んすんの?」
そんな騒がしさの筆頭ともいえるやつ、咲良が聞いてくる。こいつは家庭科室前の掃除だったか。
「何も予定はない」
「俺も~。早く帰れるからなんかやるぞー! っては思うんだけどさあ」
「ゴロゴロしてたら一日終わってんだよな」
「それな~」
はぁあ、と咲良は盛大なため息をつく。
「ま、それはそれで悪くはないんだけどな」
「そりゃそうかもしんないけど~、なんかやりたいじゃん」
「まあな」
板張りの廊下の隙間をしつこく掃きながら咲良のぼやきを聞く。隙間に溜まったゴミって、妙に気になるときがある。
図書館前はあまり汚れていないようで、意外と砂が多い。
「何しよっかなあ~」
そう言いながら、咲良は持ち場に戻る。どうやら先生の足音を聞きつけたらしい。この辺を巡回してる先生は怒ると怖いもんなあ。
「さて」
先生が来たとなれば、ちょっとこっちの方を掃除しようかな。図書館前に設置された棚のところ。隠れられるからいいんだ、ここ。
黙々と掃除をしながら考えるのは、今日の昼飯だ。うちにある食材をどうにかしてもいいが、楽したい気もある。どうすっかなあ、なんか買って帰るか。冷凍か、はたまた弁当か……コンビニもいいが、スーパーの総菜も捨てがたい。
何にしようかなあ。
「お、偉いな」
「うわっ」
え、なに。上から声が聞こえてきた。
「ははは、びっくりさせたな」
あ、巡回中の先生だ。にこにこ笑っているが、強面だからちょっと威圧感がある。え、でも今偉いって言われた?
「隅々まできれいにして、偉いぞ」
「へ?」
「その調子でな」
先生はそれだけ言うと、上機嫌な様子で行ってしまった。
考え事しながら掃除してただけなんだけどなあ。ま、怒られなかったからいいけど。
それにしてもここ、思ったよりも隠れられないんだな。気を付けとこ……
結局、花丸スーパーに来た。昼時だからか、弁当がたんまりと並んでいる。和、洋、中、それにジャンルがよく分からないやつ。
「どれにしようかなあ」
いなり寿司とか、焼き魚もいいな。でももっとがっつり食べたい気もする。となると肉か。揚げ物……からあげとか?
「いらっしゃいませー」
「ん?」
聞き覚えのある声が聞こえ、顔を上げると、野菜売り場に田中さんがいた。重そうな荷物を平然と抱え、にこやかにお客さんの相手をしている。
「おっ」
あ、見つかった。
「やあ、一条君。こんにちは。早いね」
「今日は午前中で終わりなんですよ」
「そうかあ、だから、いろんなところで学生をよく見かけるわけだ」
よその学校もそうなのかな。受験が関わってくるならそうかもな。観月のとことかは私立だからまた違うのかな。
「今日は弁当?」
「そうしようかなって」
「いいね、それなら、いいタイミングに来たよ」
田中さんは荷物を抱えなおし、笑って言った。
「揚げたてが出てくる時間だ」
田中さんはそうとだけ言い残すと、仕事に戻ってしまった。
それから間もなくして、新しい弁当が出てきた。からあげに油淋鶏、とんかつ弁当。
「なるほど、揚げたてね」
これはいいときに来た。何にしよっかなあ。
結局、揚げたてのとんかつの誘惑に負けて、とんかつ弁当にしてしまった。なんとなく咲良を思い出してしまう。
ま、とにかく、昼飯だ。せっかくだし、みそ汁も準備して、と。
「いただきます」
テレビを見ながら、のんびり家で揚げたてとんかつ弁当を食べられる。なんて幸せなことか。
レモンがついてる。となれば、絞るほかない。ソースはすでにかかっているが、相性はいかほどだろうか。薄く敷かれたキャベツの千切りが、とんかつの温かさでしんなりしているのがなぜか嬉しい。
さすが、揚げたてのとんかつ。サクサクで香ばしく、熱々だ。噛み応えのある肉はジューシーで、脂身は甘く、プルプルしている。
ソースは甘めだ。それに、レモンのさわやかさがよく合う。こってりしすぎず、さっぱりいただける。
これはご飯が進む味だなあ。キャベツの風味はわずかばかりだが、これがちょうどいい。
付け合わせの浅漬けもさっぱり、シンプルな味わいでいい。こういう弁当についてる浅漬けって、何でうまいんだろう。大根、キャベツ、にんじん。野菜そのものの味は控えめだが、うま味が濃い。
それと、具の無い、ソースたっぷりナポリタン。甘めの味付けが弁当って感じがして好きなんだ。ご飯にも合う。
少ししんなりしたとんかつの衣もいいな。ソースが染みて、レモンの風味も立ち、まばらにかかったごまがはじけて香ばしい。
ズズッと味噌汁をすすると、人心地着く。わかめのつるんとした口当たりがいい。
たまには、こういう弁当もいいな。今度は何を買おうかな。
揚げ物って、いつもあの時間だと揚げたてなのかな。ちょっと狙って行ってみようか。
「ごちそうさまでした」
掃除が終われば帰れると思えば、掃除も楽しいものだ。
今月の掃除場所は図書館前の廊下。寒いんだよなー、あの場所。いろんな学年とかクラスの入り乱れる場所だから騒がしいし。
「春都はさー、今日帰ったら何んすんの?」
そんな騒がしさの筆頭ともいえるやつ、咲良が聞いてくる。こいつは家庭科室前の掃除だったか。
「何も予定はない」
「俺も~。早く帰れるからなんかやるぞー! っては思うんだけどさあ」
「ゴロゴロしてたら一日終わってんだよな」
「それな~」
はぁあ、と咲良は盛大なため息をつく。
「ま、それはそれで悪くはないんだけどな」
「そりゃそうかもしんないけど~、なんかやりたいじゃん」
「まあな」
板張りの廊下の隙間をしつこく掃きながら咲良のぼやきを聞く。隙間に溜まったゴミって、妙に気になるときがある。
図書館前はあまり汚れていないようで、意外と砂が多い。
「何しよっかなあ~」
そう言いながら、咲良は持ち場に戻る。どうやら先生の足音を聞きつけたらしい。この辺を巡回してる先生は怒ると怖いもんなあ。
「さて」
先生が来たとなれば、ちょっとこっちの方を掃除しようかな。図書館前に設置された棚のところ。隠れられるからいいんだ、ここ。
黙々と掃除をしながら考えるのは、今日の昼飯だ。うちにある食材をどうにかしてもいいが、楽したい気もある。どうすっかなあ、なんか買って帰るか。冷凍か、はたまた弁当か……コンビニもいいが、スーパーの総菜も捨てがたい。
何にしようかなあ。
「お、偉いな」
「うわっ」
え、なに。上から声が聞こえてきた。
「ははは、びっくりさせたな」
あ、巡回中の先生だ。にこにこ笑っているが、強面だからちょっと威圧感がある。え、でも今偉いって言われた?
「隅々まできれいにして、偉いぞ」
「へ?」
「その調子でな」
先生はそれだけ言うと、上機嫌な様子で行ってしまった。
考え事しながら掃除してただけなんだけどなあ。ま、怒られなかったからいいけど。
それにしてもここ、思ったよりも隠れられないんだな。気を付けとこ……
結局、花丸スーパーに来た。昼時だからか、弁当がたんまりと並んでいる。和、洋、中、それにジャンルがよく分からないやつ。
「どれにしようかなあ」
いなり寿司とか、焼き魚もいいな。でももっとがっつり食べたい気もする。となると肉か。揚げ物……からあげとか?
「いらっしゃいませー」
「ん?」
聞き覚えのある声が聞こえ、顔を上げると、野菜売り場に田中さんがいた。重そうな荷物を平然と抱え、にこやかにお客さんの相手をしている。
「おっ」
あ、見つかった。
「やあ、一条君。こんにちは。早いね」
「今日は午前中で終わりなんですよ」
「そうかあ、だから、いろんなところで学生をよく見かけるわけだ」
よその学校もそうなのかな。受験が関わってくるならそうかもな。観月のとことかは私立だからまた違うのかな。
「今日は弁当?」
「そうしようかなって」
「いいね、それなら、いいタイミングに来たよ」
田中さんは荷物を抱えなおし、笑って言った。
「揚げたてが出てくる時間だ」
田中さんはそうとだけ言い残すと、仕事に戻ってしまった。
それから間もなくして、新しい弁当が出てきた。からあげに油淋鶏、とんかつ弁当。
「なるほど、揚げたてね」
これはいいときに来た。何にしよっかなあ。
結局、揚げたてのとんかつの誘惑に負けて、とんかつ弁当にしてしまった。なんとなく咲良を思い出してしまう。
ま、とにかく、昼飯だ。せっかくだし、みそ汁も準備して、と。
「いただきます」
テレビを見ながら、のんびり家で揚げたてとんかつ弁当を食べられる。なんて幸せなことか。
レモンがついてる。となれば、絞るほかない。ソースはすでにかかっているが、相性はいかほどだろうか。薄く敷かれたキャベツの千切りが、とんかつの温かさでしんなりしているのがなぜか嬉しい。
さすが、揚げたてのとんかつ。サクサクで香ばしく、熱々だ。噛み応えのある肉はジューシーで、脂身は甘く、プルプルしている。
ソースは甘めだ。それに、レモンのさわやかさがよく合う。こってりしすぎず、さっぱりいただける。
これはご飯が進む味だなあ。キャベツの風味はわずかばかりだが、これがちょうどいい。
付け合わせの浅漬けもさっぱり、シンプルな味わいでいい。こういう弁当についてる浅漬けって、何でうまいんだろう。大根、キャベツ、にんじん。野菜そのものの味は控えめだが、うま味が濃い。
それと、具の無い、ソースたっぷりナポリタン。甘めの味付けが弁当って感じがして好きなんだ。ご飯にも合う。
少ししんなりしたとんかつの衣もいいな。ソースが染みて、レモンの風味も立ち、まばらにかかったごまがはじけて香ばしい。
ズズッと味噌汁をすすると、人心地着く。わかめのつるんとした口当たりがいい。
たまには、こういう弁当もいいな。今度は何を買おうかな。
揚げ物って、いつもあの時間だと揚げたてなのかな。ちょっと狙って行ってみようか。
「ごちそうさまでした」
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