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日常
第六百二十九話 からあげ
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「じゃっ、また学校で!」
翌朝……というか、ほぼ昼になりかけの時間になって、咲良はやっと帰った。結局、ゲームは夜通しやる羽目になって、すっかり寝不足だ。
それにしてもこいつ、元気だなあ。
「ちょっと寝よ……」
咲良を見送ったら、部屋に戻る。静かな部屋にはヒーターの音だけが聞こえる。なんか、静かだなあ。ちょっと寂しい気もするが、ほっとした気分の方が大きい。やっと空いたソファにダイブする。
しばらくそのままでいたら、スマホが鳴った。今度は何だ。
「……うめずー」
俺の呼びかけに、うめずはのっそりと起き上がってこちらにやってくる。
「わう」
「父さんと母さん、今から帰ってくるってさ」
「わふっ!」
寂しさなんて、感じる暇もないみたいだ。
目の前に広がる、大荷物とおみやげ。これを見ると、あー、父さんと母さん帰って来たんだなあ、と実感する。
「井上君来てたの?」
母さんが鞄を手際よく片付けながら聞く。
「うん。昨日来て、さっき帰った」
「じゃあ、お泊りだな」
と、父さんも言う。なんか重そうな荷物を持っているけど、何だろう。
「楽しかった?」
「楽しかったけど、少し疲れた」
「そうかあ」
久々に家族全員そろって、うめずもそわそわしている。
「はい、これ、春都の分ね」
そう言って母さんから渡されたのはスナック菓子の詰め合わせだった。同じお菓子だが、味が違うようだ。
「ご当地限定味の詰め合わせ、ってやつ?」
「そうそう。小分けになってるから、ちょっと食べたい時に良いでしょ」
「うん、ありがとう」
「それじゃあ父さんからは、これをあげようか」
と、父さんはどすどすっとテーブルに瓶を置いた。透明の瓶には鮮やかなオレンジ色が見える。オレンジジュースのようだ。
「無添加だから、開けたらすぐ飲まないといけないよ」
「すげー量あるんだけど」
「飲める飲める」
「……ありがとう」
それじゃあ、ジュース飲みながらお菓子食べよう。
よく降ってお飲みください、と書いてある。確かに、そこには濃いオレンジ色がたまっているな。瓶をふるのは重労働だが、おいしく飲むためだ。
コップに氷を入れて、ジュースを注ぎ入れる。
「おお……きれいな色」
「そうだろう」
「お母さんたちにも注いでくれる?」
「はーい」
父さんと母さんがいつも使っているコップに、氷を入れ、オレンジジュースを注ぐ。ありゃ、ほぼ空だ。三人で飲めばあっという間だな。
「はい」
「ありがとー」
さてさて、まずはどれから食べようかなあ。と、まずはジュースを一口……
「なにこれ、すげーうまい」
みかんらしい甘さに、程よい酸味。これはごくごく飲んでしまうな。うま味があるっていうか、濃いのに、サラサラ飲めてしまう。冷たくして飲むのがいいな。
「そうなんだよ。試飲して、おいしくて。つい三本買ってしまった」
「ついって……あ、でもこれおいしいね」
と、母さんもごくごく飲んでいる。
お菓子は~……ホタテ味? さてどんな。おお、思ったよりすげぇホタテ。ホタテをバターで焼いたような感じだな。サクサクとしたプレッツェルを食べているのに、風味はホタテ。なんか不思議な感じだ。
たこ焼きとかもあるんだな。ソース味で、かつお節の風味もする。濃い目の味付けは、ジュースが進むなあ。……鼻に抜けるこの海鮮風味は、たこか? たこだな。ひりりとするのは紅しょうがか。凝ってるなあ。
明太子は刺激的だ。辛くてうまい。わさびは……風味がいいなあ。ジャガバターはまろやかだな。
「おいしい」
「それならよかった」
片づけを済ませた母さんは、ソファに座って聞いてきた。
「それじゃあ、今日は私が晩ごはんを作ろうね。何がいい?」
そうだなあ……
「からあげ」
風呂上がりの居間が明るくて暖かくて、ざわめいている。それだけでもう、心が満たされるようだ。
しかし、今日はとっておきの飯で腹を満たしたい。
揚げたて熱々のからあげ。照明はいつも通りなのに、妙に輝いて見える。
「いただきます」
まずは千切りキャベツを食べながら、どうからあげを食おうか考える。青くみずみずしいキャベツに醤油ベースのオリーブたっぷりドレッシング。これもうまい。
山盛りのからあげって、どうしてこう、すべてが幸せなんだろう。じゅわじゅわとうっすら聞こえる油の音、こんがりとした見た目、熱。
最初はそのまま食う。
これだよ、これこれ。サクッとした衣はにんにくの風味と醤油の香ばしさが凝縮していて、ぷりっぷりの身はジューシーだ。脂身のやけどしそうな温度と染み出すうま味。これを口いっぱいに詰め込める幸せよ。
皮はカリッカリで、香ばしさが最大限に引き上げられている。もっちもっちとしたところがまた……
それに白米をかきこむ。うま味と脂と肉と米。合うに決まってる! 白米のほのかな甘みもまたいい。
次はマヨネーズ。からあげにはマヨネーズ、これは外せない。まろやかさとほんの少しの塩気が加わって、うま味が倍増する感じ。にんにくと醤油の風味がする鶏肉にはマヨネーズが合う。
そんでそのマヨネーズに柚子胡椒を混ぜると、また違ったおいしさになるんだなあ、これが。ピリッと刺激があり、爽やかな風味が加わり、マヨネーズでまろやかになって、鶏肉のおいしさが引き立つ。
レモンだけ絞るっていうのもいい。絞るときに鼻をかすめる柑橘の香りもまた、期待値を上げていく。
爽やかにさっぱり食べたい時は、これがいい。
でもやっぱ、何もつけてないのも食べたいわけで。少し食べやすい温度になったから揚げを一口でほおばる贅沢。ああ、幸せだ。
「そんなにおいしいなら、また作らないとね」
と、母さんが言う。父さんも頷いた。
「業務用スーパーにでも鶏肉買いに行くか?」
「あ、いいね。そしたらたくさん作れるよ」
「うん、食べるよ」
あればあるだけ、うちのからあげは食える。延々と食べられる気がする。
ああ、なんか、俺、今、すごく幸せだ。
「ごちそうさまでした」
翌朝……というか、ほぼ昼になりかけの時間になって、咲良はやっと帰った。結局、ゲームは夜通しやる羽目になって、すっかり寝不足だ。
それにしてもこいつ、元気だなあ。
「ちょっと寝よ……」
咲良を見送ったら、部屋に戻る。静かな部屋にはヒーターの音だけが聞こえる。なんか、静かだなあ。ちょっと寂しい気もするが、ほっとした気分の方が大きい。やっと空いたソファにダイブする。
しばらくそのままでいたら、スマホが鳴った。今度は何だ。
「……うめずー」
俺の呼びかけに、うめずはのっそりと起き上がってこちらにやってくる。
「わう」
「父さんと母さん、今から帰ってくるってさ」
「わふっ!」
寂しさなんて、感じる暇もないみたいだ。
目の前に広がる、大荷物とおみやげ。これを見ると、あー、父さんと母さん帰って来たんだなあ、と実感する。
「井上君来てたの?」
母さんが鞄を手際よく片付けながら聞く。
「うん。昨日来て、さっき帰った」
「じゃあ、お泊りだな」
と、父さんも言う。なんか重そうな荷物を持っているけど、何だろう。
「楽しかった?」
「楽しかったけど、少し疲れた」
「そうかあ」
久々に家族全員そろって、うめずもそわそわしている。
「はい、これ、春都の分ね」
そう言って母さんから渡されたのはスナック菓子の詰め合わせだった。同じお菓子だが、味が違うようだ。
「ご当地限定味の詰め合わせ、ってやつ?」
「そうそう。小分けになってるから、ちょっと食べたい時に良いでしょ」
「うん、ありがとう」
「それじゃあ父さんからは、これをあげようか」
と、父さんはどすどすっとテーブルに瓶を置いた。透明の瓶には鮮やかなオレンジ色が見える。オレンジジュースのようだ。
「無添加だから、開けたらすぐ飲まないといけないよ」
「すげー量あるんだけど」
「飲める飲める」
「……ありがとう」
それじゃあ、ジュース飲みながらお菓子食べよう。
よく降ってお飲みください、と書いてある。確かに、そこには濃いオレンジ色がたまっているな。瓶をふるのは重労働だが、おいしく飲むためだ。
コップに氷を入れて、ジュースを注ぎ入れる。
「おお……きれいな色」
「そうだろう」
「お母さんたちにも注いでくれる?」
「はーい」
父さんと母さんがいつも使っているコップに、氷を入れ、オレンジジュースを注ぐ。ありゃ、ほぼ空だ。三人で飲めばあっという間だな。
「はい」
「ありがとー」
さてさて、まずはどれから食べようかなあ。と、まずはジュースを一口……
「なにこれ、すげーうまい」
みかんらしい甘さに、程よい酸味。これはごくごく飲んでしまうな。うま味があるっていうか、濃いのに、サラサラ飲めてしまう。冷たくして飲むのがいいな。
「そうなんだよ。試飲して、おいしくて。つい三本買ってしまった」
「ついって……あ、でもこれおいしいね」
と、母さんもごくごく飲んでいる。
お菓子は~……ホタテ味? さてどんな。おお、思ったよりすげぇホタテ。ホタテをバターで焼いたような感じだな。サクサクとしたプレッツェルを食べているのに、風味はホタテ。なんか不思議な感じだ。
たこ焼きとかもあるんだな。ソース味で、かつお節の風味もする。濃い目の味付けは、ジュースが進むなあ。……鼻に抜けるこの海鮮風味は、たこか? たこだな。ひりりとするのは紅しょうがか。凝ってるなあ。
明太子は刺激的だ。辛くてうまい。わさびは……風味がいいなあ。ジャガバターはまろやかだな。
「おいしい」
「それならよかった」
片づけを済ませた母さんは、ソファに座って聞いてきた。
「それじゃあ、今日は私が晩ごはんを作ろうね。何がいい?」
そうだなあ……
「からあげ」
風呂上がりの居間が明るくて暖かくて、ざわめいている。それだけでもう、心が満たされるようだ。
しかし、今日はとっておきの飯で腹を満たしたい。
揚げたて熱々のからあげ。照明はいつも通りなのに、妙に輝いて見える。
「いただきます」
まずは千切りキャベツを食べながら、どうからあげを食おうか考える。青くみずみずしいキャベツに醤油ベースのオリーブたっぷりドレッシング。これもうまい。
山盛りのからあげって、どうしてこう、すべてが幸せなんだろう。じゅわじゅわとうっすら聞こえる油の音、こんがりとした見た目、熱。
最初はそのまま食う。
これだよ、これこれ。サクッとした衣はにんにくの風味と醤油の香ばしさが凝縮していて、ぷりっぷりの身はジューシーだ。脂身のやけどしそうな温度と染み出すうま味。これを口いっぱいに詰め込める幸せよ。
皮はカリッカリで、香ばしさが最大限に引き上げられている。もっちもっちとしたところがまた……
それに白米をかきこむ。うま味と脂と肉と米。合うに決まってる! 白米のほのかな甘みもまたいい。
次はマヨネーズ。からあげにはマヨネーズ、これは外せない。まろやかさとほんの少しの塩気が加わって、うま味が倍増する感じ。にんにくと醤油の風味がする鶏肉にはマヨネーズが合う。
そんでそのマヨネーズに柚子胡椒を混ぜると、また違ったおいしさになるんだなあ、これが。ピリッと刺激があり、爽やかな風味が加わり、マヨネーズでまろやかになって、鶏肉のおいしさが引き立つ。
レモンだけ絞るっていうのもいい。絞るときに鼻をかすめる柑橘の香りもまた、期待値を上げていく。
爽やかにさっぱり食べたい時は、これがいい。
でもやっぱ、何もつけてないのも食べたいわけで。少し食べやすい温度になったから揚げを一口でほおばる贅沢。ああ、幸せだ。
「そんなにおいしいなら、また作らないとね」
と、母さんが言う。父さんも頷いた。
「業務用スーパーにでも鶏肉買いに行くか?」
「あ、いいね。そしたらたくさん作れるよ」
「うん、食べるよ」
あればあるだけ、うちのからあげは食える。延々と食べられる気がする。
ああ、なんか、俺、今、すごく幸せだ。
「ごちそうさまでした」
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