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日常
第六百二十五話 お子様ランチ
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体育祭も終われば、今学期中はもう行事は何もない。学校中がすっかり間の抜けた空気で、なんだかぼーっとする。今日の晩飯、何にしようかなあ、などとぼんやり考える。
暖房の効いた図書館にいると、眠ってしまいそうだ。
「おっ、載ってるな」
漆原先生の声に、はたと我に返る。先生はカウンターで新聞を広げていた。
「何がですか」
「体育祭の記事だよ。ほれ」
「ああ、そういや取材に来てたっていってましたね」
生徒会長のインタビューとか、競技の様子とかが載っている。いつの間に写真撮ってたんだろう。気づかなかったなあ。まあ、俺は写ってないけど。
あ、でも一回だけ載ったことあるな。
小学生の低学年の頃だったか。夏休みのことだ。
「春都~、夏休みの宿題、終わったの~」
クーラーの効いた室内でゲーム三昧していたら、台所から母さんが聞いてきた。
「あー?」
「あー、じゃない。日記とか、工作とか」
「工作ぅ?」
勉強の方は対して何も言われなかったし、何も言われなくてもなんとなくやってたけど、あいにく俺は、工作やら日記やらは苦手だった。まめに毎日日記をつけるような性格ではないし、工作は手先があまり器用ではないから苦手だ。
「提出するのは読書感想文書いたもん」
「絵とか、貯金箱とか作らないといけないんじゃないの」
「えー? そんなことないよー」
「そんなことあるって。ほら、プリント見ておいで」
「んー」
キリのいいところでセーブして、居間の一角に置いてあるプリント置き場に行く。ランドセルの中でぐちゃぐちゃになった重要書類を発見して以来、帰ってきたときにはいつもここに置くようにさせられたのだった。
「宿題、提出プリント~」
日記は……結局この時は無視して、夏休み最終日に苦しんだ覚えがある。
「げっ、ほんとだ」
作文一つ、図画工作二つ。小学校低学年の時は確か提出しなければいけなかった。酷な話である。
「でしょー? 何するの?」
「えー? やだなあ……」
一つは楽そうなやつ。工作キットを買えばさっさと作れる貯金箱にしよう。それともう一つは~……
「これは?」
いつの間にやら来ていた母さんが一つを指さす。
「交通安全ポスター?」
「図書カード貰えるよ」
「やる」
図画工作なんかのコンクールに対する俺のモチベーションといえば、図書カードだったなあ。
でも、面倒なことに変わりはない。
とりあえず下書きして、なぞって、色付け。色付けがまた嫌いなんだよなあ。
「でーきたっ」
適当に済ませて完成……というわけにはいかなかった。
あまりの適当さに、母さんにこっぴどく叱られた。あの時の母さんは怖くてなあ。ちょっと……いや、だいぶ泣いた。
でもまあ、仕方ない。俺が適当にやったんだから。
そしたらなんか、そのポスターが結構いいとこまでいって、立派な賞をもらったんだよなあ。おかげで図書カードの金額も跳ね上がったものだ。
そのポスターが街中のどっかの施設に展示されたからって、父さんと母さんと見に行った覚えがある。なんか、偉いんだろうなあって人がニコニコ案内してくれて、ちょっと得意な気分になった。
そんでもって、何がうれしかったって、帰りに寄ったレストランだ。
めっちゃ高級というわけでもないが、上品なレストラン。落ち着いた雰囲気のいいにおいがするところで、ちょっとそわそわしたっけ。
そこで食べたお子様ランチがおいしかったんだよなあ。おいしいし、嬉しいし、楽しかった。あの時持って帰った旗は、どこにやっただろう。
「お子様ランチか……」
「え? お子様ランチ?」
漆原先生に聞き返され、今に引き戻される。
今日の晩飯、お子様ランチにしよう。
といっても、どこかに食べに行くわけではない。そもそもこの図体と年でお子様ランチは頼めない。対象年齢とかあったような気がする。
そうなったらもう自分で作るほかない。
「えーっと、これと……これ。それにー……これ」
ナポリタンにコーンクリームコロッケ、ハンバーグはレンジでチンする。
ウインナーはたこの形に切って炒める。チキンライスは外せないから、これだけはちょっと手間をかけて作る。それに、エビフライ。あ、せっかく揚げるならポテトもつけちゃおう。
用意した料理はワンプレートに盛り付ける。旗はないが……まあ、よしとしよう。
今度作るときは、もっと本格的に準備してみよう。
「いただきます」
まずはチキンライスから。オレンジ色のチキンライス、ケチャップの酸味が飛んでいて、トマトの甘さが際立つ。ささみ肉がふわふわとしていてうまい。グリーンピースの代わりに入れたピーマンの苦みがまたいい味出してる。
ナポリタンは甘い。ソースもたっぷりで、コーンのはじける甘さとウインナーの香辛料控えめな肉の味がまさにお子様ランチっぽい。
たこさんウインナーは足の部分が好きだ。カリッとしているのがいい。もちろん、頭の部分も好きだ。こっちのウインナーは、それなりに香辛料を感じる。ほんの少しピリッとするのがいいんだ。
コーンクリームコロッケはこれまた甘い。サクッとしつつもしんなりともしていて、とろりと溶けだす中身はファミレスのコーンスープを思わせる。冷凍のコーンクリームコロッケ、結構好きなんだ。
ハンバーグにはケチャップ。冷凍ハンバーグは、ジューシーで臭みがなく、かなりうまい。今度はもっと大きめのやつを準備しよう。
ポテトもサクサクのほくほくでいいなあ。ハンバーグのケチャップをぬぐって食べるのも楽しい。
エビフライには少し醤油を垂らして、マヨネーズ、それにぶらぶら漬け。この漬物、大好きなんだ。うま味たっぷりで程よい酸味、塩気が控えめなのがいい。
これがエビフライと合うんだよ。タルタルソースっぽくてなあ。ザクザクとした衣にプリッとした海老の歯ごたえ、醤油の香ばしさ、マヨのまろやかさ、そして漬物の風味。いくらでも食べられそうだ。
今度はからあげも作りたいなあ。あ、チキン南蛮も捨てがたいな。和風で統一してみるとか。
お子様ランチって、奥が深い。
「ごちそうさまでした」
暖房の効いた図書館にいると、眠ってしまいそうだ。
「おっ、載ってるな」
漆原先生の声に、はたと我に返る。先生はカウンターで新聞を広げていた。
「何がですか」
「体育祭の記事だよ。ほれ」
「ああ、そういや取材に来てたっていってましたね」
生徒会長のインタビューとか、競技の様子とかが載っている。いつの間に写真撮ってたんだろう。気づかなかったなあ。まあ、俺は写ってないけど。
あ、でも一回だけ載ったことあるな。
小学生の低学年の頃だったか。夏休みのことだ。
「春都~、夏休みの宿題、終わったの~」
クーラーの効いた室内でゲーム三昧していたら、台所から母さんが聞いてきた。
「あー?」
「あー、じゃない。日記とか、工作とか」
「工作ぅ?」
勉強の方は対して何も言われなかったし、何も言われなくてもなんとなくやってたけど、あいにく俺は、工作やら日記やらは苦手だった。まめに毎日日記をつけるような性格ではないし、工作は手先があまり器用ではないから苦手だ。
「提出するのは読書感想文書いたもん」
「絵とか、貯金箱とか作らないといけないんじゃないの」
「えー? そんなことないよー」
「そんなことあるって。ほら、プリント見ておいで」
「んー」
キリのいいところでセーブして、居間の一角に置いてあるプリント置き場に行く。ランドセルの中でぐちゃぐちゃになった重要書類を発見して以来、帰ってきたときにはいつもここに置くようにさせられたのだった。
「宿題、提出プリント~」
日記は……結局この時は無視して、夏休み最終日に苦しんだ覚えがある。
「げっ、ほんとだ」
作文一つ、図画工作二つ。小学校低学年の時は確か提出しなければいけなかった。酷な話である。
「でしょー? 何するの?」
「えー? やだなあ……」
一つは楽そうなやつ。工作キットを買えばさっさと作れる貯金箱にしよう。それともう一つは~……
「これは?」
いつの間にやら来ていた母さんが一つを指さす。
「交通安全ポスター?」
「図書カード貰えるよ」
「やる」
図画工作なんかのコンクールに対する俺のモチベーションといえば、図書カードだったなあ。
でも、面倒なことに変わりはない。
とりあえず下書きして、なぞって、色付け。色付けがまた嫌いなんだよなあ。
「でーきたっ」
適当に済ませて完成……というわけにはいかなかった。
あまりの適当さに、母さんにこっぴどく叱られた。あの時の母さんは怖くてなあ。ちょっと……いや、だいぶ泣いた。
でもまあ、仕方ない。俺が適当にやったんだから。
そしたらなんか、そのポスターが結構いいとこまでいって、立派な賞をもらったんだよなあ。おかげで図書カードの金額も跳ね上がったものだ。
そのポスターが街中のどっかの施設に展示されたからって、父さんと母さんと見に行った覚えがある。なんか、偉いんだろうなあって人がニコニコ案内してくれて、ちょっと得意な気分になった。
そんでもって、何がうれしかったって、帰りに寄ったレストランだ。
めっちゃ高級というわけでもないが、上品なレストラン。落ち着いた雰囲気のいいにおいがするところで、ちょっとそわそわしたっけ。
そこで食べたお子様ランチがおいしかったんだよなあ。おいしいし、嬉しいし、楽しかった。あの時持って帰った旗は、どこにやっただろう。
「お子様ランチか……」
「え? お子様ランチ?」
漆原先生に聞き返され、今に引き戻される。
今日の晩飯、お子様ランチにしよう。
といっても、どこかに食べに行くわけではない。そもそもこの図体と年でお子様ランチは頼めない。対象年齢とかあったような気がする。
そうなったらもう自分で作るほかない。
「えーっと、これと……これ。それにー……これ」
ナポリタンにコーンクリームコロッケ、ハンバーグはレンジでチンする。
ウインナーはたこの形に切って炒める。チキンライスは外せないから、これだけはちょっと手間をかけて作る。それに、エビフライ。あ、せっかく揚げるならポテトもつけちゃおう。
用意した料理はワンプレートに盛り付ける。旗はないが……まあ、よしとしよう。
今度作るときは、もっと本格的に準備してみよう。
「いただきます」
まずはチキンライスから。オレンジ色のチキンライス、ケチャップの酸味が飛んでいて、トマトの甘さが際立つ。ささみ肉がふわふわとしていてうまい。グリーンピースの代わりに入れたピーマンの苦みがまたいい味出してる。
ナポリタンは甘い。ソースもたっぷりで、コーンのはじける甘さとウインナーの香辛料控えめな肉の味がまさにお子様ランチっぽい。
たこさんウインナーは足の部分が好きだ。カリッとしているのがいい。もちろん、頭の部分も好きだ。こっちのウインナーは、それなりに香辛料を感じる。ほんの少しピリッとするのがいいんだ。
コーンクリームコロッケはこれまた甘い。サクッとしつつもしんなりともしていて、とろりと溶けだす中身はファミレスのコーンスープを思わせる。冷凍のコーンクリームコロッケ、結構好きなんだ。
ハンバーグにはケチャップ。冷凍ハンバーグは、ジューシーで臭みがなく、かなりうまい。今度はもっと大きめのやつを準備しよう。
ポテトもサクサクのほくほくでいいなあ。ハンバーグのケチャップをぬぐって食べるのも楽しい。
エビフライには少し醤油を垂らして、マヨネーズ、それにぶらぶら漬け。この漬物、大好きなんだ。うま味たっぷりで程よい酸味、塩気が控えめなのがいい。
これがエビフライと合うんだよ。タルタルソースっぽくてなあ。ザクザクとした衣にプリッとした海老の歯ごたえ、醤油の香ばしさ、マヨのまろやかさ、そして漬物の風味。いくらでも食べられそうだ。
今度はからあげも作りたいなあ。あ、チキン南蛮も捨てがたいな。和風で統一してみるとか。
お子様ランチって、奥が深い。
「ごちそうさまでした」
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