658 / 854
日常
第六百十七話 そうめん
しおりを挟む
「朝から暑いなあ」
自分の部屋のカーテンを開けると、容赦ない日差しが差し込んでくる。テレビなんかじゃ残暑だといっているが、これからいったいどれだけこの暑さが続くのだろう。
こんな日はカーテンを閉めて、クーラーの効いた居間でゴロゴロするに限る。
ひんやりしたソファに横になり、傍らに漫画を山積みにする。ゲームも持って来ておこうか。テーブルにはスマホとお茶。これこそ夏休みだ。
「春都、夏休みの間部活は?」
台所でコーヒーを入れている父さんが聞いてくる。
「後半の課外が始まってからかなあ、本格的に始まるのは」
「そうなんだ」
「体育祭の役決めが終わってから……あー、体育祭。体育祭があるのか~」
「嫌そう」
と、買ってきていたチョコ菓子を食べながら母さんが笑う。
「放送の仕事でこき使われるのはいいけど、あの雰囲気が苦手」
「こき使われるのは良いのね」
「うん」
そうかあ、課外後半からは体育祭の練習が始まるんだった。ま、参加しなくていいのはラッキーと思うしかない。体育祭独特のあの雰囲気にはどうにも慣れないけど。競技決めとか役決めに参加しなくていいのは助かる。
機材を運ぶのにも随分慣れたことだし、うまくやれるだろう。さ、そんなことより今はのんびりしたい。余計なことは考えずに。
まあ、余計なことではないんだろうけど……
あ、もうこれが最後の本か。いやあ、夢中で読んでいるとあっという間に読んでしまうんだなあ。さて、じゃあ、ゲームでもしようか。それともアニメを見ようか。うーん……よし、両方やろう。
本を片付け、携帯ゲーム機のカセットを持ってくる。やりたいのがいくつもあるからな。そんでテレビは、このアニメDVD。
もう三十年ちょっとになるのかな、このシリーズ。最近になってはまって……そしたらもう、ドはまりしてなあ。いやあ、自分でもここまで一生懸命になるとは思わなかった。グッズはまだそろってないけど、原画集とイラスト集は買ってしまった。もうちょっと早くにはまってたらなあ、なんて思うこともある。
ま、今出会っただけでも十分だ。
大好きなアニメを見ながらゲームをする。なんて贅沢だろう。アニメを見ながらやるなら……このゲームかな。
充電もばっちり。小学生の頃は、電源入れっぱなしで持ち歩いて、気づいたら電源切れてたってこともあったなあ。カセットが飛び出していたこともある。
「最近ずっと見てるねー、このアニメ」
オープニングが流れ始めて、父さんが言った。
「うん」
「面白い?」
「面白いよ」
どこが面白いかって……いやいや、一言じゃ表せないね。基本ギャグだけどたまにしんみりするし、真剣なシーンもあって、ずっと見ていても疲れないし。これは、一度見てもらった方がいい。
今はシリーズを最初から見ているが、これももう何巡目だろう。映画も見たくなってくるんだよなあ。
映画はもう何百回と見た気がする。セリフ、覚えたもん。
おっといけない。ゲームもしなければ。リセットして最初からやり直したくなる衝動に駆られるが、いざ始めると、やっぱこのままでいいやってなるんだよなあ。ここまで進めといて、やれること増えて、不自由なく進められるようになっていたら惜しいというか、最初からやり直すのは手がかかるというか。
ゲームして、アニメ見て、またゲームに目を戻してアニメを見て。忙しい。忙しいが、こういう忙しさは幸せだ。
「春都、春都」
楽しく忙しいループをいったん止めたのは、母さんの声だった。
「なにー?」
「昼ご飯はそうめんでもいい?」
「いいよー」
ありゃ、もうこんな時間か。さっき朝ごはん食べた気がするんだけどなあ。全然動いてないや。
「わうっ」
ゲームをいったんセーブして電源を切ると、うめずが足元にやってきた。
「遊ぶか」
「わふ」
ちょっと動いて、お腹空かせるか。動かなくても腹は減っているが、ちょっとくらい動かないとな。
ボールやら他のおもちゃやらでうめずと遊んでいたら汗かいた。涼しい部屋とはいえ、動くと暑い。
着替えて洗濯物を洗濯機に入れて居間に戻ると、テーブルに昼食が準備されていた。
好きなことやってる間にご飯の準備ができてるって、幸せだ。
「いただきます」
麺つゆにねぎ、それとしょうがを入れる。薬味はたっぷり目が好きだ。
そうめんは細く、つゆに入れるとひらひら揺れる。その様子を見るだけでもう口当たりとか味が想像できる。
つるんとした口当たり、冷たくて口に入れた瞬間から体が冷え、つゆの甘味があとから来る。かつおだしのうま味がふわりと鼻に抜け、ひりりとしつつ爽やかなしょうがが心地よい。シャキシャキするくらい入れるのが好きだ。
ねぎの風味もいいなあ。新鮮なねぎは辛いくらいだ。
そうめんは噛むと小麦の風味が際立つ。いろんな太さのそうめん、あるいはひやむぎがあるものだが、俺は細めが好きだ。食べ応えが欲しいときは太めでもいい。
茹でるときは暑くてどうしようもないそうめんだが、やっぱり、夏に食べるにはいいんだよなあ。暑いときに、食欲があるかないか微妙なときとかでも食べられる。
特に今日は自分で茹でたわけじゃないから、余計に涼しくていい。
夏休みって最高だ。
「ごちそうさまでした」
自分の部屋のカーテンを開けると、容赦ない日差しが差し込んでくる。テレビなんかじゃ残暑だといっているが、これからいったいどれだけこの暑さが続くのだろう。
こんな日はカーテンを閉めて、クーラーの効いた居間でゴロゴロするに限る。
ひんやりしたソファに横になり、傍らに漫画を山積みにする。ゲームも持って来ておこうか。テーブルにはスマホとお茶。これこそ夏休みだ。
「春都、夏休みの間部活は?」
台所でコーヒーを入れている父さんが聞いてくる。
「後半の課外が始まってからかなあ、本格的に始まるのは」
「そうなんだ」
「体育祭の役決めが終わってから……あー、体育祭。体育祭があるのか~」
「嫌そう」
と、買ってきていたチョコ菓子を食べながら母さんが笑う。
「放送の仕事でこき使われるのはいいけど、あの雰囲気が苦手」
「こき使われるのは良いのね」
「うん」
そうかあ、課外後半からは体育祭の練習が始まるんだった。ま、参加しなくていいのはラッキーと思うしかない。体育祭独特のあの雰囲気にはどうにも慣れないけど。競技決めとか役決めに参加しなくていいのは助かる。
機材を運ぶのにも随分慣れたことだし、うまくやれるだろう。さ、そんなことより今はのんびりしたい。余計なことは考えずに。
まあ、余計なことではないんだろうけど……
あ、もうこれが最後の本か。いやあ、夢中で読んでいるとあっという間に読んでしまうんだなあ。さて、じゃあ、ゲームでもしようか。それともアニメを見ようか。うーん……よし、両方やろう。
本を片付け、携帯ゲーム機のカセットを持ってくる。やりたいのがいくつもあるからな。そんでテレビは、このアニメDVD。
もう三十年ちょっとになるのかな、このシリーズ。最近になってはまって……そしたらもう、ドはまりしてなあ。いやあ、自分でもここまで一生懸命になるとは思わなかった。グッズはまだそろってないけど、原画集とイラスト集は買ってしまった。もうちょっと早くにはまってたらなあ、なんて思うこともある。
ま、今出会っただけでも十分だ。
大好きなアニメを見ながらゲームをする。なんて贅沢だろう。アニメを見ながらやるなら……このゲームかな。
充電もばっちり。小学生の頃は、電源入れっぱなしで持ち歩いて、気づいたら電源切れてたってこともあったなあ。カセットが飛び出していたこともある。
「最近ずっと見てるねー、このアニメ」
オープニングが流れ始めて、父さんが言った。
「うん」
「面白い?」
「面白いよ」
どこが面白いかって……いやいや、一言じゃ表せないね。基本ギャグだけどたまにしんみりするし、真剣なシーンもあって、ずっと見ていても疲れないし。これは、一度見てもらった方がいい。
今はシリーズを最初から見ているが、これももう何巡目だろう。映画も見たくなってくるんだよなあ。
映画はもう何百回と見た気がする。セリフ、覚えたもん。
おっといけない。ゲームもしなければ。リセットして最初からやり直したくなる衝動に駆られるが、いざ始めると、やっぱこのままでいいやってなるんだよなあ。ここまで進めといて、やれること増えて、不自由なく進められるようになっていたら惜しいというか、最初からやり直すのは手がかかるというか。
ゲームして、アニメ見て、またゲームに目を戻してアニメを見て。忙しい。忙しいが、こういう忙しさは幸せだ。
「春都、春都」
楽しく忙しいループをいったん止めたのは、母さんの声だった。
「なにー?」
「昼ご飯はそうめんでもいい?」
「いいよー」
ありゃ、もうこんな時間か。さっき朝ごはん食べた気がするんだけどなあ。全然動いてないや。
「わうっ」
ゲームをいったんセーブして電源を切ると、うめずが足元にやってきた。
「遊ぶか」
「わふ」
ちょっと動いて、お腹空かせるか。動かなくても腹は減っているが、ちょっとくらい動かないとな。
ボールやら他のおもちゃやらでうめずと遊んでいたら汗かいた。涼しい部屋とはいえ、動くと暑い。
着替えて洗濯物を洗濯機に入れて居間に戻ると、テーブルに昼食が準備されていた。
好きなことやってる間にご飯の準備ができてるって、幸せだ。
「いただきます」
麺つゆにねぎ、それとしょうがを入れる。薬味はたっぷり目が好きだ。
そうめんは細く、つゆに入れるとひらひら揺れる。その様子を見るだけでもう口当たりとか味が想像できる。
つるんとした口当たり、冷たくて口に入れた瞬間から体が冷え、つゆの甘味があとから来る。かつおだしのうま味がふわりと鼻に抜け、ひりりとしつつ爽やかなしょうがが心地よい。シャキシャキするくらい入れるのが好きだ。
ねぎの風味もいいなあ。新鮮なねぎは辛いくらいだ。
そうめんは噛むと小麦の風味が際立つ。いろんな太さのそうめん、あるいはひやむぎがあるものだが、俺は細めが好きだ。食べ応えが欲しいときは太めでもいい。
茹でるときは暑くてどうしようもないそうめんだが、やっぱり、夏に食べるにはいいんだよなあ。暑いときに、食欲があるかないか微妙なときとかでも食べられる。
特に今日は自分で茹でたわけじゃないから、余計に涼しくていい。
夏休みって最高だ。
「ごちそうさまでした」
22
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる