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日常
第六百十三話 キャンプ飯①
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真野さんが運転する車に揺られ、およそ二時間。たどり着いた先は、喧騒や時の流れとは無縁といったような場所だった。川のせせらぎ、穏やかな風、青々とした葉がそこら中に茂り、さわさわと涼しげな音を立てている。というか、実際、かなり涼しい。
別荘そのものはいわゆる、ログハウスだ。
「あっ、煙突ある! ってことはあれか、暖炉があるのか?」
真っ先に車を降りた咲良が朝比奈に聞く。朝比奈は「ああ、あるぞ」と何でもないように言った。
「使ってみたい!」
「夏だぞ」
「百瀬は来たことあるんだっけ」
最後に降りてきた百瀬に聞くと、百瀬は頷いた。
「何回かね~。最近は来てないから、楽しみだなあ」
「さあ、皆さん。中へどうぞ」
真野さんが鍵を開けて言った。
年に使う機会はそう多くはないらしいが、別荘の中も外もしっかり整備されていてきれいだ。何でも、真野さんが定期的に手入れをしているらしい。
「天井高いな!」
咲良の言葉を聞くまでもなく、入った瞬間にそれは分かった。天井は高いし部屋は広い。
「なんか回ってるな。あれ、何だっけ。春都」
「……プロペラ?」
「なんか違くね?」
「シーリングファンですね」
と、真野さんにさりげなく訂正される。ああ、そうそう。聞いたことある。
よく見ると部屋もいくつかあるようだった。木漏れ日が程よく差し込み、木目調の室内を照らし出す。日常と非日常が入り混じったこの感じ、好きだなあ。木の香りで満たされているっていうのもいい。
台所や風呂場、寝室なんかを案内してもらったら、荷物を置いて外に出る。
「水深はそれほどではないですが、川には十分に気を付けてくださいね」
「はーい」
咲良と百瀬はもう洋服の下に水着を着てきていたらしい。準備がいいことで。俺は泳がなくていいかなあ。
川で遊ぶとか、いつぶりだろう。小さいころに家族で遊びに行って、流されていった記憶がある。遊泳可の川で、今思えば全然危なくないんだけど、あの時は怖かったなあ。
「よっしゃ行くぜー!」
「おー!」
咲良と百瀬はためらうことなく川に突っ込んでいく。
「うわ、冷たー! 春都は来ねぇの?」
「俺はいい」
「そっかあ」
ずいぶん透き通った水だ。ああ、確かに冷たい。
「冷たいなあ」
「だから、こういうことができる」
そう言いながら朝比奈が持ってきたのは、竹製のかごにキュウリやトマトを入れたものだった。かごには紐がついていて、朝比奈はかごを川の流れが緩やかな場所に浸すと、紐を石で固定した。
「おお、いいな。それ」
「飲み物もありますよ」
と、真野さんが同じひも付きのかごに瓶ジュースを入れたものを持ってきた。
「おおー」
泳ぐつもりはないので、近くの草をむしって笹舟を作ることにした。笹じゃないから、笹舟もどきだな。
「ここをこうして……」
真野さんに教えてもらいながら、一つ作り上げる。真野さんはいろいろ作れるみたいで、見たことない形の船を作っていた。作った端から川に流していく。
「朝比奈、うまいな」
「小さいころから教えてもらってるから……」
「お二人とも、お上手ですよ」
そう言う真野さんが作る笹舟が一番きれいだし、面白い形をしている。
次々何も考えずに流していたら、下流の方で「うわ」と声が聞こえて顔をあげる。
「なになになに、なんかいっぱい流れてきたんだけど」
と、百瀬が慌てている。咲良も笹舟の大量発生に「うへぇ」と声をあげる。そして発生源である俺たちの方を見ると言った。
「怖いって」
「ふっふっふ」
「なんかいろいろあるし。なにこのやけにクオリティ高いの」
「それ、真野さん作」
「すげぇ」
それからは五人そろって笹舟造りにいそしんだのだった。
ひとしきり遊び倒したら、昼飯を食うことにした。別荘に戻り、きれいで広々とした台所に立つ。
真野さんから、「各々好きにどうぞ」と渡されたのは袋麺の数々。冷蔵庫の中のものとかも、好きに使っていいのだそうだ。
俺は……塩にしよう。具はすりごまとねぎがあれば十分だが、他になんか足すかなあ。
「豚骨ラーメンに紅しょうが、ごま、きくらげ、メンマにチャーシュー盛り! ネギも忘れちゃだめだよな~」
咲良、遠慮のかけらもないような飯を作ったなあ。
「春都にもチャーシューをやろう」
「ああ、ありがとう……」
と、咲良が、チャーシューの最後の一枚を俺のラーメンにのせた。うん、十分うまそうだ。朝比奈は醤油ラーメンにチャーシュー大盛り、百瀬は味噌ラーメンにコーンバター、野菜炒めときた。
「いただきます」
塩ラーメンって、うま味がしっかりしてるのがいいんだよなあ。インスタントだと、塩が一番好きだな。
しょっぱさはほどほどに、ごまの香ばしい風味とねぎのさわやかな香りがたまらない。麺はもちもちしているような、歯切れがいいような、この食感がいい。スープ、出汁が効いてるって感じがする。
麺とスープを一緒にすするのがうまい。口の中で麺とスープが合わさると、うま味が増すような気がする。
チャーシューは、なんかあれだな。お高い感じがする。濃すぎない味付け、肉そのもののうま味を引き出すような感じ。脂身と身のバランスがいい。プルプルの脂身は甘く、身はスープに浸すとジュワッとしていい味わいだ。
「んー、こんな豪華なインスタントラーメン、食えねえよなあ~。うまい」
満足げに言う咲良の向かいで、百瀬がうんうんと頷いた。バターの香りがこちらまで香ってくるようだ。
向かいに座る朝比奈のラーメンはまるでお店のラーメンみたいだ。
「野菜もありますよ」
と、冷やしていた野菜を切り分けて真野さんが持って来てくれた。
トマトもきゅうりもひんやりしている。冷蔵庫で冷えたのとはまた違う感じがする。芯から冷えたような、キンッと引き締まったような、そんな感じだ。
トマトはシャクッと爽やかで甘い。キュウリはマヨネーズをつける。これもうまい。みずみずしくていいなあ。
珍しいものではないけど、食べ方とか調理の仕方とか、それ次第で味わいって変わるもんなんだな。
こりゃ晩飯も楽しみだ。
「ごちそうさまでした」
別荘そのものはいわゆる、ログハウスだ。
「あっ、煙突ある! ってことはあれか、暖炉があるのか?」
真っ先に車を降りた咲良が朝比奈に聞く。朝比奈は「ああ、あるぞ」と何でもないように言った。
「使ってみたい!」
「夏だぞ」
「百瀬は来たことあるんだっけ」
最後に降りてきた百瀬に聞くと、百瀬は頷いた。
「何回かね~。最近は来てないから、楽しみだなあ」
「さあ、皆さん。中へどうぞ」
真野さんが鍵を開けて言った。
年に使う機会はそう多くはないらしいが、別荘の中も外もしっかり整備されていてきれいだ。何でも、真野さんが定期的に手入れをしているらしい。
「天井高いな!」
咲良の言葉を聞くまでもなく、入った瞬間にそれは分かった。天井は高いし部屋は広い。
「なんか回ってるな。あれ、何だっけ。春都」
「……プロペラ?」
「なんか違くね?」
「シーリングファンですね」
と、真野さんにさりげなく訂正される。ああ、そうそう。聞いたことある。
よく見ると部屋もいくつかあるようだった。木漏れ日が程よく差し込み、木目調の室内を照らし出す。日常と非日常が入り混じったこの感じ、好きだなあ。木の香りで満たされているっていうのもいい。
台所や風呂場、寝室なんかを案内してもらったら、荷物を置いて外に出る。
「水深はそれほどではないですが、川には十分に気を付けてくださいね」
「はーい」
咲良と百瀬はもう洋服の下に水着を着てきていたらしい。準備がいいことで。俺は泳がなくていいかなあ。
川で遊ぶとか、いつぶりだろう。小さいころに家族で遊びに行って、流されていった記憶がある。遊泳可の川で、今思えば全然危なくないんだけど、あの時は怖かったなあ。
「よっしゃ行くぜー!」
「おー!」
咲良と百瀬はためらうことなく川に突っ込んでいく。
「うわ、冷たー! 春都は来ねぇの?」
「俺はいい」
「そっかあ」
ずいぶん透き通った水だ。ああ、確かに冷たい。
「冷たいなあ」
「だから、こういうことができる」
そう言いながら朝比奈が持ってきたのは、竹製のかごにキュウリやトマトを入れたものだった。かごには紐がついていて、朝比奈はかごを川の流れが緩やかな場所に浸すと、紐を石で固定した。
「おお、いいな。それ」
「飲み物もありますよ」
と、真野さんが同じひも付きのかごに瓶ジュースを入れたものを持ってきた。
「おおー」
泳ぐつもりはないので、近くの草をむしって笹舟を作ることにした。笹じゃないから、笹舟もどきだな。
「ここをこうして……」
真野さんに教えてもらいながら、一つ作り上げる。真野さんはいろいろ作れるみたいで、見たことない形の船を作っていた。作った端から川に流していく。
「朝比奈、うまいな」
「小さいころから教えてもらってるから……」
「お二人とも、お上手ですよ」
そう言う真野さんが作る笹舟が一番きれいだし、面白い形をしている。
次々何も考えずに流していたら、下流の方で「うわ」と声が聞こえて顔をあげる。
「なになになに、なんかいっぱい流れてきたんだけど」
と、百瀬が慌てている。咲良も笹舟の大量発生に「うへぇ」と声をあげる。そして発生源である俺たちの方を見ると言った。
「怖いって」
「ふっふっふ」
「なんかいろいろあるし。なにこのやけにクオリティ高いの」
「それ、真野さん作」
「すげぇ」
それからは五人そろって笹舟造りにいそしんだのだった。
ひとしきり遊び倒したら、昼飯を食うことにした。別荘に戻り、きれいで広々とした台所に立つ。
真野さんから、「各々好きにどうぞ」と渡されたのは袋麺の数々。冷蔵庫の中のものとかも、好きに使っていいのだそうだ。
俺は……塩にしよう。具はすりごまとねぎがあれば十分だが、他になんか足すかなあ。
「豚骨ラーメンに紅しょうが、ごま、きくらげ、メンマにチャーシュー盛り! ネギも忘れちゃだめだよな~」
咲良、遠慮のかけらもないような飯を作ったなあ。
「春都にもチャーシューをやろう」
「ああ、ありがとう……」
と、咲良が、チャーシューの最後の一枚を俺のラーメンにのせた。うん、十分うまそうだ。朝比奈は醤油ラーメンにチャーシュー大盛り、百瀬は味噌ラーメンにコーンバター、野菜炒めときた。
「いただきます」
塩ラーメンって、うま味がしっかりしてるのがいいんだよなあ。インスタントだと、塩が一番好きだな。
しょっぱさはほどほどに、ごまの香ばしい風味とねぎのさわやかな香りがたまらない。麺はもちもちしているような、歯切れがいいような、この食感がいい。スープ、出汁が効いてるって感じがする。
麺とスープを一緒にすするのがうまい。口の中で麺とスープが合わさると、うま味が増すような気がする。
チャーシューは、なんかあれだな。お高い感じがする。濃すぎない味付け、肉そのもののうま味を引き出すような感じ。脂身と身のバランスがいい。プルプルの脂身は甘く、身はスープに浸すとジュワッとしていい味わいだ。
「んー、こんな豪華なインスタントラーメン、食えねえよなあ~。うまい」
満足げに言う咲良の向かいで、百瀬がうんうんと頷いた。バターの香りがこちらまで香ってくるようだ。
向かいに座る朝比奈のラーメンはまるでお店のラーメンみたいだ。
「野菜もありますよ」
と、冷やしていた野菜を切り分けて真野さんが持って来てくれた。
トマトもきゅうりもひんやりしている。冷蔵庫で冷えたのとはまた違う感じがする。芯から冷えたような、キンッと引き締まったような、そんな感じだ。
トマトはシャクッと爽やかで甘い。キュウリはマヨネーズをつける。これもうまい。みずみずしくていいなあ。
珍しいものではないけど、食べ方とか調理の仕方とか、それ次第で味わいって変わるもんなんだな。
こりゃ晩飯も楽しみだ。
「ごちそうさまでした」
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