653 / 854
日常
第六百十二話 誕生日
しおりを挟む
夏休みの課外授業も前半戦が終わり、朝はのんびりしていいはずなのだが、どうしてもいつもの時間に目が覚める。
「ふぁ……おはよう」
部屋を出ると、すっかり朝食の支度が整っていた。
「おはよう、春都」
「おはよう」
父さんと母さんはこちらを向くと、なぜかとても楽しそうな笑顔で言った。不思議に思っていると、二人は言葉を続けた。
「誕生日、おめでとう」
「……あ」
手に持ったスマホで日付を確認する。八月十四日、俺の誕生日だ。
盆休みの間でも、学校の図書館は開いている。完全な休みは一日しかない、と漆原先生が嘆いていたな。でも、ありがたい。
「あ、おはようございます」
図書館に向かっていると、石上先生とすれ違った。
「おはよう。図書館か?」
「はい」
「そうか……あ、そうだ」
石上先生は荷物を抱えなおすと、少し笑って言った。
「誕生日なんだろう、今日。おめでとう」
「えっ、あ、ありがとうございます。何で知ってるんですか」
「漆原から聞いた」
「あ、そうですか」
石上先生は「それじゃあな」というと、立ち去って行った。
図書館に人の姿は少ない。
「やあ、一条君。おはよう」
「人少ないですね」
「片手で足りるくらいしか来ないな」
漆原先生はカウンターで自分が持ってきたらしい本を伏せながら言う。
「しかし、まさか今日、君が来るとはなあ」
「はい?」
「誕生日、おめでとう」
「あ、ああ」
なんだかいろいろな人に祝われるなあ。
「ありがとうございます」
「おっ、バースデーボーイのお出ましか~?」
ひょっこりと本棚の陰から現れたのは咲良だ。
「咲良」
「よっ。誕生日おめでとう!」
「おお」
「どうせなら当日、おめでとうって言いたくてな、来たんだ」
そう咲良は言うが、なんか胡散臭い。わざとらしいきらきらした笑みを疑わしげに見ていたら、漆原先生が言った。
「返さなきゃいけない図書を返してないから、呼び出し受けたんだろう」
「あっ、先生、ばらさないでくださいよー」
「そんなことだろうと思ったよ」
「お祝いしたかったのは、ほんとだけどな」
図書委員なのに何やってんだか。悪びれもせずニコニコと笑う咲良に呆れつつ、思わず笑ってしまった。
夕方は父さん母さんと一緒に、じいちゃんとばあちゃんの家に行く。
「それじゃあ、改めて」
食卓を囲み、母さんが乾杯の音頭を取る。
「春都、誕生日おめでとう! 乾杯~」
なんだか気恥ずかしい気もするが、ありがたいものだ。うちは、誕生日をしっかり祝うんだよなあ。
さて、それじゃあ、この目の前のごちそうをさっそくいただこう。
「いただきます」
からあげにサラダ、フライドポテト、山盛りのご飯に豆腐とわかめの味噌汁だ。母さんとばあちゃんが作ってくれた。豪華だなあ。
やっぱり、揚げたてのからあげから食べたい。カリッカリでサクサクの衣は熱くてやけどしそうだ。ジュワッとあふれ出る肉汁にプリプリの身、醤油味でにんにくの香ばしさがたまらない。
皮はカリカリのところとモチモチのところ、どっちもうまい。からあげは身も好きだし、皮も好きだ。
マヨネーズをつけると、まろやかなうま味も加わっていくらでも食べられる。
ご飯が進むなあ。
間にフライドポテトを食べる。うちでジャガイモを切って片栗粉をまぶして揚げたものだ。サクッとふわっと、それでほくほくしていて、少しきつめに塩味がついていてうまい。
ケチャップが合うんだよな~、これが。
サラダはレタスとスライス玉ねぎ、ピーマン、トマトにコーンの缶詰。ごまドレッシングで食べる。
みずみずしいレタスは、揚げ物の合間にちょうどいい。玉ねぎはほんのりピリッとして、ピーマンの苦みがすっきりする。トマトは酸味と甘みのバランスが程よく、コーンのプチプチはじける甘みが最高だ。
ごまドレッシングのコクが、また野菜に合う。
豆腐とわかめの味噌汁はほっとする。合わせ味噌の香ばしさ、豆腐のつるっとした口当たり、わかめのトロッとしたような、でもちゃんと歯ごたえがある感じがいい。
たらふく飯を食ったら、ケーキだ。
ホールのチーズケーキには律儀にろうそくが立っているし、バースデーソングも歌われる。ううん、こそばゆい。でも、ふうっと息を吹いて火を消すのは楽しい。ろうそくが燃えた香りが鼻をかすめると、誕生日だなあ、と実感する。
かためのベイクドチーズケーキは甘さ控えめで、タルト生地はサクサクしてうまい。バターの香りは薄く、チーズのうま味とケーキらしいほのかな甘みが口いっぱいに広がる。なめらかなチーズの口当たりが最高だ。
温かい緑茶がよく合う。
誕生日おめでとう、と書かれたネームプレート、今日はクッキーだ。あっ、サクサクで香ばしい。文字はチョコレートで、これもほろ苦くて好きだな。
いろんな人に祝われて、家族みんなでうまい飯食って。
これ以上ない、いい誕生日だ。
満腹……いや、満福、って感じかな。
「ごちそうさまでした」
「ふぁ……おはよう」
部屋を出ると、すっかり朝食の支度が整っていた。
「おはよう、春都」
「おはよう」
父さんと母さんはこちらを向くと、なぜかとても楽しそうな笑顔で言った。不思議に思っていると、二人は言葉を続けた。
「誕生日、おめでとう」
「……あ」
手に持ったスマホで日付を確認する。八月十四日、俺の誕生日だ。
盆休みの間でも、学校の図書館は開いている。完全な休みは一日しかない、と漆原先生が嘆いていたな。でも、ありがたい。
「あ、おはようございます」
図書館に向かっていると、石上先生とすれ違った。
「おはよう。図書館か?」
「はい」
「そうか……あ、そうだ」
石上先生は荷物を抱えなおすと、少し笑って言った。
「誕生日なんだろう、今日。おめでとう」
「えっ、あ、ありがとうございます。何で知ってるんですか」
「漆原から聞いた」
「あ、そうですか」
石上先生は「それじゃあな」というと、立ち去って行った。
図書館に人の姿は少ない。
「やあ、一条君。おはよう」
「人少ないですね」
「片手で足りるくらいしか来ないな」
漆原先生はカウンターで自分が持ってきたらしい本を伏せながら言う。
「しかし、まさか今日、君が来るとはなあ」
「はい?」
「誕生日、おめでとう」
「あ、ああ」
なんだかいろいろな人に祝われるなあ。
「ありがとうございます」
「おっ、バースデーボーイのお出ましか~?」
ひょっこりと本棚の陰から現れたのは咲良だ。
「咲良」
「よっ。誕生日おめでとう!」
「おお」
「どうせなら当日、おめでとうって言いたくてな、来たんだ」
そう咲良は言うが、なんか胡散臭い。わざとらしいきらきらした笑みを疑わしげに見ていたら、漆原先生が言った。
「返さなきゃいけない図書を返してないから、呼び出し受けたんだろう」
「あっ、先生、ばらさないでくださいよー」
「そんなことだろうと思ったよ」
「お祝いしたかったのは、ほんとだけどな」
図書委員なのに何やってんだか。悪びれもせずニコニコと笑う咲良に呆れつつ、思わず笑ってしまった。
夕方は父さん母さんと一緒に、じいちゃんとばあちゃんの家に行く。
「それじゃあ、改めて」
食卓を囲み、母さんが乾杯の音頭を取る。
「春都、誕生日おめでとう! 乾杯~」
なんだか気恥ずかしい気もするが、ありがたいものだ。うちは、誕生日をしっかり祝うんだよなあ。
さて、それじゃあ、この目の前のごちそうをさっそくいただこう。
「いただきます」
からあげにサラダ、フライドポテト、山盛りのご飯に豆腐とわかめの味噌汁だ。母さんとばあちゃんが作ってくれた。豪華だなあ。
やっぱり、揚げたてのからあげから食べたい。カリッカリでサクサクの衣は熱くてやけどしそうだ。ジュワッとあふれ出る肉汁にプリプリの身、醤油味でにんにくの香ばしさがたまらない。
皮はカリカリのところとモチモチのところ、どっちもうまい。からあげは身も好きだし、皮も好きだ。
マヨネーズをつけると、まろやかなうま味も加わっていくらでも食べられる。
ご飯が進むなあ。
間にフライドポテトを食べる。うちでジャガイモを切って片栗粉をまぶして揚げたものだ。サクッとふわっと、それでほくほくしていて、少しきつめに塩味がついていてうまい。
ケチャップが合うんだよな~、これが。
サラダはレタスとスライス玉ねぎ、ピーマン、トマトにコーンの缶詰。ごまドレッシングで食べる。
みずみずしいレタスは、揚げ物の合間にちょうどいい。玉ねぎはほんのりピリッとして、ピーマンの苦みがすっきりする。トマトは酸味と甘みのバランスが程よく、コーンのプチプチはじける甘みが最高だ。
ごまドレッシングのコクが、また野菜に合う。
豆腐とわかめの味噌汁はほっとする。合わせ味噌の香ばしさ、豆腐のつるっとした口当たり、わかめのトロッとしたような、でもちゃんと歯ごたえがある感じがいい。
たらふく飯を食ったら、ケーキだ。
ホールのチーズケーキには律儀にろうそくが立っているし、バースデーソングも歌われる。ううん、こそばゆい。でも、ふうっと息を吹いて火を消すのは楽しい。ろうそくが燃えた香りが鼻をかすめると、誕生日だなあ、と実感する。
かためのベイクドチーズケーキは甘さ控えめで、タルト生地はサクサクしてうまい。バターの香りは薄く、チーズのうま味とケーキらしいほのかな甘みが口いっぱいに広がる。なめらかなチーズの口当たりが最高だ。
温かい緑茶がよく合う。
誕生日おめでとう、と書かれたネームプレート、今日はクッキーだ。あっ、サクサクで香ばしい。文字はチョコレートで、これもほろ苦くて好きだな。
いろんな人に祝われて、家族みんなでうまい飯食って。
これ以上ない、いい誕生日だ。
満腹……いや、満福、って感じかな。
「ごちそうさまでした」
23
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話
ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。
完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。

【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました
山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。
王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。
レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。
3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。
将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ!
「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」
ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている?
婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる