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日常
第六百十二話 誕生日
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夏休みの課外授業も前半戦が終わり、朝はのんびりしていいはずなのだが、どうしてもいつもの時間に目が覚める。
「ふぁ……おはよう」
部屋を出ると、すっかり朝食の支度が整っていた。
「おはよう、春都」
「おはよう」
父さんと母さんはこちらを向くと、なぜかとても楽しそうな笑顔で言った。不思議に思っていると、二人は言葉を続けた。
「誕生日、おめでとう」
「……あ」
手に持ったスマホで日付を確認する。八月十四日、俺の誕生日だ。
盆休みの間でも、学校の図書館は開いている。完全な休みは一日しかない、と漆原先生が嘆いていたな。でも、ありがたい。
「あ、おはようございます」
図書館に向かっていると、石上先生とすれ違った。
「おはよう。図書館か?」
「はい」
「そうか……あ、そうだ」
石上先生は荷物を抱えなおすと、少し笑って言った。
「誕生日なんだろう、今日。おめでとう」
「えっ、あ、ありがとうございます。何で知ってるんですか」
「漆原から聞いた」
「あ、そうですか」
石上先生は「それじゃあな」というと、立ち去って行った。
図書館に人の姿は少ない。
「やあ、一条君。おはよう」
「人少ないですね」
「片手で足りるくらいしか来ないな」
漆原先生はカウンターで自分が持ってきたらしい本を伏せながら言う。
「しかし、まさか今日、君が来るとはなあ」
「はい?」
「誕生日、おめでとう」
「あ、ああ」
なんだかいろいろな人に祝われるなあ。
「ありがとうございます」
「おっ、バースデーボーイのお出ましか~?」
ひょっこりと本棚の陰から現れたのは咲良だ。
「咲良」
「よっ。誕生日おめでとう!」
「おお」
「どうせなら当日、おめでとうって言いたくてな、来たんだ」
そう咲良は言うが、なんか胡散臭い。わざとらしいきらきらした笑みを疑わしげに見ていたら、漆原先生が言った。
「返さなきゃいけない図書を返してないから、呼び出し受けたんだろう」
「あっ、先生、ばらさないでくださいよー」
「そんなことだろうと思ったよ」
「お祝いしたかったのは、ほんとだけどな」
図書委員なのに何やってんだか。悪びれもせずニコニコと笑う咲良に呆れつつ、思わず笑ってしまった。
夕方は父さん母さんと一緒に、じいちゃんとばあちゃんの家に行く。
「それじゃあ、改めて」
食卓を囲み、母さんが乾杯の音頭を取る。
「春都、誕生日おめでとう! 乾杯~」
なんだか気恥ずかしい気もするが、ありがたいものだ。うちは、誕生日をしっかり祝うんだよなあ。
さて、それじゃあ、この目の前のごちそうをさっそくいただこう。
「いただきます」
からあげにサラダ、フライドポテト、山盛りのご飯に豆腐とわかめの味噌汁だ。母さんとばあちゃんが作ってくれた。豪華だなあ。
やっぱり、揚げたてのからあげから食べたい。カリッカリでサクサクの衣は熱くてやけどしそうだ。ジュワッとあふれ出る肉汁にプリプリの身、醤油味でにんにくの香ばしさがたまらない。
皮はカリカリのところとモチモチのところ、どっちもうまい。からあげは身も好きだし、皮も好きだ。
マヨネーズをつけると、まろやかなうま味も加わっていくらでも食べられる。
ご飯が進むなあ。
間にフライドポテトを食べる。うちでジャガイモを切って片栗粉をまぶして揚げたものだ。サクッとふわっと、それでほくほくしていて、少しきつめに塩味がついていてうまい。
ケチャップが合うんだよな~、これが。
サラダはレタスとスライス玉ねぎ、ピーマン、トマトにコーンの缶詰。ごまドレッシングで食べる。
みずみずしいレタスは、揚げ物の合間にちょうどいい。玉ねぎはほんのりピリッとして、ピーマンの苦みがすっきりする。トマトは酸味と甘みのバランスが程よく、コーンのプチプチはじける甘みが最高だ。
ごまドレッシングのコクが、また野菜に合う。
豆腐とわかめの味噌汁はほっとする。合わせ味噌の香ばしさ、豆腐のつるっとした口当たり、わかめのトロッとしたような、でもちゃんと歯ごたえがある感じがいい。
たらふく飯を食ったら、ケーキだ。
ホールのチーズケーキには律儀にろうそくが立っているし、バースデーソングも歌われる。ううん、こそばゆい。でも、ふうっと息を吹いて火を消すのは楽しい。ろうそくが燃えた香りが鼻をかすめると、誕生日だなあ、と実感する。
かためのベイクドチーズケーキは甘さ控えめで、タルト生地はサクサクしてうまい。バターの香りは薄く、チーズのうま味とケーキらしいほのかな甘みが口いっぱいに広がる。なめらかなチーズの口当たりが最高だ。
温かい緑茶がよく合う。
誕生日おめでとう、と書かれたネームプレート、今日はクッキーだ。あっ、サクサクで香ばしい。文字はチョコレートで、これもほろ苦くて好きだな。
いろんな人に祝われて、家族みんなでうまい飯食って。
これ以上ない、いい誕生日だ。
満腹……いや、満福、って感じかな。
「ごちそうさまでした」
「ふぁ……おはよう」
部屋を出ると、すっかり朝食の支度が整っていた。
「おはよう、春都」
「おはよう」
父さんと母さんはこちらを向くと、なぜかとても楽しそうな笑顔で言った。不思議に思っていると、二人は言葉を続けた。
「誕生日、おめでとう」
「……あ」
手に持ったスマホで日付を確認する。八月十四日、俺の誕生日だ。
盆休みの間でも、学校の図書館は開いている。完全な休みは一日しかない、と漆原先生が嘆いていたな。でも、ありがたい。
「あ、おはようございます」
図書館に向かっていると、石上先生とすれ違った。
「おはよう。図書館か?」
「はい」
「そうか……あ、そうだ」
石上先生は荷物を抱えなおすと、少し笑って言った。
「誕生日なんだろう、今日。おめでとう」
「えっ、あ、ありがとうございます。何で知ってるんですか」
「漆原から聞いた」
「あ、そうですか」
石上先生は「それじゃあな」というと、立ち去って行った。
図書館に人の姿は少ない。
「やあ、一条君。おはよう」
「人少ないですね」
「片手で足りるくらいしか来ないな」
漆原先生はカウンターで自分が持ってきたらしい本を伏せながら言う。
「しかし、まさか今日、君が来るとはなあ」
「はい?」
「誕生日、おめでとう」
「あ、ああ」
なんだかいろいろな人に祝われるなあ。
「ありがとうございます」
「おっ、バースデーボーイのお出ましか~?」
ひょっこりと本棚の陰から現れたのは咲良だ。
「咲良」
「よっ。誕生日おめでとう!」
「おお」
「どうせなら当日、おめでとうって言いたくてな、来たんだ」
そう咲良は言うが、なんか胡散臭い。わざとらしいきらきらした笑みを疑わしげに見ていたら、漆原先生が言った。
「返さなきゃいけない図書を返してないから、呼び出し受けたんだろう」
「あっ、先生、ばらさないでくださいよー」
「そんなことだろうと思ったよ」
「お祝いしたかったのは、ほんとだけどな」
図書委員なのに何やってんだか。悪びれもせずニコニコと笑う咲良に呆れつつ、思わず笑ってしまった。
夕方は父さん母さんと一緒に、じいちゃんとばあちゃんの家に行く。
「それじゃあ、改めて」
食卓を囲み、母さんが乾杯の音頭を取る。
「春都、誕生日おめでとう! 乾杯~」
なんだか気恥ずかしい気もするが、ありがたいものだ。うちは、誕生日をしっかり祝うんだよなあ。
さて、それじゃあ、この目の前のごちそうをさっそくいただこう。
「いただきます」
からあげにサラダ、フライドポテト、山盛りのご飯に豆腐とわかめの味噌汁だ。母さんとばあちゃんが作ってくれた。豪華だなあ。
やっぱり、揚げたてのからあげから食べたい。カリッカリでサクサクの衣は熱くてやけどしそうだ。ジュワッとあふれ出る肉汁にプリプリの身、醤油味でにんにくの香ばしさがたまらない。
皮はカリカリのところとモチモチのところ、どっちもうまい。からあげは身も好きだし、皮も好きだ。
マヨネーズをつけると、まろやかなうま味も加わっていくらでも食べられる。
ご飯が進むなあ。
間にフライドポテトを食べる。うちでジャガイモを切って片栗粉をまぶして揚げたものだ。サクッとふわっと、それでほくほくしていて、少しきつめに塩味がついていてうまい。
ケチャップが合うんだよな~、これが。
サラダはレタスとスライス玉ねぎ、ピーマン、トマトにコーンの缶詰。ごまドレッシングで食べる。
みずみずしいレタスは、揚げ物の合間にちょうどいい。玉ねぎはほんのりピリッとして、ピーマンの苦みがすっきりする。トマトは酸味と甘みのバランスが程よく、コーンのプチプチはじける甘みが最高だ。
ごまドレッシングのコクが、また野菜に合う。
豆腐とわかめの味噌汁はほっとする。合わせ味噌の香ばしさ、豆腐のつるっとした口当たり、わかめのトロッとしたような、でもちゃんと歯ごたえがある感じがいい。
たらふく飯を食ったら、ケーキだ。
ホールのチーズケーキには律儀にろうそくが立っているし、バースデーソングも歌われる。ううん、こそばゆい。でも、ふうっと息を吹いて火を消すのは楽しい。ろうそくが燃えた香りが鼻をかすめると、誕生日だなあ、と実感する。
かためのベイクドチーズケーキは甘さ控えめで、タルト生地はサクサクしてうまい。バターの香りは薄く、チーズのうま味とケーキらしいほのかな甘みが口いっぱいに広がる。なめらかなチーズの口当たりが最高だ。
温かい緑茶がよく合う。
誕生日おめでとう、と書かれたネームプレート、今日はクッキーだ。あっ、サクサクで香ばしい。文字はチョコレートで、これもほろ苦くて好きだな。
いろんな人に祝われて、家族みんなでうまい飯食って。
これ以上ない、いい誕生日だ。
満腹……いや、満福、って感じかな。
「ごちそうさまでした」
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